殺人犯の息子が事件の真相を辿るクライムサスペンス にコメントする

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なおなお
1年以上前
作者の東元さんも、ここで意見を交わしたすべての方々もお疲れ様、そしてありがとうございました! 今回はエピローグ回として、佐野家のみんながそろって仲良くしているのがやはりなによりもうれしいです。今回登場の心は我々の知っている心ではないので、「良かったね」は父の佐野文吾に言いたい。この微妙な違和感が心に関する「テセウスの船」なんだろうなと思うし、であれば心が89年で亡くなることは予定通りなのかもしれないです。もちろん「僕だけがいない街」のように、ドラマ版は違うエンディングというのもアリだと思います。 映画で言えば今回は主題歌がエンディングのテロップと一緒に流れる中でのストーリーのようなイメージを感じました。そして最後の最後、ご指摘のとおり、まるでホラー映画のエンディングのような終わり方になりました。 毎回現代で登場する週刊誌によればみきおは「都内某所」にいるようです。そして最後のページでは「さっぽろテレビ塔」のそばにいます。しかも佐野家の直前に描かれたテレビ塔は微妙に景色が違うように思うので、塔からみた方角は違うものの結構近くにいるし、一体何をする気だ?という気分になりますね。週刊誌の質問にもちゃんと答えてませんし。 単行本の6巻だったでしょうか、ほとんど9話で収まっているなか、10話押し込んだのがありました。もしかしたらこの頃に残りの話数でどう締めくくるか決められていたのかもしれないです。 「もう少し掘り下げて欲しかった登場人物」、同感ですし、はっきり言って心と文吾とみきお以外は、特定の活躍回以外はモブキャラに見えてしまいますし、ドラマ化の際にこれは課題だと思います。できればあまりいじくって欲しくはないです。 木村さつきは生きていたら、結局出所したみきおの面倒を見ようとするかもしれないので、可哀想ですがいなくて良かったのかもしれないです。 鈴は整形してないこっちのほうがやっぱりいいです。ただ眉毛を剃ったのはちょっとだけ残念です。 最後に、佐野文吾「クソ父」が書いたタイムカプセルのメッセージ、事実上これが作者からの作品を通じたメッセージだと思うので、重く受け止めたいと思います。この回の心は「は?」でしたが。。 本当に皆さんありがとうございました!
テセウスの船

どちらかというと『テセウスの船』というより『動的平衡』じゃない?

テセウスの船 東元俊也 東元俊哉
mampuku
mampuku

時間遡行をして人生をやり直したとしたら、それは本当に同一の自分といえるのか?という問いを有名なパラドックス「テセウスの船」になぞらえたタイトルだ。 ストーリーに関しては論理的整合性や感情的整合性においてやや粗い部分も感じられたもののサスペンスとして緊張感もあり、ラストは新海誠監督『君の名は。』のような美しい締め方だったし概ね面白かった。 ただ、タイトル『テセウスの船』がイマイチストーリーにハマっていない感じがした。 どちらかといえば「動的平衡」のほうが比喩としてしっくりくるのではないだろうか。 「動的平衡」とはシェーンハイマーの提唱した概念であり、日本では福岡伸一氏による著書『生物と無生物のあいだ』『動的平衡』で有名になった言葉である。“生命”とは、取り込まれ代謝されていく物質、生まれ変わり続ける細胞どうしの相互作用によって現れる“現象”である、という考え方だ。 主人公の田村心は生まれる前の過去に遡り、そこで巻き起こる惨劇を阻止することで、その惨劇により自身に降りかかった不幸な運命を変えようと奮闘する。作品では、過去を改変して自らの人生を曲げようとする一連の試みをテセウスの船にたとえているが、やはりピンとこない。作中、田村心は殺人事件を未然に防ぐため凶器となった薬物を隠したり被害者に避難を呼びかけたりするが、その影響で心の知る未来とは異なる人物が命を落としたり、結果的に大量殺人を防げなかったばかりか予想だにしなかった事態を招くことになる。 この予測不可能性こそがまさに動的平衡そのものって感じなのだ。生命体は、船の部品のように壊れた部分を取り替えれば前と変わらず機能する、ということにはならない。ある重要なホルモンの分泌に作用する細胞を、遺伝子操作によってあらかじめ削除してしまったとしても、ほかの細胞がそのポジションを埋めることがある。これは心が殺人事件の阻止に何度も失敗したことに似ている。思わぬ不運や予想しない死者が出てしまったのも、脚のツボを押すと胃腸の働きが改善するなどの神経細胞の複雑さに似ている。 船は組み立てて積み上げれば完成するが、生命は時間という大きな流れの中で分子同士が複雑に相互作用しあうことで初めて現象する。『テセウスの船』での田村心の試みは人生あるいは歴史という動的平衡に翻弄されながらも抗う物語だったのかもしれない。

