まみこ
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2024/03/20
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食べる、知る。
まぁ、食べている時に、酸っぱい一品食べたいと思いません? _____ 食漫画をある程度読んでいる人には、フフッてなる、お約束の展開で微笑ましくて良いですよね。 …で終わらしたい!でも、他のAmazonとかの感想を読むと、「このモラハラ野郎が!」ばかりでビビってしまったり。 食漫画をある程度読んでいる人には自明ですが、「いま、自分が食べているのは文化である」「いま、一緒にいる人と食べているのはコミュニケーションである」なんですよね。 この作品には、それが分かってない人と分かっている人が混在していて、分かっていない人が徐々に分かっていく、と言う展開が良いのです。ホントに性格に欠陥があって、モラハラする人、じゃなくて単に知らないだけ。知識の欠如とコミュニケーション不全を、食べることを通じて柔らかく開放する、と言うのは食漫画の基本なのですが(まぁ、『美味しんぼ』ですよね)、この作品もそれに忠実です。良いですよね。 後、「酒は雑に呑むな、大切に呑め」ですかね。 _____ 母親が丁寧に出汁を引いてくれた、作ってくれていた筑前煮の味の秘密が…、と言う小さいオチも良いのですが、いなかもののわたくしは、はぁ?フツー、筑前煮に出汁入れる?と前段階からキレてしまいました。
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2024/03/08
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ラーメン発見・外伝
どこからともなく現れては薀蓄を語り倒して去っていくトレンチコートの男、雲竹雄三。 通称、ミスター・ナレッジ。 _____ 『「うんちく」シリーズ』第8巻、『マンガ・うんちくラーメン』は、『ラーメン発見伝』の河合単の作。 改めて読むと、大体7割位は、『~発見伝』でしょう。 単に絵柄に限らず、キャラ立てなどは相当共通しています。 例えば『~発見伝』において、モブキャラが、今の時代になってはどうでもいい蘊蓄を語って、藤本浩平にバチッとやり込められる、と言うのは、お約束の展開なのですが、その蘊蓄語りだけで作った一冊と言いますか。 この作品での雲竹雄三は、どこからともなく(あんまり流行ってないラーメン店に)現れ、問わず語りの蘊蓄を延々披露、と言う、大変ウザいキャラなのですが、猫舌だったり、流行らないラーメン店に麺打ちを教えたり、奥様に頭が上がらない、等々、少々憎めないキャラ立てなんですね。 まぁ、ウザいことには変わりはないのですが…。 ただ、これを読んでどう思うかは、その人における「食文化」の理解、そのリトマス試験紙ですよ。 この作品が描かれたのは2014年ですが、この時点で知っていて当然の知識しかないのです。 この口コミを書いているのは、2024年3月ですが、10年後の答え合わせ、あなたはどう読むでしょうか?
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2024/02/23
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下町日和
オムニバス雑誌『ごはん日和』掲載作品を一冊にまとめたもの。 …と言うか、『ごはん日和』の性格と言うか構成を知っている人、どれ位居るのでしょうか? 一冊で、テーマが決まっていて(例えば「ハンバーグ」とか)、各作者がそのお題に従った、一話完結の話を描くんですね。 なので、一話ごとに主人公もシチュエーションも違います。 それを作者ごとに一冊にまとめる、と言うのですから、かなり強引ですよね。 一応、この作品は第一話と最終話が、同じ登場人物と同じ寿司屋なので、サイクル構成になってはいる、と言う感じですが。 題名に「下町」って入ってますが、下町で食べる話は全体の1/3位ですし、そういう下町ならではの知識も、ほんのちょっとだけしか出てきません。(まぁ、江戸の下町とか、今となっては、ほぼ「異世界」ですしね) でも、『ごはん日和』自体に、それなりの効能はあるんです。 多分、時事的なネタを扱っていないからだと思うのですが、話に普遍性があるので、暇つぶしにダラっと読むのも良いし、一話だけ読んでも良いですし。 かく言う自分も、2週間位入院した時に『ごはん日和』を2冊買ってきてもらったら、安定して暇もつぶれて入眠も楽だったので、なるほどそういう働きもあるんだな、と言う感じでした。
