あらすじ

1989年にタイムスリップした田村心。4ヵ月後に発生する「音臼小無差別殺人事件」が近づくにつれ不可解な事件が頻発すると気づいた心は、父であり、現代では事件の犯人とされている佐野文吾とともに、事件を阻止するため奔走する。しかし謎を解くことができないまま現代へと戻ってしまう。犯人が今も生きていると確信する心は手がかりを求めて懸命に調査するのだが…読むほどに心凍てつく本格クライムサスペンス、第7巻。
テセウスの船 1巻

1989年6月24日、北海道・音臼村の小学校で、児童含む21人が毒殺された。逮捕されたのは、村の警察官だった佐野文吾。28年後、佐野の息子・田村心は、死刑判決を受けてなお一貫して無罪を主張する父親に冤罪の可能性を感じ、独自に調査を始める。事件現場を訪れた心は、突如発生した濃霧に包まれ、気付くと1989年にタイムスリップしていた。時空を超えて「真実」と対峙する、本格クライムサスペンス、開幕。

テセウスの船 2巻

1989年にタイムスリップした田村心は、「音臼小無差別毒殺事件」の犯人で、現在死刑判決を受けている父・佐野文吾と出会う。雪に閉ざされたのどかな村で、若き日の佐野の人柄に触れるうち、心の気持ちに少しずつ変化が現れる。自分の「過去」を、そして子供たちの「未来」を変えるため、心は音臼小の教師になることを決意。しかし、そんな心をあざ笑うかのように、村では異変が起き始め……。

テセウスの船 3巻

1989年にタイムスリップした田村心。4ヵ月後に発生する「音臼村無差別殺人事件」が近づくにつれ、不可解な事件が頻発することに気づいた心は、事件の犯人として現代で死刑囚となっている父・佐野文吾とともに音臼村を守るため奔走する。ところが、未来を変えようともがくほど、事態は悪化。そしてついに、一人の少女が、吹雪の夜に姿を消した――。読むほどに心凍てつく本格クライムサスペンス、急展開の第3巻。

テセウスの船 4巻

1989年にタイムスリップした田村心。4ヵ月後に発生する「音臼小無差別殺人事件」が近づくにつれて不可解な事件が頻発することに気づいた心は、父であり、事件の犯人として現代で死刑判決を受けている佐野文吾とともに、音臼村を守るため奔走する。ところが、未来を変えようともがくほど増えてゆく犠牲者に、佐野と心の関係にもヒビが入りはじめ、ついには…。読むほどに心凍てつく本格クライムサスペンス、衝撃の第4巻。

テセウスの船 5巻

1989年にタイムスリップした田村心。4ヵ月後に発生する「音臼小無差別殺人事件」が近づくにつれて不可解な事件が頻発することに気づいた心は、父であり、事件の犯人として現代で死刑判決を受けている佐野文吾とともに、音臼村を守るため奔走する。しかし、心は再び霧につつまれ、現代へと戻されてしまう。心のタイムスリップのせいで、変わり果てた世界へと…。読むほどに心凍てつく本格クライムサスペンス、衝撃の第5巻。

テセウスの船 6巻

1989年にタイムスリップした田村心。4ヵ月後に発生する「音臼小無差別殺人事件」が近づくにつれて不可解な事件が頻発することに気づいた心は、父であり、現代では事件の犯人とされている佐野文吾とともに、音臼村を守るため奔走する。しかし、再び現代へと戻されてしまった心は、死刑囚となった父と対面し、現代で事件を解決することを心に決めるのだが…読むほどに心凍てつく本格クライムサスペンス、第6巻。

テセウスの船 7巻

1989年にタイムスリップした田村心。4ヵ月後に発生する「音臼小無差別殺人事件」が近づくにつれ不可解な事件が頻発すると気づいた心は、父であり、現代では事件の犯人とされている佐野文吾とともに、事件を阻止するため奔走する。しかし謎を解くことができないまま現代へと戻ってしまう。犯人が今も生きていると確信する心は手がかりを求めて懸命に調査するのだが…読むほどに心凍てつく本格クライムサスペンス、第7巻。

