この作品は唐沢なをき氏が描く、漫画界のあれこれをネタにした「ギャグ」漫画である。
決して実在の漫画家、作品、編集部、読者、その他の人物にも団体組織にも一切関係の無いフィクションである。

だから現実の漫画界で、
同業に対し醜悪な感情を表す漫画家や、原稿の紛失により血みどろの戦いをする編集部も、作者や作品に異常な感情を向ける読者も、周囲に迷惑をかけまくりながらも諦めない志望者も、同人の自由を殊更に持ち上げプロを見下し慰めとする読者も、身内の介護と連載で身心ズタボロになる漫画家も、ポリコレに配慮してドツボにハマる編集も居ない
…筈。

ただどういうわけか、デジャビュというかイメージというか何らかの個人名やハンドルネーム、作品名、団体、事件、編集部幾つか元ネタと思わしきあれこれが思い浮かんでしまうのだが、それは単なる錯覚で、ギャグマンガ的演出が多分に存在するので、まったくもって真実ではない。

まあとにかく「そういう」作品であるため、かなーりブラックなギャグが盛り込まれた、当時の漫画界の毒を徹底して調理した作品である。
一応毒抜き自体はされているが、その辛辣さは体質に合わない人も確実にいるだろうし、かなり広範な内容を扱っていて「毒に当たる」可能性も高いので決しておススメできるものではない。
しかし扱われた範囲の広さや、ともすれば深刻に成り得るネタをきっちりギャグに仕上げた技量は圧巻。
強烈なのは、どうしようもない邪悪な存在は編集部やマスメディアではなく、読者や作者にだっていくらでもいるという、作者のシニカルな目線。
全部が全部そうではなく、割と救いの感じられるネタも無いわけではないし、先に言ったようにあくまでギャグなのだが、まるでナイフで刺してくるような緊張感すらある。

漫画界で問題が起きた時に、直ぐに作家側に立ちたがるのが読者の人情だが、そういう気を無くし情報が集まるまで中立を取る、良くも悪くも大人にさせてくれるような強烈な漫画家達はある意味必見。
ギャグ漫画として笑うもよし、ルポ漫画としてげんなりするもよし、毒漫画として辟易するもよし、漫画家漫画として訳知り顔を気取るもよし、読み方は何通りもあるが、本クチコミを切っ掛けに読んで毒に当たっても責任は持てない。

読みたい
白竜

気が付けばシリーズ累計100巻以上

白竜
ピサ朗
ピサ朗

ちっぽけな組に過ぎない黒須組に、ある日白竜の異名を持つ若頭が台頭してからあれよあれよと裏社会で頭角を現していく、揉め事の解決は暴力やダーティーな手段だったりの、良くも悪くも普通のヤクザ漫画。 …だったのは初期の話、天王寺大氏が実際の事件を広げたネタを扱う事も多かったので、ゴルゴ13のような「実はあの事件の裏には白竜が関与していた!」オチのネタが結構あったりする。 シリーズ後半ではその手のネタが増えて行くが、この第一シリーズである無印は比較的そういうネタは薄め、なんだかんだ危険な香り漂う裏社会でのし上がっていく姿は正直ワクワクする部分も有り、強引すぎたりアレな解決も「こまけえことはいいんだよ!」の精神で十分楽しめる。 …後のシリーズでは陰謀論を加速させかねない色々と不幸で幸運な現実に見舞われたりしてるけど、それも割り切れば作品の魅力。 組のメンツも少人数な分、上も下も描きやすいのか、若頭主人公だが下っ端から組長まで交流があり、それなりにキャラを立たせつつキャラ被りも無しと、今見ると設定時点でなかなか秀逸。 ヤクザ漫画としては、シノギの描写が意外と広く、これもまた第2シリーズ以降の時事ネタを扱うのに違和感が無い要因だろうけど、解決手段はシンプルに非合法だったりで「できるか んなもん!」な、描写がてんこ盛りで、これをツッコミどころとするか、展開が早くて良いとできるかで面白いと感じられるかは分かれそうな気がする。 とはいえシリーズ累計で100巻以上を成し遂げてしまってるように、こういう作品が好きな男自体はなんだかんだ根強く存在している事も実感するが。 実際のあれこれをネタにしている部分とか、多々あるツッコミどころにせよ、素直に名作と認めたくはないが読んでて楽しい部分も有るのは確か。 作風が完全に確立したのは第2シリーズのLEGENDだが、その移り変わりも含めタバコと酒臭さが似合う漫画ゴラクの象徴の一つ。

