YAWARA! 完全版 デジタル Ver.

カワイイと強いを両立させる「一途」な姿勢

YAWARA! 完全版 デジタル Ver. 浦沢直樹
名無し

カワイイと強いは普通は両立しない。 カワイイってのはカヨワイとかケナゲに近いし、 強い、とは対極ともいえる存在だと思う。 カワイイ、と思う感情は 守ってあげたい、と思う気持ちに通じるだろうし。 柔道という体力や体重が強さに大きく関わる競技では 強くなるには筋肉質にならざるを得ないし、 筋肉質になればなるほどカワイイとは遠ざかると思う。 そう考えるならYAWARA!も所詮は漫画ドリームだ。 漫画の中だからこそ、見た目が綺麗で可愛くて、 ナイスバディとまではいえなくてもスタイルも良い けれど強い、が成立する。 筋肉質のガッチリした体型でもない女の子。 それでいてメチャクチャ強い。 そんな猪熊柔(主人公)は漫画の中だからこそ存在出来ている。 猪熊柔はけして「柔道大好き」を前面に出していない。 本質的には好きだろうし誇りもあるのだろうが、 最初のうちは、人生の優先事項の第一位は柔道ではない。 むしろ普通の女の子として普通の生活、 普通な恋愛に憧れている。 そんな猪熊柔がストーリの進行と共に 自分が柔道を好きなこと、楽しみたいこと、 柔道をすることで自分が出来ることを考えていくようになる。 なので話の前半では一歩間違えたら 「才能があるのに贅沢言っている勘違い女」 と、カワイイとはまさに真逆な 反感買い捲りキャラになりかねなかったかもしれない。 実際、そのへんを勘違いしたスター誕生物語漫画も 他にはけっこうあると思う。 また、現実の世界でもよく 強くて才能があって見た目が綺麗な女子アスリートを 「柔道漫画のYAWARAちゃんみたいに」と形容するのを 見ることがある。 だが、それは違うと思う。 猪熊柔のカワイイし強い、とは 心が一途だからであって、 強い弱い抜きに、その一途さがカワイイし、 その一途さが、自身の強さと更なる努力で 自分も周囲も幸せにしていくから 「カワイイし強い、凄い!」 という漫画になっているのだと思う。 父母と普通に楽しく暮らしたい。 好きな人と普通の恋愛がしたい。 そして自分は柔道が好きだからしたい。 そういう一途さが実は一貫している。 だからカワイイし強いと読者は感じるのだと思う。 また、猪熊柔を勝手に?ライバル視する敵キャラ 「本阿弥さやか」も、一見、勘違いギャグキャラだが (実際、かなりの勘違いキャラではあるが) 一途さでは猪熊柔を超える面もあってカワイイ。 猪熊柔の親友「富士子」さんも、 やはり一途な部分があってカワイイ。 その上で柔道の試合のシーンとかも凄く良いし、 カワイイと強いが両立した良い面白柔道漫画だと思う。

ハイパーインフレーション

クセ強めで内容も面白い漫画好きな人は垂涎の一作!

ハイパーインフレーション 住吉九
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

未読の君、まだ読んでないなんてもったいすぎるぜ…!! 読んでる奴らとはダチになれそうだ!! なぜなら俺たちはルークさんを知っているから!! 俺たちの救世主!!ルークさん!!はわわ……! と、読んだあとちょっと変なノリをしてみたくなるほどにこの漫画は魅力的です。 時代設定は我々の地球でいうどのへんか分かりませんが、17、18世紀あたりの技術レベルでしょうか?もっと前なのかな? ヴィクトニア帝国という大国があり主人公はその帝国に搾取される側の植民地に住む少数民族で、金貨や経済などあるもののわりと原始的な生活を送っていた。 幼少期に両親が奴隷狩りに殺害されてから7年後、12歳になったルークは奴隷狩りに対抗すべく知恵を使い騙したり工夫して帝国と商売しお金で安全を買おうとしていた。 しかし、その矢先に再び奴隷狩りにあってしまい、自らも捕まり大好きな姉を連れ去られてオークションにかけられてしまうことになり、殴られ朦朧とした意識の中で神にあい、とある能力を授かる。 本来、年頃の人間が当たり前のように享受しているのが「生殖能力」だが、神はその代わりにルークに授けたのが「金を生み出す能力」だった。 しかも、まだもろもろ不明だけど帝国の紙幣、しかも全て通し番号が同じ偽札…。この能力と知恵を武器にルークはどう戦っていくのか! お姉ちゃんを取り戻すことはできるのか!? という話です。 第1話→https://shonenjumpplus.com/episode/13933686331749163174 話の設定や展開、ハッタリや知恵比べのようなギャンブル的な部分はもちろん面白いのですが、合わせて注目してほしいのはこの作品の根底に流れるセリフ運びのテンションやリズムとキャラたちのノリ!! 初期のジョジョを彷彿とさせる! そこにシビれる!あこがれるゥ!!的な香りがするゥ!! みんな大真面目なので最初は真剣に読んでたんですが、途中からもしかしてこれって笑って読んでもいいんじゃないか?というシリアスな笑いに思えてきますし、実際そこはかなり意識されてるんじゃないでしょうか。 生殖能力の代わりに授かった能力なので、金を生み出す時にドクッドクッってなるのや、頬を赤らめてちょっと汗かいてはぁはぁしているのもおもしろい…。 そのクセの強さに、やみつきになってしまう自分が愛おしいです。 画像:第1話57pより

