ピサ朗
ピサ朗
2024/11/23
気が付けばシリーズ累計100巻以上
ちっぽけな組に過ぎない黒須組に、ある日白竜の異名を持つ若頭が台頭してからあれよあれよと裏社会で頭角を現していく、揉め事の解決は暴力やダーティーな手段だったりの、良くも悪くも普通のヤクザ漫画。 …だったのは初期の話、天王寺大氏が実際の事件を広げたネタを扱う事も多かったので、ゴルゴ13のような「実はあの事件の裏には白竜が関与していた!」オチのネタが結構あったりする。 シリーズ後半ではその手のネタが増えて行くが、この第一シリーズである無印は比較的そういうネタは薄め、なんだかんだ危険な香り漂う裏社会でのし上がっていく姿は正直ワクワクする部分も有り、強引すぎたりアレな解決も「こまけえことはいいんだよ!」の精神で十分楽しめる。 …後のシリーズでは陰謀論を加速させかねない色々と不幸で幸運な現実に見舞われたりしてるけど、それも割り切れば作品の魅力。 組のメンツも少人数な分、上も下も描きやすいのか、若頭主人公だが下っ端から組長まで交流があり、それなりにキャラを立たせつつキャラ被りも無しと、今見ると設定時点でなかなか秀逸。 ヤクザ漫画としては、シノギの描写が意外と広く、これもまた第2シリーズ以降の時事ネタを扱うのに違和感が無い要因だろうけど、解決手段はシンプルに非合法だったりで「できるか んなもん!」な、描写がてんこ盛りで、これをツッコミどころとするか、展開が早くて良いとできるかで面白いと感じられるかは分かれそうな気がする。 とはいえシリーズ累計で100巻以上を成し遂げてしまってるように、こういう作品が好きな男自体はなんだかんだ根強く存在している事も実感するが。 実際のあれこれをネタにしている部分とか、多々あるツッコミどころにせよ、素直に名作と認めたくはないが読んでて楽しい部分も有るのは確か。 作風が完全に確立したのは第2シリーズのLEGENDだが、その移り変わりも含めタバコと酒臭さが似合う漫画ゴラクの象徴の一つ。
ピサ朗
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2024/06/16
女の子が自殺してる姿なんて見たくない
可愛い女の子が底辺おじさんがハマるような趣味をやってるという、最近の流行である作風なのだが 「食」という生活に密着してハードルの低い分野で、注意書きも一切無いので正直恐怖の方が勝る。 自分も結構食べる方だが、30越えてからは多少なりとも控えめになったが、21で運動量も少ない女性がこんなん10年後に一気に来るというのが容易に想像できてしまう。 ハッキリ言えばもちづきさんがやっているのは「緩やかな自殺」レベルの暴食なので、ここまで来てるとむしろ中年男性がやってる方が遠慮なく笑える。 ひでえ事言ってるけど、「中年男性の自殺姿は笑えても、かわいい女の子の自殺姿を見て笑うことはできない」のだ。 とはいえ暴食に心を囚われ不健康な生活を送ってる人にとって、ここまでではないにしても己を顧みる切っ掛けになりえる狂った生活描写は見事で、逆説的に食事に対する節制や再考を推奨していると言えなくもない。 そういう方向性ならむしろ吾妻ひでお氏のアル中病棟のように、数年後に作者が死亡するか、もちづきさんが入院して暴食を強制的に楽しめない終わりが似合うだろうけど、流石にそんなもん見たくないので、どういう終わりを迎えるのかすごく気になってる。
ピサ朗
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2024/02/25
頭おかしくなるくらい圧倒的に壮大なSFファンタジー
地球とは異なる惑星で暮らす、奴隷民族であるイコル、支配民族であるカーマ、そして先住民にしてタイトルのイムリ、これらの戦争が描かれていくのだが、 三民族それぞれの文化、いわゆる魔法に相当する技術、支配種族の権力闘争、逆転に次ぐ逆転が続く展開、とにかく徹底して「世界」のディテールが細かく濃い。 ハッキリ言ってこのディテールの細かさは間違いなく人を選ぶ。 巻末で登場人物紹介や用語解説が掲載されているが、独自用語で耳慣れない単語が多いもんだから、別ウインドウ表示か小冊子にして読みながら確認させてくれと言いたくなるし、世界設定の説明や大まかな登場人物紹介と序章に当たるストーリーに3巻を費やしていので、ストーリーが動き出すまでも遅く、正直序盤はじれったい。 しかしほとんど説明なのにめちゃくちゃ中身が濃いし、後から見るとこれでも足りないくらいで、スケールのデカさに戦慄する。 最低3巻読まないと殆どストーリーが動かないという展開の遅さなのに、一度物語が動き始めてからは息をもつかせぬ急展開の連続で、疲労感すら漂う重い展開の嵐だが、ある種の絶叫マシンに乗ったような気持ちよさもあり、それぞれの戦いの方法も見応えがあり、胸を打つ場面も多い。 序盤の展開の遅さとオリジナリティの高さ故の入りにくさはあるが、描かれていく世界史と陰謀、英雄譚に和平は非常に読みごたえがあり、間違いなくハマれる人はハマれるタイプの作品。
ピサ朗
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2024/01/19
未知を既知にするのは何時だって機知に富んだ無知な奴ら
