マンガで(ひとまず)満たす「俺も推しの尊さを分かち合える仲間が欲しい欲」

マンガで(ひとまず)満たす「俺も推しの尊さを分かち合える仲間が欲しい欲」

はじめまして、Mk_Hayashiと申します。諸事情あって本名が出せないのですが、そこは気にしないでいただけると助かります。

自分が言うまでもないですが、今やマンガのジャンルってものすごくありますよね。細分化したら、煩悩の数なんか軽く超えてしまうくらいに。

恋に恋する思春期の少女が恋愛マンガを読み、恋への憧れをつのらせつつ「素敵な恋したい欲」を少し満たすように、今やあらゆる「◯◯◯欲」をマンガで(少しかもしれないけど)満たせるような気がします。

そこで、この連載では毎回ひとつの欲望をテーマに設け、その欲望と飢えた心を満たしてくれる(であろう)マンガを、やや独断も交えながら紹介していきたいと思います。

「俺も推しの尊さを分かち合える仲間が欲しい欲」

前置きがバカみたいに長くなりましたが、今回テーマとする欲望は「俺も推しの尊さを分かち合える仲間が欲しい欲」。この欲を満たしてくれるマンガとしてピックアップするのは……

■「75歳の老婦人 ミーツ BL」というユニークな設定も含め、各所で話題沸騰中の鶴谷香央理さんのメタモルフォーゼの縁側

■隠れオタクあるあるネタが満載で、読んでいて「わかりみしかねぇ……」と涙をこぼしそうになる、町田粥さんの『マキとマミ 〜上司が衰退ジャンルのオタ仲間だった話〜』

……の2作品です。

左・『メタモルフォーゼの縁側』鶴谷香央理/著(KADOKAWA刊)、右・『マキとマミ 〜上司が衰退ジャンルのオタ仲間だった話〜』町田粥/著(KADOKAWA刊)

オタク文化に対して、世の中がだいぶ寛容になった現代。昭和生まれのオタクとしては、テクノロジーの進化よりも、この世の中の変化の方がよっぽど驚きです。

ツイッターをはじめ、便利なコミュニケーション・ツールも今は山ほどあるので「共通の趣味を持った友人・知人をつくるなんて簡単じゃない?」と思う方もいるでしょうが、誰もがそうだとは限りません。ましてや現実世界においては。

「俺も推しの尊さを分かち合える仲間が欲しい」と思いつつも、なかなか仲間づくりを実行できない──そんな自分と同じ悩み(というかモヤモヤ)を抱えているのが『メタモルフォーゼの縁側』の主人公のひとりである、BL好きの女子高生・佐山うらら(17歳)。

好きなものの話で盛り上がるクラスメイトたちを羨ましく思いながらも、どうも輪に入ることができない、うらら。とはいえ、別に内向的な性格というわけでもない。

(『メタモルフォーゼの縁側』第3話より)

現に、バイト先である書店の同僚に「社交的になるには?」と質問したところ「別に社交的じゃん」と言われている。でも、うららいわく「なんか学校だとうまくいかなくて…」と、くすぶりのようなものを感じているのがうかがえる。

(『メタモルフォーゼの縁側』第3話より)

そんな彼女が出会うのが、ひょんなことからBL作品を手にし、その世界に少しずつ魅了されていく、もうひとりの主人公である老婦人・市野井雪(75歳)。この17歳と75歳の“同志”が、ゆっくりと親交を重ねていく様子が、『メタモルフォーゼの縁側』では静かに詩的に描かれます。

(『メタモルフォーゼの縁側』第4話より)

「75歳の老婦人 ミーツ BL」の部分が注目されがちな『メタモルフォーゼの縁側』ですが、幼少の頃から友だちづくりが苦手だった自分としては、うららの一挙一動に共感してしまうんですよ。

例えば、雪におすすめの作品を(メールで)訊ねられて、頭が検索モードでいっぱいになっちゃったり……

(『メタモルフォーゼの縁側』第6話より)

ふたりが敬愛するBL漫画家・コメダ優が同人誌即売会で上京することを知り、即売会への初参戦に雪も誘うべきかどうか(2話にわたって)延々と悩んだり……

(『メタモルフォーゼの縁側』第9話より)

そんな、おっかなびっくりながらも雪との親交を深めていくうららの勇姿はグッとくるものがあり(※個人の感想です)、そっとやさしく「俺も推しの尊さを分かち合える仲間が欲しい欲」を満たしてくれるんですよ……。

5月に発売された1巻は、前述の即売会の入場列にふたりが並ぶところが終わるのですが、この即売会の会場でも、予想だにしていなかった事態が発生してしまい──果たして雪とうららは、無事にコメダ先生の新刊を手に入れられるのか!? 2巻の発売が待ちきれない方は、連載媒体であるコミックNewtypeにて続きを、ぜひチェックしてみてください。この同人即売会エピソードの最後のコマ(第12話の最後のコマ)、本当にほっこりさせられますから……。

