死都調布

死都調布、死都調布……

死都調布 斎藤潤一郎
影絵が趣味
影絵が趣味

『死都調布』と題されたこの怪書について何か説明せよ、と言われてみたところで、きっと誰もが口どもって返答に困り果ててしまうことだろう。 本とは、ふつう、一般的に、どこぞの誰かにその内容物を読まれるために、あるいは、どこぞの誰かにその内容物を語りかけるために存在するものだと思うが、この怪書『死都調布』にはそんな内容物はいっさい存在しない、つまり、誰に語りかけることもしなければ、そうであるからして誰からも読まれることはありえない、ただただ『死都調布』としてそこに在るだけである。 頁をめくってみると、第1話、第2話……などと本らしい体裁が整えられているが騙されてはいけない。それらは『死都調布』という題をかりそめに冠せられているだけで第1話も第2話も第3話もありはしない、それらはお互いがまったく無関係に雑然としてそこに在るだけである。そればかりではなく、じっさいに第1話、第2話……と、その中身を読んでいくと、まったく出鱈目なハレンチが繰り広げられているだけで、そこには中身と呼べるようなものはいっさいない、その証拠に「いったい何が書かれているんだ」と尋ねられても、やはり誰もが口をつぐむしかないのである。それでもかろうじて読んでいられるのは、コマからコマへの連動がアクションしているからなのだと思う。アクションとは、つまり、このコマの次にはまったく未知のコマが来るという期待、あるいは期待を裏切られるということだけに関してはぜったいに期待を裏切らないということ、もっといえば、このコマと次のコマとのあいだにはいっさいの文脈がなくお互いがまったくの無関係であるということ。 『死都調布』には、どの話にもかならず風景が描かれただけのコマが挿入されるが、あるいはすべてのコマに風景だけが描かれているのかもしれない。と、するならば『死都調布』とは風景そのものなのかもしれない。風景は誰にも何も語りかけない、ただ悠然としてそこに在るだけである。ところで『死都調布』に続編が出るらしい。そのイントロダクションにはこう書かれている「姓は死都、名は調布…」。これまで『死都調布』と呼ばれるこの作品群がかろうじて『死都調布』であったのは、調布という町で繰り広げられるいかがわしい事件を扱って集めているからだと思われたが、どうやら死都調布という風景は、それ自体が丸ごと動きまわる、ひとつの生命体であったらしい。

大上さん、だだ漏れです。

良い目をしてる

大上さん、だだ漏れです。 吉田丸悠
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

絵が好き。 エロいことに興味津々な女子高生が主人公で、特殊な体質を持つクラスメイトの柳沼くんとの交流を描く。 特殊な体質、それは触れた相手がそのとき考えている本音を思わず口に出してしまうというものだった。 ちょうどいい青春具合で良いですね~。 しっかり下ネタを叫んでしまうんですけど、別にそんなにいやらしくないんですよ。 おそらく悶々として知らないがゆえにだいぶ手前の「ちんこ見せて」くらいの爽やかなもので済むんでしょうね。 それを口にしてしまうのは、女子高生には十分なほどに恥ずかしいことですが。 これが二人の関係が進んでしまうと一歩踏み込んでエグみが出てきてしまったりするのでしょうか、心配です。 とりあえず、絵がなんか好きなんですよね。 ちょうど読みやすくて無個性でもなくハマってて気持ちいい感じ。 特に目。 目が感情を存分に語っていて素晴らしい。 いい意味でだけど、吹き出し全部潰してもなんとなく話の流れ分かるんじゃないですかね・・。 ちょっとズレてる柳沼君と大上さんの関係が少しずつではありますが、進んでいくのを微笑ましく見るのが楽しいです。

ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた

タイトルと表紙のイラストでだいたいどんな話か分かるいい時代です

ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた さめだ小判 高野いつき 桂かすが
mampuku
mampuku

 ヴァルキリーコミックって古くからあるシリーズを除けばギャルゲっぽい艶やかで立体感のある塗りの表紙ってイメージがあったんですが(人食いダンジョンとか)これはどちらかという四六判のライトノベルの表紙感がすごいですね。内容も、私のようななろうに詳しくない読者が想像する「なろうっぽさ」そのものでした。「粗」と言い換えてもいいのかもしれませんが、いっぱいあるそれを偉そうに書き連ねてもつまらないので、秀逸だと思った点、独特だと思った点を挙げたいと思います。  まず、元ニートだからといってルサンチマン的な話ではまったくなく、ニートらしからぬほどに自虐ネタや弄られが板についていて「野ウサギハンターマサル」の二つ名に恥じないユーモラスで嫌味のない主人公です。 あと、さめだ小判デザインによるキャラクターが可愛さを損なうことなく表情豊かに動いています。  まぁまだ物語も序盤ですが、このご時世に将来の目標はハーレムを作ることですなんて思想がまかり通るこの界隈はある意味とても貴重だと思うので見守りたいです。

LIMBO THE KING

これは好きなやつだった

LIMBO THE KING 田中相
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

SF×サスペンス×バディもの。 ずっと気になっていた作品だったけど、なぜか自分の中でまだ、まだ、と止めていた。 ある程度出てから読みたいという気持ちだったのかもしれない。 その感覚は間違いではなかったと最新4巻まで夢中になって読んだ後に思った。 2086年、「眠り病」という難病が蔓延し撲滅から8年。 海軍での暴発事故に遭い、脚を失った主人公・アダムの新しい仕事は、「眠り病」撲滅の英雄ルネの相棒だった。 撲滅した病気の再発を疑問に思い調査に乗り出すが・・。 表紙、色、設定、キャラ造形、関係性、テンポ、この漫画を構成する全要素くまなく好きだ・・。 「眠り病」患者の記憶に命懸けでダイブして治療する様子や、軍という巨大組織でいろんな思惑が渦巻いていて誰が味方か分からなかったり、街中のちょっとした描写だったり、色気のあるおじさんの絡みがたまらなくいい。 陽気なマッチョネイビーと疲れ顔のクールな英雄のバディもの最高じゃん! 映画『インセプション』好きな人はもちろん好きだろうし、二転三転してハラハラする海外ドラマとか、『BANANA FISH』好きな人は好きなんじゃないかなーと思う。