17世紀の海賊の航海日誌を膨らませた「事実を基にしたフィクション」の伝記漫画なのだが、とても素晴らしい。 昔の学習漫画のようなシンプル絵柄だが、当時の海賊という事情からも病気や戦闘などのともすればグロテスクな部分も読みやすく、またダンピアも実年齢より若々しく感情移入がしやすいし、異常なまでの参考資料から読み取ったであろう先住民や欧州、東南アジアなど各々の文化を、しっかり漫画に落とし込み、題材となった人物をしっかり主人公として魅力的に描くのは相当な筆力を感じる。 英国生まれの青年ダンピアは、貧困と教育を軽んじる当時の価値観から大学に通えず、紆余曲折の果て、はみ出し者だらけの海賊船に流れ着いた、当初は悲観していたが、誰も知らない事の発見者になれる喜びを噛みしめ、未だ未知なる事に溢れた太平洋の冒険に胸を躍らせる。 当時航海も盛んになっていたとはいえ、人々にとっては日々を生きるのが精一杯というのは珍しくもないだろうし、ダンピアのような青年はきっと多かっただろうけど、どんな状況にあろうと好奇心と探求心に満ち溢れ、恐れず行動し、海賊というヤクザ稼業をすらチャンスとして学ぶダンピアが実に魅力的。 「おいしい冒険」の名の通り、食事に関する描写が豊富だが、当時誰も食べたことの無い未知の食材を調理するその風景は、その航路からも正に「先駆者であることの歓喜と偉大さ」を訴えかけてくる。 しかし食事だけでなく、授業料の無いフィールドワーク、税金にせよ犯罪にせよ許され、実力勝負故に人種差別の薄い海賊という職業、それらもひっくるめてのダンピアの「おいしい冒険」であるのも面白い。 危険に溢れた海賊稼業が「おいしい」と言えるかは人によるだろうけど、職業選択の自由もない時代で、海賊以上に劣悪な環境の海軍の事情なども併せて語っているのでダンピア達にとっては正においしい冒険だったのだというのが伝わってくる。 教科書には載らなくとも歴史を彩る偉人の生涯を実に魅力的に描いていて、とても良い読後感を得られる名作。
ピサ朗
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2023/12/03
ネタバレ
少年誌におけるデスゲームジャンルの先駆作品
いわゆる「一定の法則に基づいたメンバーによる、生き残りをかけたゲーム」デスゲームジャンルにおいて、バトルロワイアルは欠かせない作品であるが、後発のデスゲーム作品において、この作品が成した功績ともいえるのが「少年誌」で「見やすい絵柄」に、しっかり面白さが伴っていたことだと思う。 バトロワ以降のデスゲーム的作品としては、早くも2002年に仮面ライダー龍騎が登場していたわけだが、漫画作品では漫画版バトロワを始めGANTZやローゼンメイデン等軒並み青年誌で、少年層が親しみやすい絵柄ではなかった時期(ハンターハンターのグリードアイランド編は該当するかもしれないが休載が多く、共闘要素も強く、ネットゲームの方が近い) この作品が少年誌におけるデスゲーム系統のヒット作となった事による、少年漫画でのデスゲームジャンル定着は大きいと認識しているが、類似ジャンルも確実に存在したし、青年誌では既に確立され始めていた事を考慮すると実際にどの程度の影響力があったかを計るのは容易ではないだろう。 ただ全員が一癖も二癖もある予知能力者で、キャラクターもしっかり立たせた上で、生死を賭けた戦いの中で描かれるスリリングなドラマはしっかりデスゲームで、ヒロインがヤンデレながらもちゃんと可愛く描かれてたり、ガジェットとして携帯電話(年代的にほぼガラケー)を有効活用していたり、タイムリープ等のゼロ年代の流行をしっかり取捨選択して取り込み作品に生かして見事に仕上げていて、連載自体は2010年からだがある意味ゼロ年代の総決算ともいえる作品。 特にヒロインの我妻由乃は当時のヤンデレ類型をかなり的確に分析していて、病んでるだけでデレてないヒロイン等とは異なり、病んでてデレてたり病んでなくてもデレてたり、未だにグッズが作られるほど人気。 主人公を愛する「男」もいるのだが終始献身的で、ヒロインがヤンデレという事もあり、こちらにもヒロイン的な要素があるのも面白い。 当初モブ染みていたキャラも後にしっかりストーリー上の重要人物として生かしていたり、見せ場があり捨てキャラと言えるキャラがほぼいないのだが、群像劇というには主人公とヒロインが中心に描かれていて、デスゲームながらほぼ主人公組だけが参加者を脱落させていくのも、バトルロワイアルというよりトーナメント的でかえって理解しやすく少年漫画的。 若干残念と言えば残念なのは、終わり方が爽やかなハッピーエンドで少年漫画している事だが、これは単に自分が年齢的に想定読者よりスレてしまってるだけで作品として綺麗に終わってるのは間違いないので、評価を落とすには値しないだろう。 ゼロ年代の流行を話に取り入れてるが、要素の抽出が上手くて非常に物語に入り込みやすく、デスゲーム物としての完成度も高く、とっつきやすさはかなり高い。 少年漫画史的な位置はともかく、デスゲーム史における位置は計るのは難しいだろうけど、ジャンルを漁るなら知っておくと面白そうな作品。良作。
ピサ朗
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2023/09/03
ネタバレ
健全ハーレム漫画なのだが、最後の最後が…
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「まほらば」の小島あきら先生が原作ということで、心温まるストーリーの中で重い設定もあっけらかんと軽く出してきたり、かわいい美少女もたくさん出るが、その割にお色気は絶無で、ゆるい雰囲気で心癒される、まさに小島あきら作品。 しかし小島あきら先生は基本的に線の細い男性キャラしか描かなかったので、作画の香澤陽平先生の描く主人公がちゃんと骨格も太い「男」キャラで、結構新鮮な部分もある。 主人公の零時はやれやれ系というか、人とそんなに関わることもなく日々を生きていたのだが、ある日謎の美少女を見かけたら、その美少女はずーっと誰にも認識されなかった幽霊のような存在で、なぜか零時の家族は自分を認識していたことから零時にたくさん子供を作ってもらおうと余計なお世話を焼いて、なんだかんだ面倒見のいい零時は何人もの美少女に好意を寄せられていく。 どのキャラも大変かわいいし、主人公は割と男らしく孤独な少女たちとの交流でお互いに好意を寄せあっていく風景も美しく、ラストのハーレム展開は思わず笑ってしまう程に明るく軽いノリが徹底されている…のだが… 何考えてこのセリフしゃべらせた!?副題は小島あきらの遺言!?という程に最後に衝撃を受けた。 