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2023/11/25
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バカじゃないですよ、けどね…。
幾つかある「江戸前の旬」のスピンオフ作品。と言うか、「別冊ゴラクスペシャル」なんて、どこにも置いてない雑誌(超失礼)に掲載だったので、単行本が揃ってから読みましたよ。 主人公、田ノ上水産二代目の田ノ上蒼、って本編でも全然記憶にないキャラだったので、慣れるにはちょっとかかりましたね。本編の舞台「柳寿司」の仕入先も、河岸をめぐる人達も、基本、柳葉旬の奥さん、藍子の実家「朝岡水産」ですし。 ですが、柳葉旬、藍子、工藤和彦、吉沢大吾ら、本編のレギュラーメンバーは、一通り登場しますし、「柳寿司」で柳葉旬が調理するシーンも多いので、外伝/スピンオフ作品の中でも、一番本編に近いですね。実際、本編でも柳葉旬が殆ど登場せず、周りのキャラだけで回す話もちょくちょくありますので…。 主人公は、ガタイが良くて力持ち、大食漢で、おせっかい焼き、押しが強くて、行動力とバイタリティは人一倍強い。「江戸前の旬」の登場人物は、大概おせっかい焼きなんですが、この主人公は、それが頭一つ抜けていますね。 「近くにいたら、ウザいだろうな…」と思う人もいるかもしれませんが、まぁ、フツーにウザいです(?) この作品には出てきませんが、現状、イタリアンバル、カジュアルフレンチ、小規模割烹等々、多少気の効いた店では、こと鮮魚に関しては産直相対取引で仕入れちゃうんですよ。 河岸の仲卸の目利き、みたいなのは、相対的に存在意義が薄れている、と言うか大半が幻想でしょう。「流通の都合上の調整弁」以上でも以下でもない、と言う、夢も希望も浪漫も無いのが現実です。 だからこそ、この主人公の、産地と、調理人を結び、食べる人に美味しい魚を食べて欲しい!という熱意が、ウザさを突き抜けて仕事の矜持にまで昇華されている、この作品の描写は良いですよね。 インスタントな食生活を送っていると、ついつい忘れがちな、海産物とそれを取り巻く食文化、もう一度見つめ直すには良い教科書、とも言えるのではないでしょうか。 そういう視点で読み返すと、主人公のウザさも…、やっぱちょっと気になるんですけどね(?)
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2023/11/21
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続かなかったシリーズ
2009年に、漫画ゴラクで短期集中連載されていた作品。 サブタイトルに「事件記者・加納真悟シリーズ」って入ってますが、結局、これ一作で終わっちゃいました。これも、昔のゴラクにはよくあったケースですけど。…今もかな? 連載とは言え、これ原作付きで、全話書き上げて順次掲載していくスタイルですね。だから、迷走もなくスッキリ読めるのですが、あんまりヒネリもなく一直線に話が進むのは、良し悪しでしょうか。 * "フーダニット"(犯人誰?) * "ハウダニット"(手口どうやったん?) * "ホワイダニット"(動機何?) 上記は、ミステリの三要素ですが、この物語は"ホワイダニット"に全振りしているので、他の二要素は雑です。一応、死刑囚・田辺が遺言で遺産のありかを暗号にして、加納に託した時にそれを解く、と言う展開はあるんですが、それ位ですか。 それで良いのか?という気もしますが「そんなことは、もうどうでもいいんだ」と言うメッセージがラストの方で明かされるので、それも納得出来るんですけどね。 話が展開せず、後から読み直すと全然伏線でも何でもなかった上巻の日本から、下巻で舞台をフィリピン、しかもルソン島に移すんですが、そこから話がドライブしていくのです。 そして、舞台をフィリピンにしたのには必然があって、彼の国における国民性や社会システムが、物語の根幹になっているんです。とは言え、唐突に山下財宝の話が出てきて「…?!」でしたが、それもオチに絡んでくるので、「そ、そうなのか?」と変に納得させられてしまいましたわ。 些末なツッコミどころは幾つかあるんですが、まぁ、ゴラク掲載作品ですし、サクッと読むのが良いのかもしれません。実際、久しぶりに読み返したら、結構面白かったです。
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2023/11/19
