まみこ2024/10/28ネタバレ1巻と2巻は、また別の話。今回は1巻のお話。もしあなたが、超能力を持っていたら? それを他人に知られたら? 理解不能なモンスターとして、社会から追われる身分になった時? と言う、残酷な設定があります。 主人公、草野慧は、多分未成年で、両親のこともほぼ描かれません。新興宗教組織の建物に幽閉されて生きている。 でも、これしか生きるすべがないのです。 そう言うストーリーを、この柔らかい筆致で描き出されます。 _____ 自らの良心に基づいて、宗教組織を脱出し、あてもない旅に出た主人公を追う、政府組織、宗教団体、政府組織の中でも外れた一人のおじさん、この三つ巴で、色々やります。 最後の、彼女が、政府組織の工作員に対して、(所謂)「能力」を使うシーンは、これはもう息を呑み、手に汗を握る描写です。 本当に、単行本の表紙からは想像もつかない展開です。 ______ 超絶ネタバレなのですが、この後の作者の「銃座のウルナ」は、この1冊が12冊続くような作品なので、是非おすすめです!ミツバチのキス 新装版伊図透2わかる
まみこ2024/09/22ネタバレ誰の声をきけばよい?表紙の、黒セーラー服/黒髪ロングぱっつん美少女、早川涼子は、第一話で死んじゃう(殺されちゃう)のですが、主人公、岸田純を守る守護霊として、ずっと彼を見守って、健気にも助けようとするんです。 いい話ですね。 …なんですが、主人公は霊視はできるけど、霊のメッセージは読み取れない、という制約、これが良いアクセントになってるんですね!! 幽霊の早川さんも、無表情で声が出せない(幽霊だから)、だからジェスチャーで、岸田君を救おうとする。 いいですね。 でも、たいてい間に合わなくて、大ピンチに陥る。 物凄く滑稽に。 だから面白いのです。 _____ 基本的に、臓物との脳味噌と血飛沫飛び散る、グロ系スプラッタホラーなんですが、そこに至るまでに、人間が持つ愚かさ、因果、業みたいなのが、諧謔にまで昇華されているので、全然嫌な感じはせずに、「あー、やられましたなぁ、しょうがないなぁ、うふふ」と言う感じです(???) そして、出てくる脇キャラクターが、どれも魅力的なのも、いいところです。 個人的には、やっぱり、眼鏡ショートカット巨乳美少女、でも性根は心底クズ女、のオカルト研究会会長、式部さんが良い感じですね。 大概、自分が首を突っ込む→大ピンチに陥る→岸田君他部員を盾に逃走→それが故にもっと大ピンチに→なんだかんだいって助かる→また最初に戻る、と言うパターンを繰り返す、天丼ギャグ要員なので、話に絡み始めると、見てる方もワクワクしてきます(???) 後、岸田君の母親、ラリヴェ夏希は保護者として役立たずだし(超失礼)、勝手につきまとってトラブルに巻き込む、病みアイドル、魔子とかの絡みを見ていると、岸田君の世知辛さの方が先に分かってしまい、乾いた笑いしか出ない時も。 _____ こういう、正統派グロ系スプラッタホラー、でも絵も綺麗、話は泣き笑い、どこから読んでもオッケーな一話完結モノ、…とは言え、時々変な脇キャラが復活してくるので、通し読み推奨なのですが、とりあえず「バトルするやつ/おもしろおかしいやつ/怖いやつ/イチャイチャラブラブするやつ」のうち、好きなのがどれか一つでも当てはまったら、これを読むがよいです!死人の声をきくがよいひよどり祥子5わかる
まみこ2024/07/21ネタバレキモい。読むな(警告)最初に言います「読んだらダメ」 これは警告です。 _____ 主人公の造形、別に良いんですよ、耳が頭に比べて大きいとか、手の指が6本あるとか、足の親指が外側にあるとか。 そう言う奇形が好きな人もいますしね。 _____ 何よりも問題なのは、主人公、フウコに社会性がなく、本当の料理の味を知らずに料理を作っていることです。 …社会性がなく料理の味を知らない人間が隣にいたら、相当キモいと思いますし、それが正しい感情でしょう? ある程度グルメ漫画を読んでいる人にとっては自明ですが、「食事とはコミュニケーションである」「コミュニケーションとは文化である」「文化とは歴史である」なんですよね。 この作品は、そこらをガン無視、しかも監修の調理作家のレシピがあるにも関わらず、そこもガン無視。 で、これを真似してたった一人で作った若い子(読者層ジャンプラですよね?)が、「この料理の味ってこんなものか」っていうのだけは絶対避けて欲しい。 『暮しの手帖』を毎号買っていた家庭に生まれ育ち、そのレシピをノートに書き写して、それから一人暮らしを始めた、わたくしからの切実なお願いでした。ほったらかし飯とうのきり カカル 5ッ星お米マイスター澁谷梨絵5わかる
