ひさぴよ
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2019/11/24
地味だけど堅実な面白さのあるサッカー漫画
80年代後半から90年代にかけて連載していたサッカー漫画。 古くはキャプ翼、最近ではアオアシと、数多のサッカーマンガが生み出されてきましたが、この作品は長期連載だったにも関わらず、あまり知られてない名作かと。 巻数が長い上に、お世辞にも絵はサッカー向きとはいえない絵柄(失礼!)なので、サッカー漫画好きの自分もなかなか手が出なかった覚えがあります。 しかし、ふとした機会に読んでみたら、これが読み進めるほどに面白い。 主人公・青葉茂の堅実でひたむきな努力と、熱い心に引っ張られるように、気付いたら夢中になって読んでました。 スポーツ漫画でよくある「海外挑戦編」的な展開が、このイレブンにもあるのですがこの章がとにかく熱い。 サッカーで海外挑戦といえば普通はヨーロッパか南米ですが、主人公は自分に足りないものを得るために、なんとアフリカの地を選びます。 何のサポートもなく、単身アフリカに赴き、ど田舎でどうやってサッカー修行をするというのか…? 一見無謀とも思える、泥臭い挑戦の連続がイレブンの面白さなのです。 進化した現代のサッカー界の状況と比べると、やってることが違いすぎる感があるのは確かです。 でも、サッカー初心者がプロにまで登りつめる成長物語として読むのであれば、まだまだ色褪せることのない名作だと思うのです。
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2019/11/23
たのしくたくさん食べよう!
たまにテレビでやってる大食い番組。人間離れした競技としか思えません。ずっと観てると、驚きとワクワクと恐怖が入り混じった畏敬の念みたいな気持ちが起きてきます。特に小柄な女性選手に対しては。この漫画はそんな大食い競技で女子高生たちが奮闘するスポ根漫画です。 たくさん食べることが何より好きな女の子春風天子が主人公で、高校生になってからは大食いをやめようと決意したものの、大食い競技の部活「食い道部」の面々に出会ってしまい、最初は嫌々ながらも次第に大食いの道にのめり込んでいきます。 てんむす(漢字で書いて天娘)という言葉は、その昔、豊穣の神への祭祀として、巫女たちが大食いを競った歴史から、現代の大食い競技として続いている設定になってます。なので参加者は女子のみ。 大食い勝負は一対一だったり団体戦といった形式の試合で、単純にたくさん食べた方が勝ちなんですが、テクニックや基礎体力を必要とする、しっかりとしたスポーツ競技として描かれているので、大食いできる身体づくりも学べます。 かわいい絵柄なので最初はもっとゆるふわなテイストかと思ってましたが、勝負所では荒々しいタッチに変わり、手に汗握る迫真の試合が繰り広げられます。わりと王道のスポ根展開が多くて、少年マンガ好きにはたまらない熱さがあります。 特に、長野女子体育大学付属との試合などは、 多くの「大食いマンガ」の中でも屈指の名勝負になるんじゃないでしょうか?全国出場までの勝ち上がり方やライバルチームの描き方は見事です。 あと、名古屋弁がめっちゃ出てくるのもほっこりします。当然、大食いの料理には名古屋メシが出てきたり、対戦相手のご当地料理だったり地域の特色も楽しめました。 ラストに近づくにつれ話にまとまりがなくなってきて、終局を感じる雰囲気になってきますが、ここまで読んだらぜひ最後まで読んでみて下さいな。わんこそば戦での、天子の突き抜けた表情は忘れられない場面だと思うんですよね。「たのしく、たくさん食べる」って素晴らしい。 自分もわんこそばの大食いにチャレンジしてみたくなりましたよ。
ひさぴよ
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2019/11/20
リアル一休さん!