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きたるべき明日
結論から言います。映画「未来世紀ブラジル」です。 まさか、オチまで一緒とは思いませんでしたわ。 終了。 …で、終わらせても良いのですが、少々付け加えると、作者、筒井哲也が、自作が有害図書指定を受けた経験から描き始めたらしいので、マネしたかは不明ですが、素朴な動機から監視/相互監視/言論統制社会を描き始めると、まぁ、こうにしかならんよね、と言う感じです。 テリー・ギリアムは、モンティパイソンで1960年代から、ずっと皮肉と嫌味と衒学の塊で「表現とはどうあるべきか」を考え続け、実践してきた人なわけで、比べてしまうと、表層上同じに見えても、どうしたって意味と意義には差が出てきてしまうのでしょう。 表現における知性の差、と言うのは、この作品の結末以上に残酷なものなのです。 ディストピアがテーマなのは一種の切り札、どうだって出来てしまう訳で、描く方も読む方も、それなりの知的な視点が求められるよね、と言うお話でした。 _____ 翻って。現在は、2023年ですが、連載が始まった2014年からの時代を読むと、当初は萌えマンガ、エロマンガ、グロマンガの画像貼り付けインターネット掲示板「4chan」が、ミソジニスト、人種差別者、ホワイトトラッシュの巣窟になり、「反ポリコレ」で一致団結、ゲーマーズゲートを発端とし、数々のフェミサイド、ゲイをターゲットにした銃乱射、アジア系移民を石で殴って殺す、など反社会行動の起点となっていきます。 そして、"Q"が現れ、QAnonが生まれ、ディープステート陰謀から、ドナルド・トランプを神輿として、2021年の米議事堂襲撃に至るのです。 よく知られるように、「4chan」の所有者は日本人ですし、出資したのも、初音ミクのフィギュアで財を成したグッドスマイルカンパニー。日本人の表現に対する無責任さが、米国の、ひいては世界の民主主義を破壊してしまったのは揺るぎない事実です。 「4chan」の所有者はFBIによって指名手配され米国に入国は不可能、グッドスマイルカンパニーは被害者遺族による集団訴訟によって、事実上米国での営業活動は不可能になりました。 「こんなになる前に、表現に対する取り締まりは、もっと厳しくやっておけよ!」と言っても、殺人被害者は生き返りませんし、一旦壊れてしまった民主主義を立て直すのは容易ではないことは自明でしょう。 また数年後、これを読んでいるあなたは、この漫画をどう読むでしょうか?
まみこ
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2023/11/03
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凄腕調理人が、全ての問題を解決!
そんなことは、残念ながらございません。 諸々の社会的問題を、バイクやキャンプ、麻雀、野球、サッカー、バドミントン、それらを漫画で描くことで解決できる訳ではない、これは厳しい現実ですが、それを諦めてしまうには、惜しい浪漫もあります。 「江戸前鮨職人 きららの仕事」のスピンオフ。 最強の敵、ヴィランである、長身マッチョ眼鏡オールバック成金ガチ巨根、坂巻慶太の若かりし頃の前日譚。一応、取ってつけたように、銀座で寿司職人として鍛えられたセンスも腕も良い料理人、と言う設定もありますが、まぁ、噺のスジとしては些末なことです。 早い話、映画「バットマン・ダークナイト」における、映画「ジョーカー」の様な存在、って、無駄に分かりにくいですね。 何かしら困っている人や迷っている人を、美味しい料理で柔らかく解放する、と言うのは食漫画の基本ですが、この作品はそれは半分位でしょうか?残り半分は、頓知や腕力で解決します。 …え?解決できんの?とは思いますが、まぁ、やっちゃうんですね。それもまた浪漫です。 壮絶ネタバレですが、ラストの「イルカに乗った全裸青年」の描写は、謎の感動的感情が込み上げますが、その置きどころを何処に持って行けば良いの?は、また別の命題でしょうか…。
まみこ
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2023/10/28
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「なんも、なんも」
