純粋無垢な小さな子供から、闇を抱えて生きる大人まで広く国民的な支持を得ている『ちいかわ』。SNSで最新話が投稿されると1分も経たない内に1万いいねが付く大人気ぶりです。
島編の衝撃も冷めやらぬ内に先日公開され話題になった、『HUNTER×HUNTER』で人間に対する狩りの愉悦を覚えたギョガンさながらのハチワレを描いた新エピソードには「流石『ちいかわ』……」と慄かずにはいられませんでした。
社会現象とも言える大人気に押され、日々さまざまな関連グッズや関連書籍、コラボなどが続々と出てきます。今回紹介する『ちいかわ お友だちとのつき合いかた』もそのひとつ。『ちいかわ』キャラクターをベースに、学校心理士の資格を持つ大妻女子大学助教授の加藤裕美子さんが上手に他人と付き合っていく方法を子供でもわかりやすいように書いた本です。
これが、もし私が担任教師だったらポケットマネーを拠出してでもクラス全員に配っていたかもしれないなと思うほどの良著でした。
他人とのコミュニケーションというのは、子供だけではなく大人になってからも最も大切なことのひとつであり続けます。プライベートでも仕事でも絶対に長けていた方がいい能力であり、日頃からそこに課題感を抱いている人も少なくないでしょう。また、他人だけではなく自分との向き合い方に苦労している人も現代社会には多いです。この本は、そうした大人が読んでも得られるものがあるものとなっています。
少し中身を引用しながら、詳しく紹介していきましょう。
お友達と上手く付き合うために大事なこと
本書では、ケーススタディ形式で「こういうとき、あなただったらどうする?」とまず質問が出され、それに対して4つの選択肢から自分の回答を選んでその解説がなされるという形で進行していきます。
たとえば、「あなたは公園で遊びたいけど、お友だちはおうちでゲームがしたい」というとき。
1 相手に合わせる
2 自分の意見を通す
3 上手くいくよう提案
4 困って何も言えなくなる
あなただったらどうしますか?
それぞれの回答に対して、まず同じ見開きの中で軽くそれぞれへのコメントが書かれた後、次の見開きでそのテーマに関する総論が述べられます。
このテーマの場合は「意見が違っても間違いじゃないしよくあることだからお互いに話し合って考えてみよう」「その際に使う言葉で相手の感じ方が変わるのでまあるい言葉を使おう」といった具合の提言がなされます。
子供ではなくても、意見が対立した瞬間に相手の人格否定を始めてしまったり、刺々しい言葉で罵ってしまったりする人は多いのではないでしょうか。そうした人にこそ、この本は読んで欲しいです。
「相手の意見に合わせられることは素晴らしいけれど、合わせすぎるとそれによって自分の心が疲れてしまうこともあるので自分のやりたいことも大切にしてね」と書かれているのが素敵ですね。
また、SNSなどでもよくあるのが「うわさ話」。真偽が定かではなくても、それがセンセーショナルであったり面白おかしければ拡散されてしまう風潮があります。本著では、それに対しても待ったが入ります。
「本人が言ったかどうかわからない話は面白く感じても避けよう」「人の噂話はたとえそれがいい話でも本人にとっては知られたくないことかもしれず相手を傷つけてしまう場合がある」「陰口は言われた人も傷つき言った人も卑怯な人だと思われる」「とにかく相手のことを考えよう」
といった具合です。
昨今は明らかに偽りでありそうな噂話でもインプレッションが稼げれば利益に結びついてしまうために、そうした情報を流布する悪い大人も多いです。そういった類の人を根絶することは難しいですが、せめて大人はそうした情報に言及したり拡散に加担してしまったりするようなことは避け、子供たちにとってのいいお手本であり続けたいですね。
自分との向き合い方も大事
1章が「お友だちってなんだろう?」、2章が「お友だちとの間のルール」として、主に対人関係の良好な進め方について書かれていますが、3章は「自分のことをもっと知ろう」ということで、自分のメンタルのケアの仕方にまで言及されます。
こ、これは認知行動療法! ここに「心がふたつある~~」の名シーンが使われているのはいろいろな意味で面白いですが、こうした本編からの適切なシーン引用もまた本書の美点です。名言や名シーンと結びつくことで、より記憶に定着しやすくわかりやすくなっています。
どうしたって、誰しも日常でもやもやしてしまう瞬間は訪れます。そうしたときに、どういう心構えでいればいいのか? 「自分の気持ちをコントロールするのは大人でも難しい」としながら、自分の個性も大事にして自分を好きになって他ならぬ自分と上手く付き合っていく方法も、しっかりと解説されています。
「失敗したのもいいけいけん」「感じかたは変えられる」といった心持ちもまた、大人になっても言うまでもなく大事なことです。
おわりに
読みながら、強く感じました。これは「令和の道徳の教科書」であると。親しみやすいちいかわというキャラクターを通して、これから先の人生を生きる上でとても大切なことがたくさん書かれている1冊です。社会はひとりで生きるものではないのでどうしたって他人と関わっていく必要がありますが、学校ではここまで詳しく教えてくれないことも多いでしょう。
これを読んでお友達とまあるい関係を築ける子供や、自分の心と上手く向き合い付き合っていける大人がひとりでも増えてくれることを祈ります。
なお、この本には自分が『ちいかわ』内のキャラクターの誰タイプかを判定するYES/NO診断が存在します。皆さんはどのタイプになるでしょうか。
私はちいかわタイプでした。詳しい診断内容は、ぜひ買って確かめてみてください。