明仁天皇物語

生誕から退位まで、上皇陛下の人生を漫画で読む

明仁天皇物語 古屋兎丸 永福一成 志波秀宇
ひさぴよ
ひさぴよ

> いかなる時も、国民と心を共に歩まれてきた明仁天皇の85年の人生を、生誕、幼少期、学生時代、皇太子時代、ご成婚、ご家族、即位、慰霊、被災地訪問など… 史実を元に一部創作を交え、豊富なエピソードで綴る。 あらすじの通り、明仁(平成)天皇陛下の人生を描くという前代未聞の漫画です。 ビッグコミックなどで連載してなかったので、完全なる描き下ろしマンガで、制作は『昭和天皇物語』と同じスタッフが手掛けるのですが、作画は能條純一ではなく、なんと古屋兎丸という意外な人選。脚本の永福一成氏と、古屋兎丸氏が旧知の仲ということで白羽の矢が立ったのでしょうか。 過度に美化することなく、あくまでモデルとなっている人を自然に描いていて、それでもどことなく古屋兎丸氏のキャラクターだとわかる雰囲気が残っている所は流石です。読んでみるとわかりますが、間違いが許されない内容だけに、全体を通して作画の苦労というのは相当あったのではないかと思われます。 ストーリーについては、史実を中心に全1巻で構成されている為、どうしても時系列な描写で、駆け足になりがちな部分もあるものの、巧みにシーンを切り替え、教科書的にならないような構成になっています。 「ラヂオから流れる父の声を聴いた───」から始まる第一話を読めば、とにかく凄さが伝わると思います。敗戦直後、少年だった陛下が決起した将校たちに囲まれ、どのようなお気持ちでいたか。ぜひ読んで確かめてみて下さい。 他にも、若い頃のエピソードとして、こっそり銀座に遊びに行かれた「銀ブラ事件」も描かれています。読んでいて一番身近に感じるお話であったのと、帰り際の幻想的なシーンが印象的です。美智子様へのプロポーズのやりとりなど、初めて知るような意外な一面もあり、この辺は楽しく読めました。 即位以降は、戦争で犠牲になった人々への慰霊に関するエピソードが続きますが、過去の戦争への歴史観について、様々な意見があるところでしょうが、自分としては上皇陛下が仰った、「先の戦争のことを十分に知り、考えを深めていくことが日本の将来にとって極めて大切なことと思います」という考えを大事にしたいと思います。 正直、1巻で収めたのが神業のような構成で、上下巻くらいの長さで読みたかったですが、これはこれでスッキリしていて良かったのかなと。家庭教師のヴァイニング先生やブライス先生のエピソードなどは、もっと知りたかったですね。 最後に、参考にしている資料の多さから、歴史考証や資料集めなど 表には出ていないだけで相当な数の人が関わって制作されたことが見て取れました。 これから先も、長く読み継がれてほしい作品だと思います。

蜜蜂と遠雷

至高のコミカライズ…!

蜜蜂と遠雷 恩田陸 皇なつき
たか
たか

初めて恩田陸の小説を読んでから15年以上経つのですが、コミカライズされた作品を読んだのはこれが初めてです。 『蜜蜂と遠雷』という作品に触れるのは2016年に原作を読んで以来で、いい感じに細部を忘れている状態で読み始めたのですが、もうとにかく作画が素晴らしい…!! キャラデザもコマ割りもこれ以上ないくらい洗練されていて、ページを開いて眺めるだけで贅沢な気持ちになりました。 (実は皇なつき先生のことを本作を読むまで存じ上げなかったのですが、wikiで過去の経歴を見て「このコミカライズは神と神の共演だったのか」と震えました。) まず表紙をめくってすぐの見開き、ホフマンからの推薦状のページが雰囲気がいい。そして1話の見開きでスタイリッシュなキャラデザで描かれる主役4人がババーンと登場する…!もうなんてかっこいい構成…! https://i.imgur.com/OIINWvo.png https://i.imgur.com/OwlhUiK.png (『蜜蜂と遠雷』 恩田陸/皇なつき) ただ一方で、みんなイマドキの美女・イケメンすぎて若干の戸惑いと気恥ずかしさを感じています。 自分にとっての恩田作品の良さの1つが「キャラがまとう80年代〜90年代の空気」なので、脳内作画もそれに合わせてちょっと古い感じで想像していました。 それがどっこい、皇先生の美麗な絵で描かれ「え!君たちこんなにかっこよかったの…!?」と、初めて生で会った知り合いがメチャクチャ顔が良かったみたいな照れと戸惑いが(笑) 冒頭で「いい感じに細部を忘れている」と書いたように、漫画と小説のセリフの違いに気付けるほど細部は覚えていないのですが、キャラクターが発するセリフがところどころ「ちゃんと恩田陸」で、「ああ、本当に漫画で恩田陸作品を読んでいるのだなあ」と不思議な感動がありました。 https://i.imgur.com/kfjv0Bi.png (『蜜蜂と遠雷』 恩田陸/皇なつき) 1巻を読み終わってもう続きが読みたくてしかたない…!!連載を追いながら原作を再読しようと思います! https://comic-boost.com/series/133