ファンならご存じだと思うけど、小島あきら先生は「このままだとあと数年で死ぬよ」と医者に宣告されたのを、あっけらかんと漫画で報告なさっていた過去があり、まさにその数年が経過してからこの作品を連載なさったのだが… 最後の最後、還暦を迎えた主人公がレイに対して感謝を述べるシーンが、もはや小島あきらという漫画家の遺言に見えて仕方がなかった。 いや小島あきら先生は年齢自体は非公開なのだが、99年デビューからもう20年、流石にまだ還暦ではないかもしれないが、過去の経緯から余命を意識なされても不思議ではないので、最後の最後、ハーレム完成からの命の巡りを感じさせる展開と相まって、心温まるはずのハートフルストーリーがシリアスでヘヴィで凄みを感じる鬼気漂うストーリーに感じてしまった。 ただの邪推といえばそれまでなのだが…。 ハーレム漫画としてはお色気展開は全く無い、しかし美少女たちとの交流はそれだけで大変心地いいし、みんなを幸せにするハーレム展開も心を癒す。 主人公の零時も結構な好漢で良い意味で男らしく、お色気無しという点は逆に他人にお勧めしやすいともいえるので、タイトルで敬遠せず手に取って読んでほしい作品。 ただし原作者のファンなればこそ、最後の最後は心を癒すより胃が痛くなる可能性を否定できない、そういう意味ではむしろ余計な先入観を持たずに読んでほしい作品でもある。
ピサ朗
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2023/08/13
めっちゃ現代的な梶原一騎
小学五年生で運動に異常な才能を持つが心はエンジョイ勢な主人公が、野球と出会う事で巻き起こしてしまう波乱とドラマなのだが、滅茶苦茶梶原一騎作品の様な雰囲気がある。 物理法則こそねじ曲がっていないのだが、主人公が競技をやるのが競技が好きで自発的というより、周囲に才能を見込まれ運命というか半ば強制的に競技をすることになってたり、主人公が強すぎて勝負という形にはなってないのだが、競技よりもそこから生じる人間ドラマの方を主軸としてたり、全体的に漂う陰鬱で重い悲劇的な雰囲気は、かなりあしたのジョーや巨人の星とかの60年代スポ根ドラマに通じるものがある。 とはいっても、基本的にキャラデザはイケメン少年で、物理法則が現実そのものという点でやはり現代スポーツ漫画らしい部分も多い。 ただそういうストーリーの為とはいえ、主人公である綾瀬川の運動能力が完全に人間離れしていて、受け入れられるよう慎重に書いているにせよ、もはやゲームやギャグ漫画に片足突っ込んでるレベルで尋常ではなく、冷める人も相当居そうに思う。 しかしそういう並外れた才能だからこそ、勝負を通じたスポーツマンシップの美しさの裏にある残酷さ、才能に振り回される大人も含めた周囲、エンジョイ勢とガチ勢の溝などと言ったストーリーが映える部分も多く、特にその才能に魅せられてしまう大人というのは野球という競技と、主人公の圧倒的な運動能力から強烈な生々しさが漂っている。 主人公以外のキャラも弱小チームにせよ強豪チームにせよ、それぞれの年齢や居場所に合わせたメンタリティをしているために抱く苦悩も描かれているが、主人公自身もその能力の高さゆえに馴染めない苦悩も描かれていて、強烈な負の面白さが出ている。 この手の「才能により歪んでしまう」スポーツ漫画としては黒子のバスケとかが記憶に新しいが、そういう才能が複数人居たお陰でバトル漫画的になっていたあちらに比べると、たった一人だけそういう才能を持っている事により周りが一般人である分、その人間ドラマが際立っている。 プロトタイプに当たる読み切り(高校・プロ年代)も幾つか存在するが、こちらはあくまでプロトタイプとして別物と思っていて、こちらで描かれた未来に収束するかは未知数。 野球を題材としてはいるが、才能により才能の持ち主も含め全てが振り回されるドラマは非常に生々しくも強烈で面白い。 幸か不幸か大谷翔平という、一昔前なら漫画でしかありえなかった活躍をする人間が現れていて、ギリギリでリアルとファンタジーのバランスはとれているように思うが、主人公が本当にゲームかギャグ漫画並に突出した運動能力があるので、ココで脱落する人もいるように思う。
ピサ朗
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2023/07/23
ド直球のヒロイックハイファンタジー
誰もが魔法を使える世界で、唯一魔力を持たないアーサトゥアル国の姫エルナと、戦争中のアンサズ国の王子シャールヴィが出会い、各々の思惑により逃避行に身を投じ、怒り悲しみ成長し、やがて戦争を終わらせようと戦い抜く、超が付くほど真っ当すぎるファンタジー漫画。 固有名詞の多くは北欧神話モチーフだが、内容は独自性が強くしっかりとした世界を描いている。 作者が「女の子が世界を救う物語」を描きたいと思った事もあるだろうが、主人公のエルナは女らしさの塊のような女性で、力は弱く誰もが魔法を使えるこの世界で唯一魔法が使えず、目の前で剣を取らねばならぬ時も戦えず、敵の死にも涙を流し、優しく弱く迷い状況に翻弄され、理想主義的で、正直やきもきするのだが、体内の魔法に反応して強力な殺傷力を発する封魔剣を唯一扱えるという特性と、そうして無力な身から悩み学んだ事から成長し自分の意思を世界に示す姿が実にカッコいい。 もう一人の主人公である王子シャールヴィは、猛々しく雑兵をなぎ倒し、魔法も強く、上の兄王子達に考える事は任せていて、戦争を終わらせるなら母国アンサズの勝利で終わらせるという事がエルナを連れていく動機だったが、戦乱の中でも平和を求め、甘いと感じていたエルナの優しさを目の前で見続け、徐々に彼女を守ろうと命を預け、国ではなく彼女の為に戦う事を決めるなど、良い意味で男らしさの権化である。 この二人が共に世界を巡り、様々な出会いと成長を繰り返し、やがては滅びに向かう世界を救おうと戦いに向かう。 出会う人々も市井の人一人一人に物語が見え隠れして、世界は狭いのだがとても深みがある。 モンスター的な存在は居るが、実際は正真正銘のモンスターは伝説の魔獣くらいで、異形の姿と化した狂戦士も元は人間で、空馬等の架空生物は使役動物であり、あくまで人間の領土を巡る戦争が出発点なのも見応えがあり面白い。 男女問わず読んで欲しい一作、お薦め。
