赤い鳩〔アピル〕

ルーツの追求が未来のハルマゲドンに繋がるというドラマ

赤い鳩〔アピル〕 小池一夫 池上遼一
名無し

新撰組の若き隊士・馬庭実行は池田屋で捕縛された ユダヤ人宣教師・ヘボンの打ち首役を命じられる。 斬首直前、ヘボンは実行に問いかけてきた。 「カゴメの唄の意味を教えてください」 日本人として国のために生きて死のうと 新撰組隊士になった実行は、思いがけずも ヘボンとともに日本人のルーツを探り、 さらに150年後の世界の命運を左右する冒険に 身を投じることになっていった。 「日ユ同祖論」という、日本人とユダヤ人の祖先は同じである、 という論説があり、原作者の小池一夫先生は その論を研究されていたようです。 この漫画では、新撰組が活動していた幕末の時代という 個人も日本も明日はどうなるかわからない、という時代に、 「日ユ同祖+ハルマゲドン・論」とでもいうべき 日本人のルーツを探ることが未来の日本と世界の 運命を左右することになるという大問題を被せてきます。 個人の生き方や国のあり方などの価値観が大きく揺らぎ、 変化しつつあるタダでさえ色々とテンパッテいる時代に、 それゆえに民族の過去を解明しなければならないという 重すぎる命題を背負ってしまう実行とヘボン。 そこに余命が僅かな沖田総司や坂本竜馬、 秦国の末裔や北の大国からの刺客らも絡んできます。 儚く散る命達、それらの積み重ねで繋がる歴史。 SF的ではあるが壮絶なドラマが展開されます。

名前はまだない

「眼差し」と「間」で描く恋愛の強度

名前はまだない かずまこを
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

かずまこを先生の作品は、登場人物の強い「眼差し」にやられることが多い。 『純粋アドレッセンス』のななおの向こう見ずさ、『ディアティア』の睦子の、純粋に相手を知りたい感情、『さよならフォークロア』の二人の、現状を乗り越える意思etc……彼女達の「眼差し」が伝える強い感情に胸を打たれ、動悸が止まらなくなる。 彼女達に見つめられた者は、時に目を逸らし、時に見つめ返す。表情を僅かに変えながら、その「間」で思考を巡らせ、言葉を返す。 交わす気持ちの、伝わらなさがもどかしかったり、ふと通じる瞬間にときめいたり……いずれにしても、二人の「間」そのものが愛おしい。 かずまこを先生の作品の描く「眼差し」と「間」は、この短編集『名前はまだない』の各掌編に端的に描かれている。 まずこの短編集で、かずまこを先生の「眼差しと間の強度」を知るのもいいと思う。連載作品にも全く同じ強度があるという、その贅沢さをお伝えしておきたい。 ●3秒ルール 相手の言葉に、返事するまで3秒以内。言葉に詰まったら負け。 ●uracoi 睨んでからコミュニケーションする女子の、佇まいに惚れる。でも告白してくれたら、眼を逸らすなんて……。 ●恋はお静かに わたしが頭を打ったら、寡黙な委員長の饒舌な脳内がダダ漏れ? ●消し去る恋と願いごと 片想いしている先輩が、急に明日スイスに引っ越し!?先輩は私の秘密の願いを知りたがる。 ●名前はまだない(recalculation、interim solution含む) 本心を隠して周囲との距離を楽しむ優等生女子は、ぶっきらぼうな孤独女子が気になる。気を引き、距離を縮め、駆け引きするも、彼女はなかなか厄介で……。 ●匿名プロローグ 保健室の先生と女子生徒の恋物語『純粋アドレッセンス』の冒頭エピソード。

悪女

本当の「悪女(わる)」とは誰?

