教師を呼び捨てにする、不躾で、でも真っ直ぐな女生徒。養護教諭はその怒り顔と、愚直な愛を気に入る。密かに付き合い始める二人だが……。

♡♡♡♡♡

この作品で印象深いのは、教師の松本律子のスカした表情に対する、女生徒・奥村ななおの真っ直ぐ見つめる怒りの表情だ。

そこにあるのは、どこまでもブレない恋心。

年の差百合の、『星川銀座四丁目』『草薙先生は試されている。』等でも見られる、気の強い年下女子の突破力……なのだが、それにしても、ななおの目力と言葉の強さが凄い。見ていると目眩がして来るその圧力で、ななおは二人の恋を強力に主導していく。

一方松本は、大人っぽくななおを翻弄するようでいて、実は先行きを考えすぎて、恋に二の足を踏む。二人の恋愛で起こる、力関係の転動が面白い。

真っ直ぐな心が、考えすぎて混乱する心を救う図式は、幾つかのサブストーリーの中にもあり、特に過去の恋を引き摺る女教師の話など、切ない。

サブストーリーも含め、『純水ルミネッセンス』という単行本の後半に追加ストーリーがあるので、併せてご覧いただきたい。

読みたい
養護教諭が生徒に貰う、恋の熱にコメントする
ヘレナとオオカミさん
創作者の物語として #1巻応援 #完結応援
ヘレナとオオカミさん
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
作家、画家、漫画家など、創作者の物語はたいてい苦しい。独自の表現を追求する戦いは必ず、己のつまらなさ、発想の貧困、そして個人的な問題とどう向き合うかのせめぎ合いになる。 まだ幼い子どもが創作と向き合うのは、さらに困難だ。絵が上手な本作の主人公・ヘレナは孤児で、弟の命も失われようとしている。そんな中で「願いを絵にしてみよう」と絵本作家「悪いオオカミさん」に言われ、できずに涙を流すが、自分でもその苦しみを理解できていない。 物語を完成させるために「悪いオオカミさん」と共同作業に挑むヘレナは、その過程で作家に煽られ、引っ張られて、自分の本心に踏み込んでゆく……それまで明るく振る舞ってきたヘレナが感情をむき出しにする様に、苦しみを感じると共に、子供らしさを見出して少し安堵してしまう。 泣いて眠った夢の中で見せる心の解決は、切なくも美しい。 ヘレナのあまりの境遇に、彼女の明るさがいつか崩れてしまうことを想像しながら読むことになる物語だが、優しい大人たちの支えでヘレナは心に安寧を取り戻す。そしてその感動的なラストから、さらに彼女が創作者としても成長することまで想像してしまう。ヘレナはきっと素敵な絵本作家になると思う(もちろん悪いオオカミさんとは全然違う方向性で)。 (『ヘレナとオオカミさん』台湾の漫画賞「金漫奨」の年度漫畫奨&金漫大奨をダブル受賞おめでとうございます!)
女だから、とパーティを追放されたので伝説の魔女と最強タッグを組みました
女性差別社会をブン殴れ! #1巻応援
女だから、とパーティを追放されたので伝説の魔女と最強タッグを組みました
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
女性差別がはびこる異世界で、パーティに理不尽な扱いを受けた魔導士の主人公は、八つ当たりの中で伝説の魔女の封印を解いてしまう。二人が手を組みパーティへの復讐を目指す物語は、現実世界にもある女性差別を数多く描き出す。 現実世界での女性差別は、とても見えにくい。例えば〈女性議員が少ない〉という問題意識に「実力のある女性議員希望者が少ない」「そもそも議員になりたがる女性が少ない」という、もっともらしい反論がある。しかしこれは女性に対する教育の不平等(女性に教育は要らないという意識、入試不正等)や女性は表に出るべきではない(=女性は男性に庇護されるべきだ、女性は家庭を守る人だ)という意識等、社会構造に練り込まれた多様な通念、しきたりが起因していて、それは男性にも、そして多くの女性にも気付かれない。 本作の異世界でも、現実世界で行われる差別が全く同じ形で表現される。主人公は身に降りかかった決定的な差別をきっかけとして、社会にある差別構造を伝説の魔女に教わりながら少しずつ自覚するようになる。主人公と一緒に、私もいちいちハッとさせられる。 魔女に肯定される主人公、主人公が肯定する女性達。世の中のおかしな構図に武力で立ち向かう二人の進撃は痛快だ。難しく考えずに勧善懲悪をなしてゆく水戸黄門的なカタルシスを与えながら、差別構造を分かりやすく描いて「女性差別はこんなに分かりやすく〈悪〉なんだ」と気付かせてくれる。 二人が社会をギッタギタにするのを期待したい。