まみこ2024/07/06ネタバレ(江東区の)終末は…今昭和の「特撮」+「ロボアニメ」大好きが!大爆発!大炸裂! …で終わらしたい! 直接的な引用では「ウルトラマン」、「鉄人28号」、「マジンガーZ」辺りなんですが、その派生でもある、「パシフィック・リム」や「エヴァンゲリオン」も少し入るかな。後、「地獄の黙示録」とか。 …男の子って、こういうの大好きなんでしょう? _____ 数年前に、東京湾から突如現れ、江東区に上陸した巨大怪獣、レベル7の前には、自衛隊(?)の誘導気化爆弾もなすすべがなく、レベル7はまた東京湾へ戻っていった。 江東区は甚大な被害を受け、いまだに復旧できずにいる中、国家プロジェクトとして、レミファ1号/2号/3号を開発し、迫りくる怪獣を撃退していく。 * レミファ1号 … 人型アンドロイド。 レベル3程度の怪獣対応。 「乙武レミファ」として、都内(江東区?)の公立高校に通う。 ショウちゃん(後述)のおうちの家政婦としての役割も果たす。 * レミファ2号 … 2号。 * レミファ3号 … 全身30mのロボット。 レベル4以上の巨大怪獣対応。 * ショウちゃん … 小学生。 都内(江東区?)の団地に住んでいる。 レミファの操縦士、と言う体で作戦にあたる。 * サトミ … ショウちゃんの母親。 (明示はされないけど)レミファを設計した工学博士。 * 鈴木パイセン … レミファ1号の1年先輩にして、爽やかイケメン、ドM気質、メカフェチクソ野郎。 * ヨウちゃん … レミファ1号のクラスメイト。 朗らかで優しい子。 * 担任の先生 … 真面目だけど、レミファ1号のことをいつも気にかけてくれる。 ここら辺のメンバーが悲喜こもごもな日常を送ったりします。 _____ この作者の作風なんですけど、登場人物それぞれが、とにかく空きあらばボケを入れてきます。 で、ツッコミ役もよく分からんリアクションで流したりします。 この作品は、そのよく分からんボケ/ツッコミの中にも、もうこの街が終わってしまう、と言う足音がヒタヒタと近づいていく様が合間合間に挟まれます。 ショウちゃんの「お父さん死んでずいぶん経つし慣れた」ってセリフは、先のレベル7上陸時に巻き込まれて亡くなったんだな、とか、街中でロボットと怪獣がプロレス(?)して、もっと街を壊してしまうことへの住民感情だったり、湾岸地帯から内陸部に疎開する世帯が大半になって、レミファ1号が通う学校のクラスも半分しか残ってなかったり、ヨウちゃんも来月には疎開してしまうし、5月に打ち上げ花火が上がるのも、もう住民が残っていないことの示唆、等々の残酷な描写が、この優しい筆致で描かれます。 _____ だからこそ!後半40頁を使って描かれる、レベル7再上陸時での死闘は手に汗を握りますし、その終わりの切なさもまた良いものです。 (見開きのダイナミックさがマジ爽快なので、iPadか、PCのリーダー機能で読んで欲しい!) たった78頁にしてこの読後感。 Kindle Unlimitedにも入っているので、読める人はぜひ読んで欲しいですよねー。さよならロボットハニー林麦6わかる
まみこ2024/06/23ネタバレ一家に一冊の名作です(上下巻二冊なのに?)あの最強/最狂漫画が!帰ってきた!大幅!加筆!訂正!書下ろし!を含んで! …そう、当時は嬉しかったんです。 今となっては、ぶんか社の、ちょっと雑い印刷や装丁のために、少々軽んじられてしまった感じもあったのですね。 ストーリーを届けるための諸々の云々、これマジで大切なんですよね…。 _____ はい、「ハイスコアガール」云々で押切連介を知った、(にわか)サブカルお洒落漫画読みの精神を、粉々に叩き潰す、一家に一冊と言っても良い、大傑作漫画が、良い紙質/印刷で読めるので大感激! もう布教のために二人に上下巻、自腹で買って押し付けた位。読み終わった後には、漫画っていう表現でここまで出来るんかー、って感動と、人間って何じゃろうねぇ、って言う虚無が交差する! いやー、ホント素晴らしいよ!! 分かっていても、爺様の最後の台詞「…春が、来たよ。」には熱い涙が溢れましたわ! ____ …とは思うのですが、やっぱり双葉社版、書き換えられたラストの描写がちょっと。説明過多なんですよね、やっぱり。最後はぶんか社版の方が良かったかなー。ミスミソウ 完全版押切蓮介5わかる
