カルロス・ゴーン物語―新・日本経済入門

いま一番読むべきノンフィクション漫画!!

カルロス・ゴーン物語―新・日本経済入門 戸田尚伸 富樫ヨーコ
たか
たか

さてこの作品を購入した経緯ですが、昨年マンバで『惑星をつぐ者』という伝説のジャンプ打ち切り作品を知りまして、そのあまりの完成度の高さに衝撃を受けたんです。 https://manba.co.jp/boards/65021 「戸田尚伸先生の他の作品も読んでみたい!!」と調べてみたのですが、なんと読切作品ばっかりで全然本になってない。『惑星』の他に、唯一出版されていたのがこの『カルロス・ゴーン物語―新・日本経済入門』でした。 戸田先生の作品ということで読みたいな〜とは思いつつも、お硬い実用書的なノリの表紙なので「漫画はおまけ程度で文字ばっかりだったらどうしよう」とビビって購入に踏み切れずにいたんです。 そんな中、2019年12月にあの事件が起きまして「これ今読まないでいつ読むんだよ!!」と1月にはAmazonでポチりました(中古で¥1500)。 https://i.imgur.com/80ExAsV.png その肝心の中身ですがめっちゃ良かったです! 全6話(1話約32ページ)たっぷり漫画が収録されていて、冒頭にはゴーン社長の幼少期の写真と漫画制作時のインタビュー写真が掲載されています。 2002年に発行されたこの作品は、カルロス・ゴーンが、日産再建のため1999年にCOO(最高執行責任者)に就くまでの半生」を描いた物語となっています。 https://i.imgur.com/mW8USdc.jpg (『カルロス・ゴーン物語―新・日本経済入門』第1章 旅立ち 戸田尚伸/富樫ヨーコ) ですので「日産のゴーン社長」として活躍する様は少ししか描かれておらず、「俺達の戦いはこれからだ!!」で終わっていてまるで山王戦で最終回を迎えたスラムダンクのような「面白さの頂点」で終わるスタイル。 しかも作画が戸田尚伸先生なので、目で画面を見たときの満足度も高い。(戸田先生を知らない人はレベルEの冨樫義博先生の絵を想像してください…ああいう格好いいやつです) それにしても、ちょうど私が小学生の頃にゴーンさんが日産の社長になったので、どうしても日産以外で活躍してるイメージがなかったのですが、ミシュランに正社員で入社しそこからグングン上り詰め、ルノー、日産のリーダーとして渡り歩いてきたマジでめっちゃすごい人だったんですね…初めて知りました。 https://i.imgur.com/KBhxQws.jpg (『カルロス・ゴーン物語―新・日本経済入門』第3章 ブラジル・ミシュラン 戸田尚伸/富樫ヨーコ) ゴーンさん、世界で今一番熱い人だと思うので小学館の方はカルロス・ゴーン物語「日産再建編・ゴーンショック&逃走劇編」の出版をよろしくご検討ください。(作画は戸田先生でお願いします!)

友達として大好き

光速ビッチと校則イケメン眼鏡

友達として大好き ゆうち巳くみ
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

なんだかすごいもの見た新しい感覚のラブコメ友情譚! 他人の彼氏でも息をするように恋をしてすぐ学校のトイレでしちゃうようなギャルが、女子に追われて逃げた先で出会ったのは校則を本気で守るイケメンメガネ。 秒で惚れて、不純異性交友はダメだけど友達ならいいよねと言いながら貞操観念の境界をさらっと越えてこようとするこのギャルの凄さが光ってる。 これはただ単純にビッチだからすごいって話じゃない。 このキャラにそれをよしとしてしまうパワーがあるのがすごい。 最初の1~3ページ目で水道から水を飲んでるのか思わせといて実はトイレでの事後で口をすすいでたってのがすごい。そう、しゃぶったからだ。 男子生徒からしたら「マジかよ!いいの!?すげー!」ってなるだろうけど、ごく一般的な(こういう言い方あまり好きじゃないけど)女子生徒からしたら悪夢でしかない。 下手するとギャルとは会話になってないんだけど、このついていけない論理にどうにかしてついていきたいと思わせられてしまう。 そしてこの強引さこそが校則やルールにガチガチに縛られて友達がいないイケメンメガネを救う可能性もある。 いや、ユルすぎと堅すぎで互いに救い合う関係になるのかも。 今後どうなっていくのか期待しかしてない! 楽しみだ・・! DAYS NEOに載ってる読切が両方とも素晴らしい。 内容によって絵柄を変えているし、それぞれユーモアと得体の知れない恐怖と救いがある。 https://daysneo.com/author/tototo/