ドカ食いダイスキ! もちづきさん

女の子が自殺してる姿なんて見たくない

ドカ食いダイスキ! もちづきさん
ピサ朗
ピサ朗

可愛い女の子が底辺おじさんがハマるような趣味をやってるという、最近の流行である作風なのだが 「食」という生活に密着してハードルの低い分野で、注意書きも一切無いので正直恐怖の方が勝る。 自分も結構食べる方だが、30越えてからは多少なりとも控えめになったが、21で運動量も少ない女性がこんなん10年後に一気に来るというのが容易に想像できてしまう。 ハッキリ言えばもちづきさんがやっているのは「緩やかな自殺」レベルの暴食なので、ここまで来てるとむしろ中年男性がやってる方が遠慮なく笑える。 ひでえ事言ってるけど、「中年男性の自殺姿は笑えても、かわいい女の子の自殺姿を見て笑うことはできない」のだ。 とはいえ暴食に心を囚われ不健康な生活を送ってる人にとって、ここまでではないにしても己を顧みる切っ掛けになりえる狂った生活描写は見事で、逆説的に食事に対する節制や再考を推奨していると言えなくもない。 そういう方向性ならむしろ吾妻ひでお氏のアル中病棟のように、数年後に作者が死亡するか、もちづきさんが入院して暴食を強制的に楽しめない終わりが似合うだろうけど、流石にそんなもん見たくないので、どういう終わりを迎えるのかすごく気になってる。

イムリ

頭おかしくなるくらい圧倒的に壮大なSFファンタジー

イムリ
ピサ朗
ピサ朗

地球とは異なる惑星で暮らす、奴隷民族であるイコル、支配民族であるカーマ、そして先住民にしてタイトルのイムリ、これらの戦争が描かれていくのだが、 三民族それぞれの文化、いわゆる魔法に相当する技術、支配種族の権力闘争、逆転に次ぐ逆転が続く展開、とにかく徹底して「世界」のディテールが細かく濃い。 ハッキリ言ってこのディテールの細かさは間違いなく人を選ぶ。 巻末で登場人物紹介や用語解説が掲載されているが、独自用語で耳慣れない単語が多いもんだから、別ウインドウ表示か小冊子にして読みながら確認させてくれと言いたくなるし、世界設定の説明や大まかな登場人物紹介と序章に当たるストーリーに3巻を費やしていので、ストーリーが動き出すまでも遅く、正直序盤はじれったい。 しかしほとんど説明なのにめちゃくちゃ中身が濃いし、後から見るとこれでも足りないくらいで、スケールのデカさに戦慄する。 最低3巻読まないと殆どストーリーが動かないという展開の遅さなのに、一度物語が動き始めてからは息をもつかせぬ急展開の連続で、疲労感すら漂う重い展開の嵐だが、ある種の絶叫マシンに乗ったような気持ちよさもあり、それぞれの戦いの方法も見応えがあり、胸を打つ場面も多い。 序盤の展開の遅さとオリジナリティの高さ故の入りにくさはあるが、描かれていく世界史と陰謀、英雄譚に和平は非常に読みごたえがあり、間違いなくハマれる人はハマれるタイプの作品。

ダンピアのおいしい冒険

未知を既知にするのは何時だって機知に富んだ無知な奴ら

ダンピアのおいしい冒険
ピサ朗
ピサ朗

17世紀の海賊の航海日誌を膨らませた「事実を基にしたフィクション」の伝記漫画なのだが、とても素晴らしい。 昔の学習漫画のようなシンプル絵柄だが、当時の海賊という事情からも病気や戦闘などのともすればグロテスクな部分も読みやすく、またダンピアも実年齢より若々しく感情移入がしやすいし、異常なまでの参考資料から読み取ったであろう先住民や欧州、東南アジアなど各々の文化を、しっかり漫画に落とし込み、題材となった人物をしっかり主人公として魅力的に描くのは相当な筆力を感じる。 英国生まれの青年ダンピアは、貧困と教育を軽んじる当時の価値観から大学に通えず、紆余曲折の果て、はみ出し者だらけの海賊船に流れ着いた、当初は悲観していたが、誰も知らない事の発見者になれる喜びを噛みしめ、未だ未知なる事に溢れた太平洋の冒険に胸を躍らせる。 当時航海も盛んになっていたとはいえ、人々にとっては日々を生きるのが精一杯というのは珍しくもないだろうし、ダンピアのような青年はきっと多かっただろうけど、どんな状況にあろうと好奇心と探求心に満ち溢れ、恐れず行動し、海賊というヤクザ稼業をすらチャンスとして学ぶダンピアが実に魅力的。 「おいしい冒険」の名の通り、食事に関する描写が豊富だが、当時誰も食べたことの無い未知の食材を調理するその風景は、その航路からも正に「先駆者であることの歓喜と偉大さ」を訴えかけてくる。 しかし食事だけでなく、授業料の無いフィールドワーク、税金にせよ犯罪にせよ許され、実力勝負故に人種差別の薄い海賊という職業、それらもひっくるめてのダンピアの「おいしい冒険」であるのも面白い。 危険に溢れた海賊稼業が「おいしい」と言えるかは人によるだろうけど、職業選択の自由もない時代で、海賊以上に劣悪な環境の海軍の事情なども併せて語っているのでダンピア達にとっては正においしい冒険だったのだというのが伝わってくる。 教科書には載らなくとも歴史を彩る偉人の生涯を実に魅力的に描いていて、とても良い読後感を得られる名作。