ピサ朗
ピサ朗
2023/05/28
ネタバレ
ドラクエ漫画の巨頭
少年ガンガン初期の看板漫画であり、FCⅢの世界を元にストーリーを練り上げたドラゴンクエスト漫画。 同じくドラクエを元にしつつも設定を借りたオリジナル漫画の様相が強いダイの大冒険に比べると、陰鬱で重いがゲームに登場する武器や防具を公式ガイドブックのデザインでしっかり登場させ、ゲームだからこそな部分を漫画に落とし込んでいるがのは同様だが作風はかなり違う。 しかし俗に「ダイ大はドラクエである前にジャンプ漫画」「ロト紋は少年漫画である前にドラクエ漫画」と称されていたように、その作風の違いはそれぞれ別の魅力として昇華されている。 まず冒頭から勇者の子孫にして王国の王子である主人公が、魔王軍に「なまえ」を巡る陰謀を仕掛けられているのが面白い。 ドラクエにおける最初のイベントは色々思い浮かぶのだが、この作品では「なまえ」を付ける部分を、聖なる名前アルスと邪悪な名前ジャガンを巡る壮大な序章として位置付け物語がスタートしている。 結局王国は魔王軍により陥落し、落ち延びた主人公は家臣と共に逞しく成長して旅立つ、いわゆる貴種流離譚である。 その後も幾つも苦難が襲い掛かるのだが、船を手に入れてから海の冒険を大きく扱っているのもドラクエ的で、一気に行動範囲が広がり過ぎて、海のモンスターなどをそのまま漫画に落とし込むのは難しそうな部分を「海王は本来中立」「魔王軍の陰謀で勇者と戦う」「事態を解決した勇者たちに海の魔物は協力を誓う」としてストーリーに取り込んでいる。 そうしてこの作品の一大イベントである「アリアハン決戦」に至って、民衆の逆恨みと再起、伝説に語られていた仲間たちの結集、初期から居た仲間の死と、立て続けに起こる名場面の連続で少年漫画としてのこの作品のピークを迎えている。 しかしその後、間もなく起きた呪われた勇者ジャガンとの決闘、ココがもう容赦ない位に主人公アルスと読者の心をへし折りにかかっている。 なんせやっと仲間が揃って激闘を潜り抜け主人公たちの成長を感じた矢先だというのに、剣も呪文もまったく通じないし、邪悪な存在なのにロトの剣術を受け継ぎ、ゲームだと主人公しか装備できない、特別の証である筈のロトの装備を装備してこちらを殺しにかかってくるのだ。 最早強制敗北イベントにしか思えないのだが、仲間たちが3人がかりでどうにか勝利…しそうになったら勇者にしか無いだろう聖なる守りで逆転されてしまい、主人公は死亡…。 そこからの再起や王者の剣に対する伝説の武器を探す冒険や空飛ぶ乗り物等は面白いが、ココの重くるっしさは後々まで後を引いていて、その後の魔王軍相手の戦いは相手が搦め手を使ったり諸々の事情で、アリアハン編程のテンションは無く、青年漫画寄りの作風になっている。 そしてこの漫画が少年漫画である前にドラクエ漫画と称される理由の一つがラスボス「異魔神」である。 当初この異魔神は世界征服を目的としていたが、実は世界を無にすることを目的としていたという事が明かされる。 この作品が発表された当時、スクウェアとエニックスはまだ別会社で、合併前だったのだが、当時ドラクエと並び称されていたRPGファイナルファンタジーに登場するラスボスで多かったのが「無の力」「世界を滅ぼそうとする」という物であり、封印が解けてから主人公たちに繰り出すのが流星を落とす、いわゆるファイナルファンタジーの最強魔法「メテオ」を想起させる攻撃だったのである。 このため異魔神対勇者とはFF対DQのメタファーなのではないかと、まことしやかに囁かれた物である。 最終決戦はそれまで巨大だった異魔神が小さくなっての戦いだが、漫画としては小さくなってくれないとアクションを描けない事情は分かるが、やはり強そうなのは巨大な方で、苦戦の果てに大団円を迎えるが旧版は正直ややあっけなさが感じられる。 コレはページの都合も有ったらしく、完全版で書き下ろされたエンディング部分は少ないながらも雑誌版に比べて良い余韻も残る終わりとなっていてようやく完結したのだなと感慨深い。 ドラクエのエッセンスを漫画に落とし込むという点で様々なアプローチを試み、見事に完結に導かれた名作。
ピサ朗
ピサ朗
2023/05/14
学習漫画史上の傑作日本史漫画
恐らく今後コレを越えうる日本史漫画は出てこないのではないか、そう思えるほどに徹底した学習漫画。 この作品自体は日本の歴史を漫画で解説・紹介する、いわゆる学習漫画なのだが、その範囲、細やかさ、深さ、総合的な面では全ての教科書、歴史漫画を見渡しても稀な域に達している。 扱っている時代の細やかさでは、風雲児たちなんかも相当な物なのだが、あちらはギャグ漫画であり江戸から幕末の範囲に絞られている。 翻ってこちらは原始時代から昭和という広範囲を30巻に満たない巻数で描いているので、どうしても省略されたり、扱えない部分も見え隠れするのだが、それでもこの作品から漂う参考資料の質量ともに恐るべきものがある。 その理由の一つがこの作品が小学館記念事業として、バブル景気を追い風に惜しみなく資金と時間を投じられて作られ、また関係者もそれに尽力した熱意と労力の果てに到達した物である事だろう。 当時の文部省の指導要綱や監修者の史観にある程度沿った内容だが、それでも明らかな史実に忠実、かつ俗説は排除されており、不明な部分が多い事には参考資料や採用した説である事を併記し、服や住居、色彩、様々な分野が描かれている時代から逸脱しないように気を払われている。 流石に言語は現代語訳されているし、架空の人物等も描かれているが、架空の人物を用い、教科書ではおざなりにされがちな下々の人の生活や上流階級以外の文化を可能な限り描き出し、最早この作品自体が資料として通じるレベル。 