と、ここで今回の記事を終わらせても良いような気もしつつ、自分と同じ「俺も推しの尊さを分かち合える仲間が欲しい欲」を持ち、尚かつ『メタモルフォーゼの縁側』だけでは欲を満たせそうもない方(特に昭和生まれの同類)もいるかもしれないので、続けて『マキとマミ 〜上司が衰退ジャンルのオタ仲間だった話〜』(以下、『マキとマミ』)をご紹介いたします。だいぶ文字数を消費してしまっているので、ここからは駆け足でまいりましょう。

こちらの作品のメインキャラとなるのは、「5年前にシリーズ開発がストップした乙女ゲー「どき☆ジェネ」(燃料不足により衰退中)」に囚われつづけている古参オタの間宮マキ(34歳。OL/主任)と、旬のジャンルを追いつつも「どき☆ジェネ」を一番の推しとして絶対に譲らない森山マミ(25歳。OL/勤続3年目)。

日常では、立派な(仕事ができる有能な)社会人に擬態しつつ、節度を守りながらオタトークを繰り広げているふたりは、まさに大人のオタクの鑑ともいえる存在。

(『マキとマミ』第2話「擬態オタとレジェンド推し」より)

尚、マキにいたっては「ジャンル全盛期よりツイッターで静かに熱いつぶやきを見せるが イベントなどには顔を出さず 素顔が全て謎」すぎるあまり、実在が疑われていたという存在でもあります。

(『マキとマミ』第1話「呼び出し」より)

推しジャンルの新展開が年単位で何もなく、同ジャンルのフォロワーだった仲間がどんどん別作品に流れていく中、東に売れ残っているグッズがあれば、保護(という名の購入)をし、西に公式からの過供給に「もうほんと破産する〜(汗)」とはしゃぐ、活気に満ちたジャンルのファンあれば、「破産してもいいから お金を貢がせてほしいわね」「教えたい… つぎ込むアテのない辛さよりは つぎ込める幸せ…」とシニカルにつぶやき、推しジャンルの公式ツイッターに動きがあった時は「公式が生きてたんですよ!!」と涙を流す──そんな衰退ジャンルならではの苦しみも悲しみもひっくるめた上で、推しに深い愛を捧げつづけるマキとマミ。

(『マキとマミ』第6話「国民的幼児向け教育番組ジャンル」より)

そんなふたりの楽しく、ひそやかに熱い社会人オタクライフを描いた『マキとマミ』。マキの年齢設定からもお察しいただけるように、昭和生まれのオタクが抱く哀愁も作中では描かれるので、衰退ジャンルのオタクでなくとも(昭和生まれのオタクなら)共感が止まらなくなること確実の作品なのです。

(『マキとマミ』第3話「自ジャンルに時代が追いつかない」より)

『マキとマミ』でも『メタモルフォーゼの縁側』と同じく、初めての同人イベント参戦のエピソードが描かれるのですが、これがもう素晴らしいんですよ……もう「俺も推しの尊さを分かち合える仲間が欲しい欲」を抱く全ての人の悲哀を、救済してくれるんじゃないかってくらいに。

ツイッター上では神のような古参オタとして崇められているマキですが、マミに同人イベントに行くことを誘われ、「がっかりしないで聞いて欲しいんだけど…」と同人イベントへ行ったことがないことを告白するマキ。

(『マキとマミ』第11話「衰退ジャンル的同人イベント 前編」より)

例え金銭的に余裕のある大人になったとしても、ネット上では崇められるような存在であったとしても、現実世界において「推しの尊さを分かち合える仲間」から勇気(と、きっかけ)をもらわないと叶えられない夢もあるのですよ……。

(『マキとマミ』第11話「衰退ジャンル的同人イベント 前編」より)

もう涙なしには読めないマキの初参戦エピソードがどんな結末を迎えるかは、ぜひ単行本などでお確かめください。

ちなみに単行本のカバー袖で「初めての書籍です。オタクへの憧れと理想と劣等感が詰まった本ができてしまいました」と書かれている著者の町田さん。

あとがきマンガでは……

私の学生時代は今より
オタクに対するイメージが
良くなく 環境的にも
「オタクなんだよね」
これだけが言えなかった

自意識を
優先してしまった

(中略)

マキさんの
悲哀は
私の経験です

……と、心情を吐露された上で、「マミちゃんは私の思う救いです」とも綴られています。

(『マキとマミ』単行本1巻あとがきより)

「この漫画を描くことで 自分の中でくすぶっていた 気持ちを消化することが できそうです」という町田さんのように、「俺も推しの尊さを分かち合える仲間が欲しい欲」を抱く人も『マキとマミ』を読むことを通じて、その欲を完全に満たせるのではないかと思います。

なんかこれ以上書くと変にエモかったり、説教くさい内容になりそうなので、今回はここまでとさせていただきます。自分、エモさを狙った記事が大嫌いなんで。

それはさておき、KADOKAWAさん……

……こんな素敵な読者アンケートはがき、使えるワケないじゃないですか……っ!!(うれしい困惑) アンケートの送付、官製はがきでも良いですか……?(超私信)

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