シャングリ=ラ

緻密に美麗に描かれる宇宙のディストピア #1巻応援

シャングリ=ラ
兎来栄寿
兎来栄寿

『テヅコミ』にも『メトロポリス』の二次創作を寄稿していたマチュー・バブレ氏が2016年に出版したディストピアSFです。先月に邦訳版が発売され、その電子版もこの度配信され始めました。 太陽が超新星爆発を観測しようとする青年からスタートするプロローグ。そこから100万年後のお話としてストーリーが始まるスケールの壮大さにまず惹かれます。 広大無辺の宇宙空間における、ちっぽけな人間にとってはあまりにも巨大すぎる現象も含めて、美しいヴィジュアルで物語られていきます。 バンドデシネらしい緻密な画風で、ほとんどのコマが背景までみっちり描き込まれているので物語への没入感を強く高めてくれます。コロニーの中の小さなユニットでの生活が見てとれるような描写など、好きです。 「音楽は? 文学 芸術…学問は? それは無から心の奥底から立ち現れる恩寵の輝き 人間は消費のみの存在ではない」 といったセリフに見て取れる言葉選びも好きです。 とある衝撃的なシーンと、そこで爆発する感情には大きく心を動かされました。どんな遥かな未来となりテクノロジーが進歩しようとも、人の人たる所以ら変わらないのはSFらしいテーゼを感じられるところです。 反物質、ホモ・ステラリス、アニマロイドなどさまざまなSF的単語が飛び交いながら、ドラスティックに進んでいくドラマに、気付くと夢中になってページを捲っていました。 ハードで骨太なSFを楽しみたい方にお薦めです。

それでも天使のままで 【単行本版】

仄暗い底で剥がされる心と魂の瘡蓋 #1巻応援

それでも天使のままで 【単行本版】
兎来栄寿
兎来栄寿

小骨トモさんの2冊目となる短編集です。 それぞれ発表時に話題になった「リカ先輩の夢をみる」、「それでも天使のままで」、「あの嫌いなバンドはネットのおもちゃ」の短編3作に加え、今回の単行本で先行収録となる「先生のクモのイト」の4篇が収められています。 「先生のクモのイト」は、「あの嫌いなバンドはネットのおもちゃ」に連なる作品となっています。 全体的な読み味としては、1作目の『神様お願い』と同様です。表紙絵のようにベースの絵柄は丸っこくてかわいらしいのに対して、剥き出しの″人間″が顕にされる中身の鋭利さたるや。 最初の「リカ先輩の夢を見る」からして、精神的に余裕があるときでないと食らいすぎるので読む時分とコンディションは選びたい作品です。果てしなく深い共感と、そこに隣接する絶望的な感情。読みながら魂が汗をかき血涙を零します。 1篇だけでも抉られるのに、1冊を通読したときの痛痒感といったら。 心の瘡蓋をガシガシと剥ぎ取られ、傷口をグリグリと穿られるような、そしてそれが痛みだけではなく何か他の感情をも催してくるような。 同じ経験をした訳ではないのに、どこか記憶の奥底にある罪悪感を喚起され撫ぜられるような部分もあります。 鋭敏なセンスが昏い輝きをもって溢れている短編集で、ダウナーな気分に浸りたい方やそうした作品が好きな方にお薦めです。

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