折れた竜骨

魔法×ミステリーの異色作

折れた竜骨 米澤穂信 佐藤夕子
mampuku
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 12世紀のイングランドを舞台にした「魔法や呪いの存在する世界でのミステリ」という大変意欲的な作品です。作者は「古典部シリーズ」「満願」「王とサーカス」の人気ミステリー作家・米澤穂信。  超常的な力の働く世界で推理によって論理的に犯人を導くことはできるものかと初めは疑いましたが、ふたを開けてみればその美しい論理展開、美しくも切ないラスト、そしてなにより美しい文章にただただ感動させられていました。推理をする上で足場となるべき我々のよく知る物理法則が働くこの世界とは異なる、魔術が発動し、作用する、ローファンタジー世界のルール。このルールを読者に信じ込ませる圧倒的説得力は見事でした。  原作小説の話はこれくらいにして肝心の漫画ですが、背景や服装の細部にいたるまでかなり凝っていて、一つの漫画作品としては満足度の高いクオリティに見えます。ただ、少女漫画風の美麗で(上手い形容詞がみつかりませんが)クリアーな絵が、小説を読んで想像していた不衛生で武骨な中世世界とは少しイメージとは違っていました。例えばヴィンランド・サガやベルセルクのような……まぁでもこの絵はこの絵で素晴らしいので言うだけ野暮ってもんですかね。

校舎のうらには天使が埋められている

こわくてサスペンスでちょっとだけ百合

校舎のうらには天使が埋められている 小山鹿梨子
mampuku
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 第1話から恐ろしいいじめの嵐が吹き荒れ、読み進めるほど(しかもかなりのハイペースで)絶望が深まっていく。この物語に希望はないのかと思われた矢先、2巻でついに真の主人公が現れる。これまでの悪意がどろりと渦巻くホラーから、光本菜々芽という聡明で高潔な少女がクラスの悪意を束ねる"白い悪魔"蜂矢あいと対峙する構図へと変貌をとげるのだ。 (これを読み返して気づいたのですが「校舎の天では悪魔が嗤っている」の作者・蜂矢あいというのは「校舎うら」の彼女の名だったんですね)  ときに大人すら欺き利用し、勇気ある告発者をさらなる悪意で踏みつぶす。いや~~蜂矢あい、悪役として完成度高すぎて小学生とは思えない!wいっそ格好いいとすら思えてしまう。相対する光本菜々芽もイケメンすぎる!そんじょそこらのヒーローよりかっこいい…  間違いなく思うのは、「この先どうなってしまうんや!??」と頁をめくるスピードを速めるにはキャラクターを好きになるのが一番いいということ。とりわけこの「校舎うら」は、冷静に俯瞰しながら作品の粗削りなぶぶんを見とがめつつ読むよりも、思いっきり感情移入して没入しながら読んだほうが絶対に面白い。

青のフラッグ

複雑に交錯する青春

青のフラッグ KAITO
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

ジャンプ+で隔週連載中。 高校生の性や恋、友情に関するものすごく繊細な部分を直接的な言葉に頼らずとても丁寧に描いている作品。 よくある高校生の青春ものかと思ったらもっともっと深いところまで連れていってくれる。 高校3年4月、太一は小学校からの幼馴染だがあまり話さなくなった人気者のトーマと、彼のことが好きな小動物系女子の双葉と同じクラスになり、変わりたいと願う双葉に協力することにしたのだが努力は空回り人間関係は複雑に絡み始める。 1話目からもしや、という布石が思春期の人間関係の中に丁寧に散りばめられていて、読み飛ばしてしまいそうな仕草や視線の中に恋心が織り込まれているから一コマも見逃せない。 男と女、男と男、女と女、恋と憧れと友情と混ざり合い交錯する。 この漫画の会話って実はすごくて、限りなくリアルな話し言葉になっているのがたまらない。 他の漫画だと今井哲也『ハックス!』や、ヤマシタトモコ作品に感じられる。 「んー・・」「「・・えっと・・あの・・あのね・・」 のような、呼吸の間やスッと言葉が出てこないときの感じを出すので、人によっては間延びして感じられたりだるくなる人もいるかもしれない。 でも僕は好きだ。 人と人の間、つまり「人間」の関係性をこれでもかと丁寧に描いている。 言葉にならない、できない感情を丹念にすくってくれる。 社会に蔓延る様々な生きづらさを高校生たちに背負わせてるが、そこに救いを見せてくれそうで期待してしまう。 終盤に近づいてきたようではあるが、どのように収束するのか楽しみだ。

