VS.アゲイン

読み始めたら予想よりワクワクしている自分がいた

VS.アゲイン 中馬孝博
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

魚の加工販売する食品会社に勤める営業のエース挟土繋(はさどつなぐ)33歳。 10年前は会社の実業団に入りバレーボールでVリーグを目指すほど街ぐるみで盛り上がっていたが、それも過去の話、かと思っていたら後輩社員に誘われて久しぶりに再始動することになる。 サラリーマンやりながらのスポーツ漫画はほとんど読んでこなかったので新鮮で面白い。 かもめチャンスくらいかな? でも会社でやるという点で、仕事との両立がバランスよく描かれていて読み応えがある。 バレーボールを休んでいる間に営業で培った観察眼がまたバレーボールに活きてくるのも良い。 再びVリーグを目指すことになるが、そのための障壁は結構多くて、自分自身の体力だったり、チームメイトの実力、やる気、地元の後押し、もしVリーグに上がった場合の会社側の準備態勢など様々で、そこを会社員として戦う挟土が仕事とバレーの両面でいかにクリアしていくか、という読み始めたら思ったよりワクワクする展開が待っていた。 仕事は正直出来過ぎなくらいなので爽快感さえあるし、バレーボールの問題を仕事側からクリアしたときには、おー!となった。 地味ながらこれからもすごく楽しみなマンガだ。

犬ヶ島

静的なコマ作り

犬ヶ島 望月ミネタロウ ウェス・アンダーソン
影絵が趣味
影絵が趣味

ドラゴンヘッドを境に、線の多くて動的な暗いコマ作りから、線の少ない静的な明るいコマ作りへとペンタッチを改め、さらにはペンネームまでをも改めた望月ミネタロウですが、近年では静的なペンタッチにさらに磨きがかかり、ほとんどコマのなかで繰り広げられる人形劇といわんばかりになっています。 そんな望月が新たに選んだ主題が、映画監督からストップモーションアニメの監督に触手をひろげるウェス・アンダーソンの最新ストップモーションアニメです、そして、このめぐり合わせは何と起こるべきして起こったことなのでしょう。 ウェス・アンダーソンというひとは映画監督の時代からすでにストップモーションアニメのような画面をつくっていました、それこそ役者さんに人形劇の人形のような演技をさせるんですね。はたしてそんな映画が面白いのかというと、これがほんとうに面白い。本来ならカメラが追うべき人間が止まっていることで、かえって、カメラに映るそれ以外の全体が、つまりは物語の全体が躍動してくるのです。人は止まっているのに列車は走っているとか、人は止まっているのに自動車が家に突っ込むとか、そんな当たり前の物の動きがいっそう躍動してみえるのです。 望月が静的なコマ作りで目論んだものとは、まさしく、生まれもジャンルも異なるウェス・アンダーソンと知らず知らずのうちに共鳴してのことだったのではないでしょうか、望月はコマを静止させることで、かえって、コマからコマへの連結を躍動させしめたのです。ゆえに、ウェス・アンダーソンと望月ミネタロウの邂逅は必然的なものと言わざるを得ないと思うのです。