琥珀の夢で酔いましょう
付箋を貼って読む漫画
琥珀の夢で酔いましょう
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
こんなに寄り添ってくれるメッセージに溢れた、胸熱くなる作品ってそんなにあるだろうか……大好きすぎるので6巻までを再読して、大切なところに付箋を貼ってゆく。 クラフトビールの話題が満載な本作。しかしそれと同じくらい、苦しい人・心折れそうな人の再生を描いて切実な物語でもある。 就労地位格差、身体的特性、人種差別、男性性に脅かされる女性性、性差別……さまざまな苦悩を秘めて生きる、大人になりたての登場人物たち。しかし彼らはクラフトビール専門店「白熊」で、次第に前向きになる。 クラフトビールを盛り上げるべく、打たれる幾度かのイベント。好きなものを学び、広げながら、人と繋がる。出会いの中で、自由へと解放されてゆく人たちに共振する……何かを始めたくなる! 燻る現状を告白し合うことで、主人公の派遣デザイナー・七菜は女性俳優の慎と同志になる。ピアノを諦めた同級生に、写真家の鉄雄は作品で、いつの間にか何かを伝える。ページを捲るたびに心が沸き立つ。 一方随所で、冷静かつ痛烈に、私の中にある残酷さ、思い込みや偏見を言葉にして伝える。はっとさせられたり、胸が痛くなったり。それでも西陣麦酒のブランドコンセプト「多様性(ダイバーシティ)と社会的包摂(インクルーシブ)」を取り上げ、ビールを介した人の輪の中でエンパワーメントの連鎖が起こるビジョンを語る本作は、とても力強く優しい。 私の本は、付箋でいっぱいになった。特に3巻と5巻が多いようだ。お読みの方はどうだろうか。
ローラ・ディーンにふりまわされてる
恋愛クズに振り回されるな! #1巻応援
ローラ・ディーンにふりまわされてる
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
「恋愛クズ」という存在は確かにいる。自分がモテることに自信があって、恋愛をゲームのように楽しんで、いつも自分が好かれていないと嫌で……という人物であると気付いた時には既に振り回された後。あぁぁクズ、お前に割いた時間を返せ! 本作の主人公は、人気者のクズ女に振られては復縁し、を繰り返す女子。別れるたびに友人達に慰められるけれども、何が辛いってクズ女しか見ていない主人公が、次第に親友をなおざりにしてしまうところ。 舞台はアメリカの、同性愛もポリアモリーも当たり前になっているコミュニティー。そこでは多様なパートナーの形、恋愛の形が描かれ、女性同士の恋愛も当然のことと描かる。それゆえ視線は別の点にフォーカスされる。 画面がとてもPOPだったり、ちょっとサイケだったり。ピンク+スミの二色で鮮やかな画面が楽しく、しかしそのピンクは、恋愛に振り回される主人公の閉塞感、息苦しさを演出するようでもある。 恋愛にはまり込んで大切な物を失うのはもったいない、ということがひしひしと伝わる。もっとバランスよく恋愛できないのか……とヤキモキし、渦中にいると気付かない恋愛の難しさに思いを馳せ……と一段上の次元に視点を誘う本作。恋愛と人生の見方がクリアになる、かも。 ※余談だが、本作の「恋愛クズ」はポリアモリーなのかというと、「当事者同士で合意をとった上で行う複数間の関係」がポリアモリーの定義で、それには当てはまらない。作中でも「ノンモノガミー」と紹介されている。
スピン
迷走する私とフィギュアスケート
スピン
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