悪女 深見じゅん
名無し

1988年というバブリーな時代真っ只中に連載が始まったOL漫画です。当時、テレビで流行していた"トレンディドラマ"の漫画版という感じかな。「悪女(わる)」という題名に目を引かれて手に取ったのですが、表紙には題名にはそぐわない可愛い女の子の絵。そのギャップに興味を持って読み始めました。 コネで商社に入社した麻理鈴がひょんなことから社内で出会った男性に一目惚れ。その人物探しから始まって、同時に麻理鈴が優秀なOLとなっていく様を描いています。その中で、恋や仕事のライバルに邪魔されたり、意地悪されたりするのですが、天性の天使爛漫さとお気楽さ、人の良さでライバルたちの心も和ませていきます。全37巻とかなりの長編ですが、クセのない画風とテンポの良さ、そしてコミカルなシーンも多いので、軽ーく読めます。 私の場合、題名の「悪女」の意味が最後まで気になっていました。麻理鈴は天然で悪女とは程遠いし、意地悪なライバルたちのことを指すのかと思ったのですが、実はみんな良い人たちで、最終的には麻理鈴と親しくなってしまうし、結局最後まで「悪女」らしい悪女は登場せず。でも、待てよ。天真爛漫さという武器で、誰もの荒んだ心や悲しみまでもやっつけて(=癒して)、みんなを味方にしてしまう麻理鈴こそが本当の「悪女(わる)」なのかなぁ。恋の行方の結果は、最後の最後までお預けです。バブリーな時代のOLを垣間見つつ、麻理鈴の恋が果たして実るのかをドキドキ待ちつつ、最後までとても楽しく読めた作品でした。

ヤング・アライブ・イン・ラブ 完全版

恋とマシンガン

ヤング・アライブ・イン・ラブ 完全版 西島大介
野愛
野愛

この世界を憂えているふりして、お前らとは違う世界の真実に気づいているんだなんて本気で思っていて、そんな自分が痛いことも知ってるけどかっこいいとも思ってる、みたいな人に刺さるやつ!そんなやついるかよ、って自分だよ。大人になっても厨二病のままだしそんな自分可愛いって思ってる。 3.11をモチーフにした作品がぶっ刺さるような時代がまたやって来た。3.11の傷も癒えてないうちに。 非日常を受け入れて見ないふりするのが得意な私達だから、放射能だろうとウイルスだろうと幽霊だろうと当たり前のように日常に馴染ませて一丁前にこわいねえなんて言って生きている。 その中で真実が見えているマコトとマナが出会うのは運命だし必然で。最高にキュートで痛くて愛おしい!!!!霊霊霊霊!!!! なすすべもなく絶望するだけなら主人公じゃなくてもできるけど、ちゃんと開眼して世界を救おうとしてくれるのが西島作品の少年少女たち。世界の果てで絶望しながら愛を育むボーイミーツガールだったら面白くない。 かっこよく立ち向かって、虚構とリアルが混ざり合ったところで、虚構すぎて虚構大爆発なラストシーン。 最初から本当の話なんてしてないってわかってるのに、憤りを覚えるほど気持ちよく終わってしまう。このハッピーな突き放し方がわたしは好きです。 こんなむちゃくちゃな世界で生きてるんだ、好き勝手想像して創造して、思い通り描き変えてしまえばいい。 デビュー作の凹村戦争から揺らがない、やけっぱちな世界のぶち壊し方が最高です。現代を生きる上で読んどいたほうがいい!!闘える!! マナはゲロを吐くシーンが多くて最高にかわいい。かわいい。

群青のアンサンブル~2年3組の生徒たち~

これぞいま読むべき青春群像劇の代表作 #完結応援

群青のアンサンブル~2年3組の生徒たち~ 遠野由来子
nyae
nyae

2巻で完結しているので、騙されたと思ってとにかく読んでみてください…とまずは言いたい。 これは恋愛のときめきを描いた青春というよりも、「自分らしさ」を見失わないように懸命に一瞬一瞬を謳歌する高校生たちの群像劇です。「自分らしさ」と一言でいうとなんだか薄っぺらい気がしてしまうのですが…。 例えば、あのときもっと信頼できる人が身近にいたら、もっと本心をさらけ出せていたら、好きなものを好きと言えていたら、人に合わせたり流されたりだけじゃない青春が送れたかもなあとか、そういう「あと一歩踏み出してればもう少し楽しかったかもしれない青春」に身に覚えがある人にとくに読んでほしい。 個人的な思い出でいうと、高校生活で出来た友人ほぼ全員と卒業式を境に一切の連絡を取らなくなり「そんなもんなの?」とちょっと思ったことがあります。当時は何も思わなかったんですが、今思えばどんだけ中身のない高校生活だったんだろうとゾッとすることもあります。なにかが違えば、そんな薄い関係の友達だけじゃなかったかもなーとか思ったりしましたね。 青春を描いたマンガは星の数ほどありますが、これはそのジャンルの中でももっと評価されるべきと思っています。 「捻くれた漫画しか読みたくねぇんだよ」という人にはオススメしませんが、それ以外の人にはオススメします。