赤×黒

この世の中で私が美しいと思うもののひとつ、それがハイキック

赤×黒 上條淳士
マウナケア
マウナケア

この世の中で私が美しいと思うもののひとつ、それがハイキック。滑らかな動きとか、凄まじい破壊力とか、ではなくて、うまく言葉では書けないんですが、積み上げてきたものの浄化、カタルシスあるというか。そんなシーンを見るのがこの上もない幸せ。まあこれは自分でも何百回と練習したあげくに腰をブッ壊し、結局それを実体験として味わえなかった苦い過去があるからかもしれないんですが。それはさておきこの作品、緻密な絵柄に定評のある著者のアクションストーリーで、主人公・シバのライバルがハイキックの使い手という設定。まあすぐわかるのでばらしてしまいますがこの男は能楽師で、なぜかハイキックだけに固執する。その思い入れの強さにのめり込んでしまいました。見開きがうまくつながっていないのはちょっと残念ですが、何度も出てくる至高の蹴りに、ため息状態。どうせなら、主人公との対決に至るまでをもっと長くやってほしかったと思うほどです。お話の方がこれからのシバの歩む道を示唆して終わっているだけにねぇ。ただ私としてはこのハイキックへのこだわりが美しい絵柄で読めただけで満足です。

狩猟のユメカ(読切)

考察しがいのある謎の世界

狩猟のユメカ(読切) 古部亮
名無し

作品を読み好奇心をくすぐられ関連情報を検索していると 著者のツイッターアカウントを見つけた。 そこで見た過去の告知映像からハッと気づく事があり、 どうしても考察をしたくなったのでここに書かせて頂く。 告知映像内のレコードが2005年11月30日8時34分に動き出したこと、 読み切り内での時計の時刻が猟期内の30日8時33分53秒であること、 この後すぐにシュジャーというレイヨウに遭遇することから この異変のトリガーは【11月30日8時34分】であることが推測される。 では2005年とは何を意味するのか、 初めはこの劇中の舞台が2005年なのかと思ったがこの年の11月30日は 腕時計の示す木曜日(TH)ではなかった。 さらに夢歌が使用しているスマートフォンが 2014年発売のSONY XperiaZ3らしきことからそれ以降のその日付を調べると 2017年が該当することが分かった。 よってこの作品の舞台は2017年であるという結論に至る。 ではこの2005年のレコードの上を回る赤子は何を意味するのか、 これは本当に推測の域を出ないが逆算し12歳程であることから 開幕に現れた意味深な少女であると推測した。 やはりあの少女がこの物語の黒幕、鍵を握っているのか。 告知動画の曲の歌詞と少女の火傷を覆ったような包帯の関係性も気になるところだ。 だからといってこれ以上何も分かってはいないが この作品が現段階でかなり作り込まれているという、 これから考察しがいのある作品だという事は間違いないという感想に至った。 是非とも連載してほしい、更なる甘美な謎を期待しております。

時をかける少女 TOKIKAKE

時代ごとに変化するヒロイン像

時をかける少女 TOKIKAKE 筒井康隆 貞本義行 琴音らんまる
マウナケア
マウナケア

もう30年近くになりますか、映画「時をかける少女」が公開されたのは。主演・原田知世の雰囲気が映画の世界観にピタリとはまっていて、これ以外考えられない組み合わせだなあと、しばらくは思っていました。ところが月日は流れて、内田有紀主演のドラマ版を見たところ、あれ?これもいいじゃないの、ヒロイン像って時代ごとに変わっていいんだ、と認識を改めた次第です。だから、数年前に公開された同じ名を継ぐ実写やアニメ映画に、初代のイメージがなくなってしまっても、変に別物と意識せずに楽しめましたね。で、これらを原作にした漫画は本家も含め3作品あります。3作とも現代が舞台、またはアレンジがなされており、それぞれ良い部分がありますが、完成度の高いのはやはりこの作品。評判になったアニメ版のコミカライズであるものの、こちらも負けず劣らずの出来で、明るく伸びやかな主人公が、新しい時代のヒロインを演じてくれてます。また、巻末にはちょっとしたサービスが。これは初代を見ていないと?なエピローグなので、初代ファンはホロっとしてしまうかもしれませんよ。