フィギュアスケートを惰性で続けている少女の物語。なまじ出来てしまうことに加えて、ある理由でフィギュアスケートに固執している主人公。やりたくはない、けれどもやめられない、という苛立ち・うんざり感……一冊を通じて、鬱々とした気持ちに支配される。 周囲が全てクソという認識。生きづらさ、世界に受け入れられない絶望感。解決策が無く、無力感を共有することになる。 しかし、ぐいぐいと読めてしまう。そこにある無力感は、過去の私も持っていたものに似ているから。 学校でも、リンクでも、うまくいかない主人公。彼女を支えるのは、それぞれの場所で彼女を受け入れる女性たち。おかげでぎりぎり立っていられる主人公に感情移入する。 過剰に女性の支えを求める理由の中には、彼女の同性愛もある(作中ではゲイと表現)。そこにはときめきがあるものの、決して受け入れられないだろうという諦めが彼女をいっそう荒ませるのが辛い。 幼少期から思春期にかけての迷走は歯痒いし、自分と照らし合わせるのも辛い部分がある。一方で心の奥底で同調し、その辛さがどう癒されるのかを追いたくもなる。 起こる出来事に一貫性が無く、突然なのがリアルに感じる。作者の自伝として、恐らく自分の感情に向き合って、歯を喰いしばって描いたのだろう生々しい描写に触れて、ひどく動揺している私がいた。
守娘
台湾怪奇譚と抑圧される女性 #1巻応援 #完結応援
守娘
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
『陳守娘(タン・シュウリョン)』の伝説を題材にした物語は、墨っぽい美麗な作画で幻惑と苦悩の物語へと私を誘う。 舞台は清代の台南。不思議な祈祷師・守娘と出会うのは、名家のお転婆お嬢様。彼女は謎の水死体を皮切りに、様々な女性の苦しみの声を聞き、寄り添い、行動し……そうしてある巨悪の構造に巻き込まれてゆく。 彼女は当時の女性達がする、纏足をしていない。その分自由に走れる彼女は「女性のために」走る存在。一方で守娘は主人公を導くが、彼女自身も元は苦しむ女性であり、意外と無力な存在でもある。 描かれるのは、女性にあまりにも厳しい家父長制社会。そこで女性達は神や霊に縋り、まじないに頼り……その社会構造を恨むのではなく、その社会構造をなんとか生きのびようとする。その理不尽に、男である私は言葉を失う。 さらに描かれるのは、人間社会の恐ろしさに対する霊的存在の無力さ。膨大な怨念が、せいぜい足に痣を付けて何かを知らせることしかできない。でも、それをきっかけに何かが変わる時……そしてやはり無力な守娘がお嬢様に「諦めない事」を伝える時、そこに残る僅かな希望に安堵する。 しかしその希望を前にして「この時代に生まれなくて良かった」と男の私は言いたくない。この怨念と希望は、何千年も受け継がれ、そしてこのままでは、これからも受け継がれる物だから。 この物語にある「女性の抑圧」は、恐らくあらゆる時代の女性に接続する。『アンナ・コムネナ』は千年前の皇宮でも女性は不自由だった事を描き出す。そして『女の子がいる場所は』は現代の世界中・そして日本の少女への抑圧を描く。 今を生きる男の私は「抑圧はなくなった」「差別は解消しつつある」と簡単に言ってしまいそうになる。しかし現在も抑圧される女性は存在し、その言葉は彼女たちにも届くかもしれない。彼女たちははどう思うだろうか。 この事はあらゆる差別・抑圧に通じる。苦しみは私に見えない所で生まれ続けるだろう事を、忘れずに言葉を紡ぎたい。
ネコと海の彼方
幼いロマンシスと喪失の海 #1巻応援 #完結応援
ネコと海の彼方
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
本作を読み終えて数日が経った。その印象はあまりにも鮮烈で、私は日々の隙間を見つけては主人公と、彼女の大切な人について考える。美しい友愛と、その喪失を。 主人公を暗闇から助け出してくれたあの子。二人の日々は眩しくて、私は自身の幼い恋や友情を思い出す。 ナイショがあってもいい、寄り添うことが相手への想い。そんな二人だけの独特な関係に、心温まりつつ強く魅了される……それだけに、後半の展開は辛い。 主人公は単純に悲しむだけではない。その言動はキューブラー・ロスの「死の受容5段階」がモデルにあるのだろうか。喪失を否定するように怒ったり、取り戻そうとしたり。 「彼女を留めておきたい、忘れたくない」という強い想いはしかし、足掻けば足掻くほど苦悩の深みに嵌まっていく……絶望感を共有する。 しかし生き残った人には、明日が来る。 恐らく友情も恋も、人生の目的ではない。それは人生を支えるもの。大切な物を沢山くれた、特別なあの子を特別なままに相対化する主人公の、漆黒の海に夜明けは来る……その静かで晴れやかな終局は、今もさざなみのように心に打ち寄せる。
