まみこ
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2023/07/12
ネタバレ
素敵なDIY、楽しい貧乏
売れない漫画家、山田ブンが、日々の生活をそれなりに、幼い頃からの友達、ぬいぐるみのホクサイと楽しく生きる! 料理と食べることに人一倍貧欲な主人公が、貧乏なりに自分で頑張って美味しい料理を作る! …と言うか、ボロいぬいぐるみのホクサイって、フツーにイマジナリーフレンドですよね?え?大丈夫? でも、途中で友達になる乙女さんも、それを許容してくれる優しい人間関係で包まれているので、全然嫌な気にはならないです。 表紙から分かるように、随所に魚眼レンズっぽい俯瞰だったり、広角レンズっぽい画像描写が出てきます。でも、実際に描写されるのは、貧乏と工夫とそれを楽しむ生活、と言う二枚底の建付けなんですね。 更に言うと、食漫画の基本である、女の子が「んー☆」とか言うシーンが無いです。と言うか、作って食べようかとするシーンで終わります。食べないんですね。これが一つのギミックであって、この作品を特別なものにしていると思うのです。 作品の合間に、作者、鈴木小波が実際に作った料理写真が載った補足ページが挟まるのですが、実はあんま美味しそうに見えない、と言う。これが作者の作画術の証明でもあるんですね。 …後、この作品の舞台は、足立区北千住。わたくしが今住んでいるところから、駅一つ、ちょくちょく見ている風景が出てきて、フフッって感じになります。
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2023/06/13
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きれいに収まらなかったけど、それで良いではないですか
主人公、北丘蒼太の口癖「なんも、なんも」を、地で行く終わり方でした。 正直、打ち切りで、収録されなかった話もあるのですが、このエピソードとトピックで終わって良かったのではないですか?と言う感じです。 『新・蒼太の包丁』の出発点が目指したのは、「2020年の東京オリンピックを迎えるにあたって、インバウンドに向けた、銀座ならではの料理と接客、おもてなしの心」がありました。まぁ、現実はご存知の通り。悲しいことに、そうはなりませんでした。 なので、2021年前後の掲載エピソードを含む、第4巻から壮絶に迷走します。まぁ、現実が大きく迷走している以上、噺もそれを避けられなかったのです。 前作から、相変わらず、富田さつきはクソ女のままですし、主人公、北丘蒼太は、なんであんなクソ女のことが好きなん??という気持ちと、赤瀬雅美の優しさと健気さが交差する!!と言う、読者にはつら過ぎ展開。やっと終わってくれて良かった、と言う気持ち半分です。 後、最終巻で、赤瀬雅美が里帰りした時、普段は丁寧で優しい口調の彼女が、ガチな岡山弁になるのが良かったですね。
まみこ
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2023/05/28
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四季折々の美味しい料理
この漫画のタイトルから、「四季折々の彩り良い美味しい料理が楽しめるんだろうなぁ」と思った皆様! 残念ながら、そういう幻想は、第一話目から、木っ端微塵に打ち砕かれます。 鼻っ柱が強くて、高慢ちきで、妥協しない、女性主人公が、とにかく敵を作りながらも、実力でねじ伏せていくのです。 フードコーディネイター如月彩は、依頼があれば、依頼人の感情を平気で無視して、流行らない店も繁盛させるように作るし、そのためには、近隣の飲食店を潰すことも躊躇しない、というか、潰しにかかることですら、自分の能力の一環として、平然と行うのです。 週刊漫画TIMESのグルメ漫画は、基本誰も傷つけない、優しい人情噺がベースばかりだったので、最初読んだ時はびっくりでしたが、こう言うのがあってもいいかな、と言う感じです。 話にはトゲっぽいのもあるんですが、「料理店は美味しい料理を出すべき」と言う、と言う極々自然なベースが根底にあるので、全然嫌じゃないですね。 ラストは、如月彩の親父さんの無念を晴らすための、料理バトル正面衝突一騎打ちなのですが、でも、この絵柄でここまでヒリヒリしたバトル、まだ読んだことない人には是非ですわ。