まみこ2024/05/21ネタバレお宝は?巻末で作者自身が「出オチにならないように気をつけたつもり」とか書いてましたけど、いや、どうにもこうにも出オチ、まず、表紙で吹く、なんですけど…。 とは言え、かなり気を使った箇所も分かるんですよ。 (所謂)「テンプレ」な設定も、この絵柄とのギャップを楽しませるため、同人活動で十数年に渡って練り上げられたものであることだし、多分本家(本家?)じゃ描けないであろう設定を用意することで、脳内補完が楽しめるを狙ってるんですね。 とは言え、やっぱ出オチが90%かなー。 この絵柄で描かれると、日本刀を縦横無尽に操るヒロインも、勝手に好きになってくれる年上の女先輩も、なんだか美少女に見える(勝手に脳内補完される)し、数々のトリックの穴も気にならなくなるし…。あやかし古書庫と少女の魅宝ドリヤス工場4わかる
まみこ2024/05/03ネタバレ楽しい麻雀漫画です…な訳無いでしょう。何一つマトモに麻雀をやらないのです。 無頼の流れ者(角刈り)が->とにかく不条理な状況にハメられる->持ち前の技(麻雀)、頓智及び腕力で解決したりしなかったりする->次の街に流れてゆく わたくし、お約束漫画を解体からの、再構築(脱構築?)を経たメタ視点を繰り返す、こう言うワンパターンのオフビートな脱臼ギャクが大好きなんですよね! あれ?これどこかで観たようなケースですよね? そう、『渡職人残侠伝 慶太の味』と全く同じなのです。 無頼の流れ者(角刈り)が->とにかく不条理な状況にハメられる->持ち前の技(料理)、頓智及び腕力で解決したりしなかったりする->次の街に流れてゆく もし、この漫画が好きだったりしたら、是非、何故か連載時期も重なっている『渡職人残侠伝~』も読んで欲しいですかね。 逆に言うと、多分『渡職人残侠伝~』が好きな人は、この漫画も気に入ると思いますよ(???)角刈りすずめ菊地昭夫 KICHIJO 一條マサヒデ4わかる
まみこ2024/04/19ネタバレ悲しいことに、これ現実なのよね一応、この場では「ボーイズラブコミック」と言うジャンルに入ってしまっているのですが、全然違って、超一級のクライム・サスペンスです。 刑事と、反社の若頭の、性行為シーンは多いのですけど、BL要素は単にそれだけで、この国の組織の腐敗を、漫画で分かりやすく描いてしまっているのです。 だって、裏金のために警察官が反社と内通して手引する、拳銃密輸入も麻薬取引もする、時に人も殺す、って知りたくなかったですよ。 でも、悲しいことに、これ実話なんですよね…。 _____ 底本 https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000187031 表紙の刑事さんの実写。でも、悔しいけど、実写の方がカッコいいわ。 https://www.vice.com/ja/article/bj5dz8/inaba-the-worst-police-in-japanコオリオニ梶本レイカ8わかる
まみこ2024/03/20ネタバレ食べる、知る。まぁ、食べている時に、酸っぱい一品食べたいと思いません? _____ 食漫画をある程度読んでいる人には、フフッてなる、お約束の展開で微笑ましくて良いですよね。 …で終わらしたい!でも、他のAmazonとかの感想を読むと、「このモラハラ野郎が!」ばかりでビビってしまったり。 食漫画をある程度読んでいる人には自明ですが、「いま、自分が食べているのは文化である」「いま、一緒にいる人と食べているのはコミュニケーションである」なんですよね。 この作品には、それが分かってない人と分かっている人が混在していて、分かっていない人が徐々に分かっていく、と言う展開が良いのです。ホントに性格に欠陥があって、モラハラする人、じゃなくて単に知らないだけ。知識の欠如とコミュニケーション不全を、食べることを通じて柔らかく開放する、と言うのは食漫画の基本なのですが(まぁ、『美味しんぼ』ですよね)、この作品もそれに忠実です。良いですよね。 後、「酒は雑に呑むな、大切に呑め」ですかね。 _____ 母親が丁寧に出汁を引いてくれた、作ってくれていた筑前煮の味の秘密が…、と言う小さいオチも良いのですが、いなかもののわたくしは、はぁ?フツー、筑前煮に出汁入れる?と前段階からキレてしまいました。じゃあ、あんたが作ってみろよ谷口菜津子5わかる