2013年2月、漫画サンデーが休刊。すべての連載は強制的に終了します。 長期連載であった「蒼太の包丁」も、かなり強引な終わり方をしてしまったのです。 …で? 同じ座組で、同じ様な読者層である、「漫画ゴラク」にスライドできれば良かったのですが、そうは中々行かない事情があったのでしょうね。新しい主人公と舞台を用意して、新しい物語が始まりました! …え? 全然新しくないですよ。正直、主人公、春野ハルは、北丘蒼太の女体化ですし。両方、眉毛太いですよね。性格や話し方もそのままです。舞台となる居酒屋「大門」で出てくる料理も、「富み久」のまかないや、立ち飲み屋「みなと」で出す、雑駁無い料理とほぼ同じです。とは言え、グルメ漫画にも盗作やトレス疑惑が極まってきた頃なので、参考にしたレシピや料理描写も、クレジットが欄外に入っているのも良いですよね。 と言うか、そもそも、「蒼汰の包丁」の舞台、銀座と、「ハルの肴」の舞台、両国は、隅田川挟んで隣町、タクシーだと15分位なんですね。 …だから? だからこそ分かって欲しい、東京/江戸の食文化の変さ加減。 凄く手っ取り早く、漫画で理解、これは本当にありがたいですね。
まみこ
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2023/10/25
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誰もビートルズになりたいなんて思わないですよ。
ラストは、2010年3月の六本木のライヴハウス。 …え?お前らメンバー、1980年12月8日何してたの?分かってるんだから、何があってもニューヨークに渡って、全力で止めろよ! 久しぶりに読み返したのですが、これ、原作者、ビートルズはおろか、音楽とか歴史とか全然好きじゃないですね。単に舞台装置として、1962年のビートルズを使っているだけでしょう。 実際、10巻(最終巻)の原作者の後書きを読むと、それの直接的な記述はないにせよ、露骨に分かってしまって、うむーん、と言う感じです。 …とは言え、今考えると1962年のビートルズに会って、何が言えるんでしょうね?物語の主人公、ショウ(ジョージ・ハリソン役)が、ジョージ・ハリソンに向かって「友達付き合いは考えてくれ、嫁さん盗られるぞ」って言ったら、かの名曲「いとしのレイラ」も「ワンダフル・トゥナイト」も生まれなかった訳ですし。 何でこう言う事書いたかって言うと、2023年10月に、ローリング・ストーンズの曲で、ポール・マッカートニーがベース弾いていて、それがモロに、1962年の荒削りのロックン・ロールだったからですね!これが214曲目だったら、どんなに幸せだったでしょう。 https://youtu.be/s_yZWjnip6w (以下、わかるが付くたび、コメント欄にビートルズのトリビアを書きます)
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2023/10/21
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「SUSHI」を通して「寿司」を見る
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破天荒な行動を突飛にとる佐治将太と、堅実かつ温厚な性格の関口将太朗、「日本の寿司を殲滅するためにやって来た」と、大胆不敵に宣告するフランスの寿司職人、ダヴィッド・デュカス、マルチ・レイシャルで大胆なアイデアと繊細な味覚を同時に備えた女性寿司職人、サヘル。この面々が作り出す料理から、世界の「SUSHI」を投影とし、日本の「寿司」とはそもそも何か、その良さとは何か?を問う物語。 …で、始まって、それで終われれば良かったのですが、悲しいかな、そうはなりませんでした。話はまとまらず、迷走して、未消化のまま終わってしまったのです。 食漫画の構造的な問題として、「話中の料理の美味しさを想像できないと、物語に没入できない」と言うのがあります。 別の漫画の名言ですが「客はな…、情報を喰っているんだ!」は、食漫画にも通じる話で、美味しさの隠し味だったり、その蘊蓄だったり、それらが納得できるのは、読む人々はある程度「分かっている」前提だからこそ、情報を食べることが出来、成立するのですね。 …で、この物語の中で、ダヴィッド・デュカスやサヘルが作るのは、「SUSHI」ですらなく、(所謂)「ヌーベルキュイジーニュ」なんです。これだと、なかなか味の想像も難しい。 一つ一つの料理の画は美味しそうなはずなんですけど、この構造を打ち崩すのは難し過ぎでした。 …とは言え、「岩寿司の親父さんと息子」「海の底にある幻の都」等々、良いエピソードもありますので、サクッと4巻読むのも良いのではないでしょうか?
