空腹なぼくら

斬新すぎるゾンビマンガ

空腹なぼくら 友安国太郎
六文銭
六文銭

ゾンビ映画やドラマって以前はB級ホラー臭漂うものでしたが、昨今、あらゆる面でハイクオリティになってますよね。 描写的にも、ストーリー的にも。 ただのパニックホラーからヒューマン・ドラマまで、ゾンビには無限の可能性があるなぁと感じてます。 マンガも然りです。 本作は、数あるゾンビ作品のなかでも、まだこんな話ができるのかと唸りました。 さて、その内容なのですが、 ゾンビによって人類がほぼ絶滅な状況のなか、主人公もゾンビになってしまう。 しかし、主人公は他のゾンビと違い、人間同様の知能と感情が残っており、人間とゾンビの狭間の存在となる。 そこで、彼はその知能を使って、ある計画を考える。 それは残った人間を繁殖させ、ゾンビたちの食糧を確保するというもの。 これによってゾンビ界の神になろうという目的だ。 冒頭から人間の男は確保できていたのだが、つがいとなる女性を探して話はすすむ。 そんな中現れたのが、人間時代に未練を残し別れた元カノ。 彼女を使って計画を実行するのか? ゾンビになった主人公の葛藤が描かれます。 感情があるがうえの葛藤。ゾンビと人間の対比が見事です。 また、ゾンビから逃げるか・戦うかのストーリーが多いなかで、ゾンビになって自身の野望を実行するとか秀逸です。 とにかく気になるところで話がグイグイすすむので、あれよあれよで読んでしまいます。 胸糞悪い展開も、良いスパイスとなって、これがまた良い。 まだ1巻しかないのですが、今後どう転ぶのか楽しみな作品です。

球詠

魔球も、百合も、あるんだよ。

球詠 マウンテンプクイチ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

カラーボール野球で「魔球」を開発した二人の少女。別々のチームで、一人は投手として硬球で魔球を完成させ、もう一人は捕手として全国レベルの実力をつける。 二人は高校で再び出会う。不祥事で廃れた野球部に十人の仲間が集った時、一人が言う。 「一緒に全国を目指して欲しい」 ……可愛い女子高生達が主役の、この「きらら系」作品だが、野球漫画としてかなり力が入っている。本気だ。 個性的なチームメイトも対戦相手にも、設定が沢山あり面白い。 例えば主人公の「魔球」は、ストレートと同じ球速で大きく縦に割れるカーブっぽい球。鋭い変化の割に球速が落ちない魔球で、県内の強豪校と渡り合う。 他にも人のプレイのコピーが上手い選手のトリッキーな作戦や、試合自体をクイックに進める相手に翻弄されるなど、実際に出来るかどうかのギリギリの発想が楽しい。 水島新司先生のロマンもある一方、試合の緻密な駆け引き・戦略などは『おおきく振りかぶって』を思わせる。更に洗練されたプレイを大胆に魅せる絵で『ダイヤのA』のように興奮させる。 様々な野球漫画の楽しみを「女子」で魅せてくれる、贅沢な作品。バッテリーや上級生のロマンシスや、進行形の百合的関係性も生まれ、これからが楽しみ。(ロマンシス=女子の強固な友情、バディ関係。恋愛に近い程の親しい関係。日本人による造語) 大会序盤、早速優勝候補に挑む彼女達。ジャイアントキリングなるか!?

ぼくのワンピース

何者にもなれない全ての人に捧ぐ物語

ぼくのワンピース 山田睦月 菅野彰
sogor25
sogor25

私は"LGBT"という呼称が好きではない。L/G/B/T(もしくは"Q"に分類される定義も含め)それぞれが全く違う性質を有しているのに、"LGBT"という名前を獲得した結果、あたかも同一の性質をもった1つの集団のように見える感覚、それがどうも受け入れがたいのである。 この作品の主人公・神鳥谷等(ひととのや ひとし)も、子供の頃から自分で自分を"普通"ではないと認識しながら、どうにも名前をつけること、定義づけをすることができないある"性質"を持っていた。 神鳥谷のその"性質"はジェンダーなのか、好みの問題なのか、それとも何かの病気なのか。そして果たして自分は何者なのか。これはそんな悩みを持つ神鳥谷と、彼とは逆に自分自身に対して不満も疑問も全く持たない大学の同級生・佐原真人、そしてその周囲の人々との物語。 神鳥谷の疑問に対して作品の中から無理やり答えを捻り出すとするなら、「自分は自分でしかない」という陳腐な言葉になるかもしれない。しかし、それを神鳥谷と佐原の、そして周囲の人々との交流を通して作品全体で表現している。物語としても、雑誌連載の作品を単行本化する際に話と話のつなぎ目をなくして1本の大長編のような構成にすることで、神鳥谷と佐原がともに歩んだ人生をまるごと描いたような、そんな壮大な雰囲気の作品になっている。 読む人によって、誰の視点を強く意識するか、そしてこの作品がどういう物語なのかという定義が変わってきそうな、いろんな表情がある作品。タイトルだけを見るとジェンダーがテーマのようにも見えるけど、実際はもっと受け入れる裾野の広い、"何者にもなれない"全ての人を肯定してくれる物語。 上下巻読了

ハクバノ王子サマ

つめこまれた悩めるアラサー女性の姿

ハクバノ王子サマ 朔ユキ蔵
六文銭
六文銭

アラサー女性教師が新しく赴任してきた年下の男性教師と恋愛する話。 有り体に言うとそうなのだけど、その女性教師は既婚男性と不倫していたり、男性教師には婚約者(海外留学中)がいたり、というちょっとした複雑さもある。 それが大人のラブストーリーとして物語をすすめてくれます。 随分前の作品なのですが、定期的に読みたくなる作品の一つ。 女性教師 原多香子(通称タカコ様)は、自分にある種のツンデレの概念を植え付けてくれたからでしょうか。 普段は毅然とした態度でいるのに、恋愛のことになるとモジモジと奥手だったり、ちょっとしたことで「あーあ。」と後悔したり、だけど、意地張って虚勢をはったり…。 なんだかとっても可愛らしいのです。 年上女性の可愛らしさをこれでもかと詰め込んでおります。 ビールをグイグイ飲む姿とか、どツボですよ。 また、作中にでてくる言葉のチョイスもいいのです。 「誰にも選ばれなかったから一人」 「明日の自分は想像できる、一週間後、一ヶ月後の自分も想像できる・・・でも10年後の自分は怖くて想像できない」 「女の旬」 などなど。 なんとも、妙齢女子特有の叫びがリアルで胸が締め付けられます。 最後二人がどうなるのか、最終巻までじりじりさせますが、きっと後悔はしない終わり方です。 リアルな大人な恋愛を楽しみたい方はぜひ。