おのぼり侍

共感度MAX!大都会・江戸に疲れた地方を侍を描く【山村東 最新読切】

おのぼり侍 山村東
たか
たか

こまとちびやフクなど、江戸×猫マンガの名手・山村東先生の最新読切。今回は猫がメインではなく上京してきたお侍さんが主人公。なのに共感度MAXですっごく面白かったです!(なお、ちゃんと猫も出てきます) ▼過去作『フク』 https://comic-days.com/episode/10834108156649962736 いや〜期待を裏切らない良い読切でした…! 物語の主人公は、1カ月前に豊後国(大分)から参勤交代で江戸へ出てきたばかりの侍・清十郎。 50万人が暮らす大都会・江戸は、少しの無礼など誰も気にもとめないし、蕎麦の注文の仕方もよくわからない。しかも名誉なお役目と思っていた参勤交代は、実は誰にでも出来る仕事だったと気づいてしまい、清十郎、めっっっちゃストレス感じまくり…!という、**東京で働く地方出身者にはたまらないお話です(笑)** 猫が居なかったら作中のストレス指数はもっと高かったこと間違いなし! ある日、15、6歳の女の子が巾着切り(スリ)を働く現場を目撃したことで物語が動き出します。 ストーリーも面白いのですが、山村先生の描く精緻な江戸はいつ読んでも惚れ惚れします…!差配さんやこはぜ町ポトガラヒーなど、江戸文化あふれる作品が好きな方におすすめです! ▼本編掲載ページ『Dモーニング』 http://dm.m.eximg.jp/viewer/1540/1542/ (画像は本編より。共感しかない)

愛がなくても喰ってゆけます。

出来れば愛も欲しいけれども

愛がなくても喰ってゆけます。 よしながふみ
名無し

グルメ漫画や食レポエッセイ漫画が好きで、 面白いと聞いたものは読まずにはいられなくなる。 けれど「愛がなくても喰ってゆけます。」は 存在を知ってもなかなか手をださなかった。 題名から、自分の好みのタイプの漫画では なさそうだと思ったから。 非モテ系の主人公がフラレ捲りながら 「食いものがうまけりゃいいのよ」 とヤケ喰いし捲る漫画なのかな~と。 自分がどちらかというとそういう系では あるだけに、身につまされそうな気分に なりそうな危険を感じたので。 実際の内容は、あながち外れてもいなかったが、 どちらかというと 「愛は欲しいがなるようにしかならんし」 みたいな感じだった。 友人知人関係にも恵まれているし、美味しい店に 一緒に行く仲間達もいる。 料理や会話を楽しく味わいながら想いを共有する。 だからといって恋が始まり成就するとは限らんのよね、 という感じの漫画だった。 もっとも全15話が全て、主人公・YながFみさんの 婚活的な話ではなく、単に友達と楽しく食事を するのが目的でお店に行く話とか、 他人の世話をやいたりコミュニケーション目的での 飲み食い話もある。 だが、そのほとんどで目的地には到達できなかったりする。 着地点がズレたりしてしまう。 どうもYながFみさんは、 恋愛成就とか他の目的の解決のための手段として 美味しいものを食べに行くのだが、 美味しいものを食べることに注力してしまって 本来の目的を忘れがち、あきらめがち(笑)。 なんかそういう 「人生ってままならないよねえ」 「でもまあ皆で美味しく楽しく食事が出来たし」 「まあ食べ物を美味しく味わえるうちはいいよね」 みたいな感じというか。 その感じがとても面白かった。 グルメ漫画や食レポ漫画、 とくに料理対決漫画なんかだと 「美味さが全てを解決」 みたいな話が多いから、 そういうグルメ漫画に食傷気味なときに読めば 心がホッと癒される?漫画だよな、と思った。