まみこ
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2023/04/28
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悲しいまでに美しい、最後のワルツ
勿論、タイトルは、The Bandの解散コンサートを撮ったドキュメンタリー映画、"The Last Waltz"から取られています。 …のように、'70年代末辺りに、ロックやブルーズにハマった、中年、と言うか初老男性の音楽遍歴の自分語り、それも自己陶酔が過ぎて少々気持ち悪い感じ、で構成された奇妙な一冊です。 …とは言え、やっぱり画力は流石なんですよね。 楽器って、本当に銃とかバイクと同じ、精密機器なので、正しく描かないと、説得力無いんですよ。今となってはビンテージになったギターの、ペグやブリッジ、フレットの一本一本まで細かく描く、それに向き合う姿勢、全然イヤじゃないです。 Amazonのレビューでも書かれていましたが、「漫画ゴラクより、リットーミュージックあたりで連載した方が良いんでないの?」は、全くの正論ですわ。 実は、この単行本に収録されなかった、悲劇の最終回があります。 作者は、2巻に向けて、話を考えたりネームを切っていたのですが、打ち合わせの時に、担当編集者と営業担当に、「1巻の予約の数字が、目標に到達しなかったので、このまま打ち切りです」と非情な宣告を受け、心が折れてしまうのです。 「1巻の予約の数字で、その後の連載継続が決まる」と言う日本文芸社/漫画ゴラクのシステムを、ハッキリ意識したのは、これが最初だったのかもしれません。 でも、描写はされなくても、最後のワルツは、終わることなく、ずっと続いていくんでしょうね。そういう変な余韻のある一冊です。
まみこ
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2023/04/25
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ラーメンが食べたくなります
ラーメンを題材にした漫画には、構造的な問題があります。 「枯れている料理であるが故、そのためには表層的ではない旨さを描く、そのための手法/技術を、絵で説得しなければいけない」 …と言うものです。 え?めちゃくちゃ難しいですよ、これ! 生きることに絶望した三人、婆さんを亡くしたラーメン屋の爺さん、友人に裏切られてしまった女子高生、砂漠の中で遭難してしまったグルメ評論家、それぞれが一杯の塩ラーメンのために最後に集結する。 勿論、食べることと生きることは直結しているのですが、更に踏み込んで、もつれた人間関係も、自分の生きたい道を伝えることも、自然と紐解かれていく。そういうお話です。 そのためには、舞台を新櫃ウイグルの山脈と、群馬県の小都市を交互に行き来させることで、説得力を持たせているんですね。 今のグルメ漫画は、大概、作者や原作者が、実物をデジタルカメラで撮って、それを取り込んで加工、またはトレスするのが普通なのですが、この漫画はそれをやってないですね。そのシンプルでも、きちんと美味しそうに見えるのは、実物のシンプルだけど力強い一杯、これがないと成立しなかったでしょう。 麺を綿棒で打つ、出汁を取る、味見をする、湯切りする、と言う極々地味な作業の一つ一つが愛おしいのです。 …後、最後のオチとしては、最後までラーメン屋になることを反対していた、コジマの母親が、フツーにフロアのバイトとして入ってるコマでしょうか(?)