ギブ子ちゃん

こういう読切は応援したい

ギブ子ちゃん 鈴木夏菜
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

絵も話も素晴らしいラブコメ読切! 有名私大を出たが教師という仕事に情熱はなくどうにもぼんやりしてしまってミスを多発する男性教師が、職員会議へ急ぐ途中女子生徒と衝突! 翌日、そのときの女生徒が右腕にギブスをはめて先生へ迫る。 生徒をケガさせたと教頭にバラサレたくなかったら責任を取れ、と。 そして、片手が使えないからとご飯を食べさせられたり靴紐結ばされたり・・。 一体どうなってしまうのか! というお話。 先生側の、これ以上ミスが発覚してもめんどくさいし言うこと聞いてどうにかやりきろうというという微妙にセコくて浅ましい気持ちと、この機会に好きないろいろ甘えちゃえーな女子生徒の気持ちがいい具合に合わさっていて見てて楽しい。 それが少しクセになったところに味変が入るあたりの演出もにくい。 気合いと熱が入った大ゴマもとても躍動感があっていいし、包帯とギブスってかっこいい! 少し逸れるけど幽遊白書の飛影だったり、エヴァンゲリオンの綾波だったり、包帯ってやっぱりかっこいいよねー。 そりゃみんな中二病の子は包帯しちゃうわけだ。 全体的にキャラ絵のデフォルメの場面とそうでない場面の使い分けもとてもよくて読みやすかった。 そしてラストの大ゴマもグッと来る。 前の読切も読めるようになってた。 比べて読んでみると前作より明らかにレベル高くなっててすごい。 『NYLON TWILL』 https://yawaspi.com/nylontwill/index.html

風の谷のナウシカ

孤立する宮崎駿

風の谷のナウシカ 宮崎駿
影絵が趣味
影絵が趣味

漫画史というものを俯瞰してみるにあたり、その位置づけにいつも困り果ててしまう漫画家がふたりいる。ひとりは楳図かずお。彼はいったいどこから来て、どこへ行ったのだろうか。唯一、遠い縁戚として認められそうなのは『洗礼』を平成の世に蘇らせた岡崎京子の『ヘルタースケルター』のみ。彼の漫画は漫画と呼ぶには、どうもしっくりこなくて、『楳図かずお』と、カッコ付きの固有名詞をあてはめたほうが相応しいような気がする。そして、もうひとりが宮崎駿だ。 コミック版の『風の谷のナウシカ』は、どう考えてみても、漫画史において一章を丸々割いてでも語られなければならない。にもかかわらず、その位置づけにどうしても困り果ててしまうのだ。一応、縁戚としては宮崎駿自身も大いに影響を受けたと語る諸星大二郎がいる。あるいは宮崎駿とは相互に影響を受け合い、ついに娘にはナウシカと名付けてしまったメビウス(=ジャン・ジロー)がいるが、諸星大二郎はあきらかに手塚治虫の系譜からうまれているし(しかし、宮崎駿はどこから?)、日本の漫画が大いに影響を受けているのは宮崎駿ではなくメビウス(=ジャン・ジロー)のほうだ。比較的近年では、黒田硫黄を筆頭に、小田ひで次、五十嵐大介らの一派が宮崎駿の縁戚であるかのように語られているが、おそらく彼らは漫画というよりは映画から霊言を受けて漫画を描こうとしている。大友克洋が革命をもたらした記号からカメラのレンズへの変遷のような影響の受け方ではなく、映画ならではのカットの問題、このカットがいかに繋がって、いかに繋がらないかをコマの問題に援用しようとしているように見受けられる。小田ひで次の漫画では、唐突に拳銃を構えるコマがよく挿入されるが、この唐突さはまるで北野武の映画のようだ。 北野武は映画を4コマ漫画の連続のように捉えているというが、なるほどと思う。パン1、パン2、パン3、パン4、と、そのたびに何が動く。この変化そのものが重視されていて、まるで肉のない骨関節だけのヘビが連なっているかのようなザラザラした印象を受ける。たけしが血を浴びたりしても、次のカットではいつのまにか着替えていて、血がないなんてこともザラである。つまり、動き、変化の連なりが、ある種の質感をとどめておくことをしない。 それを思うに、宮崎駿はきわめて質感を重視しようとする作家なのではないか。漫画においても映画においても、物語を繋ぐための変化を描くのではなく、いつもそこにとどまっている質感を描こうとしている気がしてならない。たとえば、風や空気の質感がメーヴェの飛ぶことで描かれ、土や大地の質感がトリウマの駆けることで描かれる。とりわけ印象的なのが、森の人たちのからだを覆っているスーツの表面の質感だ。おそらく腐海の植物から作ったと思われるあのスーツの質感が物語の内容以上に脳裏にこびりついて離れないのだ。