銀太郎さんお頼み申す
未知の文化に飛び込む勇気
銀太郎さんお頼み申す
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
この作品で印象深いのは「言葉の通じなさ」だ。 カフェ店員の主人公女性が、お客の着物美女を師匠と仰ぎ着物文化に入ってゆく物語だが、この主人公、徹底的に素人。文化が違う。 師匠が発した言葉が誤変換されて主人公に届くやりとりが面白いのだが、そこにあるのは完全な文化の断絶。懸命に喰らいつく主人公だが、一つの用語を理解するまでがもどかしい。 私は着物文化に憧れて、いくつかの着物マンガ(『恋せよキモノ乙女』『またのお越しを』など)を読むのだが、知識が足りずについてゆけないことがある。詳しく解説がついているにも関わらずだ。 『銀太郎さんお頼み申す』は、主人公のゆっくりな理解速度が素人の私を置き去りにしない。そして彼女に教える師匠や周囲の女性たちが(時々呆れながらも)きちんと教えてくれるのが良い。失敗のフォローも優しい。 主人公はどうして助けてもらえるのか。それは彼女が本気で喰らいついているから……それくらいしか今のところ思い当たらないが、案外そういうことが大事なのかもしれない。 恐らく私が未だに着物物文化を理解できないのは、そこに入ってゆかないから。一方本作の主人公は無知だが、自分の求めるものはこれと決めて飛び込み、上手くいかなくても諦めず、少しずつでも成長を喜ぶ。そんな姿勢が文化を楽しむための、いちばんの「センス」だとしたら……そう思うと、不器用な彼女を羨ましくさえ思った。
琥珀の貴女
喪失と影が生に輪郭を与える百合 #1巻応援
琥珀の貴女
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
あらゆる物事は始まり、終わってゆく。生まれ、死んでゆく。物語も、恋も、そして命も。 死の波打ち際で生を振り返る時、または仮初の死から生還するとき、生は強く輝く。あるいは現実感がない喪失は、反芻していつまでも心を縛る。喪失が生きることに、輪郭を与える。影が光の世界にディテールを与える。 そんな影と光が描かれるのが、この大人百合短編集だ。強い物語も、ふんわりとした物語も、そこには喪失や影があり、それゆえに登場人物たちは複雑で、切実になってゆく。 どの物語もなかなか真相が明らかにされず、ショッキングな体験をくれる。そしてその核を貫くのはまごうことなき百合だ。昏くても明るくても、その百合は暗闇に差す細い光のように印象的だ。 ●chandelier 恋を失い死を願うレズビアン風俗のキャストは、好きな人との予行練習だと言う客に惹かれる。死の淵で手を取る二人。 ●ふたりの楽園 政略結婚に臨む花嫁と、彼女を束縛する幼馴染。昏い関係の真実に驚く。 ●えりちゃんのハイヒール 二丁目で私にキスをした、ゴツいハイヒールの小さな女性。たまさかの出会いと不在にぼんやりと心を縛られる感じ、なんかわかる。 ●水際 レズビアン風俗の30代のキャストは日本画の大家の女性にモデルとして雇われる。「よぼよぼのババア」に惹かれてゆく恋は強力だった。 ●転石苔むさず バイト先の苦手な先輩を、一晩泊めてやる。一瞬近づき、離れてゆくその距離感をこちらも想像する。 ●ひかり 母を亡くした新興宗教二世は、昔世話してくれた信徒の女性のために「神の子」になる。信頼を巡る物語は複雑に正しさを挫いてゆく。すごいものを見た……。
ホントは出汁たい山車さん
温かいお出汁と愛情と #1巻応援
ホントは出汁たい山車さん
兎来栄寿
兎来栄寿
