ピサ朗
ピサ朗
2025/01/02
ネタバレ
この道を行く者は一切の希望を捨てよ
この作品は唐沢なをき氏が描く、漫画界のあれこれをネタにした「ギャグ」漫画である。 決して実在の漫画家、作品、編集部、読者、その他の人物にも団体組織にも一切関係の無いフィクションである。 だから現実の漫画界で、 同業に対し醜悪な感情を表す漫画家や、原稿の紛失により血みどろの戦いをする編集部も、作者や作品に異常な感情を向ける読者も、周囲に迷惑をかけまくりながらも諦めない志望者も、同人の自由を殊更に持ち上げプロを見下し慰めとする読者も、身内の介護と連載で身心ズタボロになる漫画家も、ポリコレに配慮してドツボにハマる編集も居ない …筈。 ただどういうわけか、デジャビュというかイメージというか何らかの個人名やハンドルネーム、作品名、団体、事件、編集部幾つか元ネタと思わしきあれこれが思い浮かんでしまうのだが、それは単なる錯覚で、ギャグマンガ的演出が多分に存在するので、まったくもって真実ではない。 まあとにかく「そういう」作品であるため、かなーりブラックなギャグが盛り込まれた、当時の漫画界の毒を徹底して調理した作品である。 一応毒抜き自体はされているが、その辛辣さは体質に合わない人も確実にいるだろうし、かなり広範な内容を扱っていて「毒に当たる」可能性も高いので決しておススメできるものではない。 しかし扱われた範囲の広さや、ともすれば深刻に成り得るネタをきっちりギャグに仕上げた技量は圧巻。 強烈なのは、どうしようもない邪悪な存在は編集部やマスメディアではなく、読者や作者にだっていくらでもいるという、作者のシニカルな目線。 全部が全部そうではなく、割と救いの感じられるネタも無いわけではないし、先に言ったようにあくまでギャグなのだが、まるでナイフで刺してくるような緊張感すらある。 漫画界で問題が起きた時に、直ぐに作家側に立ちたがるのが読者の人情だが、そういう気を無くし情報が集まるまで中立を取る、良くも悪くも大人にさせてくれるような強烈な漫画家達はある意味必見。 ギャグ漫画として笑うもよし、ルポ漫画としてげんなりするもよし、毒漫画として辟易するもよし、漫画家漫画として訳知り顔を気取るもよし、読み方は何通りもあるが、本クチコミを切っ掛けに読んで毒に当たっても責任は持てない。
ピサ朗
ピサ朗
2024/11/23
気が付けばシリーズ累計100巻以上
ちっぽけな組に過ぎない黒須組に、ある日白竜の異名を持つ若頭が台頭してからあれよあれよと裏社会で頭角を現していく、揉め事の解決は暴力やダーティーな手段だったりの、良くも悪くも普通のヤクザ漫画。 …だったのは初期の話、天王寺大氏が実際の事件を広げたネタを扱う事も多かったので、ゴルゴ13のような「実はあの事件の裏には白竜が関与していた!」オチのネタが結構あったりする。 シリーズ後半ではその手のネタが増えて行くが、この第一シリーズである無印は比較的そういうネタは薄め、なんだかんだ危険な香り漂う裏社会でのし上がっていく姿は正直ワクワクする部分も有り、強引すぎたりアレな解決も「こまけえことはいいんだよ!」の精神で十分楽しめる。 …後のシリーズでは陰謀論を加速させかねない色々と不幸で幸運な現実に見舞われたりしてるけど、それも割り切れば作品の魅力。 組のメンツも少人数な分、上も下も描きやすいのか、若頭主人公だが下っ端から組長まで交流があり、それなりにキャラを立たせつつキャラ被りも無しと、今見ると設定時点でなかなか秀逸。 ヤクザ漫画としては、シノギの描写が意外と広く、これもまた第2シリーズ以降の時事ネタを扱うのに違和感が無い要因だろうけど、解決手段はシンプルに非合法だったりで「できるか んなもん!」な、描写がてんこ盛りで、これをツッコミどころとするか、展開が早くて良いとできるかで面白いと感じられるかは分かれそうな気がする。 とはいえシリーズ累計で100巻以上を成し遂げてしまってるように、こういう作品が好きな男自体はなんだかんだ根強く存在している事も実感するが。 実際のあれこれをネタにしている部分とか、多々あるツッコミどころにせよ、素直に名作と認めたくはないが読んでて楽しい部分も有るのは確か。 作風が完全に確立したのは第2シリーズのLEGENDだが、その移り変わりも含めタバコと酒臭さが似合う漫画ゴラクの象徴の一つ。
ピサ朗
ピサ朗
2024/06/16
女の子が自殺してる姿なんて見たくない
可愛い女の子が底辺おじさんがハマるような趣味をやってるという、最近の流行である作風なのだが 「食」という生活に密着してハードルの低い分野で、注意書きも一切無いので正直恐怖の方が勝る。 自分も結構食べる方だが、30越えてからは多少なりとも控えめになったが、21で運動量も少ない女性がこんなん10年後に一気に来るというのが容易に想像できてしまう。 ハッキリ言えばもちづきさんがやっているのは「緩やかな自殺」レベルの暴食なので、ここまで来てるとむしろ中年男性がやってる方が遠慮なく笑える。 ひでえ事言ってるけど、「中年男性の自殺姿は笑えても、かわいい女の子の自殺姿を見て笑うことはできない」のだ。 とはいえ暴食に心を囚われ不健康な生活を送ってる人にとって、ここまでではないにしても己を顧みる切っ掛けになりえる狂った生活描写は見事で、逆説的に食事に対する節制や再考を推奨していると言えなくもない。 そういう方向性ならむしろ吾妻ひでお氏のアル中病棟のように、数年後に作者が死亡するか、もちづきさんが入院して暴食を強制的に楽しめない終わりが似合うだろうけど、流石にそんなもん見たくないので、どういう終わりを迎えるのかすごく気になってる。