トモネン

見えない世界と通じ合う子等

トモネン 大庭賢哉
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

電話の向こう、隠したスケッチブック、閉ざした心の隙間……ふと覗き見た相手と通じ合えた時、温かな感慨に包まれる。そんな子供達の少し不思議な、内なる冒険の物語。 ----- この作品集は、児童書の表紙や挿絵の仕事を主にされている大庭賢哉先生の、同人漫画作品をメインに集めた初商業出版集。 見えない私の背後、隠された相手の内面、スケールが違いすぎて目に入らないもの……それらが見えた時の、子供達の心の動き。 笑いあり涙あり、発見の驚きあり。根本的な気づきにハッとさせられる、良質な児童文学そのものである。 絵柄は宮崎駿先生の漫画作品(風の谷のナウシカ等)に近しいテイストの描線で、素朴で自由な楽しさがある。 名和田耕平氏のカバー加工やノンブルのデザインも、本としての所有欲を掻き立てられる。時折手に取り、子供達の世界に触れたい、そんな一冊だ。 ●ぬい氏の日常 ぬいぐるみが、持ち主の見てない所で…… ●トモネン 森で出会った見習い魔女ちゃん。ポテチの味を変えたり、魔女の将来設計を嘆いたり、巨人の遺構が大阪だったり……不思議世界を俗世が脱臼させる、クスリと笑えるお話達。 ●リサとガス 喧嘩中の二人が、電話越しの不思議なシンクロで仲直り。 ●帰り道と100円玉 拾った100円が喋った!他のお金も喋るんだって。 ●Go Girl 1/引っ越す友達に町の風景をプレゼント。町が私を忘れても、私は忘れない。 2/哲学的な話をし始める娘。母も一人の人間であると気付く、幼年時代の終わり。 ●リーザの左手 読心術を披露する旅芸人の少年と、学校で孤立する少女。人を見下す互いの傲慢さに気付いた時……。 ●よーこちゃん。 クールキャラのよーこちゃんは、藤井君に恥ずかしい所を見られる。自分の絵を人に見せずに来たが、隠す方が恥ずかしいかも……。 この作品だけ、絵のタッチが少し違う。現在の大庭賢哉先生はこちらの感じだ。

ゲスのポリス

ゲスでベタだがベタベタではない

ゲスのポリス 須崎洋輔
名無し

タイトルを見ただけで 「ああ下衆極まりないようで実は人情深い警官が  色々な問題を解決する話なんだろうな」 と想像した。 それは殆どは当たっていたと思う。 だが想像が外れた部分もあって、それが良かった。 予想に近いベタな設定だったが、 違う意味でベタではない部分があった。 ベタ(ありきたり)な設定だったが ベタべタした薄甘いストーリーではなかった。 それが良かった。 警官なのにそんなことしていいの、という漫画には 「こちら葛飾区亀有公園前派出所」という 先駆者にして大御所が存在する。 先駆者なので当然、当時にその設定は斬新だった。 そのうえ「こち亀」は下町人情話的な温かい部分もあった。 「こち亀」の両さんはオ下劣な面を出すこともあったが、 時に人間くさい面もだし、人情味を醸し出していた。 そして「こち亀」が40年の連載を経た今では そういう設定の漫画はベタな設定ということになるだろう。 「ゲスのポリス」の主人公・八王子は題名通りに ゲス(品性が下劣)だ。 それでいて実は思慮も人情も深そうなところは 垣間見せる。 このへんは「こち亀」と共通する部分があると思う。 だが、八王子は基本的にはゲスであることを貫く。 ゲスであり続けるので人間関係は湿っぽくはならない。 だから問題が解決してハッピーエンドになっても ハートウオーミング過ぎて湿っぽくなりすぎることはない。 ゲスなままでやりぬくから。 なのでストーリーの途中やラストなどで人情味を 感じる部分は結構あるが、全体的には 殆どベタベタしたイメージを感じることがない。 むしろゲスだからこそ爽やかだとも感じた。 第一巻の後半なんかは、それこそ 「踊る大走査線」の青島と室井の話か、というような ストーリーが出てくる。 良く言えばオマージュされた、 悪く言えば焼きなおした、みたいな話。 青島や室井ほどの熱さは感じないが、 ゲスな面が混じると、暑苦しく感じることがない。 その方が良い、とまでは思わないが、 こういうのも良い、とは思った。 ゲスな部分が適度に爽やかさを演出する漫画だと感じた。