『ちいかわ』で出汁編が繰り広げられているいる今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。 出汁、良いですよね。 普段は昆布や鰹節から取るような手間暇はなかなかかけられないですが、たまに旨味たっぷりの出汁を取って美味しくいただく贅沢はたまりません。イノシン酸とグルタミン酸が生み出す旨味は脳と体に刻み込まれています。 『だもんで豊橋が好きって言っとるじゃん!』や『森田さんは無口』の佐野妙さんが描くこの作品は、営業2課の佐藤類(さとうるい)と経理部の山車香織(やまぐるまかおり)のふたりを中心にした、冒頭からハッピーエンドがカットバックして始まるほんわか社内ラブコメ×出汁グルメマンガです。 会社内でも出汁を引くほどさまざまな出汁に精通している山車さんから、奥深くありながらも以外と簡単に楽しむことができる出汁のいろはを伝導されていく類。 基本の鰹節や昆布から始まり、コハク酸たっぷりのアサリやグアニル酸がたっぷりながら類が苦手な干し椎茸などさまざまな種類の出汁の産地やそれらを用いた美味しいレシピなどの蘊蓄を読みながら楽しく類と一緒に学んでいけます。 出汁というと手間暇がかかるイメージが強いと思いますが、忙しい日常でも意外と手軽にできるもの(カップ麺にひとかけらの真昆布を入れるなど)も紹介されており、自分でも実践したくなります。ハンバーグにとろろ昆布を入れるのも美味しそうです。 そして、この作品はラブコメとしてもとても上質。会社ではクールで少し怖いイメージすらあった香織が、出汁のことになると饒舌になり柔らかく温かい雰囲気を出しながら美味しい料理を提供してくれるギャップ。四字熟語を多用する黒髪セミロングストレートヒロインを私が好きでないはずはありません。類も類で、素直で明るく真面目で少しヘタレな性格が好感を持てる主人公で、彼らをはよくっつかんかい! とばかりに煽り立てるサブキャラクターたちに同調しながら応援したくなるナイスカップルです。 優しく穏やかなふたりが、少しずつ少しずつ距離を縮めていくこの感じ。社会人の恋愛としては非常に純朴なやり取りが、まさに滋養に満ちた温かい出汁をいただいているときのようなほっと安心する満足感を得られます。たまにはこういう澄んだものをいただきたい……そんな気持ちが充足します。 出汁に詳しくなりたい方、穏やかな大人の恋愛物語を楽しみたい方におすすめです。
波うららかに、めおと日和
とってもキュンキュンな戦前ラブコメ
波うららかに、めおと日和
ゆゆゆ
ゆゆゆ
タイトルで戦前と書きましたが、応仁の乱以前の話ではありません。日中戦争間近の横須賀が舞台です。 むっつり無愛想な瀧昌と、日常生活以上のことを知らないおっとりとした女の子のなつ美。 ロシアとの戦争が終わったあと、中国と戦争をはじめるちょっと前。そんな時代に海軍で下士官をつとめる瀧昌と見合い結婚をしたなつ美。 冒頭で写真だけの結婚式を上げたから、瀧昌は亡くなっているんじゃと少しだけハラハラした。杞憂だった。 二人の初々しい新婚生活に、読んでいてニコニコしてしまう。 なお、軍なので新婚さんでも夫が家にいないこともしばし。 家で待つ間のなつ美の心の揺れ動き(主に瀧昌に対する心配と惚気)と、再会した際の二人のやりとりにほんわかしてしまう。 もちろんファンタジーではないので魔法も異能も出てこない。 さらに、舞台となる時代を考えると暗い未来しか見えないのだけど、今の彼らが素敵すぎでおもわず読み進めてしまう。 ぴゅあぴゅあでキュンキュン。読み終えると、とても良き…とジーンとなれる。 ハッピーエンドじゃなきゃやだよと駄々こねたくなるほど、ステキなラブコメ。
レコード大好き小学生カケル
小学生だって古き良き物を愛さずにはいられない #1巻応援
レコード大好き小学生カケル
兎来栄寿
兎来栄寿
日進月歩のテクノロジーによって世界は日々便利で豊かになっていきます。その陰で、古び消えていく技術や文化もあります。 マンガ業界においても電子書籍が圧倒的な勢いで伸びてきており、その分紙の書籍、特に雑誌の部数は大きく落ち込んでいる昨今。紙の本は段々と贅沢品でロマンの対象としての意味合いを強めていくことでしょう。 また、描き手においても若手はもちろんのことベテランもデジタルに移行する方が増えてきて、スクリーントーンやペン先などはどんどん絶版となってきています。もうアートナイフでトーンを削って気付かない内に爪の間に挟まっていたトーンカスが公の場で突然出てくることもないのだなぁと思うと一抹の寂しさに駆られます。 しかし、荒木飛呂彦さんのようにあくまでフルアナログにこだわる方も一部にはいます。どんな世界にも一定数いる、古き良きものを愛し続ける人の姿は良いものです。 