あらすじ対米戦争への勝利のため、国民の一致団結を訴える内閣総理大臣・東條。だが内心では、真珠湾攻撃の成功に安堵し、先行きを楽観していた。一方ハワイ沖の櫂は、満天の星空の下、悲しみに打ちひしがれながら、戦死したパイロット・栗原の遺体に付き添っていた……。開戦に沸き立つ日本国民! 納得できないのは櫂ひとりだけ!? 再びタッグを組んだ櫂と黒沼! 次なる戦い始まる第35巻!!
極上の「負」のカタルシスだった。 日本が第二次大戦に突入しそして敗戦するまでを描いた戦記モノで、架空の天才軍人・櫂直(かいただし)が明晰な頭脳と冷静な分析によって開戦を、ひいては敗戦を回避すべく孤軍奮闘する話。 犠牲を払いながら手を尽くしても戦争へ突き進む軍部を止められず、事態は坂を転がり落ちるように悪化の一途をたどっていく。巻数にして30巻を超える長い長い無力感と喪失感を味わいながら、物語終盤ミッドウェー海戦で惨敗、櫂は軍を離れ、そのまま終戦、東京裁判を経て完結へ。 勝利も復讐も俺TUEEEも、およそ快感と呼べるものを与えられないまま、ずっとしんどい思いをしながら読み続けることになるものの、読後感は不思議と悪くない。むしろ心地よいまである。なぜか。 「いわんこっちゃない!」と叫びたくなるような負の感情のカタルシスの連続、喪失感、破壊(と再生)、櫂の決意と忠誠、わずかな希望……。一言であらわすなら、「大人の味すぎる娯楽」って感じ。