もちろんそうは言っても、発行が1981年という時代も手伝い、現代では明らかになった新事実や、文科省の指導要綱や現代のイデオロギーや主流史観からは外れた部分も有るのだが、完全に明白な間違いは 「※実際には猫は古墳時代には居なかった」という注釈くらいである。 当時は大陸との交流で平安・奈良時代に日本に猫が定着したという定説も、40年以上の発掘の末に日本列島には弥生時代には既に猫が生息したという事が明らかになったのである。 それ以外の間違いに関しては史観・採用説の違いで済む範囲の物であり、カルチャー面に関してはかなりの範囲で網羅されており、鎧の着方、当時の農機具、流行りの髪型等、どうしても人物や事件に範囲を絞る教科書では軽くされがちがな部分も可能な限り取り扱っている。 この辺は総監修を担当している児玉幸多氏が、主に近世の農村に関しての著作が多数ある博士であり、庶民の文化をできるだけ漫画に入れようとなさったのかもしれない。 江戸期が特に多数の巻が割かれているのも、当時の文部省の指導要綱が不明なので児玉幸多氏の方針なのかもしれない。 この江戸期をやや重視した構成は、現代の教育方針からすると若干の違和感は有る。 ただしそれでも40年に渡り、文科省の方針や新事実が発見されても殆ど改訂、絶版されなかったという普遍性と資料性は恐るべきものであり、小学校から大学受験まで歴史学習に十分使えるものだろう。 全面改訂版として山川出版が監修した後継作品も出版されたが、正確性はともかく、庶民の生活等は主に巻末資料で触れ作中ではあまり描かれず、近現代史中心の構成となっていて、ドラマ・エンタメ性も縮小し対象年齢が上がっていて、部分的にはともかく後継作品としては結構な違和感がある。 しかしコレは時代や作風の違いというより、偉大過ぎる先達である当シリーズを越えるのが難しいという面も有るだろう。 おおよそ文系の学習漫画では一つの到達点とも言えるシリーズであり、お子さんに買い与える以外に、一種の資料として使ったり、製作者一人一人に思いを馳せたり、名所旧跡を巡る参考にしたり、様々な楽しみ方ができる傑作。
ピサ朗
ピサ朗
2023/04/21
少女二人の友情冒険、敵は異世界転生者
平和に暮らしていた村に、魔王を倒した勇者一行が現れ、勇者物語に憧れていた少女のルカは大喜びしていたが、勇者たちは村に魔族が居る事を理由に村人を皆殺し、しかも魔族として殺されたのは親友リトルの姉だった。 生き残ったルカとリトルは、殺された村の復讐を誓い、村を旅立つ。 魔王自体は物語開始時点で殺されており、村が壊滅してもルカとリトルの友情は壊れず美しいのだが、転生者達がまあー実にやべえ連中で、いきなり村人を皆殺しにしたのは序の口で、最初に戦う転生者のナイトーの転生前とかも悪い意味で生々しい上に濃く、敵役として不足は無いのだが不快感の方が上回る人も正直居そうには思った。 そして2巻で打ち切りな辺り、恐らく初っ端に出すには濃すぎたナイトーは人気に繋がらなかったのだろう…。 絵柄こそ可愛めだが、グロテスク表現は多めで、ある意味一番グロテスクなのは転生者たちの内面かもしれない。 ただそういう気持ち悪い敵を相手に団結する少女という図は燃える部分も有るし、苦難を共にし戦い抜く少女も美しい。 2巻で戦うサイミンなんかは、悪漢だがどこか愛嬌と矜持が感じられて間違いなく悪役ながら、中々面白かったのだが、これが打ち切りの関係による路線変更なのか、元々こういうキャラだったのかはちょっと気になる。 第一話だけを見ると異世界転生物に対する皮肉が強そうだが、全体を通して見ると異世界転生物に対する皮肉はむしろ薄く、要するにいきなり村を襲う魔王のポジションに異世界転生者を置いて百合の冒険バトル物として落とし込んでいると言った方が良いかも。 打ち切りは残念だが、バトル自体もチート能力持ちに魔族と人間の少女が知恵と勇気で出し抜く見応えのあるもので、ぜひこの方向性での次回作が読んでみたい。
ピサ朗
ピサ朗
2023/03/12
地獄の作画要求に応え続ける良コミカライズ
スラムであらゆる物に踏みつけられながらも生きる少年アキラは、ある日拳銃を手に入れた事から一攫千金を狙い、かつての超文明…「旧世界」の遺跡に潜るハンターと呼ばれる職業になる事を決意し、近場の遺跡であるクズスハラ街遺跡にたった一つの拳銃頼りに向かうが、モンスターに襲われ死に掛けながらも探索していたら、突然全裸の美女が現れ取引を持ち掛ける…。 と、いう原作はダンジョン探索SFバトルアクションな、小説家になろうから書籍化した人気ライトノベルなのだが、旧文明の遺跡の描き分け、サイバネスティックな装備、生物・機械系の多種多様なモンスター、そのモンスターにも通用する重火器、謎の美女アルファのコスプレ七変化、厳しい経験を乗り越えたオッサン、アキラを巡る美女美少女… とにかく人物背景から小物まで、要求する物が幅広く、挿絵ならまだしも漫画でコレをやるのって相当に疲れるのが素人目にもわかるのだが、ものの見事にそれらに応え、原作の世界観を見事に表現している。 特にほぼ常にアキラの傍に侍る背後霊状態のアルファは、絶世の美女とされ実際に美女だが、戦闘となればアキラを集中させたりリラックスさせるために笑顔に無表情にと、顔も利用するという点を見事に表現しつつ、主人公の相棒ポジションとして動作の一つ一つが魅力的に描かれている。 敵との戦闘もモンスターだったり人間だったり、多様だがアルファのサポート無しでは敵わない手練れである事も多く、実際に敵の強さの表現も素晴らしく、危機一髪をアルファのサポートと地道に身に付けた成果で乗り越えていく様は、元々はスラムの底辺少年だったアキラが拳銃だけの裸一貫から成り上がっていく様と重なり、とてもカタルシスがある。 世界を表現しきる画力、見応えのあるアクション、魅力的なストーリー、原作も作画もシナジーが抜群で、理想的なコミカライズだと思う。
ピサ朗
ピサ朗
2023/02/12
第一話を読んだ時にあなたは感動できるか?