特別読切『初恋』

あっさりした中に深みを感じた

特別読切『初恋』 くれよんカンパニー
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

ゴリラに初恋をしてしまった女性の話。 動物園、ガラス一枚向こうにはゴリさんがいる。 この女性がゴリラに向ける視線は全身をなぞるようにとてもエロティックで、憧れの人に向ける目線のように熱く純粋だ。 そしてそこにゴリさんと気軽に挨拶を交わすライバル(人間の女性)が現れ・・。 すごくかわいらしいお話だった。 でもこの話って何かに置き換えられる気がするなーと思って、ぼんやり考えていたらハッとした。 「のぞき部屋」だ。 利用したことはないが映画などで描かれているのを見たことがある。 「万引き家族」で出てくるのも同じような形態だったかな? まさに、ガラス1枚隔てた向こう側に対象がいて、悶々として熱い視線を向けている。 同じ対象を複数人が見ている、いわばライバルだ。 男たちは目の前の女性の見た目に幻想を投影し、みっともなく泥臭く自分のものだと主張し取り合う。 だが、見られてる側からしたら多少のサービス精神こそあっても、ガラスの向こう側に気持ちがいくことはなく、プライベートでよろしくやっているのだ。 その関係性を男女逆転させ、風俗を動物園という設定に変えたのがこの作品と考えれば、立体的に見えてきて面白い。 女性に変えただけで(それだけではないが)、みっともなさを可愛らしさのオブラートに包むんでこうも可愛らしくなるのかと感動する。 オチなんかはまさに例で出したソレで笑える。 他の作品を読んだこと無いので読んでみたくなった。

白ヒゲとボイン

板垣巴留の人間読切

白ヒゲとボイン 板垣巴留
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

『BEASTARS』板垣巴留による特別読切。 風俗嬢のイチカはある日ヤバめの客に当たってしまった。 その客はガタイが良く、白ヒゲでコワモテのおじいさん。 セクシーに迫ってみても、なぜか半裸で黙々とPCで作業をしていて相手にしてくれないがそれにはある事情があって・・。 人間を描いてるのを初めて読んだ! といっても白ヒゲのじいさんは野性味あるし、ボインなお姉さんもどこか動物的な愛嬌を横顔のフォルムに感じるのは「BEASTARS」の読み過ぎかもしれない。 内容的にはフリの段階でだいたい想像できるものではあったけど、シンプルでベタで見開きがパワフルでかっこいい。 裸の女性が谷間を寄せて少しかがんだときのお腹のしわをちゃんと描いているのがなんだか良いなーと思った。 二人の関係性は、あくまで世の中に割り当てられた役割を必要に応じて演じているだけで、男だからとか女だからとか、性によるこじらせた自意識のようなものが描かれていないのでさっぱりしてていい。 ここでは性差、年齢差を取っ払って意図的に人間対人間の構図にされている気がする。 ヤルつもりはないが一泊するためだけに風俗に来た男と、風俗嬢だがヤラない客を持て余し気味の女、この二人の間には性的搾取もなく仕事でもなくなってしまったから、ただただフラットな二人になるのだ。 そして忘れられない特別な関係になる。いや、なっていた。 全く内容とは関係ないけど、友達になるなら、妙な政治や力関係などが及ばないフラットな関係を結べる、こんな人達となるのが楽しそうだ。