えれほん

リアリティのあるディストピア社会を描く

えれほん うめざわしゅん
ANAGUMA
ANAGUMA

さまざまな仮想社会を描いた短編が3本収録された短編集。 萌えキャラを象徴と仰ぎ「リア充アジー」を弾圧する一党独裁国家、鼻歌を歌うだけでも厳罰となる知的財産権管理が超厳格な社会、母親とつながった臍の緒を切ると死んでしまう「臍子」の居る世界…。 いずれも大胆かつ緻密な世界観設定で、読むのに僕はかなり頭使いました。 秀逸な設定と連動してキャラクターの心がグラグラと揺れ動くことで物語が駆動していくのですが、そのリアリティがすごい。 「ありえるかも」という絶妙な法律や制度が仮想されていて、それを受けたキャラクターが「こう感じて、こう行動するだろう」という感情の表出に説得力があります。 自分は本作を読んで『リベリオン』という映画が頭をよぎりました。特に一作目の『善き人のためのクシーノ』などは、おそらく意識して描かれていると思うのですが。 『リベリオン』では制度を守る人間を主人公に据えることで、制度の内側からその歪みと悪辣さを指摘し、社会の閉塞状況を打破することをある種反証的に肯定していました。 『えれほん』においても同様の構造が採用され、読者は制度に囚われた人物の視点で、その欺瞞と息苦しさを反芻し、世界のあり方を仮想する箱庭的な思考実験に望むことになります。 『リベリオン』では現状の制度を否定し、異なる社会を提示する「外への働きかけ」が首肯されますが、本作では物語の結末は徹底して登場人物個々が「内へ潜心」することで決着するのが非常に印象的でした。 乱暴にまとめれば、彼らは「気持ちひとつ」で制度との関わり方を変えていくのです。 息苦しいことやネジ曲がった制度をスカッとブチ壊す物語はいくらでもありますが、本作の登場人物たちが見せるこの捉え方はとても魅力的に思えました。簡単に答えを出さず、ちょっとのことでは世界は変わらないけど、それでも踏ん張って思考を重ね続ける姿は非常に前向きで、僕は大好きです。 簡単なハッピーエンドと言えるものはひとつもなく、禅問答のような作品群ですが、圧倒的な読み応えがある一冊です。

マイダスの薔薇 黄金のギャンブラー

伝説のギャンブラー「マイダス」が活躍する痛快ギャンブルアクション

マイダスの薔薇 黄金のギャンブラー 金井たつお 宮﨑信ニ
マウナケア
マウナケア

薔薇の名前であり、伝説の王様の名前でもあるコードネームを冠したチームが活躍するギャンブルアクション。美女に金、そしてケレン味もたっぷりの王道路線であり、ゲームのルールに疎くても素直に読めます。前半はキャラ紹介的なストーリー。登場人物の設定にはなかなか味があって、主人公・通称ボーイは驚異的な動体視力と暗算能力の持ち主。アンクルことバロンは指先に第三の眼をもつ男。レディことスカーレットはルーレットで赤が出ることを予知することができ、実はもうひとつの秘密も。そして博徒風のグランパこと銀蔵。彼らがその技術を駆使して悪徳同元を退治し、それが後半の世界一ギャンブラー決定戦への布石となる構成です。前半は必殺仕事人的な流れだっただけに、この後半への場面展開はちょっと意外。ですがそれぞれの通り名から連想されるファミリー要素をふんだんに盛り込んで、最後はうまくまとめてくれてます。ま、私にとってうれしいのはイカサマの手口などをきちんと説明してくれているところなんですがね。麻雀でこっそりとか、宴会で使えないものかなあ、なんて…。