それがこの漫画のファンになるかどうかの分かれ目である。 この漫画基本的にはギャグ有りバトル有り感動有りの学園町内漫画なのだが、主人公「たけし」は小学生にして濃いヒゲ面で、いわゆる世間でいう一般的なカッコよさの微塵も無い外見で、現代のジャンプじゃあり得ない程カッコ悪い。 しかしこのたけし、いじめを見ればぶん殴ってでも止めさせ、ウンコ漏らしを気にしている奴を見たら自分が漏らして誤魔化し笑いに変えるという、とにかく行動の一つ一つが他者に対する優しさと包容力に満ち溢れていて、行動のカッコよさはかなり高い。 ギャグ混じりではあるし、下ネタも多いが、根っこに溢れる道徳やリーダー論は、このカッコ悪い外見だからこそ「人は外見ではない、大事なのは中身である」というのを語らずして語っている。 他にも外見も中身も様々なキャラが居るが、このたけしという主人公は当時の小学生男子たちの心をがっちりつかんだらしく、今では悪ノリが横行したりイケメンキャラが上位に来る、ジャンプの誌上人気投票ではほぼ毎回1位を獲得するという稀有な結果を出している。 まあそうしてこの作品を好きになると、それだけにラスト近くのアレコレが滅茶苦茶ショックになるのだが、一応情状酌量の余地のある顛末だったので最終エピソードも出せたし、復帰もできたが、色々と台無しになってしまった感は有る。 面白いのは間違いないが、バトル部分も人情回やギャグ回に比べると長期エピソードになりがちで、若干ダレる回も有るが小学生以下には変な先入観無しに読んで欲しい。
ピサ朗
ピサ朗
2023/01/03
小山力也イロモノ伝説の切っ掛け、筋肉メイドの大暴れ
まあ何というか、作品自体は異邦人が来てドタバタな日々を送るギャグコメディであり、異邦人ポジションの有能メイドさんなフブキさんと仮面のメイドガイ(男)コガラシが、襲い来る刺客の撃退や嵐を起こし鎮めるドタバタな日常を過ごしていく作品で とにかく仮面のメイドガイ、コガラシがインパクト抜群、巨漢で仮面で文武両道だが明らかに無理のあるメイド服を着こなし幾つもの特殊能力を持つ破天荒な存在で、強烈なキャラクター。 そしてこの作品、アニメ化された際に当時「頼れる兄貴分」「カッコいいおじさん」的なイメージのあった小山力也氏がメイドガイを怪演し、さながら若本規夫氏のちよちゃんのお父さんのような転機…とまでは行かないが、この作品のアニメ以降イロモノキャラを多数好演する等、その演技の幅を見せる切っ掛けとなった感がある。 ハッキリ言ってメイドガイの怪人っぷりに乗れるか否かなのだが、外見も中身も無茶苦茶だがメイドとしてのスキルは高く、多少エロネタも有るし、当時決して大ヒットというわけでもないのだが、小山力也氏の怪演も手伝ってか観測範囲では意外と女性人気もあった。 変態の域にまで達した超人メイドスキルの数々や、悪気はなくとも死ぬほど疲れる行動をとりまくる、ギャグの為のキャラではあるのだが、見ようによっては主人に忠実ながら甘やかさず試練を促し、しかし本当に危ない危機からはしっかり守り、逞しいボディに顔を隠して声が小山力也氏とくれば、なるほど、男目線でも人気が出るのは分からないでもない。 一応ご主人様のなえかや、ちゃんとしたメイドさんなフブキさんとか、可愛い女性キャラもいるし、コガラシの暴走っぷりやそれに振り回される面々も笑える。 ただ若干尻切れトンボというか、打ち切りの感は有るのだが後半は息切れか冗長な部分も有ったので、コガラシのキャラの強烈さも含めて文句なしにおススメできるかというと難しい。
ピサ朗
ピサ朗
2022/12/22
自分が一番好きなジョジョ
ジョジョは各部でかなり作風も内容も傾向も変わる作品だけど、自分が一番好きだと言えるのは4部。 舞台は日本の町一つ、ラスボスはただの殺人鬼と、スケールの大きさで言えば歴代でも小さいのだが、その分、身近な恐怖や能力者が生きる世界という物が見えやすく、想像力を刺激される。 出てくるスタンド能力も直接戦闘には役に立たないようなスタンドが多いのだが、見事に幅が広く活用悪用、非常に多彩な使い方を見せてくれる。 この「その世界にいる能力者たちの日常生活」感は選ばれた実力者ばかりの3部や犯罪に利用している5部に挟まれてる分、かなり独特な物があり、リアルタイムで読んでいたというのも有るが、世界の生活感や地に足のついた空気が非常に気持ちよかった。 ただ当然ながら特別な能力者が普通の日常生活を送っているとも限らないと悪用する犯罪者も出てくるのだが、こいつらが実に醜悪で生活感がある分、日常に潜む恐怖とも言える怖さや凄みがあり、能力以上に能力者、つまりは人間が怖いと描かれていて凄い。 そして同時にスタンド使いではないただの人間がキーマンとしても描かれていて、ゾクゾクする。 ジョジョは人間讃歌だと言うが、まさにこの4部こそスタンド能力が有ろうが無かろうが、人間の悪意や醜さ弱さを描きつつ、人間の善意や美しさ強さを描いているのではないかと感じる。 とはいえ先述したように、スタンド能力の多様性も随一であり、バトルに日常に様々な面で活躍するスタンド達も非常に見応えがある。 「弓と矢」や承太郎、ジョセフ等2,3部も読んでいた方が良い場面もあるが、基本は超能力者達の居る町の日々だと分かっていれば十分楽しめる内容で、入門用のジョジョとしてもオススメ。
ピサ朗
ピサ朗
2022/11/29
大久保篤の原石時代
ソウルイーター以降はヒットを出している大久保篤の初連載、スタイリッシュな能力バトルと言語センスに、幻想的で奇怪な背景等、後の作品でも見られる作家性は既に確立している。 連載時は結構楽しんでいたのだが、幻想的で奇怪な背景は見難さを感じる事も有ったり、言語センスが突き抜けすぎてわかりにくかったり、まだまだ新人ということなのだろうけど、後半、「恐怖工場編」からはとんでもない作品になっている。 極悪非道を優しく歌い上げるような詩的センス、激しくもクールでだらしないアクション、それまでの見難さ、分かり難さは一気にむしろ美しさすら感じる独特の境地に至り、明らかに「開花」した。 もっともこの頃には既に打ち切りが決まっていたのか、間もなく打ち切りを食らったのだが、その後ドラマCDを出したりこの作品も一定の人気は得ているようだ。 作者自身は以後ソウルイーター、炎炎ノ消防隊とヒットするが、この作品の頃程のごちゃごちゃ感は鳴りを潜めていて、研磨され輝きを増しているのは間違いないのだが、この作品の帯びている原石故の輝きは無くとも、巨大な岩のような存在感は失われているようで、同じ作者でありながら作風的にはむしろ独特な作品になっている。 間違いなく大久保節は存在しつつも、ソウルイーター以後に比べるとお勧めしにくい部分も有るが、ファンなら読んで欲しい作品。
ピサ朗
ピサ朗
2022/10/26
ネタバレ
この漫画家は実在した!