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「一休さん」の愛称で親しまれ続けてきた一休宗純の人生を、誕生から亡くなるまでの生涯を描いた作品。一休さんといえば、頓知話が有名ですが、いずれも小坊主だった時代の説話であり、一人の修行僧となって以降は、どのような人生を送っていたのか?いろいろと知らない事だらけです。この本を読めば、生涯をかけて「禅宗」と向き合い続けてきた一休さんのリアルな姿が見えてきます。 一休さんを描いた自伝的作品は他にも坂口尚の「あっかんべェ一休」など、いくつかあり、どの作品を最初に読むか迷いました。電書化されてない「あっかんベェ〜」は、古本で買うしか無いということで、まずは小島剛夕先生の「一休伝」を最初に読んだ感想になります。 「一休伝」では、幼い一休が天皇の実子であった、という説をベースにしています。血統が良いどころの話じゃありません。劇画タッチながら、画面全体に高貴な雰囲気が漂っています。 時代は南北朝時代。 母親は南朝の家系で、暗殺を恐れ一休をお寺に預けて育てることに。 出自エピソードが語られ、坊主として修行を積むまでが第1巻。この巻で、橋やら屏風やらの有名な頓知話が登場します。 ここからが本番。 修行僧として成長するにつれ、欲にまみれ腐敗した環境に嫌気がさした一休は、寺院を飛び出します。 そして野生の中で「純粋禅」なるものを探求する”謙翁”という師と出会い、弟子入りすることになります。ここから厳しくストイックな修行の日々が続くわけですが、一休のように謙翁師の思想に感銘を受けること必至です。 師が亡くなってからの一休は、ツテを頼って高名な禅僧の寺へ入ります。そこでも下らない権力争いが横行していることに絶望します。 一休は俗世の中に救いを見出そうと、寺から町へ降りて、いろいろと理由をつけて遊びに通うことに…。 女遊びが激しくなり、ゆきずりで子ども作ったり、修行が大事だから母子は面倒見れないと言い放ったり…とクズ男になってしまい残念。 その後は偉い人に取り入って出世して、沢山の弟子を持ち、権力者になってからは、あまり感動はないというか淡々と展開します。 史実に忠実であるため、後半は読み進めても盛り上がりには欠けるのは仕方ない所。振り返ると、謙翁師と修行していた時期が一番輝いてたと思います。 全体的に堅い内容ですので、歴史、伝記モノが好きな人向けです。
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2019/11/19
腹話術の妙技
人形遣いの少年・「橘左近」が、童人形「右近」と共に事件解決に挑む推理マンガ。 腹話術によって人形を操り出すと、性格が一変するという設定がなかなか面白く、只の人形であるはずの右近が、まるで本当に生きているかのようです。どういう仕組なんだとか、その辺は深く考えずに「右近」の存在を受け入れて読むのが吉でしょう。ちょっとオカルト的な雰囲気もある推理モノなので。 連載を開始した1995年は、「金田一少年の事件簿」(1992年)や、「名探偵コナン」(1994年)といった推理マンガブームが超盛り上がっていた時期で、このブームに続こうと少年ジャンプが送り出した推理マンガという印象が今もあります。残念ながら大ヒットとはならず、短期連載に終わってしまいました。 ただ、作画・小畑健、原作・写楽麿(しゃらくまーろー)※宮崎克という強力タッグが生み出した、独特の和風ミステリー世界は、とても記憶に残るものだったと思います。そういえばアニメ化もされてましたっけ。 全4巻。スッキリとした終わり方にはなってないので、なにかの拍子で続編企画がひょっとしてあるのではないか…と、いつまでも期待してしまう作品です。
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2019/11/14
「ひまつぶし」にはもってこいの本
まさに「漫画のような図鑑」といった感じで、どこから読んでも楽しめる本です。 各章は「いろは」順で構成されていて、 上巻は「い」〜「よ」 中間は「た」〜「ま」 というような分け方で収録されています。 漫画のコマ割りの中に、図や説明がおもしろおかしく描かれていますが、 なんといっても選定されているワードが独特で、フツーの図鑑とは全然違います。 日高トモキチ先生お得意の、生物系の分野はもちろんのこと、エンタメ的なワードから、しょうもないネタや、衒学的なネタまで、著者の興味のある分野だけを集めたような図鑑です。モノの好みの合う人ほど楽しめる本だと思います。 ただイラストにしているだけでなくて、一つ一つのコマに細かなネタが隠されているので、それに気付けるともっと楽しく読めます。 特に漫画にまつわるネタ。 例えば【ホルモン焼き】の項目には、「チエちゃんが焼くやつ」という説明とともに、はるき悦巳風のキャラクターが添えられていたり、【とぐろ】や【ヨネザアド】なんてものもあって、マンガ好きがニヤリとするような元ネタもあります。 本棚にこういう本を置いておきたいな〜と思わせてくれる、知識欲を刺激してくれる本です。
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2019/10/24