まみこ
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2023/04/22
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魂の行方
ラーメンを題材にした漫画には、構造的な問題があります。 それは「(所謂)ラーメンハゲが、大体の結論を、もう既に言っている」ということです。 特に、味や技法については、『ラーメン発見伝』で、あたかも最初から既知であるかのごとく、スッと結論を述べるので、そこに至るまでの先人たちの試行錯誤と研鑽の積み重ねが、全く伝わりません。 別に、ラーメンは、友情努力勝利じゃないので、それでいいのだ、と言われそうですが、でもね、と言う感情もあります。 そこら辺のモヤモヤしたものを、一掃してくれるのが、このシリーズなのです。 1巻2巻は、名物ラーメン店創始者傑物人物伝、とも呼べる物で、とにかく熱意体力情熱気力で、ゼロから店を起こし、繁盛店に持っていきます。 基本的に、登場人物は、大概他業種から経験ゼロで修行もそこそこに挑んだ人達ばかりですが、全員「ラーメンが好き」「お客さんのよろこぶ顔が好き」と言う共通点があります。そして、大変な困難に面しても、それなりの成功を手にした後でも、それを絶対手放さない、と言う描写がなされます。 ある種の浪花節かもしれませんが、そうでないと得られない心の揺さぶりもあります。 さて、現時点(2023年4月)で、振り返るとどうでしょうか。 「ちゃぶ屋」はブランドごと消滅して数年経ちますし、「春木屋」も「なんつッ亭」も企業に買収されてしまいました。 なによりも、このシリーズで最も印象に残る人物、佐野実、山岸一雄、そして原作の竹内伸は、もうこの世にはいません。 だからこそ、この熱意体力情熱気力の結晶のようなストーリーの数々は価値がありますし、これからもその意味と価値が失われる事は無いのでしょうね。 今なら無料で全話読めるみたいです。 https://www.mangaz.com/series/detail/194931
まみこ
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2023/04/21
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丼と人情
主人公、米野国崇は、農水省の下っ端役人で、落ちこぼれっていうか、グータラとは違うかもだけど、普段はイマイチ。彼と、新人女性役人、及川栞が組んで、農水省の肝入りプロジェクト、…とは名ばかりの、食堂「丼ぶり一丁」の運営を任される。 どう考えても、厳しい条件の中、米野国崇は、隠された才能、膨大な素材/料理知識と包丁裁きで、どんどん問題を解決していく。 米野の父親は一流名高い料理人だったが、彼は、自分と妹達を捨てた父親に対して、許せない感情を抱いていたのであった。 …どこかで見た設定ですね。ま、こう言う定番化したクリシェは、もうなくならないのでしょう。 ちなみに、原作の花形怜が、途中のコラムで1977年生まれと書いていて。と言うことは、アニメ版『美味しんぼ』が始まった時は、11歳なので、色々吸収したんでしょうね。 基本的に、一杯の丼ぶり飯で、困った人/困っている人の記憶を呼び覚まし、人間関係と感情を解放するという、食漫画のパターンというか、クリシェなんですが、蘊蓄も軽いものですし、嫌な感情は無いですね。でも、これでよく18話も持たせたよな、と言う感じも。 たった2年程しか存在しなかった月刊雑誌『食漫』の中でも、かなり長い連載だったかもしれません。 …後、やっぱり、国民にもっと米を食べてもらう、という「丼ぶり一丁」の目的の割には、米の味とか蘊蓄とか、全く出てこないのが、今となってはフフッて感じです。
まみこ
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2023/04/13
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探偵と料理
作者、加藤唯史の代表作『ザ・シェフ』は、よく知られるように、手塚治虫の『ブラックジャック』のエピゴーネンです。 「エピゴーネンって何だよ、日本語でおk、物真似って言えよ」 …と言われかねないのですが、物真似とは違った、良さ、意味、味わいがあるのは、一回でも読んだことのある人なら、御存知の通り。グルメ漫画の名作です。 で、この『グルメ探偵りょうじ』は、正直言って、臆面もない『美味しんぼ』のエピゴーネン/パスティーシュです。 グータラ社員が新人女性社員がタッグを組み、困っている人のために向かい、時として天才的な味覚と手腕を使い、料理と会話でその困難を解決する、時に料理バトルもする。大きな存在の親父と、そのために、心労を患って早く亡くなった母親の名誉にかけて、父親にいつか復讐しようとしている。 …そのまんまじゃん。 とは言え、やっぱり違う味わいがあります。料理バトルでは結構な確率で負けますし、料理で人間関係や問題が解決しないケースもあります。いや、結構多いですね。後、探偵として割りと無能かも。 …ダメじゃん。 なのですが、それなりの面白さもありますし、是非読んで欲しいです。 …全然説得力無いですが。 今なら無料で全部読めますしね。 https://www.mangaz.com/series/detail/190681