花と頬

丁寧に描かれた関係性に浸れる漫画

花と頬 イトイ圭
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

柴田ヨクサル先生が帯に書いた「切れば血の出る漫画。」の通り、全編通して丁寧な人物描写で、読後はぼんやりと彼らがこの世界に存在しているような気がしてくるくらいキャラに血が通った漫画。 知っている人は知っているくらいのミュージシャン「花と頬」を父親にもつ父子家庭の女子高生が学校で父の仕事のことを知る同級生の男子と知り合い、仲を深めていく夏。 他クラスだが同じ図書委員で私語禁止の図書室で密かにノートで会話を進めていく様子がとてもいい。 多くを語らない登場人物が多いのに、息遣いや体温まで伝わってきそうなくらい親しみを持ててしまう彼らのいる世界に読後はしばらく浸っていたい。 良質の邦画を見たときと似たような読後感なのは、場にある空気や時間の流れ、会話の運びのテンポの良さをうまくコマ運びで表現できているからなのかも。 登場人物たちのなにげない日常がなにげなく過ぎ、彼らの中で決定的に何かが変わったかといえばそうでもないし、でも確実に何かは変わっている。それでも彼らの日常は続くし心持ち前向きにハッピーな感じ。 そんな爽やかさと、少し時の流れの残酷さと、人の温かみと鼻がツンとするような切なさもちょっぴりある、ガールミーツボーイなひと夏の出来事。 読んでいて気持ちが良いのは、キャラクターが説明的すぎないところだ。 ハッキリ明言されてはないけどこれってそういうことか、という場面がいくつかある。 そういった、みなまで言わずに言外で想像させる程度の物言いがとても現実的でよく馴染む。 主人公が等身大の女子高生らしくとてもナイーブで不安定で、自分の立ち位置を見失いがちなところもとてもいいし、父親がそっけないようで優しいのが感じ良い。 不穏なことが過去にあったような雰囲気を匂わせつつしっかりとは登場させない。登場人物に刻まれている表情で何かあったことを語りだす。 全体的に本当にいい雰囲気だった。 分かりやすい売るための要素(大仰な喜怒哀楽や、波のある起承転結など)がないから載せられない、といくつかの出版社で言われてしまったようだけど、こういう作品を出してくれる会社が世の中にあるのは救いだ。 届きました。ありがとうございます。

yeah!おひとりさま

新久千映先生流の「おひとり三昧」

yeah!おひとりさま 新久千映
名無し

てっきりワカコ酒の作者本人による ノンフィクション一人酒飲み歩きマンガかと思っていたら アラサー女性(新久先生本人)一人での 色々なノンフィクション・イベント体験マンガだった。 「ひとり居酒屋」も勿論あったが「ひとり回転寿司」 「ひとり焼肉」などの飲食系のほかにも 「ひとりスポーツ」(人生初のバッティングセンター) 「ひとり行楽地」(営業時間ギリギリの後楽園) 「ひとりイベント」(災害訓練や舘ヒロシ来場イベント) など、なかなかにハードルが高そうなものまで多種多様。 ノリはやっぱりワカコ酒的で、少し酒が絡んだりしながらの 少し、おひとりさま故の自意識過剰か否かの葛藤も あったりしながらの ひとりも楽しいよ、という体験マンガ。 多分、新久先生のような方は多人数で行動したらしたで それにあわせた楽しみ方をするのだろう。 けれど、物事にたいする観察眼とか捉え方が独特なので こういう方だから一人で自由に行動しても 勝手にドンドン楽しみ方を見つけられるのだろうなあとも思った。 面白がる能力があるというか。 そして感じた面白さを他人にも面白く伝える マンガ術も持っているからこのマンガとか ワカコ酒とかの面白いマンガを描けるんだなあ、と思った。