ネムルバカ

青臭い学生時代を思い出す

ネムルバカ 石黒正数
六文銭
六文銭

読んでまず思ったのが、1話1話本当に無駄がなく丁寧につくられている作品だなということ。 そのせいか、何度読んでも色んな発見があり、1巻完結ものでおすすめしたい作品だったりします。 内容も、熱量の低い情熱が空回りするどこにでもいる大学生を描いていて、どこか痛々しく、どこか共感してしまう内容となってます。 全能感に満ちあふれていた、昔を思い出す。 大学生ーー大人の自由と子供の自由を持っている最強のモラトリアム時代ですが、そんな時代に誰もが直面する理想と現実の乖離。 主人公はバンドでデビューを目指す「春香」と、ごく普通の後輩「入巣」という女子大生二人。 生きる目的ともいえる「目標」のある人とない人の対比なんですが、目標があっても、才能や情熱が追いつかないことはよくあること。 平凡な才能しかない自称クリエイティブな人あるあるを独特に煮詰めた表現で随所に散りばめてきて、なんとなく生きてしまっているような自分にはグサリと刺さります。 綺麗事や正論、漠然とした希望とぬるい情熱だけでは何一つ変えられないのです。 ネタバレになるので詳しくは控えますが、最後に春香のとった行動は、やりたいことをやれた人だからこその苦悩と解放を見事に描いていて胸を締め付けられました。 何をしていいかわからない8割の人間にとって、自分も本当は何かあったんじゃないか?と焚付けられます。 年食ったおっさんでも、残りの人生、心躍ることに情熱を捧げたいものです。

きつねとたぬきといいなずけ

多くの人に読んでもらいたい作品

きつねとたぬきといいなずけ トキワセイイチ
なかやま
なかやま

さまざまな形で作品が発表できる時代、埋もれてしまう作品も多くあります。 自分はこの作品をコミティアで偶然手に取ったことで運よく知ることができました。 当時の自分に「ナイス判断!」と言ってあげたいです。 noteやtwitterで無料で公開されている作品なので、読むためのハードルが低いので多くの方に読んでもらいたいです。 自分がこの作品に最初に「ぐっ」と来たポイントは、単純にキャラクターたちが生き生きと描かれており【かわいい】ということでした。 登場人物?たちのコミカルな動き、発言も要因だと思いますが、線の微妙な太さやベタの塗り方など作画の方法の影響も多いと思います。 その【かわいさ】に釣られて読み進めていくと、しっかりとしたストーリーがある作品だとわかります。 キャラクターの成長や心の葛藤などが、週1ページの7コマというゆっくなペースで進行していきます。 同人誌で発表された1巻のあとがきに「たのしいだけではおわりません」と書いてあったのですが、【かわいい】だけではなく、7コマでこちらの心を揺さぶってくるエピソードも多いです。 毎週毎週が楽しみで仕方ありません。 この作品は作者さんのTwitterをフォローしていれば、スマホで1タップで読める作品です。自分の中で、週一回最も価値のある1タップだと思っています。 読めば皆さんの心に届くと思っています、ぜひ読んでみてください。

水域

水底の記憶に触れる夢

水域 漆原友紀
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

数年に一度、ダムの渇水の報に触れる。映像は、干上がったダム湖の底を写し、学校や神社の鳥居といった、かつての村の遺構から、不意に人の気配を感じることがある。 その気配とは、かの地に生きた人々の「記憶」なのかもしれない。この『水域』という作品は、そんな「記憶」を巡る物語である。 ----- 渇水の続く夏、高校生の千波は、夢の中で雨の降り続く集落に迷い込む。そこには澄夫という少年と、その父親しかいない。 寂しがる澄夫と遊ぶうち、ある時、千波の母や祖母の若い頃、そして村人達が戻ってきて、賑やかな時を過ごす。しかし、翌日には皆、消えてしまい、夢から覚めるはずの千波は、現実に戻れなくなる……。 ダムの水底に沈んだ、そして渇水で露わになった故郷に集まった、かつての村民達の夢。 沢山の記憶をそこに留め、ダム建設に心乱され、故郷を裏切り、棄てた後悔に苛まれる人々の心情は、誰をとっても苦しい。 かつて幼い澄夫を失い、故郷も捨てた澄夫の父=千波の祖父は、結局思いを断ち切れず、夢の故郷に、澄夫と共に留まる。そして彼らに思いを寄せる千波は……。 ----- 喪われた人や故郷を、思い続ける切なさを伝えるこの物語は、その一方で、愛する人や故郷の命を、記憶を、何とか喪うまいとする、生者の懸命な祈りを描いた物語でもある。 生者は水面を見つめるように、時折記憶を確かめる。 生きている限り、 あなたの記憶を、喪わない。 そういう意思を胸に、乾いた世界を生き続けるのだ、という、諦念にも似た覚悟が、読後の余韻に響く。