ちゃんと描いてますからっ!

漫画も家族も ちゃんと描いてます

ちゃんと描いてますからっ! 星里もちる
名無し

父が漫画家。 それだけならばちょっと変わった家庭というだけだが ほぼ毎回、原稿を投げ出して逃亡する父親なので、 中二と小五の姉妹二人が世間にバレないように 父に換わって原稿を完成させている、というコメディ。 設定はいかにもコメディなんだが、 本当の漫画家が漫画製作の現場を舞台に描いているので (当たり前だが)漫画製作の苦労をネタにしたギャグとかも かなりリアルっぽい。 ネーム作成から下書き、アシさんと分担してのペン入れ、 デジタル処理から入稿まで、と漫画製作の過程と その大変さが凄く良くわかる。 また、主人公の長女・歩未が他の漫画家のところへ アシスタントにいって経験した話とか、 父のネーム打ち合わせに加わった話とかからは、 漫画ってそこま考えて描くんだ、と驚いてしまった。 そして漫画をちゃんと描くってどういうこと、 と考えさせられた。 作中でも何回か提言されたりもしていたが、 漫画家の先生が一人で全てをこなして描く作品もあれば、 各仕事を多人数で分担して作成する作品もある、 それこそギャグとしては 「あの先生は主人公の眼を描くだけ、あとは他人が描く」 なんて話も聞いたことまである。 恐らくそうとうに昔から、漫画って共同作業による作品で どこをどう描いているならその先生の作品なのかとか、 なにをもって、ちゃんと描いていると言えるのか、 その辺の定義は明確ではなかったのではないだろうか。 家族だって、ちゃんとした家族ってワリとハッキリしない。 母親が(多分だが)早くに亡くなり、 その上に漫画家の父は逃亡常習犯。 そこを姉妹二人が頑張って支える、という けして普通ではない家族だが、そこは漫画でもあり(笑) なんだかんだとありながら幸か不幸か、 それでいいのかすらわからないままに 姉妹が苦労を重ねる話が進んでいく。 そして姉妹はそれぞれ見方や考え方も変わっていく。 それはまあ確かに漫画だからこその 都合よく仕上げた話かもしれないけれども。 そのストーリーを読んでいると、 ちゃんとした漫画、ちゃんとした家族って、なんだろう、 と考えさせられてしまった。 コメディなんだけれどわりとシビアなことを 突きつけられる展開もあるし、 父親のダメっぷりが凄かったりする展開もある。 しかし読んでいて陰鬱な気分になることもなく、 父親にとことん気分が悪くなるような嫌悪感を感じることもない。 面白がりながら最後まで読めて、しかも 漫画とか家族とかの「ちゃんと」って何だろう、と 考えさせて貰えて、読んで、読み終わって 気分がよくなる漫画だった。