え?手塚治虫と同い年というプライドが邪魔をして素直に手塚治虫を認める事が出来ず、手塚治虫を強烈にライバル視して手塚にできる事なら俺にだってできる追いつけ追い越せと滑稽な努力をする漫画家―――、海徳光市が実在した? そんなわけはない 同時に漫画連載10本以上抱えてアニメ監修と投稿作の講評して医学博士号を取って、しかもそんな多忙な毎日を送りながら結婚までする手塚治虫という漫画家が実在したのだ! と、いうあえて誤解を招く表現を度々やってたら苦情でも来たのか、「この漫画家は実在した」とは描かれなくなってしまったが、とにかく手塚治虫という漫画の神様がどんなに凄い人なのかを同時代の架空の漫画家の目を通して描いていく「時代漫画」にして「手塚治虫論」である。 今さら言うまでもないが、手塚治虫氏は日本漫画に多大な足跡を残しに残しまくった漫画の神様であるが、そう呼ばれる理由の一つに、氏の作品に魅せられた世代の少年少女たちから偉大な漫画家が多数出た事があるが、それ故に手塚治虫という漫画家を語る際は下からの目線で語られることが殆どである。 しかしこの作品は冒頭で述べたように、手塚治虫作品の洗礼とは関係なしに漫画家になり、同年齢であるためにその対抗心から同時代の同作家という同じ目線から、手塚治虫がどういう存在か語ろうという試みがされているのである。 もちろんそうは言う物の、同時代の漫画家としては売れっ子の主人公、海徳から見ても、既に手塚治虫は、もはや売れっ子というのも馬鹿馬鹿しくなる存在であり、手塚治虫が手を出さないジャンルが描ける自分という部分でどうにか持たせていたプライドも、テレビアニメの世界を切り開かれると粉々に砕け散ってしまい、ライバルというよりファンの目線になってしまうのだが、同じ年齢・同業だからこそ抱く意識は最後まで持ち続けており、一々手塚治虫の動向を気にしてしまう。 ために手塚治虫の足跡を辿れるようになっていて、漫画以外のアニメや商事関係などの、やや軽くされがちな部分なども描かれていて、壮絶な後出しジャンケンで手塚治虫が落ち目な頃にジャンプに連載を開始した海徳は、どうにか手塚治虫に一矢を報いるのだが、その後復活を遂げる手塚治虫氏を一発を当てながらも徐々に落ち込んでいく海徳の目から見ていくのである。 海徳光市はあくまで架空で、モデルは強いて言えば自分とされているが、この「居たかもしれない歴史に名を残さなかった架空の人の目で歴史を語る」というのは手塚治虫氏の歴史漫画でも度々行われる手法で、手塚治虫以外の時代史料もしっかり調べているようで。コージィ城倉イズムが溢れまくっているのだが意外なほど「手塚的」ですらある。 多くの手塚治虫論の漫画が下からの目線で崇拝の気を帯びているのに比べて、なんとも面白い視点から語られていて異色だが手塚治虫という漫画家の異常性、天才性を再認識できる作品である。
ピサ朗
ピサ朗
2022/09/25
ネタバレ
大傑作にして大駄作
この作品に関してはもう評する術が無いというか、本当に凄い作品なんだけど、一応ネタバレ感想にした上で少しぼかして言うと「最後の最後の展開」が、この作品に100か0の極端な評価を付けざるを得ない物にしてしまっている。 関東を襲った地獄地震で死の荒野と化した関東でどんな力に蹂躙されながらも逞しく生きる人々、破壊と再生をもたらす謎の男バイオレンスジャック、自分も含めた人を傷つける事しかできない怪物のような人間スラムキング、さらに永井豪作品から多数のキャラがゲスト出演しているお祭り感も凄まじく作品から物凄いエネルギーが迸っている。 とにかく徹底してるのは暴力描写、東京が壊滅した状態でお上品に生きられるはずもなく、比較的理性を失ってない人でも暴力を持たない訳にもいかず、失った人は当然もっと凶悪な暴力を振るい、どんな人間も生きるため奪うため立ち上がるため、何かの為に戦って戦って戦い抜く。 この暴力の嵐、とにかく徹底的におぞましいほどの人間の悪性と描かれながら、人間の強さと共に描かれており、グロテスクですらある程の強烈な暴力描写がむしろ爽快で清潔な印象さえ出ている。 多数の登場人物の中でもタイトルにもなっているバイオレンスジャックは放浪する謎の男として描かれ、関東の魔王スラムキングは詳細が描かれていてこの二人が一応の主役と言えるが、どちらも人間離れしているが、悪役として描かれているはずのスラムキングは徹底した暴力で人々を蹂躙するのだが、素性からすればその怪物的な所業はむしろ人間的ですらあり、バイオレンスジャックが一応人を救う側でありながら徹底して素性が明らかにならず徐々に人間離れしていく事から、むしろ作中後半はスラムキングに感情移入してしまう…の、だが、 とにかく最後の最後の展開があまりにもあまりにもな展開で、一応綺麗に完結しているのだが、これを「有り」にできるか否かで間違いなく分かれるだろう。 幸か不幸か、自分は中盤辺りでネタバレ遭遇してしまったので、その衝撃はリアタイ読者より数段劣るだろうけど、実際評価不能になってしまった。 ネタバレ無しに読んでればおそらく賛・否いずれかに属していたのだろうけど、中盤までは滅茶苦茶楽しんでいただけに肯定したいのだが、最後の最後を肯定できるかと言うと難しい。 ネタバレ無しに読んでいればおそらく否定していたのではないかという思いがどうしても消えない、そのためどうしても自分の中で評価不能になってしまっている。
ピサ朗
ピサ朗
2022/08/14
ユニセックスのスクエニを決定づけた作品