『頭文字D』で、ハチロクに乗り続ける拓海のこだわり。 『16bitセンセーション』で、守が見せるPC98へのこだわり。 太正浪漫であったり、昭和レトロであったりに惹かれる心は多くの人にあるものでしょう。 変化こそが世界の摂理であり、たゆまなく変動していく環境に適応できなかった者から亡びていくのが定めです。それなのになぜ人はこうもレトロなものに言いようもない憧憬を覚えるのでしょう。 人間も必ず老いる生き物であり、自分もいつか古い人間になってしまう瞬間が訪れるのでそんな自分に重ねる部分もあるでしょうか。 古いものであるが故に蓄積された物語や思い出があり、そこに惹かれるからでしょうか。 ともあれレコードというのもまたノスタルジーと共に憧れをもたらしてくれる存在です。 本作は、レコードを愛し日本一のレコード屋になることを夢見る少年カケルが、周囲の友人たちを巻き込みレコード道を邁進する物語です。 『ドラえもん』のパロディである絵柄とキャラクター配置でかなりギャグ色も強いのですが、その中で本気で奏でられるレコードへの愛の調べが秀逸です。 「ゆで卵カッターで全身をスライスされたような衝撃」 というカケルの原体験。 そのカケルとまったく同じ所感を抱き、 「レコードには…スマホにない音の奥行きや広がりを感じる! 音像がまるで別物だ…」 と初めて触れる魅力に打ちのめされながらも相撲部としての活動の合間で翻弄されるデス夫(1P目の登場シーンで「俺様の夢はGAFAを買収してIT企業の頂点に立つことです!」と言い放つのも最高です)。 デス夫の思い人であり、カケルを通して初めてレコードに触れるヒロインのえみるちゃん。 彼女もまた 「フードプロセッサーで粗挽きにされた感じ」 というインプレッシブな表現力と、レコードをフォークボールの握りで持つなど独自の世界観を持つ少女です。 その他にも癖の強い特徴的なサブキャラクターたちが多数登場し、カケルのレコード道を盛り立てていきます。 おおひなたごうさんらしい、シュールな笑いもそこかしこに散りばめられています。個人的にお昼休みの放送の校長インタビューのテーマが「なぜ作文の宿題にChatGPTの使用を許可したのか?」なのも好きです。デス夫がカケルに対して持つ複雑な感情を基軸に物語がパワフルに駆動していくのも良いです。 しかし、何より最高なのはやはりレコードに対する並々ならぬパッションです。レコードにまったく触れたことがない人であっても、ここまで熱くレコードの魅力を語られてしまっては「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」や聖子ちゃんの曲をレコードで聴きたくなることでしょう。 あとがきを読むと、この作中の熱量も納得です。今は自宅にもうレコードを聴ける環境はないですが、レコードをかけてくれるお店に行ってその音色に耳を傾けながら改めて読み直したくなる作品です。
ホントは出汁たい山車さん
温かいお出汁と愛情と #1巻応援
ホントは出汁たい山車さん
兎来栄寿
兎来栄寿
『ちいかわ』で出汁編が繰り広げられているいる今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。 出汁、良いですよね。 普段は昆布や鰹節から取るような手間暇はなかなかかけられないですが、たまに旨味たっぷりの出汁を取って美味しくいただく贅沢はたまりません。イノシン酸とグルタミン酸が生み出す旨味は脳と体に刻み込まれています。 『だもんで豊橋が好きって言っとるじゃん!』や『森田さんは無口』の佐野妙さんが描くこの作品は、営業2課の佐藤類(さとうるい)と経理部の山車香織(やまぐるまかおり)のふたりを中心にした、冒頭からハッピーエンドがカットバックして始まるほんわか社内ラブコメ×出汁グルメマンガです。 会社内でも出汁を引くほどさまざまな出汁に精通している山車さんから、奥深くありながらも以外と簡単に楽しむことができる出汁のいろはを伝導されていく類。 基本の鰹節や昆布から始まり、コハク酸たっぷりのアサリやグアニル酸がたっぷりながら類が苦手な干し椎茸などさまざまな種類の出汁の産地やそれらを用いた美味しいレシピなどの蘊蓄を読みながら楽しく類と一緒に学んでいけます。 