まみこ2024/03/08ネタバレラーメン発見・外伝どこからともなく現れては薀蓄を語り倒して去っていくトレンチコートの男、雲竹雄三。 通称、ミスター・ナレッジ。 _____ 『「うんちく」シリーズ』第8巻、『マンガ・うんちくラーメン』は、『ラーメン発見伝』の河合単の作。 改めて読むと、大体7割位は、『~発見伝』でしょう。 単に絵柄に限らず、キャラ立てなどは相当共通しています。 例えば『~発見伝』において、モブキャラが、今の時代になってはどうでもいい蘊蓄を語って、藤本浩平にバチッとやり込められる、と言うのは、お約束の展開なのですが、その蘊蓄語りだけで作った一冊と言いますか。 この作品での雲竹雄三は、どこからともなく(あんまり流行ってないラーメン店に)現れ、問わず語りの蘊蓄を延々披露、と言う、大変ウザいキャラなのですが、猫舌だったり、流行らないラーメン店に麺打ちを教えたり、奥様に頭が上がらない、等々、少々憎めないキャラ立てなんですね。 まぁ、ウザいことには変わりはないのですが…。 ただ、これを読んでどう思うかは、その人における「食文化」の理解、そのリトマス試験紙ですよ。 この作品が描かれたのは2014年ですが、この時点で知っていて当然の知識しかないのです。 この口コミを書いているのは、2024年3月ですが、10年後の答え合わせ、あなたはどう読むでしょうか?「うんちく」シリーズ室井まさね3わかる
まみこ2024/02/23ネタバレ下町日和オムニバス雑誌『ごはん日和』掲載作品を一冊にまとめたもの。 …と言うか、『ごはん日和』の性格と言うか構成を知っている人、どれ位居るのでしょうか? 一冊で、テーマが決まっていて(例えば「ハンバーグ」とか)、各作者がそのお題に従った、一話完結の話を描くんですね。 なので、一話ごとに主人公もシチュエーションも違います。 それを作者ごとに一冊にまとめる、と言うのですから、かなり強引ですよね。 一応、この作品は第一話と最終話が、同じ登場人物と同じ寿司屋なので、サイクル構成になってはいる、と言う感じですが。 題名に「下町」って入ってますが、下町で食べる話は全体の1/3位ですし、そういう下町ならではの知識も、ほんのちょっとだけしか出てきません。(まぁ、江戸の下町とか、今となっては、ほぼ「異世界」ですしね) でも、『ごはん日和』自体に、それなりの効能はあるんです。 多分、時事的なネタを扱っていないからだと思うのですが、話に普遍性があるので、暇つぶしにダラっと読むのも良いし、一話だけ読んでも良いですし。 かく言う自分も、2週間位入院した時に『ごはん日和』を2冊買ってきてもらったら、安定して暇もつぶれて入眠も楽だったので、なるほどそういう働きもあるんだな、と言う感じでした。おいしい下町 スカイツリーと海老フライ酒川郁子7わかる
まみこ2024/01/27ネタバレ「一貫」の奥にある「幸せ」を見る街場のこじんまりとした、寿司屋「鮨処 幸」を舞台に、親方、お兄ちゃん、妹のサッチが奮闘する、グルメ漫画。 親方は、日々無心で寿司を握る。弟子である、お兄ちゃんは、そんな親方をずっと見て、誰とも言わずに日々自分で鍛錬する。 ともすれば、息苦しくなってしまいそうな関係性を、サッチが、かき混ぜて和ませる。 この寿司の一貫の奥に、一片の幸せを見る、そんな優しいグルメ漫画ですよね。幸せ一貫倉田よしみ3わかる
まみこ2023/11/25ネタバレバカじゃないですよ、けどね…。幾つかある「江戸前の旬」のスピンオフ作品。と言うか、「別冊ゴラクスペシャル」なんて、どこにも置いてない雑誌(超失礼)に掲載だったので、単行本が揃ってから読みましたよ。 主人公、田ノ上水産二代目の田ノ上蒼、って本編でも全然記憶にないキャラだったので、慣れるにはちょっとかかりましたね。本編の舞台「柳寿司」の仕入先も、河岸をめぐる人達も、基本、柳葉旬の奥さん、藍子の実家「朝岡水産」ですし。 ですが、柳葉旬、藍子、工藤和彦、吉沢大吾ら、本編のレギュラーメンバーは、一通り登場しますし、「柳寿司」で柳葉旬が調理するシーンも多いので、外伝/スピンオフ作品の中でも、一番本編に近いですね。実際、本編でも柳葉旬が殆ど登場せず、周りのキャラだけで回す話もちょくちょくありますので…。 