バビル2世

チャンピオン初期を支えた孤高の超能力少年

バビル2世 横山光輝
兎来栄寿
兎来栄寿

横山光輝さんの数多の作品の中でも、『鉄人28号』、「魔法使いサリー』、『三国志』などと並び代表作として有名なのが『バビル2世』です。 週刊少年チャンピオンが創刊されたのは1968年。『バビル2世』は1971〜1973年まで連載され、チャンピオンの初期を支えました。そして、数年後にチャンピオンは200万部を突破し黄金期を迎えます。 遥か昔、地球に不時着したバビルの子孫である浩一がその力を受け継ぎ、世界征服を目論む超能力者・ヨミの目論見を防ぐべく闘いを繰り広げる物語です。 ユリゲラーが初来日して超能力の大ブームが巻き起こったのが1974年ですが、その3年前から超能力ブームの礎を築き上げたのがこの作品。テレパシーやサイコキネシスという単語を本作で覚えた少年は非常に多いでしょう。同時期に萩尾望都さんらによる少女マンガSFの台頭があり、『精霊狩り』などエスパーを題材にした作品が出されたことも、ブームを後押ししていました。 『超人ロック』然り、物語において超能力者やエスパーというのは異端で孤独な存在とされることが多いです。多分に漏れず浩一も世間には知られないまま孤独な闘いを続ける少年として、暗い時代のマインドを反映しているかのように描かれました。71年の『仮面ライダー』や72年の『デビルマン』など、純粋な熱血タイプではない陰を背負った主人公の物語が多く出始めた時代とぴったり重なります。 なお、『ジョジョの奇妙な冒険』第三部主人公の空条承太郎も、『バビル2世』の砂漠+学ランというヴィジュアルイメージに大きく影響を受けていると荒木飛呂彦さんが語っていました。私自身はその記述を見てから興味を持ち、読みました。バトルに単純な力比べだけではなく頭脳戦的な要素が盛り込まれていたのも、人気を博した要因であり後の作品への影響を感じられるところです。ジョジョ好きには一つのルーツとしてぜひ読んでみて欲しい作品です。 余談ですが、アニメ版で主人公の浩一を演じたのは当時はまだ新人だった神谷明さん。オーディションでは既に売れっ子だった野沢雅子さんと最後まで争ったという逸話があります。

君には届かない。

じっくり丁寧に進むのがいい…

君には届かない。 みか
たか
たか

クリスマスにオタクの友人とオススメ漫画を贈りあう遊びをしたのですが、その時にもらったのがこれでした。 「成績優秀な男前と地味で勉強が苦手な主人公の幼馴染」という王道オブ王道、今までの人生で100万回読んでる設定のはずなのに「あぁ〜〜〜…いい…!」と悶えてしまう。 ベタな設定に加え、絵も多く描き込まないシンプルで可愛い感じでそこまで自分の好みじゃないのに面白い…! BLは割と「BL世界にしかいない思考回路の男」が登場することが多い。すぐ惚れて大袈裟にドキドキしたり、何の疑念や羞恥を感じず男同士ベタベタしたり…それで面白いこともあるけど、大半はその「あり得ない都合の良さ」に読んでてしらけてしまう。 一方、「君には届かない。」は、そこんとこがすごくちゃんとしてる。 2人の内面での葛藤や疑念をじっくり描いているからこそ、身体的精神的イチャイチャがなく友達として一緒にいるだけで萌える。そしてほんのちょっとな些細な触れ合いが、とんでもない破壊力を持つのがたまらない…!! ヤマトがカケルを思い、自分の恋心に蓋をしてストイックに幼馴染みの距離を保ち続ける姿が本当にいじらしい。 2巻がメチャクチャいいところで終わってて、まんまとハマりました。「君には届かない。」という切ないタイトルの物語が、今後どう進んでいくのか楽しみです!