影絵が趣味
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1年以上前
『ちびまる子ちゃん』で世に知られるさくらももこには隠れた名作がある。それは読み切り作品として『ちびまる子ちゃん』の各巻末に収録された『ほのぼの劇場』である(現在は文庫版にして上下巻にほのぼの劇場のみを抜粋したものがある)。 ほのぼの劇場は、いわば"永遠の小学3年生"まる子の前後譚であり、幼稚園生の頃からデビュー前後ぐらいまでの出来事がまちまちに描かれている。はじめて鼻血を出した日、マンガ家デビューが決まった日、小学6年生の運動会、盲腸になった日、高校3年生の失恋、はじめての雪遊び、はじめてディスコに行った夜、大好きな担任先生の転任、はじめての一人暮らし、ある友人の転校、受験生の夏、等々、能天気に小学3年生をくりかえす『ちびまる子ちゃん』本編とはうって変わり、そのどれもが人生においてたったの一度切りしか起こりえない"あの頃"として描かれている。『ちびまる子ちゃん』にしても作品背景こそノスタルジックなあの頃にはちがいないが、ちびまる子ちゃんはあくまでも過去を振り返らない現在進行形であり、つまり現在から果てのない未来に向かって描かれ、それゆえに"永遠の小学3年生"でありつづける。いっぽうで『ほのぼの劇場』は、起こってしまった一度切りのかけがえのない体験を、つまりもはや取り返しのつかない不変の過去を現在から観照して描いている。 『ほのぼの劇場』を読んでまず読者は、小学3年生時点からみて過去のまる子/未来のまる子が「まる子」と呼ばれていないことに驚きを隠せない。ここではあの馴染みのまるちゃんが「ももこ」や「ももこちゃん」や「ももこさん」と呼ばれているのである。"ももこ"とはもちろん作者さくらももこの"ももこ"にほかならない。ところが驚くもなにも、まる子にしても単にあだ名として呼ばれているだけで、それは確かにさくらももこであり、つまり少なからず作者自身の投影として描かれている。あえて作品世界の繋がりを尊重するならば、まる子=さくらももこは小学3年生のときだけあだ名"まる子"で通っていたことになるが、しかしそれにしても『ちびまる子ちゃん』に登場するさくらももこ、『ほのぼの劇場』に登場するさくらももこ、このふたつのさくらももこは単に時間軸の隔たり以上に異質さをもっているように思われる。そもそも『ちびまる子ちゃん』の劇中のまる子=さくらももこというものに対して、作者さくらももこという存在は、作品の内外のそこかしかこに介在していながらあまりに希薄すぎはしないか。平仮名で書かれた"さくらももこ"というベタすぎるペンネームからして他の文字群に混ざって雲散霧消してしまいそうである。つまり『ちびまる子ちゃん』にとって主人公まる子は作者の投影でありながら、そこに作者は不在というより透明になり姿をくらましているのである。いっぽうで『ほのぼの劇場』の主人公には、単に名前の呼ばれ方がちがうという以上に、作者さくらももこの存在がそこここに見え隠れしているようには思われないか。『ほのぼの劇場』は透明な作家さくらももこが姿を現した唯一の作品ではありはしないのか。 ところで『ほのぼの劇場』から作者の人間くささがしてくるのは、それが現在から過去を描いていることに関係してはいまいか。過去というものは今ここには存在しない代わりに決定事項であり不変である。いっぽうで未来とは可変である、可変であれば先行きはわからない。先行きがわからないという意味での不透明という言葉があるが、透明すぎても何もみえない。さくらももこの透明性とは実はこのどこまでも続く現在進行にあるのではないか。
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)
1年以上前
「キングオブコント2013」王者、お笑いコンビ「かもめんたる」の鬼才・岩崎う大が、混沌とした変態たちの思考を丁寧になぞっていくヤバすぎて笑えてくる短編集。 漫画という媒体で、身体や舞台といった物理的な制限から解放されたコント師の妄想力が行きついたところには、哀しき変態達の楽園が広がっていた…!! 間違いなく、2010年代を代表するサブカル漫画になるであろう超傑作! 変態万歳!人間万歳! かもめんたるさんのコントとか深夜ラジオ好きな人は絶対好きだし、漫画だったら宮崎夏次系、渋谷直角あたり好きな人はぜひ手に取ってみてほしい! とんでもないものを読んでしまった…。 と、もはや放心状態の読後感。 脳髄のど真ん中をクソがこびりついたトイレブラシでゴッシゴシかき回されたような感じ。 読んだ後はしばらく壁の染みを一心に見つめていた。 あの話のアイツがヤバすぎると誰かと早く話したくってしょうがない。 本人のネタを見れば分かるが、かもめんたるさんはワードセンスがずば抜けているので、ひょっとしたら耳で聞くより、絵と共に目で見た時の方が破壊力として凄まじいものがあるかもしれない。 ページめくって最初の短編「イクオの秘密」にガツンと頭を殴られたような思いなので、一旦、コレだけでも読んでもらっていいですか? 試し読み→https://estar.jp/_comic_view?w=24746312 読んで心の琴線がチギれるヤバイと感じたら速攻で購入した方がいい。 他の話も大概ヤバイ。 ヤバすぎて自分の語彙力が無くなっていくのが分かる。 ヤバ面白い短編が11本もあるからもう満足度がすごい! 濃厚で濃密な人間の狂気、業、性(さが)、愛が溢れている。 自分が高校生のときにこれを読んでいたら今とは全く人生を歩んでいるかもしれない。 よかったらこっちの試し読みも→https://comics.shogakukan.co.jp/book?isbn=9784778034061 そんな『マイデリケートゾーン』著者のかもめんたる・岩崎う大さんが出演するライブ&サイン会が9/1にあるから参加してみては? https://peatix.com/event/415349