生誕から退位まで、上皇陛下の人生を漫画で読む
> いかなる時も、国民と心を共に歩まれてきた明仁天皇の85年の人生を、生誕、幼少期、学生時代、皇太子時代、ご成婚、ご家族、即位、慰霊、被災地訪問など… 史実を元に一部創作を交え、豊富なエピソードで綴る。 あらすじの通り、明仁(平成)天皇陛下の人生を描くという前代未聞の漫画です。 ビッグコミックなどで連載してなかったので、完全なる描き下ろしマンガで、制作は『昭和天皇物語』と同じスタッフが手掛けるのですが、作画は能條純一ではなく、なんと古屋兎丸という意外な人選。脚本の永福一成氏と、古屋兎丸氏が旧知の仲ということで白羽の矢が立ったのでしょうか。 過度に美化することなく、あくまでモデルとなっている人を自然に描いていて、それでもどことなく古屋兎丸氏のキャラクターだとわかる雰囲気が残っている所は流石です。読んでみるとわかりますが、間違いが許されない内容だけに、全体を通して作画の苦労というのは相当あったのではないかと思われます。 ストーリーについては、史実を中心に全1巻で構成されている為、どうしても時系列な描写で、駆け足になりがちな部分もあるものの、巧みにシーンを切り替え、教科書的にならないような構成になっています。 「ラヂオから流れる父の声を聴いた───」から始まる第一話を読めば、とにかく凄さが伝わると思います。敗戦直後、少年だった陛下が決起した将校たちに囲まれ、どのようなお気持ちでいたか。ぜひ読んで確かめてみて下さい。 他にも、若い頃のエピソードとして、こっそり銀座に遊びに行かれた「銀ブラ事件」も描かれています。読んでいて一番身近に感じるお話であったのと、帰り際の幻想的なシーンが印象的です。美智子様へのプロポーズのやりとりなど、初めて知るような意外な一面もあり、この辺は楽しく読めました。 即位以降は、戦争で犠牲になった人々への慰霊に関するエピソードが続きますが、過去の戦争への歴史観について、様々な意見があるところでしょうが、自分としては上皇陛下が仰った、「先の戦争のことを十分に知り、考えを深めていくことが日本の将来にとって極めて大切なことと思います」という考えを大事にしたいと思います。 正直、1巻で収めたのが神業のような構成で、上下巻くらいの長さで読みたかったですが、これはこれでスッキリしていて良かったのかなと。家庭教師のヴァイニング先生やブライス先生のエピソードなどは、もっと知りたかったですね。 最後に、参考にしている資料の多さから、歴史考証や資料集めなど 表には出ていないだけで相当な数の人が関わって制作されたことが見て取れました。 これから先も、長く読み継がれてほしい作品だと思います。
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2019/10/20
メディアミックスと同時多発コミカライズ
「薬屋のひとりごと」が話題になってますね。なろう原作の大ヒットからのコミカライズですが、2019年現在、別々の雑誌(「月刊ビッグガンガン」「月刊サンデーGX」)で同時期にコミカライズを連載するという事態になってます。これはまぁ、色々とメディアミックスに関わる事情があってこういう事が起きてるんでしょうか。 で、過去にも同時コミカライズパターンあったな〜と思い出したのが、この「武士道シックスティーン」です。2009年に、「アフタヌーン」と「マーガレット」が同じようにコミカライズを展開していたのですね。結局どっちの方が売れたのか?今更ながら気になるところですが、とりあえずここではアフタヌーン版の感想を書こうと思います。 作画は安藤慈郎。「しおんの王」のコミカライズを経験し、次の作品で今度は武士道シックティーンの作画を手掛けています。他作品と比較してみて、特に違いを感じるのはキャラの性格付け。個人的にはアフタ版の方が地味…いや、落ち着いた雰囲気があって好きです。逆に、「地味なのは嫌!」という人はマーガレット版を読むのがいいかと。 キャラの性格の違いについて。剣道エリート・磯山香織に関して言うと、表情の変化こそ少ないものの、武士のような真剣味や生真面目さ、気迫のこもった表情が良いんですよね。これは、青年誌だからこそ磯山の「男っぽい」部分をより上手く引き出せたのかなと。 対する西荻早苗についても、ウザくなりすぎない天真爛漫さ(←ここ大事)と、舞踊の経験から来るしなやかさ、芯の強さを感じます。磯山と西荻、どちらも過不足なく、対比の描き分けが秀逸です。 メディアミックス化作品の場合、小説、映画、漫画のどこから触れるかで、作品の印象は変わるものだと思います。そういう意味では、最初にこの漫画から読めたのは自分にとって幸せなことでした。
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2019/10/13
どこから読んでも楽しめる