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2023/09/09
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なみだ坂診療所 1020話全部読む
「医者とは職業ではない 医者という生き方なのだ」 このフレーズは、主人公、織田鈴香の恩師、嵐山鉄寛が事あることに口にする言葉ですが、まず、この物語の中で、この命題が、通奏低音として一貫しています。 とにかく、織田鈴香が、クセ強過ぎ超人なんですよね。 栃木の大病院のお嬢様、お父様は国会議員、一流大学を首席で卒業、前職は救急外来で、時として容赦なくメスも振るう、問診/触診の達人で難しい病気も一発で当てる、合気道三段、暴力は大嫌いだけど、いざとなったら腕力を使うことも躊躇しない。そして、何よりも地域の町医者として、人生を捧げることを厭わない。 これだけの能力と意志をもってしても、救えない命がある。むしろ救えない命の方が多い。それは、医療行政、社会のあり方、個々の感情、諸々があります。これを丁寧に、分かりやすく、かつ、残酷に描く物語なのです。 まぁ、「医療従事者簡単に刺され過ぎ」「医療従事者簡単に死に過ぎ」「登場人物簡単にセックスし過ぎ」とか諸々のポイントはあるんですが、週刊漫画TIMESなので、そういう物語ということです。 20年以上、生と死を見つめた主人公の死をもって、この話はクローズします。 最終話、主人公、織田鈴香の台詞「いえ、もう少し …だってこんなに素敵な景色 初めて見たもの」を見た時、読者は分かるんですよね。彼女は、脳腫瘍が進んでしまって、立つことはおろか、視野も失っていることに。 勿論、ラストには明日も未来もあります。それで良いではないですか。
まみこ
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2023/09/02
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料理屋旬吉
主人公、旬吉は、ガタイは良くて、威勢もよくて、腕っぷしは強い。流れ者で、方々渡ってきたので、食材の知識は良いし、包丁の腕も確か。困っている人を放ってはおけないし、曲がったことは絶対許せない。 この旬吉と、ワケアリ女将の、お彩さんと、「一膳飯屋 縁庵」を舞台に繰り広げる、人情活劇グルメ漫画なのです! はいな、結局、原作は違いますが、この人が描くと、どうにもこうにも「解体屋ゲン」になっちゃうんでしょうね。 旬吉=朝倉巌、お彩=朝倉慶子、と言うか…。実際、旬吉とお彩さんは夫婦じゃないのですが、お互い訳あり同志で、だからこそ硬い絆で結ばれている、と言うのは良いですね。 (「解体屋ゲン」も、ゲンと慶子が結婚する前までは、割と揉めましたね…) 何かしら困っている人や迷っている人を、美味しい料理で柔らかく解放する、と言うのは食漫画の基本ですが、そう、忠実なのです。 少々、悲劇的な結末を迎えるエピソードが、無い訳でもないのですが、そこに至る前までにきちんと人情を含めて描いているので、全然嫌じゃないですね。 後、奥付の、初出を見たら、雑誌掲載は2000~2002年。「解体屋ゲン」の直前の作品だったのですね。 なるほど、これがプロトタイプだったのかなぁ、位には思いましたよ!