テセウスの船 8巻

1989年にタイムスリップした田村心は、事件をとめられないまま現代に戻ってきてしまう。心が過去を変えてしまったせいで、心の家族は彼が知っていた世界よりもさらに悲惨な状況になっていた。必死に手がかりを探すうちに、心は姉の鈴や、木村さつきと義理の息子・みきおたちと出会った。それぞれの思惑が絡み合い、やがて隠されていた真実が明らかになる。かけがえのない命を奪ったのは、誰だ。そして心は新たな惨劇を止められるのか…。読むほどに心凍てつく本格クライムサスペンス、第8巻。

テセウスの船 9巻

炎に包まれる田中老人の家。それは加藤みきおが帰った、すぐあとの出来事だった。同じ頃「みきおの叔父」を名乗る謎の男が、佐野家を訪れる。その後ろ手には……。すぐそばに迫ってきた殺人鬼を止めるため、心と文吾は、みきおの家に入る。そこで目にするのは、底知れる悪意。未来のために過去を変える戦い、その勝者は誰なのか。読むほどに心凍てつく本格クライムサスペンス、第9巻。

テセウスの船 10巻

お泊り会当日。21人が毒殺される未来を変えるために、警戒を強める心と文吾は、持ち物検査を実施。さらに、飲食も禁止にする。そして行方不明の和子と鈴を探して音臼岳の小屋に行った心は、殺人鬼と対峙。一連の事件の異様な動機を知ることに。時を超え揺れ動いてきた佐野家の未来が、ついに決まる――衝撃のタイムスリップ・サスペンス、ここに完結。

テセウスの船

どちらかというと『テセウスの船』というより『動的平衡』じゃない?

テセウスの船 東元俊也 東元俊哉
mampuku
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時間遡行をして人生をやり直したとしたら、それは本当に同一の自分といえるのか?という問いを有名なパラドックス「テセウスの船」になぞらえたタイトルだ。 ストーリーに関しては論理的整合性や感情的整合性においてやや粗い部分も感じられたもののサスペンスとして緊張感もあり、ラストは新海誠監督『君の名は。』のような美しい締め方だったし概ね面白かった。 ただ、タイトル『テセウスの船』がイマイチストーリーにハマっていない感じがした。 どちらかといえば「動的平衡」のほうが比喩としてしっくりくるのではないだろうか。 「動的平衡」とはシェーンハイマーの提唱した概念であり、日本では福岡伸一氏による著書『生物と無生物のあいだ』『動的平衡』で有名になった言葉である。“生命”とは、取り込まれ代謝されていく物質、生まれ変わり続ける細胞どうしの相互作用によって現れる“現象”である、という考え方だ。 主人公の田村心は生まれる前の過去に遡り、そこで巻き起こる惨劇を阻止することで、その惨劇により自身に降りかかった不幸な運命を変えようと奮闘する。作品では、過去を改変して自らの人生を曲げようとする一連の試みをテセウスの船にたとえているが、やはりピンとこない。作中、田村心は殺人事件を未然に防ぐため凶器となった薬物を隠したり被害者に避難を呼びかけたりするが、その影響で心の知る未来とは異なる人物が命を落としたり、結果的に大量殺人を防げなかったばかりか予想だにしなかった事態を招くことになる。 この予測不可能性こそがまさに動的平衡そのものって感じなのだ。生命体は、船の部品のように壊れた部分を取り替えれば前と変わらず機能する、ということにはならない。ある重要なホルモンの分泌に作用する細胞を、遺伝子操作によってあらかじめ削除してしまったとしても、ほかの細胞がそのポジションを埋めることがある。これは心が殺人事件の阻止に何度も失敗したことに似ている。思わぬ不運や予想しない死者が出てしまったのも、脚のツボを押すと胃腸の働きが改善するなどの神経細胞の複雑さに似ている。 船は組み立てて積み上げれば完成するが、生命は時間という大きな流れの中で分子同士が複雑に相互作用しあうことで初めて現象する。『テセウスの船』での田村心の試みは人生あるいは歴史という動的平衡に翻弄されながらも抗う物語だったのかもしれない。