あの子は少女の振りをして
破滅的で文学的な女子校の王子様 #1巻応援
あの子は少女の振りをして 田中文
兎来栄寿
兎来栄寿
『SHAMAN KING FAUST8 永遠のエリザ』、『歌舞伎町ブルーフィルムの花嫁』、『箱庭遊戯』などの田中文さんが新たに描く、現代文学的な作品。 とある過去の事情により女性との関わり合いに困難を抱える男性教師・筧皇清が、女子校に赴任することになってしまうところからこの不穏な物語は幕を開けます。 もうひとりの主人公は、表では成績優秀かつフェンシング選手としても全国有数で学園の王子様として大人気でありがら心の中には深い闇を抱えている蛭間聖。聖はとある理由により担任の皇清のことを見初め、距離を縮めようとしてきます。彼女との出逢いが、皇清の運命を大きく歪めていきます。 人間のフリをすることはできても、本当の意味で人間にはなれず、人間とは繋がれず、人と人との間で存在できる人間としてはこの世界にいられない。形は違えど、行為に倫理的な問題はあれど、そんな孤独に共感する人は少なからずいることでしょう。誰にも理解されない感情を理解してもらえる……かもしれない。それは、儚い希望、あるいは思い込みであったとしても依存するに十分な理由たり得ます。 また、皇清は聖のアプローチに困惑しながらも、一方で園芸部の顧問に就任して蛇田と作業をする時間は想像だにしていなかった得難い安寧を得るという対照があるのもこの作品を面白くしているポイントです。 白と黒のコントラストがパキッと利いている田中文さんの綺麗な絵も、この光と影のある物語にぴったり合っています。 "人間"を描いてるなぁとしみじみ思う内容、また「卯の花腐し」や「犯文乱理」といったサブタイトルの語彙や作中の隠喩なども含めた全体の雰囲気などから、陰鬱な文学が好きな人にも親和性があると感じる作品です。
ミモザイズム
親の威を借りまくる娘 #1巻応援
ミモザイズム 松尾あき
兎来栄寿
兎来栄寿
「権威への服従原理」は実体験として感じたことがある方も多いかもしれません。シンプルに言えば、人間は権威に対して弱い性質を持っているということです。 本作は、有名な芸術家・花屋敷千雄(ゆきお)の娘であるみもざが父親に似ずまったく技術も才能も無いのに自身を天才であると信じて疑わず、また周囲も明らかに下手なみもざの作品を礼賛する奇妙なシチュエーションを基軸としたコメディです。 守銭奴キュレーター主人公・福沢。 芸術家であることを盾に人間としてのまともな生活も難しいみもざ。 デザイン学科服飾専攻の関西人インフルエンサー山本瑠衣。 拗らせアラサー画廊経営者・旗小次郎。 「マンガはキャラクター」という言葉を体現したような作品で、生き生きとして癖の強いメインキャラクターたちだけで十二分に物語が回っていくのを感じられます。全員、もし現実にいたら友達になるのも厳しそうな面倒くさい性格の持ち主たちですが、マンガで読んでいる分にはそこが良いです。 松尾あきさんの特徴的なオノマトペも、美術がテーマになっているこの作品だと一際ハマっています。 そして、全体を通してネームがとてもスッキリしており、とても読みやすいです。多少長めのセリフがあるシーンでも全然疲れずにスルッと入ってきます。 全ルビなので子供でも読みやすい一方、冒頭のシーンで提示させられる「アートの本質」などのテーマは考えさせられます。 「花屋敷の娘」という、強力な権威をもっているが故に彼女に対して物を言える人が極端に少ない様、また「花屋敷の娘」であると知った瞬間にそれまでの自分の価値判断を忘れて何となく凄く見えてくる様は、コメディとして描かれていて実に滑稽ですが、実は非常に恐ろしいことでもあります。私たちも、意識せずに彼女のような存在を持て囃していないとも限りません。 美大が舞台の名作は近年増えていますが、また少し違った角度から絵がかれる注目作品です。
女だから、とパーティを追放されたので伝説の魔女と最強タッグを組みました
女性差別社会をブン殴れ! #1巻応援
女だから、とパーティを追放されたので伝説の魔女と最強タッグを組みました 三弥カズトモ 蛙田アメコ りりうら世都
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
女性差別がはびこる異世界で、パーティに理不尽な扱いを受けた魔導士の主人公は、八つ当たりの中で伝説の魔女の封印を解いてしまう。二人が手を組みパーティへの復讐を目指す物語は、現実世界にもある女性差別を数多く描き出す。 現実世界での女性差別は、とても見えにくい。例えば〈女性議員が少ない〉という問題意識に「実力のある女性議員希望者が少ない」「そもそも議員になりたがる女性が少ない」という、もっともらしい反論がある。しかしこれは女性に対する教育の不平等(女性に教育は要らないという意識、入試不正等)や女性は表に出るべきではない(=女性は男性に庇護されるべきだ、女性は家庭を守る人だ)という意識等、社会構造に練り込まれた多様な通念、しきたりが起因していて、それは男性にも、そして多くの女性にも気付かれない。 本作の異世界でも、現実世界で行われる差別が全く同じ形で表現される。主人公は身に降りかかった決定的な差別をきっかけとして、社会にある差別構造を伝説の魔女に教わりながら少しずつ自覚するようになる。主人公と一緒に、私もいちいちハッとさせられる。 魔女に肯定される主人公、主人公が肯定する女性達。世の中のおかしな構図に武力で立ち向かう二人の進撃は痛快だ。難しく考えずに勧善懲悪をなしてゆく水戸黄門的なカタルシスを与えながら、差別構造を分かりやすく描いて「女性差別はこんなに分かりやすく〈悪〉なんだ」と気付かせてくれる。 二人が社会をギッタギタにするのを期待したい。