失敗家族

共通の敵によって結束する人類の本質 #1巻応援

失敗家族 小宮みほ子
兎来栄寿
兎来栄寿

6年間引きこもっている上に月に20万以上の請求を負わせる息子。 高校を中退しそうになっているパパ活をしている娘。 そんな子供たちを放棄して不倫に専心する夫。 よそからは「子供が2人いて順風満帆の家庭を営んでいる主婦」と思われていながらも、内情は完全に破綻した「失敗家族」となっていて、半ば諦念しており限界に近づいていた妻が主人公の作品です。 ある日、夫が連れ帰ってきた上司の傍若無人な振る舞いに遂にブチ切れてしまい発作的に殴ったら死んでしまって、それまでバラバラだった家族が「殺人を隠蔽する」という目的で結束していくクライムサスペンスです。 普段、いがみ合っていたり無関心同士であったりしても、そこに共通の外敵となる存在が現れると結束して対処に向かうのは非常に人間的だなと思いました。 『マイホームヒーロー』はまだ明確に自分の家族が下手すると殺されるかもしれない危機が迫っていましたし相手はプロの手合いでしたが、本作は日常の延長線上にある言ってしまえば「嫌な言動をされただけ」で一般人を殺してしまっているところが差異化されているところです。 推理小説に造詣が深いでもなく、特殊な環境で鍛えられた経験もないごくありふれた家族が、自らが犯した犯罪をどう露見させずにやり過ごしていけるのか。 それまでバラバラだった家族が殺人を機に結束する部分もあれば、それを機に決定的に壊れてしまうものもあり、そこの収集もどうなっていくのか気になります。

あまえんぼーZ

スーパー豪華な作者が送る甘えん坊なロボット漫画

あまえんぼーZ 三条陸 木村貴宏 戸橋ことみ
サミアド
サミアド

角川のドラゴンJr. に連載されていた漫画です。 ①原作 三条陸 (ダイの大冒険などの原作者) ②ビジュアライザー 木村貴宏 (勇者王ガオガイガー・コードギアス などで有名な超アニメーター) ③作画 戸橋ことみ (イラストやキャラデザでも有名) 豪華過ぎるやろ! 最強スーパーロボット英雄・バレンの『息子』ゼットが主人公。超強大な力を持つ甘ったれクソガキをメイド兼教育係のエメロールさんや友人達が絆を深めながら矯正するドタバタコメディ。 甘やかしまくりダメ保護者のスパロボ達もゼットを想う気持ちは本物。弱い人間であるエメロールさんを見下す事なく信頼して暖かい家庭を築いています。クソガキ主人公もイザとゆう時は家族や友人の為に超パワーで大活躍。本作の見せ場となっています。でも1番の売りはエメロールさんの健全サービスシーンかな… 漫画の方向性はお色気とセリフを減らしまくって対象年齢を下げてほっこりエピソードを増やした「仮面のメイドガイ」みたいな印象。 別名義の「ウルトラマン超闘士激伝 完全版」などと比べても三条陸テイストはあまり感じません(大戦の回想シーンとか時々それっぽい場面はあります)が、各エピソードは綺麗にまとまっていてキャラクターも魅力的。安定しています。 しかしドラゴンjr廃刊の影響か日常回で唐突に終了。「え…これで終わり?」が正直な感想でした。もっと続きを読んでみたかったです。

余の名はズシオ

みんな大好き面白マムガ その名は余のズシ

余の名はズシオ 木村太彦
サミアド
サミアド

少年エースで連載していた漫画です。 熱狂的なファンも居たのですが作者がライバル誌の少年ガンガンで別作品を開始。 この作品は休載→自然消滅に…。 作者の代表作はアニメ化した『瀬戸の花嫁』だと思いますが個人的に大大大好きなのはこの作品。 亡国の王子ズシオが、ツッコミヒロイン・龍王(棒王)・腹を痛めて産んだ妖怪・魔眼持ちの最強姉上と旅する話です。 サラサラヘアーの女神(土偶)や全身白タイツの天使達(元従者)も出てきます。やったね! とにかくギャグが最高にキレッキレで、勢いとメリハリが半端では無いです。何でこんな事思いつくのか心配になるレベルです(褒め言葉)。絵は荒削りで後作品に比べて画力は低いと思いますが、それを補って余りある超パワーがこの作品にはあります。 主人公は爆散やら何やらで何度も昇天しますが王子だから即復活します。安心!! 基本的に1話完結ですが3巻は華陽夫人との対決が丸ごと含まれて少し特殊です。個人的に2巻が1番好きですが、既刊1〜4巻にハズレはありません!ギャグ漫画好きな方には絶対オススメです!!! 連載終了時に揉めたため?に再販や電子書籍化は難しいみたいで、古本屋さんの100円コーナーを探すしか無さそうです。単行本未収録の話は該当の少年エースを買うしかありません。 作者さんは休業中みたいで、作風も当時とは激変していて完結は望み薄です。 しかし、このまま忘れ去られるのは惜しい突き抜けたギャグ漫画なのは間違いありません。次の世紀まで語り継いで行きたい作品です。