岡崎二朗のSFショートショート「アフター0」の続きシリーズです。前シリーズと同様に一話完結の短編集なのでどこから読んでも楽しめます。 本当に一話一話の完成度が高いです。何となくですがアフター0よりもNeoの方がメッセージを向ける対象みたいなものが、より「大いなる存在」へと向かっているような気がしました。この連載の後、傑作「宇宙家族ノベヤマ」が生み出されることを思うと、今作との繋がりのようなものを感じてなりません。 短編は全部で20話近くあるので細かくは紹介しきれないですが、どれか1話だけを選べと言われたらNeo2巻に収録されている「再会」というお話です。 何度読んでもセンス・オブ・ワンダー(あえて、このフレーズ使います)を感じる一品。 科学や人類に関わるような大きなテーマがあるわけではなく、公園のベンチに座る普通の男女の意識を通して”見た世界”が描かれているだけです。にも関わらずヒトの持つ意識や記憶、時間の概念の広がりを最も感じたのがこのお話でした。有名な短編「ショートショートに花束を」より個人的に好きなお話です。 1巻には鉄腕アトムの誕生日を祝って描き下ろされた「鉄腕アトム2003」も収録されています。もちろん手塚プロ公認です。原作の魅力を存分に活かしながら現代的なSFのエッセンスを巧みに組み込んであり、アトムとサイボーグ009の良さをあわせたような、これまた傑作です。 岡崎作品といえば藤子・F・不二雄の影響を思い浮かびますが、手塚治虫への想いというのも強く持っていたんだなあと、あとがきを読んで改めて感じました。 ちなみに、単行本内のどこかに「ファミリーペットSUNちゃん!」のSUNちゃんが描かれてるらしいのですが、未だに見つけられず…。 もし見つけた人がいたら教えてほしいです。
ひさぴよ
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2019/09/28
いままでの人生に影響あったかもしれない
中学生の頃に出会って、今でもたまに読み返す漫画。この漫画に登場する無数の人生が、20年以上経っても自分の中で物事を判断するときの支えの一つになっているかもしれない。読み終わってふと我に返ると現実の自分を見つめることができるので、メンタル弱くなったら読む、御守りみたいな作品。 作品を少し紹介すると、1988年から2002年までヤングジャンプで連載していた現代のお伽噺風のヒューマン・ドラマです。 悩める人間たちのもとに、胡散臭い神様や天使・悪魔といった存在が現れ、謎の秘密道具を与えては、人間たちの運命を大きく変えていく・・・という1話完結型の短編漫画で、「笑ゥせぇるすまん」に近いテイストです。喪黒福造みたいな際立った不気味さはありませんが、Y氏の隣人には、ザビエールをはじめとしたバリエーション豊かな妖しげなキャラクターが揃ってます。 作者・吉田ひろゆき氏は、元銀行員という異色の経歴を持っており、これがデビュー作になります。作品には、銀行員時代に見てきたと思われる人間模様が至るところに登場します。(余談ですが矢口高雄も元銀行員) 悩みやトラブルの原因で一番多いのが金銭関係だったり、 神様が渡すアイテムにしても、無限に使えるわけではなく、使用する度に「貯金」や「利息」といった制限が必ず付いてまわります。 そして人間の善行・悪行を「積み立て」として捉えて、その勘定が合わなくなったときに破滅が訪れる。 まさに因果応報!という感じで大好きな世界観なのですが、 この作品の凄いところは、「自分は、善人になるぞ!」と意気込んで善行を積んだとしても、必ずしも思っていた通りの結果にはならない、というところ。 この不条理さと、因果のバランス関係がほどよくて、人生ってヤツは一筋縄ではいかない…と読む度に思わせてくれます。ハッピーエンドになるのか、バッドエンドになるのか、一話一話のオチを予想しながら読むのも一興。 1巻から読み通すのは時間がかかるので、まずは「Y氏の隣人~傑作100選~」から読んでみては。
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2019/08/27
夏の夜に読みたくなるマンガ
双子の高校生、藤木輝と香夜は夏休みに入った日、祖父に呼び出され、隕石の落下地点に行くことになった。その目的は隕石を人に変えることだと祖父は言う…。 正直、あらすじだけでは何を言ってるのか訳がわからないと思うが、この物語は実際そういう話だ。 この世界では、「落ちてきた星(隕石)を人に変える」という世にも不思議な仕事があり、お祖父さんはその役目を担う一人だったのだ。 人に変えられた星たちは、見た目は人間と変わらないがスーパーマン(表立っては活動したりはしない) のような存在に近く、考え方のスケールは、ヒトとは全く異なる存在だ。 星を人に変えた者は、願いを一つだけ何でも叶えてくれるという約束があり、お祖父さんは、その役目を主人公たちに託す。しかし輝と香夜は願いを決めることがなかなかできない。 実は主人公一家は、過去にとてつもない理不尽な目にあっていて、「いま何を願うか」と星から問われ、それぞれが葛藤しながら田舎での日々を過ごす…。 この漫画の魅力のすべてを言葉で説明することは難しい。まぁ全体的に優しい人間しか登場しないので、ほのぼのSFな雰囲気なのだけど、双子の男女それぞれの目線で、過去の喪失であったり、やり場のない憎しみと向き合い成長する姿に一番心を動かされた。この1冊の中に、ちょっと詰め込みすぎかな?と思ったけど、最後はどうなるんだ!?というところで、駆け抜けるようなラストの終わり方が好き。