主人公は、ガタイが良くて力持ち、大食漢で、おせっかい焼き、押しが強くて、行動力とバイタリティは人一倍強い。「江戸前の旬」の登場人物は、大概おせっかい焼きなんですが、この主人公は、それが頭一つ抜けていますね。 「近くにいたら、ウザいだろうな…」と思う人もいるかもしれませんが、まぁ、フツーにウザいです(?) この作品には出てきませんが、現状、イタリアンバル、カジュアルフレンチ、小規模割烹等々、多少気の効いた店では、こと鮮魚に関しては産直相対取引で仕入れちゃうんですよ。 河岸の仲卸の目利き、みたいなのは、相対的に存在意義が薄れている、と言うか大半が幻想でしょう。「流通の都合上の調整弁」以上でも以下でもない、と言う、夢も希望も浪漫も無いのが現実です。 だからこそ、この主人公の、産地と、調理人を結び、食べる人に美味しい魚を食べて欲しい!という熱意が、ウザさを突き抜けて仕事の矜持にまで昇華されている、この作品の描写は良いですよね。 インスタントな食生活を送っていると、ついつい忘れがちな、海産物とそれを取り巻く食文化、もう一度見つめ直すには良い教科書、とも言えるのではないでしょうか。 そういう視点で読み返すと、主人公のウザさも…、やっぱちょっと気になるんですけどね(?)ウオバカ!!!九十九森 さとう輝6わかる
まみこ2023/11/21ネタバレ続かなかったシリーズ2009年に、漫画ゴラクで短期集中連載されていた作品。 サブタイトルに「事件記者・加納真悟シリーズ」って入ってますが、結局、これ一作で終わっちゃいました。これも、昔のゴラクにはよくあったケースですけど。…今もかな? 連載とは言え、これ原作付きで、全話書き上げて順次掲載していくスタイルですね。だから、迷走もなくスッキリ読めるのですが、あんまりヒネリもなく一直線に話が進むのは、良し悪しでしょうか。 * "フーダニット"(犯人誰?) * "ハウダニット"(手口どうやったん?) * "ホワイダニット"(動機何?) 上記は、ミステリの三要素ですが、この物語は"ホワイダニット"に全振りしているので、他の二要素は雑です。一応、死刑囚・田辺が遺言で遺産のありかを暗号にして、加納に託した時にそれを解く、と言う展開はあるんですが、それ位ですか。 それで良いのか?という気もしますが「そんなことは、もうどうでもいいんだ」と言うメッセージがラストの方で明かされるので、それも納得出来るんですけどね。 話が展開せず、後から読み直すと全然伏線でも何でもなかった上巻の日本から、下巻で舞台をフィリピン、しかもルソン島に移すんですが、そこから話がドライブしていくのです。 そして、舞台をフィリピンにしたのには必然があって、彼の国における国民性や社会システムが、物語の根幹になっているんです。とは言え、唐突に山下財宝の話が出てきて「…?!」でしたが、それもオチに絡んでくるので、「そ、そうなのか?」と変に納得させられてしまいましたわ。 些末なツッコミどころは幾つかあるんですが、まぁ、ゴラク掲載作品ですし、サクッと読むのが良いのかもしれません。実際、久しぶりに読み返したら、結構面白かったです。死刑囚の遺産上農ヒロ昭 龍樹丈3わかる
まみこ2023/11/19ネタバレきたるべき明日結論から言います。映画「未来世紀ブラジル」です。 まさか、オチまで一緒とは思いませんでしたわ。 終了。 …で、終わらせても良いのですが、少々付け加えると、作者、筒井哲也が、自作が有害図書指定を受けた経験から描き始めたらしいので、マネしたかは不明ですが、素朴な動機から監視/相互監視/言論統制社会を描き始めると、まぁ、こうにしかならんよね、と言う感じです。 テリー・ギリアムは、モンティパイソンで1960年代から、ずっと皮肉と嫌味と衒学の塊で「表現とはどうあるべきか」を考え続け、実践してきた人なわけで、比べてしまうと、表層上同じに見えても、どうしたって意味と意義には差が出てきてしまうのでしょう。 表現における知性の差、と言うのは、この作品の結末以上に残酷なものなのです。 ディストピアがテーマなのは一種の切り札、どうだって出来てしまう訳で、描く方も読む方も、それなりの知的な視点が求められるよね、と言うお話でした。 _____ 翻って。