囚われた2人が織りなすサスペンス×BL『SANCTIFY霊魂侵蝕』

日本の漫画のジャンルのひとつ、ボーイズラブ(BL)は「BL」「YAOI」として日本から海外市場に積極的に広がっていきました。その進出は進出先の国の人々に根付き、いまいろいろなBL作品が生み出され日本に逆輸入されつつあります。海外の電子サイトの連載されているGODSSTATION(作画:生鐵落、原作:Fox^^、お二方とも中国人)先生の『SANCTIFY霊魂侵蝕』もそのひとつ。ダークなサスペンスドラマは、「男性同士の濃密な関係が描かれていればどんなテーマでも描ける」というBLの懐の深さも示しています。

『SANCTIFY』の物語の中心はエクソシストのランスと、ランスが事件の捜査の過程で出会った警察官・ギルバート。『SANCTIFY』の世界では、悪魔を信仰し接触した人間ーー堕落者ーーが関与する残虐な事件が起こる。警察だけでは解決できそうにないと思われたこうした事件に、特別な能力を持ったエクソシストが呼ばれます。

ランスもそうしたエクソシストのひとり。長く仕事がなかったことから転職を考えていたランスのもとに、堕落者が殺されるという事件が持ち込まれます。この事件の調査の過程でランスと出会ったのが警察官のギルバート。食事や睡眠など生きることに関心のないランスを食事に連れ出すなどランスを少しずつ人間らしい生活に導きながら距離を詰めていきます。

と書くと、ランスとギルバートが陰惨な事件を解決に導こうとしながら順調に関係を深めていく物語のようにみえますが、そこは悪魔の関わるサスペンスもの。明るくランスの心を開かせるギルバートにランスには隠していることがあると第1巻で明らかにされ、事件の暗さとともに物語全体に影を落としています。このエピソードを知って最初から物語を読み直すと、事件の捜査というギルバートとランスの出会いも偶然だったのかどうかすら怪しくなってくる。2人のこの先の関係から目が離せないと思わされます。

ランスの就いているエクソシストという職業は、特別な能力がなくてはできないもの。その職業をどう捉えるかはエクソシストそれぞれですが、少なくともランスはいいものとはとらえていません。宿命といえば聞こえがいいですが、作中に登場するエクソシストにひとりは「呪い」と表現します。ランス自身はこの「呪い」を残した前世に何か大切なものがあったのではないかと考えており、いわば過去に囚われた状態といえます。

ギルバートとの出会いがこの過去から踏み出すきっかけになるのかと思いきや、ギルバート自身もほかに囚われていることがあるという業の深さ。ランスらが解決しようとする多くの人が酷い死に方をしている事件の暗さに2人の関係の先の見えなさが絡み合い、物語全体のサスペンス度合いを高め、先を読みたいと思わせる中毒性につながっています。ランスの過去もギルバートの隠したいことも作中ではまだお互いが知らないまま、読者だけが謎を明かされた状態であることも物語全体の緊張感を高めています。

BLというジャンルは「男性同士の恋愛もしくは恋愛に近い深い関係を描く」作品の集まりです。しかしその「男性同士」をどのようなシチュエーションに置くかは作り手側の自由に任されています。そのため『SANCTIFY』のように極上のサスペンス・ストーリーが出てくることもあります。『SANCTIFY』はそうしたBLというジャンルの自由さも思い起こさせてくれます。これまでBLに縁がなかった方もサスペンスものが好きな方にはぜひ読んでいただきたい作品です。

記事へのコメント

サスペンスのBLってあんまり読んだことないんだよなーと思ってためし読みしたら絵が超綺麗。
確かにBL読んだことないけどサスペンス好きなひとも読めそう。

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