シグルイ

武士道は死に狂いなり

シグルイ 南條範夫 山口貴由
名無し

「武士道は死に狂いなり」は“武士道”の代名詞ともいえる「葉隠」に書かれた言葉です。『シグルイ』という作品のタイトルは、もちろん、ここからとられたものです。ストーリーは御前試合で盲目の剣士・伊良子清玄と隻腕の剣士・藤木源之助が対峙するところから始まり、そこから彼らの因縁に遡っていきます。もともろ『シグルイ』は、直木賞作家・南條範夫の『駿河城御前試合』という連作短編集の一編「無明逆流れ」をコミカライズした作品。残酷もののブームを作ったといわれる南條範夫の原作も凄惨ですが『シグルイ』も相当に凄惨です。そこら中で内臓の花が咲きます。「封建社会の完成形は 少数のサディストと多数のマゾヒストによって構成されるのだ」このセリフに表されている通り、登場人物達の多くは、自分の能力の如何に関わらず身分という枠の中でしか動くことができません。枠の中でしか動けない人々は、自身の行動を合理化していく過程でマゾヒストになっていくのです。その結果、主君の常軌を逸した命令でさえ、家臣は顔色一つ変えず、平静な心のままに実行していくのです。主人公の一人・藤木源之助もそのタイプで、自分の範疇から一歩もでることなく、許された唯一つの事――剣術を鬼気迫る勢いで極めていきます。逆に伊良子清玄は、類まれな才能を使って、どこまでも上に向かおうという野心がある、封建社会のはぐれ者です。この二人は互いに互いを殺そうと思っています。ただその殺意がどのようなものであるのか、言葉で言い表すことのできない複雑な感情を『シグルイ』では15巻にわたって描かれていきます。  『覚悟のススメ』や『悟空道』など、山口貴由さんのそれまでの作品はド迫力の絵とその上に大きな文字がバンバンと置かれるという描写が多かったと思います。『シグルイ』でも、初めはそのような目立たせる演出が多いのですが、段々とそのような描写はなくなり、セリフ自体も減っていきます。その結果、より研ぎ澄まされた言葉と静謐な描写は、人々の内面にこもった狂気をこれでもかと醸し出し、作品全体に不穏な空気を漂わせていきます。私が特に好きなシーンは、3巻の終わり「この日 生まれ出でた 怪物は二匹」「いや 三……」というところ。文字だけでみればなんてことはないセリフですが、ここにいたる構成が素晴らしすぎるのです。研ぎ澄まされたこの2つのセリフが、この後どのような意味を持つのか…。続きは是非よんでみてください。

白暮のクロニクル

白だ黒だが簡単にはハッキリしない、というリアリティ感

白暮のクロニクル ゆうきまさみ
名無し

分類をするなら探偵物とかミステリーになるか? 特殊能力を有する主人公のディテクティブ・ストーリー と言うべきか? だがそれだけにとどまらず、少々SF的な設定だが、 SFとしてもミステリーとしても ホラーだとかサスペンスだとかとしても 命とか人生を問う作品としても、とても良作だと思う。 主人公が有する特殊能力は「ほぼ不老不死」 息長(オキナガ)という殆ど不老不死の人間が、 1000人に1人くらいの割合で存在し、 世間もタテマエ的には認知し行政も仕組みを整えており、 一般人とオキナガがちゃんと共棲している、 とされている現代日本が舞台。 しかし現実にはマイノリティな存在のオキナガは 色々と差別・迫害を受けている。 厚労省の新人・伏木(身長180cm近い女性)は 行政側の人間としてオキナガと関わることになる。 オキナガにはほぼ不老不死と言うこと以外にも特徴があって ・オキナガとして「成り上がった」時点で容姿その他?  の成長が止まる ・日光を長時間浴びると死に至る ・食欲や性欲レベルで喫血嗜好が沸くこともある その他にも色々と特殊な面があるオキナガだが、 伏木が担当したオキナガ・雪村カイはさらに特殊だった。 見た目は18歳前後の少年。実年齢は88歳の雪村。 彼は、12年ごと70年以上に渡って羊年の年末に 繰り返されている連続殺人事件「羊殺し」の 真犯人を執拗に探していた。 伏木は巻き込まれる形で雪村と行動を共にすることになり、 「羊殺し」に関わっていくことに。 模倣犯罪やタテマエや現実や、行政の施策と効果のギャップ、 そして不老不死の人間達がそれゆえに直面し、 抱えこみ、蓄積していかざるを得ない社会的現実。 雪村と行動を共にすることでそれらを実体験しながら、 羊殺しの真相とともに思いもよらなかった世界を 伏木は知ることになる。