まみこ
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2023/04/11
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異世界転生、とは違った視点で
逆?異世界転生物語なのは、他のレビューで御存知の通り。 威勢は良い、腕っぷしは強い、女を抱かせるとすぐ堕とす、寿司の握りの腕前は超一流、と言う与兵衛が、ぼんやりしたおっさん耕一に憑依して大活躍の、人情活劇!なんですけど。 でも、もう一つの側面として、今の(所謂)「グルメ漫画」の基本である、「伝統の味ってなんだろう?本当に旨いものなのか?」と言う問いが根底にあって、段々そのテーマが重要になってきます。 寿司屋與兵衛の寿司は、元禄時代の魚のバリーションも少なく、冷凍技術もなく、マグロだって猫またぎと言われる下魚だった時代の、イノベーションであり、それがスタンダードになっていく時代の産物でした。 では、それが今の時代に美味しいと思えるのか?が浮き彫りになってくるのです。 持ち帰り寿司バトルは、そのクライマックスで、與兵衛ではなく、耕一がお客さんに食べて欲しいがために、江戸前のプライドをかなぐり捨てて、シャリもネタも変えるのは、本当に素晴らしいです。 …すみません、わたくし生まれが西日本の人なので、江戸前のシャリが好きじゃないんです(???) だから、ラストの大阪寿司と江戸前寿司のバトルが未完で終わってしまった、これは本当に喪失だと思います。
まみこ
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2022/12/11
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異才×鬼才
とにかくオモシロ・ポイント多過ぎな一冊なのです。 岡村星の、時々出る嫌な暗さが、ここでは大全開。 沙村広明の一人では、出来ないタイプの暗さがあるのですよね。 とは言え、岡村星作品に時々出る、諧謔とかオモシロトークが随所に出て、これがこの作品を特別なものにしていると思うのです。 「樫村一家の夜明け」は、沙村広明テイスト強めで、このアクションカットは、彼にしか描けないよなぁ、と思いつつ。 でも、この引きこもりの長男と、妹、亡くなった母、親父さんとの関係性は、やっぱり岡村星のシナリオが重要なのかな、という気もしています。 「アンチドレス」は、雑誌掲載時には、何も分からん?と思っていたのです。でも単行本で読むと「ミッシングコード」の前フリとして、めちゃくちゃいい話です。 基本的に、岡村星作品は「コミュニケーション不全をどうにかして克服する」が、すべての根底にあるんです。ド直球の「誘爆発作」は途中で挫折しちゃったけど、「ラブラブエイリアン」は、それを優しく包んで出してくれた訳ですし、この作品もそうです。 最終話の志田の「とてもお似合いですね/あなたが綺麗な人だから/ワンピースもとても素敵に見える/本当にステキです」なんて、滅多な覚悟では書けないセリフだと思います。それを三話でまとめて説得力を持たせる岡村星の作劇術、流石の切れ味です。 「ミッシングコード」は、最初話の「樫村一家の夜明け」の長男、樫村タダシと、「ラブラブエイリアン」の篠原サツキが交差する、(所謂)「マルチ・ユニバース」であって、ここがオモシロ・ポイントです。 「ラブラブエイリアン」では、どうしようもない、だらしない生活をやっている篠原サツキが、シリアスな仕事をやっている、のもオモシロ・ポイントですしね。(「ラブラブエイリアン」一巻vol.11 「私だって自分がだらしない事知っているわよ!!」) ラストの独白「そう私たちはやるしかない---だって/今こうして生きているのだから」は、また最初話の「樫村一家の夜明け」の「…人生は厳しい/それでも生きる価値はある」に繋がっていて、この一冊を特別なものにしていると思うのです。 こういう噺は、岡村星の単体だとグズグズになりそうなのですが、四話で収められたのは、流石は旦那さんの力量かなー、と。 強引にまとめると、夫婦合作、と言うのを差っ引いても、お互いに出ないテイストが、導き合って、めちゃくちゃオモシロです。