現在は、2023年ですが、連載が始まった2014年からの時代を読むと、当初は萌えマンガ、エロマンガ、グロマンガの画像貼り付けインターネット掲示板「4chan」が、ミソジニスト、人種差別者、ホワイトトラッシュの巣窟になり、「反ポリコレ」で一致団結、ゲーマーズゲートを発端とし、数々のフェミサイド、ゲイをターゲットにした銃乱射、アジア系移民を石で殴って殺す、など反社会行動の起点となっていきます。 そして、"Q"が現れ、QAnonが生まれ、ディープステート陰謀から、ドナルド・トランプを神輿として、2021年の米議事堂襲撃に至るのです。 よく知られるように、「4chan」の所有者は日本人ですし、出資したのも、初音ミクのフィギュアで財を成したグッドスマイルカンパニー。日本人の表現に対する無責任さが、米国の、ひいては世界の民主主義を破壊してしまったのは揺るぎない事実です。 「4chan」の所有者はFBIによって指名手配され米国に入国は不可能、グッドスマイルカンパニーは被害者遺族による集団訴訟によって、事実上米国での営業活動は不可能になりました。 「こんなになる前に、表現に対する取り締まりは、もっと厳しくやっておけよ!」と言っても、殺人被害者は生き返りませんし、一旦壊れてしまった民主主義を立て直すのは容易ではないことは自明でしょう。 また数年後、これを読んでいるあなたは、この漫画をどう読むでしょうか?有害都市筒井哲也4わかる
まみこ2023/11/07ネタバレ美味しい話と悲しい結末最初に結論書いてしまうと、この作品には、ギミックがあります。それはもう、発明とも言えるべきものでしょう。 一口食べた時のリアクション描写、「ハッ?」と驚愕し、「何故なんだ!」と激怒、時に調理人である、主人公、ヤタ・ダイゴに掴みかかってくるのです。 感情の発露である、「喜怒哀楽」このうち「怒」を、旨い味に当たった時の反応に使うというのは、前例が無いのではないでしょうか? 我々が、「美味しい!」と思う要素であるのは「ダシ」である、を軸足に、料理と調理を、化学的/衒学的に因数分解のように紐解く、それを厳しいけれども人情に熱い主人公、おっちょこちょいっぽい助手、キメ台詞「命が宿ったーーー…!!!」と共にシャープな線で描く。 いいですよね、ケレン味全開で。これでこそグルメ漫画です。 ご存知のように、兄弟バトルの、ちょうどいいところで終わっちゃうんです。 紙も絶版、電子書籍版も予定なし、と言う、懲罰的な現状なんですが、なにかしてなにかして欲しいですわ。ダシマスター早川光 松枝尚嗣8わかる
まみこ2023/11/03ネタバレ凄腕調理人が、全ての問題を解決!そんなことは、残念ながらございません。 諸々の社会的問題を、バイクやキャンプ、麻雀、野球、サッカー、バドミントン、それらを漫画で描くことで解決できる訳ではない、これは厳しい現実ですが、それを諦めてしまうには、惜しい浪漫もあります。 「江戸前鮨職人 きららの仕事」のスピンオフ。 最強の敵、ヴィランである、長身マッチョ眼鏡オールバック成金ガチ巨根、坂巻慶太の若かりし頃の前日譚。一応、取ってつけたように、銀座で寿司職人として鍛えられたセンスも腕も良い料理人、と言う設定もありますが、まぁ、噺のスジとしては些末なことです。 早い話、映画「バットマン・ダークナイト」における、映画「ジョーカー」の様な存在、って、無駄に分かりにくいですね。 何かしら困っている人や迷っている人を、美味しい料理で柔らかく解放する、と言うのは食漫画の基本ですが、この作品はそれは半分位でしょうか?残り半分は、頓知や腕力で解決します。 …え?解決できんの?とは思いますが、まぁ、やっちゃうんですね。それもまた浪漫です。 壮絶ネタバレですが、ラストの「イルカに乗った全裸青年」の描写は、謎の感動的感情が込み上げますが、その置きどころを何処に持って行けば良いの?は、また別の命題でしょうか…。渡職人残侠伝 慶太の味早川光 橋本孤蔵5わかる