少年ガンガンを筆頭に出版部門を持つスクウェア・エニックスは、どーもファンタジーものではあるが少年漫画とも少女漫画とも言い難い、ユニセックス的な漫画が数多い出版社というイメージがあるのだが、そのイメージを決定づけたのはこの作品だと思う。 世界観は実にRPG的なファンタジーものであり、現在でこそなろう作品を筆頭に数多くあふれているが、当時は割と珍しかった。 また主人公も男女二人制で物語を引っ張っていくのは男性のニケだが、ラスボスである魔王との因縁はむしろ女性であるククリの方が多く、ともすればシリアス方向に行きそうな要素も多いのだが、全編に渡りギャグが散りばめられていて、少年漫画的な痛快さと少女漫画的な繊細さを吹っ飛ばすほど強烈なギャグが多い。 全体的にはRPGの「お約束」を逆手に取ったり茶化したりと、ゲームに対するツッコミがボケ化しているような部分が多いが、言葉遊びのセンスが凄い部分も多い。 とにかく笑えるのだが、根底には少年少女の成長や旅の出会い等の王道的な冒険要素も多く、読んだ後は意外と心地よい読後感…にもギャグを叩きこんできていて、暗く重い雰囲気はとにかく薄い。 この明るく軽い雰囲気は現在でも独特な物があり、絵柄は安定しないが全体的には可愛い系で、女性も読む少年漫画という当時は独特な地位を持っていた。 一迅社系等ユニセックス的な漫画は現代では珍しくも無いが、スクエニ漫画のそういうノリを築いたのは、タイミングや内容的にもかなりこの作品の影響がデカいのではないかと思う。 後半は若干息切れというかギャグのバランスが崩れている部分も有るが、ストーリーはしっかり完結していて爽やかに終了している。 …のに、続編が出ていて、その爽やかさすら笑いにしていたりするのだが。
ピサ朗
ピサ朗
2022/06/01
ネタバレ
馬に乗る天才=武豊、ただの天才=田原成貴
この作品の原作である田原成貴氏は80年代のトップジョッキーの一人で、大胆不敵な騎乗と派手な言動、落馬事故以降は精彩を欠くも第一線で乗り続け、武豊の登場以前は天才の呼び声も高く愛された騎手と聞いている。 ただその派手さ通りに破天荒な人物であったらしく、現役時代もマスコミに発言を切り取られたり野放図な発言で度々問題を起こしており、引退後にも度々問題を起こし、最終的に不祥事で競馬界から追放された人物である。 そんな田原氏は騎手以外にも文筆業や漫画原作等、様々な分野に手を出しており、この作品は田原氏が手掛けた競馬漫画である。 ストーリーは主人公の平凡なダメジョッキーがまぐれでダービージョッキーとなったり初期はギャグ路線だが、徐々に人や馬との出会いを通じて成長、最後は自分自身の実力でダービージョッキーになるというもの。 自分は思いっきり時代がズレているので、当時どういう扱いだったのかは分からないが、後半からの騎手たちのドラマや技術論は流石トップジョッキーと言わせる物なのだが、一番この作品で恐ろしいのは序盤のギャグ部分だと思う。 武豊氏も漫画原作としてダービージョッキー等を手掛けているが、やはり騎手や競馬そのものの部分は熱いストーリーなのだけど、職業上書けても不思議じゃないと思えるのに、この作品のギャグはどんな騎手生活を送れば思いつくのか全く想像できないようなのばかりで、願掛けで怪しい幸運グッズや宗教に頼りまくるというのはギャンブルとしての競馬を考えると思いつく事もあるだろうけど、騎乗馬の営業の為にホモヤクザに尻を奪われかけるとか、何喰ったらそんなの思いつくのか分からないギャグにとにかく驚く。 みどりのマキバオーなんかもギャグは有るけど、そもそも本業漫画家でギャグ出身の作者と、あくまで本業騎手の作者の漫画原作でこんなギャグがポンポン出てくる序盤の方こそ田原氏が天才と呼ばれていた理由が何となく察せられる。 後半の騎乗技術や駆け引きやホースマンたちのドラマも見応えがあって、非常に面白いし、特にマスコミにある事ないこと書かれてしまって処分を受ける場面は経験者だけに真に迫ってるが、これもある意味描けて当然に思ってしまうのに、序盤のギャグはなぜ描けたのかさっぱり分からない。 自分はあくまでライトな競馬ファンに過ぎないが、騎手としての天才は間違いなく武豊だろうけど、この作品を読むと天才という言葉の意味を考えてしまう。
ピサ朗
ピサ朗
2022/05/19
不死身の熱血教師が繰り広げる死にギャグ漫画
タイトル通りにゴリラみたいな顔をした体育教師が、○○で真っ先に殺されるor死ぬシチュエーションに遭遇しまくり、刺されて撃たれて食われてと一歩間違えばグロテスクな散々な目に会うのだが、全く気にせず熱血教師としてそういうシチュエーションを持ってきた存在を生徒として指導を繰り返すギャグ漫画。 とにかくよくまあこれほど思いつくものと感心するほどに第一話や冒頭で死ぬタイプのシチュエーションが詰め込まれており、それらをものともしないゴリせんの無敵っぷりと、良い先生っぷりが中々笑える。 流石に話が進むと突然死ぬような目に会うパターンも無くなってくるが、その代わり生徒と化した怪異や超常存在、ゴリせんの掘り下げとかでベクトルの違うギャグコメディをやっていてクスリとくる。 ゴリせんのキャラ自体も良い熱血教師っぷりで死ななかった事に安堵するというか、この手の教師はろくに掘り下げない事で恐怖を煽り罪悪感を軽減したりとしてたのかなと考えたり。 突然死パターンは結構網羅していて、創作をやってる人には何らかのインスピレーションが来るかもしれないが、基本はギャグなので感覚の世界だろうし、合う合わないは大きいだろうが自分には結構合った、第一話見て笑ったならオススメ。