世界にもっと雨野さやかさんという才能を知って欲しい
2015年に短編「星の砂」が発表された時からずっと応援しており、2018年にようやく初単行本が出た私的イチオシ新人である雨野さやかさん待望の新刊です。 この『ナナホシとタチバナ』は幼い二人の双子の少女たちが営む不思議な美味しいパン屋さんを中心に、主に1話完結型の物語が描かれて行くファンタジー作品となっています。心理描写の巧さが光る雨野さやかさんらしく、この物語でも心に響く人情ドラマが展開され見所の一つとなっています。 また毎回のお決まりである様々な美味しいパンを作るシーンはシズル感たっぷり。クロミカンとチョコレートのみつあみパンや、黒と白の悪魔と天使のバゲットなど実際に食べてみたくなります。 かわいい絵柄と作風が実にマッチしており、とても心温まる作品です。 ……というだけでは終わらないのが、『ナナホシとタチバナ』の魅力。単行本の表紙と裏表紙のコントラストにも込められた秘密が解き明かされる時が楽しみです。 雨野さやかさんの世界にまだ触れたことのない方も、ぜひここから入場してみて下さい。
これまで単巻作品「なつやすみの友」短編集「星の砂」と発表してきた雨野さやかさんが満を持して送る初の長編作品。がっつりファンタジーの世界観で、これまでの作品同様に優しい雰囲気でありながら1話完結スタイルの物語の中にも繋がりがありストーリーが見えてくる。今後もっと大きく展開していきそう。
…と、ここまでの感想は建前。実際読むと9割は本当に優しい世界なんだけど、残り1割でファンタジーはファンタジーでも完全にダークファンタジーの様相を見せる。この抑揚が付きすぎてると思える程の二面性が堪らない。しかもこの闇の部分を単行本の表紙やあらすじでは全く見せてこない。それどころか1話の途中まで読んでもその影は姿を現さず、1話終盤で突如として現れる。もはやこれまでの雨野さんの作品すらもフリにするかのようなこの徹底ぶりに並々ならぬ意欲を感じる。
1巻まで読了。