つりこまち

『つりこまち』は釣り版『咲-Saki-』なのか? #1巻応援

つりこまち 山崎夏軌
兎来栄寿
兎来栄寿

元々はおじさんの趣味であるものと女子高生を掛け合わせた作品は枚挙に暇がありませんが、それでもしっかりとしたクオリティであれば単なる色物では終わらず読み物として純粋に楽しめるどころか世間にブームすら巻き起こしていくのは歴史が証明しています。近年では『ゆるキャン△』がその最たる例でしょう。 この『つりこまち』は、JK×釣りの美少女フィッシングストーリー。しかも、時折現実離れした超絶的な技を使いながら凄い腕前を振るう、しかし自身は釣りが好きではないというヒロインが据えられています。極め付けにお母さんがいない、と来れば同じヤングガンガンの看板を張る麻雀×JKの『咲-Saki-』をどうしても想起せずにはいられません。 釣りがオリンピック種目になっているほど世界的に人気という設定もそれに拍車をかけていますが、実際に現実世界でも1900年の第二回パリ大会においては釣りが正式種目であったということをこの作品をきっかけに知りました。 純粋に画のクオリティが高く、釣りに詳しくない人でもハッタリの効いた絵と蘊蓄で楽しむことができるであろうという長所も通底しています。 この作品が続いてやがてアニメ化・実写化され、それによって釣り人口が増え、スピンオフ作品などの展開もどんどん行われていく……そんな未来が決して夢物語ではないことを思わせてくれる、良質な作品で今後が楽しみです。 2022年2月25日追記 本日2巻発売ですが、話が進むごとにキャラクターの魅力も更に前面に出てきており、今後のヤンガンの看板を担っていく作品としてますます期待が高まっています。

BoichiオリジナルSF短編集

上質なセンスオブワンダーの連続

BoichiオリジナルSF短編集 Boichi
兎来栄寿
兎来栄寿

週刊少年ジャンプ誌上の『Dr.STONE』も盛り上がりを見せる今日この頃。作画を担当するBoichiさんは『サンケンロック』のイメージが強い方もいるかもしれませんが、この短編集に編まれている作品や『ORIGIN』のように、元々SFが好きで描き手としてもSF作品を多く著してきている方です。 既にかなりのキャリアとなっていますが、いつか単行本に収録されるかなと待っていた作品も網羅され、その歴史を追うことのできる素晴らしい短編集です。ファンには嬉しさしかありません。初期のものはもうかなり昔の作品ですが、今読み直しても十分に面白く、古臭さはまったく感じさせません。 ハードSFならではの、想像力を刺激するドラマの数々がセンスオブワンダーをたっぷりと堪能させてくれます。今年は『きみを死なせないための物語』が星雲賞を獲得して個人的にとても嬉しかったですが、次の星雲賞に選ばれたとしてもまったく不思議ではないクオリティです。 若干1冊当たりの値段は高めですが、SF好きにとってはむしろこれだけの良質なSF短編をBoichiさんの超画力で楽しめることを考えたらコストパフォーマンス的にお得でしかない2冊です。迷わず買ってください。

時間跳躍式完全無劣化転送装置

満足度も完成度もめちゃくちゃ高い読切! #読切応援

時間跳躍式完全無劣化転送装置 山素
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

女の友情とSFで、部屋の中の会話劇でここまで魅せてくれるか! 初投稿、初受賞作にもかかわらず非常に話の完成度が高く、こういった賞でなく普通に雑誌にポンと掲載されていても目を引くような素晴らしい内容でした。 読後感はしっかりプロの犯行といった気分です。 https://comic-days.com/episode/3269754496432828238 タイトルなんだっけ、と思ってしまうくらい関係ないようなスタートかと思いきや、話が転がっていくとあれよあれよとまさに本題はそこに行きつき、タイトルを経由して、扉絵に着地するというようなハッとする内容でした。 読み終わったらもう一度、扉絵を見てほしいです。 高校生のとき、互いに友達もできず独りぼっちだった二人の女子がなんとなく接近しなんとなく話すようになったそんな二人が、高校卒業から7年ぶりの再会。 互いに違う道を行き話すこともなく気まずくなるかと思いきや、話せば話せてしまう。それが友達。 互いの仕事の話をするとかたやシェフ、かたや博士課程で研究。 研究内容を聞いていくとなんとタイムマシンに関わっており…。 高校卒業後フランスの料理修行に行くほど行動派な友人の「バックトゥザ南北朝 足利尊氏にブイヤベース食わせてくる」の台詞のセンスは最高っすね! タイムマシンに対しての発想の転換というか、未来にしか行けないというのはわりと現実的な話ではあるのでいいとして、自分ではなく物を送って「鮮度をそのままにする」というところが味噌ですね。 具体的にこの世界にタイムマシン技術が根付いて開発されているっていう地味なリアリティがあって話が前に進みます。 そして食事という人が生活を送る上で最も日常的なところへ落とし込んでくるという。 はー、素晴らしい。大好きです。 ふと思ったのですが、突然訪れる友人の方ではなく、主人公の方がタイムマシンの研究しているっていうのがあまりない形なのでとてもいいですね。 我々読者側にとって突飛なことがいつも来訪する側とは限らない。 というか、突飛なように描かずあたかも普通のことのようなテンション、温度なのがとてもいいですねー、友人は驚いてましたが。 まだTwitterに載せた漫画を全部は読めていませんが、片っ端から読んでいこうと思います。 毎話バズってますし、そのうち書籍化の話来そうですよね。 ひょっとしたら今回のモーニング月例賞で箔がついて、とかもあるかも。 https://twitter.com/i/events/1060516123316121606