ダイヤモンドの功罪

めっちゃ現代的な梶原一騎

ダイヤモンドの功罪
ピサ朗
ピサ朗

小学五年生で運動に異常な才能を持つが心はエンジョイ勢な主人公が、野球と出会う事で巻き起こしてしまう波乱とドラマなのだが、滅茶苦茶梶原一騎作品の様な雰囲気がある。 物理法則こそねじ曲がっていないのだが、主人公が競技をやるのが競技が好きで自発的というより、周囲に才能を見込まれ運命というか半ば強制的に競技をすることになってたり、主人公が強すぎて勝負という形にはなってないのだが、競技よりもそこから生じる人間ドラマの方を主軸としてたり、全体的に漂う陰鬱で重い悲劇的な雰囲気は、かなりあしたのジョーや巨人の星とかの60年代スポ根ドラマに通じるものがある。 とはいっても、基本的にキャラデザはイケメン少年で、物理法則が現実そのものという点でやはり現代スポーツ漫画らしい部分も多い。 ただそういうストーリーの為とはいえ、主人公である綾瀬川の運動能力が完全に人間離れしていて、受け入れられるよう慎重に書いているにせよ、もはやゲームやギャグ漫画に片足突っ込んでるレベルで尋常ではなく、冷める人も相当居そうに思う。 しかしそういう並外れた才能だからこそ、勝負を通じたスポーツマンシップの美しさの裏にある残酷さ、才能に振り回される大人も含めた周囲、エンジョイ勢とガチ勢の溝などと言ったストーリーが映える部分も多く、特にその才能に魅せられてしまう大人というのは野球という競技と、主人公の圧倒的な運動能力から強烈な生々しさが漂っている。 主人公以外のキャラも弱小チームにせよ強豪チームにせよ、それぞれの年齢や居場所に合わせたメンタリティをしているために抱く苦悩も描かれているが、主人公自身もその能力の高さゆえに馴染めない苦悩も描かれていて、強烈な負の面白さが出ている。 この手の「才能により歪んでしまう」スポーツ漫画としては黒子のバスケとかが記憶に新しいが、そういう才能が複数人居たお陰でバトル漫画的になっていたあちらに比べると、たった一人だけそういう才能を持っている事により周りが一般人である分、その人間ドラマが際立っている。 プロトタイプに当たる読み切り(高校・プロ年代)も幾つか存在するが、こちらはあくまでプロトタイプとして別物と思っていて、こちらで描かれた未来に収束するかは未知数。 野球を題材としてはいるが、才能により才能の持ち主も含め全てが振り回されるドラマは非常に生々しくも強烈で面白い。 幸か不幸か大谷翔平という、一昔前なら漫画でしかありえなかった活躍をする人間が現れていて、ギリギリでリアルとファンタジーのバランスはとれているように思うが、主人公が本当にゲームかギャグ漫画並に突出した運動能力があるので、ココで脱落する人もいるように思う。

まんがごくどう
まんが極道 1巻
まんが極道 2巻
まんが極道 3巻
まんが極道 4巻
まんが極道 5巻
まんが極道 6巻
まんが極道 7巻
本棚に追加
本棚から外す
読みたい
積読
読んでる
読んだ
フォローする
メモを登録
メモ(非公開)
保存する
お気に入り度を登録
また読みたい
漫画家超残酷物語

漫画家超残酷物語

この作品は現代漫画史上不朽の名作である故永島慎二作『漫画家残酷物語』に触発されて描かれたギャグ漫画であります。同作品と同じく、若き漫画家たちの夢や苦悩、青春の希望とあがきを題材としていることで、おこがましくもこの名作をもじったタイトルをつけさせていただきました。まぎらわしい段は平にご容赦ねがいます。(「あとがき」より) ――漫画家の悩みは今も昔も同じ。全ての悩める漫画家にベテラン・唐沢なをきが贈る、愛溢れる鎮魂漫!!本書は2005年に刊行した小学館版を底本として電子化したものです。