バルバラ異界

他人のする夢のはなしほど面白みに欠けるものはない

バルバラ異界 萩尾望都
影絵が趣味
影絵が趣味

唐突ですが、他人のする夢のはなしほど面白みに欠けるものはない、と思ったことはないでしょうか。 夢、それ自体は魅惑的なものにちがいありません。何なら、夢のたったひとつで人生だって狂いかねない。私には経験がありますが、当時の恋人に「夢のなかでひどいことをされた!」と泣きながら怒られたことがあります。その当時は、なんて理不尽な! 寝言は寝てから言うものだ! と思って、まったく取り合わなかったのですが、いまでこそ気持ちが少しわからないでもない。 他人のする夢のはなしほど面白みに欠けるものはなけれど、夜にみる夢ほど魅惑的なものもまたとないのです。 まだ経験があります。ある夜、知人が夢にでてきたのです。そして翌朝、目が覚めると、私はそのひとのことを現実に好きになっていました。たかが夢にみたことで、そのひとと現実になにかあったわけではないのにもかかわらず……。夢で体験されたことというのは誰とも共有できない代わりに、少なくとも本人にとってみれば、まがうことなき事実なのです。 夢の夢たる最たる由縁はきわめて体験的なところにあると思います。夢はほかでもない当の本人に体験されてはじめて夢となる。夢でひどいことをされて激怒する、というだけにとどまらず、夢に知人が出てきて、それがきっかけでそのひとを好きになってしまうことがあるのも、それが当人にしてみれば、きわめて体験的な事実だからだと思われます。夢をはじめから嘘と決めつけていればそんなことは起こるはずもありません。それどころか、夢には現実を変容させる力さえあります。 他人のする夢のはなしが往々にして面白くないのは、体験という夢の本分を欠いて、それを言葉にのせて話しているからなのでしょう。しかも、その言葉が夢にみた事実に近づけば近づくほど、かえって面白さからは遠く離れてゆく。というのは、やはり、夢は体験された本人"だけ"のものだからです。 夢のはなしを面白く聴かせるのには、ある種のテクニックが必要となってきます。すなわち、夢をわたし"だけ"のものにしないということです。つまり、嘘という手法をつかって、夢の枠をあなたにも伝わるようにひろげてあげるんです。そうすることで、夢の核たる部分は失われてしまいますけれど、少なくともあなたには伝わるようになる、共有に耐えうるものになるんです。 それは、なんだか不誠実だと感じられますか。そんなひとのために、もうひとつだけ方法があります。つまり、嘘をつかって夢の枠をひろげるのと真逆のことをするのです。ひろげるのではなく、夢を閉ざしてゆく、針先の鋭い一点のように凝縮するまで閉ざしてゆく。そうすれば、もし運がよければ、生きているあいだに、もうひとつの針先とぶつかることができるでしょう。確率はとても低いと思われますが。しかも、それまであなたは誰とも夢を共有することができず、とても孤独な思いをすることになるでしょう。 もし、それでも誠実を貫こうという方がいらっしゃるならば、萩尾望都の『バルバラ異界』を読むことをオススメします。あなたはここで夢を体験することができる、ひとに聴かされる夢のはなしではなしにです。この『バルバラ異界』というマンガを読んでいる時間だけは、あなたは孤独を忘れることができる。なぜなら、バルバラ異界はほかでもないあなたに体験される夢なのですから。