ベイビーステップ

新しい形のヒーロー

ベイビーステップ 勝木光
名無し

よく、犬に追いかけられます。犬は僕をみると何故か興奮し、どこまでも追いかけてくるのです(マルチーズに追われたこともある)。集団でいても僕を狙い撃ちするので、おそらく弱いものが直感的にわかるのでしょう。しかし、犬はどんな基準で僕を“弱い”と判断しているのでしょうか。たしかに一対一なら全く歯が立ちませんが、助けを呼んだり、道具をつかえば互角になれないこともない。要は創意工夫が大事なのです。  『ベイビーステップ』の主人公・丸尾栄一郎は、自分と相手の特性を把握し、着実な一歩を重ねることで勝つという、新しい形のヒーローです。  丸尾栄一郎は、小学校から成績はオールA。周囲の人間からはエーちゃんと呼ばれています。クソ真面目で完璧主義で学業優秀ですが、それは性分であって、まだ将来の目標を見つけられていませんでした。そんな、こなすだけの日々を変えたのがテニス(+ヒロイン・鷹崎ナツ。すげー可愛い)との出会い。テニスの面白さに夢中になった栄一郎は、数々のライバルを打ち破り、やがてプロの道を選ぼうと考えていきます……。スポーツ漫画の王道とも言える展開ですが、ほかのスポーツ漫画にはない特徴があります。  一つはとにかく理詰めで進められる漫画だということ。スポーツ漫画ですから、努力を重ねたりもしますが、その努力は常に理屈を必要とします。なんのためかもわからない、ムダな山ごもりはしません。  もう一つは、栄一郎の武器が、恵まれた身体でも特化した技術でもないことです。遅くにテニスを始めた栄一郎は、技術も体力もライバルたちに比べて劣っています。「派手な武器はひとつもないが 穴という穴もない」そんな特色のない地味な栄一郎と、華やかなライバルのギャップを埋めるのは、観察し、考え、挑戦する、という力です。  ゲームの結果を常にノートに書き込み、どのような流れになっているか、相手が好む傾向はなにかを確認します。そして、勝つために自分に足りないものは何か、それを覆すために挑戦すべきことは何かを考えるのです。今の段階で勝機が見つからないなら、状況を変えるための挑戦をする。的確な観察、考察、挑戦の繰り返しが、効率よくエーちゃんを成長させていくのです。  こんな地味にスゴイ主人公のエーちゃんと、スポーツ漫画の主人公タイプの井手義明との対決(15~16巻)は非常に盛り上がります。井手は、エーちゃんとの対戦に遅刻しますが、その理由も交通事故にあった少年を助けたものという。その少年と勝利の約束もしているという、スポーツ漫画の黄金パターンです。勢いのある井手に対して、自分のペースを守ろうとするエーちゃんですが、徐々に試合場全体が井手応援の空気になっていきます。そんな逆境のなか、エーちゃんは空気に呑まれないメンタルの作り方を考えはじめるのですが…。スポーツにおけるメンタルについての非常に重視しているのも、この漫画の特長だと思います。  自分の目標を見据え、自分と相手の能力を確かめ、今できる最善策を選び続ける――。大事なのは“意志”であるということが描かれる『ベイビーステップ』は、普段、何に悩んでいるかもわからないで鬱屈としている時に、きっと新しい道を指し示してくれるはずです。