まみこ2023/10/28ネタバレ「なんも、なんも」2013年2月、漫画サンデーが休刊。すべての連載は強制的に終了します。 長期連載であった「蒼太の包丁」も、かなり強引な終わり方をしてしまったのです。 …で? 同じ座組で、同じ様な読者層である、「漫画ゴラク」にスライドできれば良かったのですが、そうは中々行かない事情があったのでしょうね。新しい主人公と舞台を用意して、新しい物語が始まりました! …え? 全然新しくないですよ。正直、主人公、春野ハルは、北丘蒼太の女体化ですし。両方、眉毛太いですよね。性格や話し方もそのままです。舞台となる居酒屋「大門」で出てくる料理も、「富み久」のまかないや、立ち飲み屋「みなと」で出す、雑駁無い料理とほぼ同じです。とは言え、グルメ漫画にも盗作やトレス疑惑が極まってきた頃なので、参考にしたレシピや料理描写も、クレジットが欄外に入っているのも良いですよね。 と言うか、そもそも、「蒼汰の包丁」の舞台、銀座と、「ハルの肴」の舞台、両国は、隅田川挟んで隣町、タクシーだと15分位なんですね。 …だから? だからこそ分かって欲しい、東京/江戸の食文化の変さ加減。 凄く手っ取り早く、漫画で理解、これは本当にありがたいですね。ハルの肴本庄敬 末田雄一郎4わかる
まみこ2023/10/25ネタバレ誰もビートルズになりたいなんて思わないですよ。ラストは、2010年3月の六本木のライヴハウス。 …え?お前らメンバー、1980年12月8日何してたの?分かってるんだから、何があってもニューヨークに渡って、全力で止めろよ! 久しぶりに読み返したのですが、これ、原作者、ビートルズはおろか、音楽とか歴史とか全然好きじゃないですね。単に舞台装置として、1962年のビートルズを使っているだけでしょう。 実際、10巻(最終巻)の原作者の後書きを読むと、それの直接的な記述はないにせよ、露骨に分かってしまって、うむーん、と言う感じです。 …とは言え、今考えると1962年のビートルズに会って、何が言えるんでしょうね?物語の主人公、ショウ(ジョージ・ハリソン役)が、ジョージ・ハリソンに向かって「友達付き合いは考えてくれ、嫁さん盗られるぞ」って言ったら、かの名曲「いとしのレイラ」も「ワンダフル・トゥナイト」も生まれなかった訳ですし。 何でこう言う事書いたかって言うと、2023年10月に、ローリング・ストーンズの曲で、ポール・マッカートニーがベース弾いていて、それがモロに、1962年の荒削りのロックン・ロールだったからですね!これが214曲目だったら、どんなに幸せだったでしょう。 https://youtu.be/s_yZWjnip6w (以下、わかるが付くたび、コメント欄にビートルズのトリビアを書きます)僕はビートルズかわぐちかいじ 藤井哲夫5わかる
まみこ2023/10/21ネタバレ「SUSHI」を通して「寿司」を見る📷破天荒な行動を突飛にとる佐治将太と、堅実かつ温厚な性格の関口将太朗、「日本の寿司を殲滅するためにやって来た」と、大胆不敵に宣告するフランスの寿司職人、ダヴィッド・デュカス、マルチ・レイシャルで大胆なアイデアと繊細な味覚を同時に備えた女性寿司職人、サヘル。この面々が作り出す料理から、世界の「SUSHI」を投影とし、日本の「寿司」とはそもそも何か、その良さとは何か?を問う物語。 …で、始まって、それで終われれば良かったのですが、悲しいかな、そうはなりませんでした。話はまとまらず、迷走して、未消化のまま終わってしまったのです。 食漫画の構造的な問題として、「話中の料理の美味しさを想像できないと、物語に没入できない」と言うのがあります。 別の漫画の名言ですが「客はな…、情報を喰っているんだ!」は、食漫画にも通じる話で、美味しさの隠し味だったり、その蘊蓄だったり、それらが納得できるのは、読む人々はある程度「分かっている」前提だからこそ、情報を食べることが出来、成立するのですね。 …で、この物語の中で、ダヴィッド・デュカスやサヘルが作るのは、「SUSHI」ですらなく、(所謂)「ヌーベルキュイジーニュ」なんです。これだと、なかなか味の想像も難しい。 一つ一つの料理の画は美味しそうなはずなんですけど、この構造を打ち崩すのは難し過ぎでした。 …とは言え、「岩寿司の親父さんと息子」「海の底にある幻の都」等々、良いエピソードもありますので、サクッと4巻読むのも良いのではないでしょうか?将太の寿司2 World Stage寺沢大介4わかる