まみこ
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2023/07/29
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強い、歪ませる力が。
自分の性格形成に影響を与えた作品、ってやっぱり色々ありますよね。 漫画だと、手塚治虫、諸星大二郎、星野之宣。 でも、たった一冊で、私の人生、と言うか、性的指向/性的嗜好/性自認を大きく歪ませてしまったのは、このどんと「奴隷戦士マヤ」です。 今となっては、ハッキリ分かります。 そして、それでよかったのです。 それが嬉しいとさえ思えるし。 私、成年エロ漫画、好きなんですけど、なかでも「ふたなり」が大好きなんですよね。 いや、世に出ている「ふたなり」作品は大抵読んでいるかもですわ。 それだけ流通量が少ないからなんですけどね…。 と言うか、「ふたなり」以外で好きなジャンルって、「強制身体改造」「強制肉便器化」「強制催淫」 「異生物寄生」「異生物排卵」とかなんですけど、結局、これ全部「奴隷戦士マヤ」で植え付けられた概念ですよね…。 私は、ずっと「奴隷戦士マヤ」みたいな話を読みたくて、彷徨っている流浪の民なのかもしれません…。 でも、作品読むと分かるんですけど、まだ生硬い身体に、ちょっと肉がついてきた感じの女子高生マヤ、が、強制的に青筋隆々としたそそり勃つ肉棒を身体改造で植え付けられてしまう、自分の内なる被虐の性と、その身体の欲に目覚め、どんどん辱めを受け入れてしまう、でもそれはその後に目覚める聖戦士としての試練だったのである。 って、めっちゃ興奮しません? 当時15歳の私の色んな箇所が歪むよなー、って言うか、今の15歳の子供に見せたって歪むこと必至です。 その興奮と歪みが、心の奥底で淀んでいて、今に至ります。 はいな、今となってはハッキリ分かります。 あの一冊が分岐点だったって。 結局、「奴隷戦士マヤ」は完結せずに終わってしまいます。作者、2019年に亡くなってしまいましたしね。 でも、それは、皆の心の中でマヤは生きていて、活躍して、蹂躙されて、貶められつつも、その後に救済される、ということなのかもしれません。 (すみません、少々正気を失っております)
まみこ
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2023/07/26
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甘くて強い。
寂れた商店街、空き家だったパン屋、居抜きで開く、ケーキ店。 ここからはじまる、再生物語。 無名剛腕菓子職人、熊谷周作が、理解ある人々に担がれ、寂れたシャッター商店街に店を興し、そこから始める街の再生物語、と書くと噺は早いんですが、それでは始まらないし終わりもしないのです。 熊谷周作が、とにかくクセ強過ぎ超人であるわけですね。フランスで修行し、様々な菓子店を経由し、古くからの菓子の知識を備えている。計量しないでも、粉や砂糖の量を正確に測る。その日の空気の温度で、買いに来る客のオーダーを見越して、ロスの出ないように商品を作る。筋骨隆々、太極拳の達人にして、腕力も強い。曲がったことが大嫌いで、そのためには腕力を使うことも厭わない。曲がったことが大嫌いなので、その菓子にも、それが反映された、誰にでも美味しい味が提供される、しかも低価格で。 言っている意味が全く分かりませんよね?でも、こう言うストーリーです。 (読んだ人には自明ですが)この物語の登場人物、全員、機能不全家族の出自なんですね。 勿論、熊谷周作とて例外ではないのですが、彼は自ら発するパワーワード/パンチラインで、人々をねじ伏せ、巻き込み、家族の再生も生み出していくのです。 * 「まぁ漫画家とパティシエは似たところがありますね / かけがえのない何かになるため全力を尽くして戦う」(1巻第2話) * 「俺ですよ / あそこで菓子屋を始めようって馬鹿野郎は」(1巻第3話) * 「単語一つ一つ意味はなさなくとも繋げれば文になるように…」(1巻第5話) * 「誰かの誕生日にコンクールなんか出ていたらこれを作れないだろう!!」(1巻第6話) * 「プチ・セヴェイユは日本一の菓子店です」(1巻第9話) * 「揺るぎない信頼と矜持があるから店を開けました!!」(1巻第9話) 言っている意味が全く分かりませんよね?でも、こう言うストーリーです。
まみこ
まみこ
2023/07/18
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カルト、ピカレスク、ラーメン。