誰も懲りない

「世代を越えて引き継がれてしまう負の連鎖」を描いた機能不全家族漫画

誰も懲りない 中村珍
名無し

「家族」によって押し込まれ、ねじ込まれ、見放され、将来の蓋を閉められたある女の物語。 「ギリギリの正気と生命を保っているだけでも心の底から凄い」と思ってしまう程の極限とも言える理不尽な精神・身体への暴言・暴力(精神的虐待・身体的虐待・性的虐待)を「家族(および近親者だった人)」から受けている女性の主人公が、親族同様に自分勝手に生きようとせず、理性・常識性をギリギリに保ちつつも狂いきってしまわないどころか、そこかしこに自分を責めてしまうほど脆い心を持つ上、家族がクズになり下がるほど歪んでいようとも、家族との縁を切りきっていないところは読んでいて苦しかったです。 主人公が抱える怒りは、途中までは各々が努力して上手く機能していた家族が有る出来事を発端に崩壊した事に依るものです。 主人公が抱える「家庭崩壊のトラウマ」や「信じて居た者からの裏切りと置き去り」によって湧いた怒りは、幼少時~少女時代に家族から与えられていた「一家の誇り」と「幸福」の記憶が残っているだけに性質が悪く、その感情がコントロール出来なくなった時に、主人公自身もまた暴言・暴力を弱き立場になった者へと振るう…あれほど忌み嫌っていたにも関わらず。 モノクロ(ほとんど白い背景)で構成されたシンプルな作画である一方、チクチクする感覚と、ガンガンと殴られる感覚が半端ないです。 かきおろしパートでの主人公の言葉は何度読み返しても「経験した人にしか口に出来ない言葉なのだろう」「現代の悲惨な精神構造がここにある」と感じてしまいます。 ニーチェが指摘した「奇妙な自己虐待の本能」、あるいはフーコーが言った「生-権力による自己監視システム」の苦しみが、本作ではこれでもかとばかりに描かれている…そんな漫画作品です。 重すぎる上に辛すぎる機能不全家族漫画ですが、私は思うところがあってたまに読み返しています。

劇光仮面

現実と地続きのヒーロー

劇光仮面 山口貴由
SS
SS

「特撮系か〜おもしろそう読もうかな!」とかあらすじ読んで軽い気持ちで手に取ったら『掛かったな!』と殴られた気持ちです。これはガチのやつ。ある意味あらすじサギです。良い意味で。 いわゆる特撮系ヒーローを題材にした漫画は多く、トクサツカガガとかサンレッドとか怪獣8号とか『ヒーロー』をどの角度から描くかで表現方法が変わりますが、これはガチで『特撮ヒーロー』を真正面から現実のものとして解体しているように感じます。一巻巻末のコメントが芯を捉えて暴露してくれてました。 そもそもの特撮がスタートした昭和の時代が、何を経てきて何を求め、表現者たちは何を吸収して産んだのか。そしてそれを受け取る、そうではない時代の人とそれを受け継ぎ渡そうとする中でどう解釈したか。 描き手の脳内レポートのように緻密かつ素直、そして愚直で偽りないものを含有し、ストーリーが描かれていると感じます。なので、読み手として受ける場合にはなかなか気合入れて踏ん張らないと対峙しきれないかも。足腰に力が入りました。 なかなかこうして講演のように、「これは私の考えなんですけどね…」とぐつぐつ煮込んだ話を読ませてくれる漫画を出されるのも久しくなっていたので、読み応えに放心しています。岩でも飲んだかな…という感じ。 誰かれともなくおすすめは難しいのですが、人がめちゃくちゃ煮込んで作った煮凝りみたいなものを摂取したい時にいいかと思います。 今のこの時代に、この漫画がいろんな媒体で話題作として紹介されることに、死なないサブカルのひゅうひゅうとした息を感じます。おれたちはしぶといな。よかったよかった。