ウルトラファイト番外地

ウルトラファイト番外地

3頭身にデフォルメされた怪獣 VS ウルトラセブン。ゆるすぎる戦いの数々――。伝説の怪獣番組『ウルトラファイト』への愛が詰まった1冊を、ついに電子復刻しました。1970年から月曜~金曜の夕方の5分枠で放送された『ウルトラファイト』。制作費を抑えるため、過去の番組からバトルシーンを切り出して再編集し、その様子をTBS(当時)のスポーツアナ山田二郎氏が実況解説した異色作でした。『ウルトラファイト』を観ていないとこのマンガは楽しめない……なんてことはありません。『ウルトラファイト』がどのような番組だったのか、何が当時の子供たちを夢中にさせたのかを、12本のコラムで徹底解説。セブンと怪獣たちの性格、ファイティングスタイルを紹介したキャラクターファイルも必読です。さらに今回の電子復刻版では、紙の単行本(角川書店、2006年刊行)未収録の「さすが!山田実況」も収録! 『ウルトラファイト』世代もそうでない人も、思う存分楽しめる豪華本。

からまん

からまん

見開き2ページで完結する衝撃の短編の数々!週刊SPA!での連載『からまん』をまとめた1冊を電子復刻。ごくフツーの女子高生・青沼しずかの裏の顔を描く「ひみつのしずかちゃん」、『けだものカンパニー』にも登場する、イヤミで自慢の多い「トキ課長」、痩せたいけど自分に甘すぎる「旗本ダイエット侍」など、唐沢ワールドが十二分に堪能できる1冊。

がんばれ みどりちゃん

がんばれ みどりちゃん

ほのぼのした4コマ漫画と思いきや……!?幼稚園生のみどりちゃんと、周囲の人々が巻き起こす大人向けギャグマンガ。薬局の娘・みどりちゃん。店のドリンク剤を飲んで鼻血を出したり、勝手に店を開けてめちゃくちゃな処方をしたりとやりたい放題。よく見るとみどりちゃんの家族、友達、幼稚園の先生も要注意人物だらけで……?

ヌイグルメン!

ヌイグルメン!

ギャグ×特撮×ほんのりBL唐沢なをき先生の特撮愛があふれる傑作!俳優志望の青年・赤瀬川ヒロと名神イリヒトが向かった先は、新放送の特撮番組「きなこマン」のオーディション。……しかし「きなこマン」は超低予算番組であることが判明! 速攻主演に決まった二人は、特撮業界のディープなスタッフとともに仕事を始めるが……!?

オフィスケン太

オフィスケン太

読売新聞夕刊で連載中の人気4コママンガ!社員たちを癒すべく、会社に柴犬・ケン太がやってきた!サラリーマンの柴マキオは「コンパニオン アニマルマネジャー」に任命されるが、実際はケン太のお世話係で……?

二十一世紀科學小僧

二十一世紀科學小僧

かわいい絵柄でブラックユーモアを連発。「二十一世紀科学小僧」とあだ名されるほどの天才科学者・1太郎少年。社会に鉄槌を下すロボットを造ったり、何でも女体化してしまう薬を開発したりと大暴れ。しまいには助手の女の子を思い通りにするために宇宙人を探しに行き……?昔風なのに何故か新鮮!刊行から20年経っても色あせない、唐沢なをき作品をお楽しみください。※この電子書籍は1999年9月刊行の単行本を底本としています。

まんが家総進撃

まんが家総進撃

「漫画と子供、どっちが大事なんだ」「やってしまった年齢詐称」「あの時馬鹿な編集にあたらなければ」「女の描く漫画は全部駄目!」……漫画の「業」が生み出した、大怪獣(=まんが家)たちが大暴れ!漫画に関わる人々の実情を身も蓋もなく暴いて、業界を揺るがせた『まんが極道』(第16回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品)に継ぐ、それでも漫画を愛さずにいられないすべての人へ、今こそ読んでいただきたい、超残酷まんが家入門短編集!

この道を行く者は一切の希望を捨てよにコメントする
※ご自身のコメントに返信しようとしていますが、よろしいですか?最近、自作自演行為に関する報告が増えておりますため、訂正や補足コメントを除き、そのような行為はお控えいただくようお願いしております。
※コミュニティ運営およびシステム負荷の制限のため、1日の投稿数を制限しております。ご理解とご協力をお願いいたします。また、複数の環境からの制限以上の投稿も禁止しており、確認次第ブロック対応を行いますので、ご了承ください。