土山しげるのグルメ漫画の中でも、今になってすれば「え?誰が読むの?」とも言える、随一のカルト作、2011~2012年連載作品。 飛ぶ鳥を落とす小規模ラーメンチェーン「天守閣」に入り込んだ主人公が、その頭脳と立ち振舞の物腰柔らかさで、人を操り堕し、時には蹴り落としつつ、実権を握り、のし上がっていくピカレスクロマン(悪漢物語)なのです。 土山しげるのラーメン漫画、と言うか土山しげるの描くグルメ漫画全般には、構造的な問題があります。 それは、「そも、土山しげる、食に執着がない」です。 ここら辺は『味いちもんめ 食べて・描く! 漫画家食紀行』のインタビューでも描かれていますが。…なので、出てくるラーメンが、あの連載時期時点ですらの、工夫が無さすぎて、全然美味しそうに見えない、って言うのは事実です。 ただ、食べる時に、必死に麺を啜ったり、食べたりする勢いの描写は凄くて、これは一つの発明であって、唯一無二だと思います。それが極まったのが『極道めし』なんでしょうね。 そういう前提が分かった今、読み返すと、作中、女子スタッフだけのラーメン店を作る際の最終面接が、「実際にラーメンを食べさせて、美味いと言う仕草や表情をやっていた者を採用する」と言うのは、フフッって感じでした。 主人公、兵頭新介は、この国の最高頭脳が集まる大学で、経営学の権威と言われる教授から薫陶を受けて、総合商社10数社から内定を貰っていたのに、半年の在学期間を残して退学し、そして小規模ラーメンチェーンに入り、壊しつつも再生させていくのです。 主人公の意図は?動機は?と言うのは、作中小出しにされるんですが、その出発点が何か、みたいなのは最終巻まで待たねばなりませんでした。 でも、そこから数話でヤマを作って、最終2話で全てをたたみにかける、ここら辺のヒキの強さって言うんでしょうか?流石は土山しげるの手腕です。 ラストは、令和4年7月8日を連想させる、実に後味悪い終わり方。ピカレスクロマンかくあるべし、と言う感じです。
まみこ
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2023/07/12
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素敵なDIY、楽しい貧乏
売れない漫画家、山田ブンが、日々の生活をそれなりに、幼い頃からの友達、ぬいぐるみのホクサイと楽しく生きる! 料理と食べることに人一倍貧欲な主人公が、貧乏なりに自分で頑張って美味しい料理を作る! …と言うか、ボロいぬいぐるみのホクサイって、フツーにイマジナリーフレンドですよね?え?大丈夫? でも、途中で友達になる乙女さんも、それを許容してくれる優しい人間関係で包まれているので、全然嫌な気にはならないです。 表紙から分かるように、随所に魚眼レンズっぽい俯瞰だったり、広角レンズっぽい画像描写が出てきます。でも、実際に描写されるのは、貧乏と工夫とそれを楽しむ生活、と言う二枚底の建付けなんですね。 更に言うと、食漫画の基本である、女の子が「んー☆」とか言うシーンが無いです。と言うか、作って食べようかとするシーンで終わります。食べないんですね。これが一つのギミックであって、この作品を特別なものにしていると思うのです。 作品の合間に、作者、鈴木小波が実際に作った料理写真が載った補足ページが挟まるのですが、実はあんま美味しそうに見えない、と言う。これが作者の作画術の証明でもあるんですね。 …後、この作品の舞台は、足立区北千住。わたくしが今住んでいるところから、駅一つ、ちょくちょく見ている風景が出てきて、フフッって感じになります。
まみこ
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2023/06/13
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きれいに収まらなかったけど、それで良いではないですか
主人公、北丘蒼太の口癖「なんも、なんも」を、地で行く終わり方でした。 正直、打ち切りで、収録されなかった話もあるのですが、このエピソードとトピックで終わって良かったのではないですか?と言う感じです。 『新・蒼太の包丁』の出発点が目指したのは、「2020年の東京オリンピックを迎えるにあたって、インバウンドに向けた、銀座ならではの料理と接客、おもてなしの心」がありました。まぁ、現実はご存知の通り。悲しいことに、そうはなりませんでした。 なので、2021年前後の掲載エピソードを含む、第4巻から壮絶に迷走します。まぁ、現実が大きく迷走している以上、噺もそれを避けられなかったのです。 前作から、相変わらず、富田さつきはクソ女のままですし、主人公、北丘蒼太は、なんであんなクソ女のことが好きなん??という気持ちと、赤瀬雅美の優しさと健気さが交差する!!と言う、読者にはつら過ぎ展開。やっと終わってくれて良かった、と言う気持ち半分です。 後、最終巻で、赤瀬雅美が里帰りした時、普段は丁寧で優しい口調の彼女が、ガチな岡山弁になるのが良かったですね。