ネタバレ

え?手塚治虫と同い年というプライドが邪魔をして素直に手塚治虫を認める事が出来ず、手塚治虫を強烈にライバル視して手塚にできる事なら俺にだってできる追いつけ追い越せと滑稽な努力をする漫画家―――、海徳光市が実在した?

そんなわけはない

同時に漫画連載10本以上抱えてアニメ監修と投稿作の講評して医学博士号を取って、しかもそんな多忙な毎日を送りながら結婚までする手塚治虫という漫画家が実在したのだ!

と、いうあえて誤解を招く表現を度々やってたら苦情でも来たのか、「この漫画家は実在した」とは描かれなくなってしまったが、とにかく手塚治虫という漫画の神様がどんなに凄い人なのかを同時代の架空の漫画家の目を通して描いていく「時代漫画」にして「手塚治虫論」である。

今さら言うまでもないが、手塚治虫氏は日本漫画に多大な足跡を残しに残しまくった漫画の神様であるが、そう呼ばれる理由の一つに、氏の作品に魅せられた世代の少年少女たちから偉大な漫画家が多数出た事があるが、それ故に手塚治虫という漫画家を語る際は下からの目線で語られることが殆どである。
しかしこの作品は冒頭で述べたように、手塚治虫作品の洗礼とは関係なしに漫画家になり、同年齢であるためにその対抗心から同時代の同作家という同じ目線から、手塚治虫がどういう存在か語ろうという試みがされているのである。
もちろんそうは言う物の、同時代の漫画家としては売れっ子の主人公、海徳から見ても、既に手塚治虫は、もはや売れっ子というのも馬鹿馬鹿しくなる存在であり、手塚治虫が手を出さないジャンルが描ける自分という部分でどうにか持たせていたプライドも、テレビアニメの世界を切り開かれると粉々に砕け散ってしまい、ライバルというよりファンの目線になってしまうのだが、同じ年齢・同業だからこそ抱く意識は最後まで持ち続けており、一々手塚治虫の動向を気にしてしまう。
ために手塚治虫の足跡を辿れるようになっていて、漫画以外のアニメや商事関係などの、やや軽くされがちな部分なども描かれていて、壮絶な後出しジャンケンで手塚治虫が落ち目な頃にジャンプに連載を開始した海徳は、どうにか手塚治虫に一矢を報いるのだが、その後復活を遂げる手塚治虫氏を一発を当てながらも徐々に落ち込んでいく海徳の目から見ていくのである。

海徳光市はあくまで架空で、モデルは強いて言えば自分とされているが、この「居たかもしれない歴史に名を残さなかった架空の人の目で歴史を語る」というのは手塚治虫氏の歴史漫画でも度々行われる手法で、手塚治虫以外の時代史料もしっかり調べているようで。コージィ城倉イズムが溢れまくっているのだが意外なほど「手塚的」ですらある。
多くの手塚治虫論の漫画が下からの目線で崇拝の気を帯びているのに比べて、なんとも面白い視点から語られていて異色だが手塚治虫という漫画家の異常性、天才性を再認識できる作品である。

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