魔法使いサリー

元祖・夢と空想の魔法少女マンガ

魔法使いサリー 横山光輝
たか
たか

たまたま漫画喫茶に完全版があったので読みました! 絵のデフォルメがかわいくて、キャラクターはコミカル。 サリーちゃんが人間界の風習を学んだり、パパを懐柔したり、カブをとっちめたり、ママに甘えたり…そういう一挙一動がただただ楽しい。 サリーちゃんのパパも魔術師ジョーも、キスで娘への愛情表現をするところが欧米風でとても素敵。なおパパは魔界の帝王なのにママには頭が上がらないという設定で、好きでもない人間界でお餅つきまでしちゃう、優しい…! 自分がサリーを読んで気になったのが、家族の描写です。 サリーとカブは人間で二人暮らし。よしこは両親共働きで、トンチンカンの面倒を見て家事をしている。同級生の小野さんは、お兄さんとお母さんの3人ぐらし。チェリーはアル中のパパに愛想を尽かして、お母さんが出ていってしまった。 16話の中に、多種多様で愛情深い家族が描写されていたところが印象に残りました。 横山先生自身は、「少女漫画はほとんどメロドラマばかりで、少年漫画のような『夢と空想』の漫画が少ない」ということでサリーを描いたと折返しに書いてありました。 やはり物語の土台として「家族」の描写がリアルだったからこそ、『夢と空想』がいっそう魅力的なものになったのではないかと思います。 現代まで続く少女向け漫画のエッセンスを感じることができる名作です!

いざなうもの

死なるものの体現

いざなうもの 谷口ジロー
影絵が趣味
影絵が趣味

ひとの生とは、いちど限りのものである。この事実はあらためて言うまでもなく当たり前のことであるが、すべてあらゆる当然のことというのは、それがまさしく当然のことという途方もない事実性において、語るにあたいすべき言葉を持ちえない。ひとは当然のことを語る言葉を持ちえない、ひとが言葉で語ることができるのは、けっして当然のことではない、何かの"問題"についてだけなのです。 死とは、あらゆる生に必ずおとずれる当然のことでしょう。すなわち、ひとは死を語る言葉を持ってはいない。そんなことはない、死について語られたものはいくらでもある、と言う方々がいらっしゃるかもしれないが、それは死を何かの"問題"として副次的に扱っている場合にすぎず、死そのものについて語られたためしは終ぞありえないと言うほかないでしょう。死とは、私たちの多様な生が辿り着く唯一必然のものでありながら、それがいかなるものかをいっさい窺わせようとはせず、ひとたび窺ってしまえば最早語ることはいっさい許されない、そのような類のものでしょう。 そのようなわけで、ひとは、死について「彼岸」であるとか「向こう側」であるとか曖昧なことしか言うことができないのだが、ごく稀に、死を語らないまでも、いや、語るという以上に死そのものを体現してしまうという極めて特権的な作家がいる。そして谷口ジローという漫画家が、まさしくそのような特権的な作家に名を連ねることになりました。死とは、死の側から語ることがけっして許されぬのだから、自らそれを体現するほかないです。 内田百閒の短編小説集『冥途』を原作とした谷口ジローのこの絶筆の遺作は、病床のうちで死の直前まで描かれていたといいます。しかも、死につつある谷口ジローは、自身にとって新境地であるところの薄墨と鉛筆とホワイトのみで執筆するという新手法で、生と死の狭間で彼岸に吸い込まれつつある男の物語を描きつつこと切れたのです。死につつある者により絶筆の遺作として描かれつつあった『いざなうもの 花火』は、それ故なのか、いまだかつて見たことのない只ならぬ異彩を放っている。ひとの死は当然のことであり、またいっぽうで、死につつありながら当然のことのように自身の新境地を開こうとしつつ死という名の向こう側へ逝ってしまわれた谷口ジローは死の体現者としか言いようがない。死とは生ある万人にとって既知ではなく未知であり、その意味でまったく新境地ということに他ならない。心して読まれることをおすすめします。

モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います

ちょうどツボをおさえてきて好き

モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います ラルサン こるせ よっしゃあっ!
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

この話はゾンビものではないけど、 ゾンビものがなんで好きかって、かつてあった日常が破壊されて同じ人間や場所でさえ全く違う表情を見せてくるあの感じ。 それまで戦いやサバイバルを全くしてこなかったような人も必要を迫られ覚醒したり、狂気に飲み込まれたり、人を蹴落としたり、欲望のままに動いたりと、本性が剥き出しになっていく。 そして、いつ命が奪われるかも分からない中で紡ぐ関係性が刹那的で美しいのだ。 上のは、あくまでゾンビものの好きな点だが、この話は少し似つつまた違う文脈で語られているから面白い。 日常が一晩にして崩壊し地獄と化すのは同じだが理由は全く違って、どうやらファンタジーな世界の生物が現実に出現し、なぜか人間を蹂躙しまくっている。 しかもゲームシステムのごとく、モンスターを倒すと経験値が入り、レベルが上がり、スキルを獲得し、目に見えて分かりやすく戦闘力が上がっていくのだ。 現実を舞台としたサバイバルで読みやすいし、敵がゾンビ一種類とは違っていろんなファンタジー生物がいるし、ワクワクしないわけがない。 自分だったらどうするだろう、なんて考えちゃう。 現実の日常が蹂躙される「ゾンビもの」と、いわゆるファンタジーを舞台とすることが多い「なろう」の流れ、その中でもゲームシステムを組み込むタイプが上手く融合されていて、視覚的にも数値的にも成長度合いが分かりやすい。 いろんな面白さがあるけど、主人公が成長のスピードが速いとシンプルに楽しいものだ。 そして犬がかわいい。 総合的に単純な消費しやすさのレベルが高く、ライトな読み口で適度にちゃんと苦境に立たされるというとてもいい塩梅。 ハンターハンターのようなガツンと濃厚でのめり込めるストーリーを求める人には物足りないかもしれないが、優等生的な良さがあり万人受けしそうだ。 この読みやすさなら原作も読んでみようと思う。