出汁というと手間暇がかかるイメージが強いと思いますが、忙しい日常でも意外と手軽にできるもの(カップ麺にひとかけらの真昆布を入れるなど)も紹介されており、自分でも実践したくなります。ハンバーグにとろろ昆布を入れるのも美味しそうです。 そして、この作品はラブコメとしてもとても上質。会社ではクールで少し怖いイメージすらあった香織が、出汁のことになると饒舌になり柔らかく温かい雰囲気を出しながら美味しい料理を提供してくれるギャップ。四字熟語を多用する黒髪セミロングストレートヒロインを私が好きでないはずはありません。類も類で、素直で明るく真面目で少しヘタレな性格が好感を持てる主人公で、彼らをはよくっつかんかい! とばかりに煽り立てるサブキャラクターたちに同調しながら応援したくなるナイスカップルです。 優しく穏やかなふたりが、少しずつ少しずつ距離を縮めていくこの感じ。社会人の恋愛としては非常に純朴なやり取りが、まさに滋養に満ちた温かい出汁をいただいているときのようなほっと安心する満足感を得られます。たまにはこういう澄んだものをいただきたい……そんな気持ちが充足します。 出汁に詳しくなりたい方、穏やかな大人の恋愛物語を楽しみたい方におすすめです。
ミカコときょーちゃん
ラブストーリーが突然に #1巻応援
ミカコときょーちゃん
兎来栄寿
兎来栄寿
映画化もされた『殺さない彼と死なない彼女』の世紀末さんが、新たに描く男女のお話です。 最初は、ひたすらゆるいカップルがいちゃいちゃしている4コマなのかな? と思いました。お互いに相手のことを無限に「かわいい」「かっこいい」と言い合う、仲睦まじいきょーちゃんとミカコさん。日常の些細なことを楽しんだり、煩わしく思うことも世界でたったひとりの相手がいれば何でもなくなってしまったり。 代え難い、ただひとりの相手。ずっと一緒にいたいと思える相手。でも、そんな最愛の人がある日突然世界からいなくなってしまったら。 誰しもいつ何が起こるかわからないものだとわかってはいても、実際にそういうことが起きてしまった時には人はどうしようもなくなります。受け入れるのにどうしたって時間はかかるし、一生受け入れられないままかもしれません。 どこにでもありふれたふたりのカップルのやり取りは、ひとつの出来事を境にまったく意味を変え見え方を変えてしまいます。ただ、少なくとも心から自分の幸せと笑顔を願ってくれた相手と他愛もない時間を過ごすことができたという事実は永遠に残ります。 どうでもいいようなこと、明日には忘れているようなことのひとつひとつの欠片が何よりも貴くてかけがけのないものであるということを、改めて示してくれているようです。 今なら当たり前にできることが、いつか当たり前にできなくなってしまう。当たり前ではなくなってしまう。そうなる前に今できることをひとつひとつ大事にして、何でもないことを大切にして生きていきたいと思わせられる物語でした。
波うららかに、めおと日和
とってもキュンキュンな戦前ラブコメ
波うららかに、めおと日和
ゆゆゆ
ゆゆゆ
タイトルで戦前と書きましたが、応仁の乱以前の話ではありません。日中戦争間近の横須賀が舞台です。 むっつり無愛想な瀧昌と、日常生活以上のことを知らないおっとりとした女の子のなつ美。 ロシアとの戦争が終わったあと、中国と戦争をはじめるちょっと前。そんな時代に海軍で下士官をつとめる瀧昌と見合い結婚をしたなつ美。 冒頭で写真だけの結婚式を上げたから、瀧昌は亡くなっているんじゃと少しだけハラハラした。杞憂だった。 二人の初々しい新婚生活に、読んでいてニコニコしてしまう。 なお、軍なので新婚さんでも夫が家にいないこともしばし。 家で待つ間のなつ美の心の揺れ動き(主に瀧昌に対する心配と惚気)と、再会した際の二人のやりとりにほんわかしてしまう。 もちろんファンタジーではないので魔法も異能も出てこない。 さらに、舞台となる時代を考えると暗い未来しか見えないのだけど、今の彼らが素敵すぎでおもわず読み進めてしまう。 ぴゅあぴゅあでキュンキュン。読み終えると、とても良き…とジーンとなれる。 ハッピーエンドじゃなきゃやだよと駄々こねたくなるほど、ステキなラブコメ。
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