ゲコガール

ゲコにケロッを指南するカエル似の酒妖怪

ゲコガール 魚田南
名無し

私はそこそこに酒は飲める。 だがかつて先輩社員が新入社員に酒を強要して 急性アルコール中毒にして病院送りにして、 さらに私を下手人に仕立て上げて以来、 下戸な人に酒を勧めることは一切しない。 酒は美味しいし気分が良くなるし、 料理の味も引き立ててくれるし酒席を和やかにしてくれる。 とはいえ、酒に強い弱いは体質的な面が大きいし 下戸な人にあえて酒を勧めるよりは勧めないほうを選んできた。 なのでこの漫画は凄く面白いしタメになるのだけれども それをそのまま現実に実践する気は無い。 ましてや下戸の主人公に獲り憑いたのが ゲコっと鳴くカエル似の妖怪だとか 酒の妖怪なのに自身も一杯しか飲めないとか、 「ヒネリも深みもまるで無いじゃねーか」 「舐めてんじゃねーぞ」 という第一印象しか受けなかった。 だが下戸相手だからゲコッと鳴くカエルの妖怪かよ、 という軽すぎる印象も、後々に ケロッと鳴くシーンが登場して 「・・だからカエルか、上手いこと言うじゃねーか・・」 と妙に納得した(笑)。 このカエル似の酒妖怪の酒指南は 「いいから呑め」だけではない説得力がある。 現実にはそこまで上手く(そして美味く)は いかないかもしれないけれど うーん、そういうものなのかも、と思わせる面は感じた。 下戸な人にも酒ドリームを抱かせる美味さのある漫画 なのではないかと思った。 私は下戸ではないので、この漫画の通りに飲めば 下戸の人も酒を克服できるかどうかは判らない。 基本的には体質とか生物学的な問題だし。 というか下戸の人がこの漫画をどう思うか判らない。 だが、下戸の人でも他人に強要されずに飲むことが可能な時間とか 最悪、翌日に夕方まで寝込むことになっても大丈夫な時間とか あるならば、試してみたら、というか、 この漫画を読んでみたら、くらいにはオススメしたい。

空拳乙女

空手少女ではなく「空拳乙女」

空拳乙女 湯浅ヒトシ
名無し

入学した女子高に空手部がなかった。 なら自分で立ち上げようと頑張る少女。 仲の良くなった級友がなんだかワケアリ風で・・ 初回がそんな話だったので、漫画では良くある話だな、 廻し蹴りでのパンチラ・シーンとか交えながら 仲間を集めて空手を真面目に頑張るという チョイエロ交じりの青春ストーリーか、と思っていた。 ところが、まだ第一巻しか読んでいないのだが 実際に廻し蹴りパンチラは登場してきたが、 なんだかんだであっというまに コスプレ美人女子高生による地下格闘技的大会に 参戦することになるという 意外に派手な展開に。 イマドキは美女が主人公のバトル物は珍しくない。 それどころか美少女で達人ぐらいではありきたりで 爆乳半裸美女戦士が色々と揺らしまくったりしながら 戦う漫画やアニメは世の中にゴロゴロしている。 とはいえ現実を考えると、 爆乳半裸美女戦士が登場するストーリー展開、 いわゆるエロゲー的な展開は、やはり 非現実的なありえないものがほとんどだ。 爆乳半裸美女戦士とかコスプレ格闘家とかが登場した時点で、 漫画としては格闘漫画というよりはエロ漫画と 評価せざるを得ない内容になるものがほとんどだ。 「空拳乙女」はわりとそのへんがしっかりしていて 急展開で予想外ではあるが、コスプレ格闘技大会に 参戦することになるまでの過程は、それなりに 納得のいくストーリーになっている。 そりゃ漫画的な都合の良い展開は多々あるが あきれるような無茶な展開とまでいうほどではない。 「エロいにこしたことはないでしょ」 という考えはあっただろうが、 エロ重視でストーリー軽視、という漫画ではない。 考えすぎかもしれないが題名が空手少女ではなく 「空拳乙女」になっているのもそういう意味合いかと思った。 空手少女、だったら話にコスプレ格闘技を介入させるのは 無理が有りすぎる。 だが空拳というのが「徒手空拳」を意味し、 「己の力で素手で困難に立ち向かう」という意味を強調 するための題名なのだとすれば、わからないでもない。 主人公が体をはって部の設立、練習場の確保、 その過程での仲間作りとか空手やコスプレ格闘の世界に 「徒手空拳」でチャレンジしていくことを表している、 みたいで。 それと、良くも悪くも湯浅先生の描く 「パンチラ」や「コスプレ」はそれほどエロくない。 色々と揺らしまくったりはほとんどしない。 そういう意味ではエロ要素ありの格闘技漫画ではあるが、 エロ嗜好より本格格闘技嗜好の漫画ファンのほうが 楽しめる漫画だと思う。 そういうこの漫画が、漫画ファンのニーズに 爆乳半裸美女戦士が登場する漫画よりも あっていたかどうかは不明。 私はこの漫画も爆乳半裸美女戦士が登場する 漫画も好みだが。