まみこ2023/10/02ネタバレ薬って効くのかな?「え?これ、どこで笑ったらいいの?」で、終わらせたら良いのですが、そうは行かない一冊です。いえいえ、別にカメラ門外漢が読んでも本当に面白いのです! 登場人物である、ドクター、看護師(ナース)、重症患者たち、の会話術で進む、オフビートなギャグ漫画で、そのテンポの良いやり取りだけで、大体楽しめます。 患者がボケる→ドクターが難解なツッコミを入れる→ナースがまたよく分からないフォローを入れる、と言う、ワンパターン・ギャグの連打なのですが、ついフフッて笑ってしまうのです。 …と油断していると、第12話「宇宙のネコミミ」のような、ちょっと泣かせる話もあるので、要注意です(?) 同人誌の加筆修正+描き下ろしがメインなので、連載版の前日譚ですね。今連載中の作品は、ちょっとしか入ってないんじゃないかもです。連載作品は無料で読めるので、それを読んで良かったら、単行本を読んでも良いのでないでしょうか? https://dc.watch.impress.co.jp/docs/comic/clinic/カメラバカにつける薬飯田ともき3わかる
まみこ2023/09/21ネタバレ女優めし連載・感想雑談📷「女優めし」の連載中の雑談が無くなってしまったので、新たに建てました。 * 撫子さんの可愛さ * 連載中のめしの美味しさのポイント * もとねたの店舗の話 * もとねたの店舗に行ってみたよ とか、ネタバレ全開で書いて欲しいです。 * 女優めし|ヤンジャン!|集英社公式・ジャンプ系青年マンガ誌アプリ https://ynjn.jp/allEpisodeList/6068 * うえののの https://twitter.com/uenononoo * 藤川よつ葉 https://twitter.com/fujikawayotsuba女優めし藤川よつ葉 うえののの5わかる
まみこ2023/09/09ネタバレなみだ坂診療所 1020話全部読む「医者とは職業ではない 医者という生き方なのだ」 このフレーズは、主人公、織田鈴香の恩師、嵐山鉄寛が事あることに口にする言葉ですが、まず、この物語の中で、この命題が、通奏低音として一貫しています。 とにかく、織田鈴香が、クセ強過ぎ超人なんですよね。 栃木の大病院のお嬢様、お父様は国会議員、一流大学を首席で卒業、前職は救急外来で、時として容赦なくメスも振るう、問診/触診の達人で難しい病気も一発で当てる、合気道三段、暴力は大嫌いだけど、いざとなったら腕力を使うことも躊躇しない。そして、何よりも地域の町医者として、人生を捧げることを厭わない。 これだけの能力と意志をもってしても、救えない命がある。むしろ救えない命の方が多い。それは、医療行政、社会のあり方、個々の感情、諸々があります。これを丁寧に、分かりやすく、かつ、残酷に描く物語なのです。 まぁ、「医療従事者簡単に刺され過ぎ」「医療従事者簡単に死に過ぎ」「登場人物簡単にセックスし過ぎ」とか諸々のポイントはあるんですが、週刊漫画TIMESなので、そういう物語ということです。 20年以上、生と死を見つめた主人公の死をもって、この話はクローズします。 最終話、主人公、織田鈴香の台詞「いえ、もう少し …だってこんなに素敵な景色 初めて見たもの」を見た時、読者は分かるんですよね。彼女は、脳腫瘍が進んでしまって、立つことはおろか、視野も失っていることに。 勿論、ラストには明日も未来もあります。それで良いではないですか。なみだ坂診療所 完全版向後つぐお 宇治谷順13わかる
まみこ2023/09/02ネタバレ料理屋旬吉主人公、旬吉は、ガタイは良くて、威勢もよくて、腕っぷしは強い。流れ者で、方々渡ってきたので、食材の知識は良いし、包丁の腕も確か。困っている人を放ってはおけないし、曲がったことは絶対許せない。 この旬吉と、ワケアリ女将の、お彩さんと、「一膳飯屋 縁庵」を舞台に繰り広げる、人情活劇グルメ漫画なのです! はいな、結局、原作は違いますが、この人が描くと、どうにもこうにも「解体屋ゲン」になっちゃうんでしょうね。 旬吉=朝倉巌、お彩=朝倉慶子、と言うか…。実際、旬吉とお彩さんは夫婦じゃないのですが、お互い訳あり同志で、だからこそ硬い絆で結ばれている、と言うのは良いですね。 (「解体屋ゲン」も、ゲンと慶子が結婚する前までは、割と揉めましたね…) 何かしら困っている人や迷っている人を、美味しい料理で柔らかく解放する、と言うのは食漫画の基本ですが、そう、忠実なのです。 少々、悲劇的な結末を迎えるエピソードが、無い訳でもないのですが、そこに至る前までにきちんと人情を含めて描いているので、全然嫌じゃないですね。 後、奥付の、初出を見たら、雑誌掲載は2000~2002年。「解体屋ゲン」の直前の作品だったのですね。 なるほど、これがプロトタイプだったのかなぁ、位には思いましたよ!大江戸どんぶり繁盛記剣名舞 石井さだよし4わかる