ニャリウッド!

創作で最も大事なのは◯◯と◯◯だ! #1巻応援

ニャリウッド! 杉谷庄吾(プロダクション・グッドブック)
兎来栄寿
兎来栄寿

映画化され、その映画がテレビ放映もされて『映画大好きポンポさん』の素晴らしさを知る人がますます増えていることが非常に嬉しい今日この頃。 「ポンポさんの新作が来ったぞー!」 というわけで、本当に今度こそ新作を出すつもりはなかったそうなのですが諸般の事情により描かれたという新作にして新シリーズ『ニャリウッド!』が発売されました。巻数表記もあり、今後も続いていきそうなのは非常に嬉しいです。 読む順番に関しては、作者の杉谷さんが直々に解説されているのでシリーズ初読の方は参考にしてください。 https://twitter.com/pompothecinema/status/1630703345680920576?s=46&t=o8eGKefj56WcuC_a_1RGww 『ニャリウッド!』1巻のサブタイトルは「映画大好きマズルカちゃん」ということで、前作(『映画大好きポンポさん』3巻)の最後で「映画撮るのって楽しすぎる……」と、自分でカメラも撮れる映画監督になりたいと志したマズルカを主軸にした物語となっています。 『ポンポさん』シリーズは常に最高で大好きなのですが、やはりセリフが良いです。そして、それがそのままキャラの魅力にも直結しています。 ″自分に自信が無い奴は心に余裕が無いから 失敗する事が何よりも怖い 他人にカッコ悪い姿を見られるのが何より怖い だから何も行動を起こさない 何もしなけりゃ何も失敗しねえからな そういう奴から見れば夢に向かって 突き進もうとするオメーの姿は 我が事だという自覚の有る無しにかかわらず 臆病で守りに入った自分の生き方を 真正面から糾弾されているようで腹が立つ… というより怖いんだな だから自分の不安を打ち消すために 上からの立場でオメーの夢を全否定するんだ 無意識のうちに脊髄反射でオートマチックに 人の夢をバカにするようなつまんねえ連中は 全ての責任は何もかも絶対他人の中にあると思い込まないと 自分の人生が格好悪い失敗作だと 自分で気付いちまうからな″ といった本質を突いたものや、 ″他者の介在しない世界で 自らが定めた目標に向けて自らを研鑽する それこそが「本物の自由」よ 本能のままに生きる事が出来ない動物と違って 人間は…人間だけが自由に…自らの意志によって 自らの命の価値を高めることができるのよ″ という魂を熱く燃やしてくれる名言が本作でもガンガン出てきて心に響き渡ります。読者に響くセリフは、当然作品の中のキャラクターたちにも響いて気持ちよく駆動してくれます。 マズルカが初めて取り組む脚本執筆という作業に悪戦苦闘し、もがき苦しみながらも少しずつ前へ進んでいく姿、ビビが真っ直ぐな気持ちで愚直に努力して成長していく王道感も熱いです。そして、遂に到る「創作で最も大事なのは◯◯と◯◯だ」という境地。そこで行われるのは物語を□□ということ。痺れました。その詳しい内容は、ぜひ読んで確かめてみてください。 作中でさまざまな創作論が出てくるのも健在。下手な創作論の本を読むよりも、『ポンポさん』シリーズを読破する方がよほど勉強になりモチベーションも湧く気がします。私も今温めている脚本を気合いを入れて書き上げたくなりました。 そして、書き上げた暁にはウインナー入りチーズグラタンを食べたいと思います。