まみこ2022/12/11ネタバレ異才×鬼才とにかくオモシロ・ポイント多過ぎな一冊なのです。 岡村星の、時々出る嫌な暗さが、ここでは大全開。 沙村広明の一人では、出来ないタイプの暗さがあるのですよね。 とは言え、岡村星作品に時々出る、諧謔とかオモシロトークが随所に出て、これがこの作品を特別なものにしていると思うのです。 「樫村一家の夜明け」は、沙村広明テイスト強めで、このアクションカットは、彼にしか描けないよなぁ、と思いつつ。 でも、この引きこもりの長男と、妹、亡くなった母、親父さんとの関係性は、やっぱり岡村星のシナリオが重要なのかな、という気もしています。 「アンチドレス」は、雑誌掲載時には、何も分からん?と思っていたのです。でも単行本で読むと「ミッシングコード」の前フリとして、めちゃくちゃいい話です。 基本的に、岡村星作品は「コミュニケーション不全をどうにかして克服する」が、すべての根底にあるんです。ド直球の「誘爆発作」は途中で挫折しちゃったけど、「ラブラブエイリアン」は、それを優しく包んで出してくれた訳ですし、この作品もそうです。 最終話の志田の「とてもお似合いですね/あなたが綺麗な人だから/ワンピースもとても素敵に見える/本当にステキです」なんて、滅多な覚悟では書けないセリフだと思います。それを三話でまとめて説得力を持たせる岡村星の作劇術、流石の切れ味です。 「ミッシングコード」は、最初話の「樫村一家の夜明け」の長男、樫村タダシと、「ラブラブエイリアン」の篠原サツキが交差する、(所謂)「マルチ・ユニバース」であって、ここがオモシロ・ポイントです。 「ラブラブエイリアン」では、どうしようもない、だらしない生活をやっている篠原サツキが、シリアスな仕事をやっている、のもオモシロ・ポイントですしね。(「ラブラブエイリアン」一巻vol.11 「私だって自分がだらしない事知っているわよ!!」) ラストの独白「そう私たちはやるしかない---だって/今こうして生きているのだから」は、また最初話の「樫村一家の夜明け」の「…人生は厳しい/それでも生きる価値はある」に繋がっていて、この一冊を特別なものにしていると思うのです。 こういう噺は、岡村星の単体だとグズグズになりそうなのですが、四話で収められたのは、流石は旦那さんの力量かなー、と。 強引にまとめると、夫婦合作、と言うのを差っ引いても、お互いに出ないテイストが、導き合って、めちゃくちゃオモシロです。 樫村一家の夜明け沙村広明 岡村星7わかる
まみこ2022/11/26ネタバレ出発点にして到達点とにかく、藤川よつ葉の作劇が良いです。 何かしら困っている人(もしかしたら自分自身)を、食と会話で解放する、と言うのは、食漫画の基本なのですが、ここから軸がブレない。全話そうです。一貫しているのです。 これ、「今日もカレーですか」「吉原プラトニック」「女優めし」と続く、すべて同じストーリーなんですね。 最終話の会話 「ごはんってさ…」 「豪華とかおいしいだけじゃない」 「誰とどこでどう食べるか」 「そんな全部で"おいしいごはん"なんだよね」 って、並の胆力で書けるセリフじゃないと思います。 最初話と、最終話が、同じカレー屋で繋がって輪舞曲になっているのも、綺麗な流れで、これまとめられるのは、ホント凄いと思いましたね。夜のおねえさんは食べることばかり考えているFURICO 藤川よつ葉6わかる
まみこ2022/10/10ネタバレラブラブエイリアンの打ち切りの歴史* 掲載誌が廃刊(1回目) * インターネット配信に移行して連載継続 * 1巻の発売まで辿り着いた! * 1巻の予約の数が良くなくて打ち切り(2度目) * 草の根的な口コミで盛り上がる https://natalie.mu/comic/news/119546 * 日本文芸社の社長の一言で、2巻まで出せた!そして打ち切り(3度目) * 何故かドラマ化することになって、一気に一冊分のエピソード書く、そして打ち切り(4度目) * 何故かドラマ2ndシーズンを作ることになって、一気に一冊分のエピソード書く、そして打ち切り(5度目) 何かして、また連載再開して欲しいですよね。「樫村一家の夜明け」はめっちゃ面白かった訳ですしね…。ラブラブエイリアン岡村星13わかる
まみこ2022/10/06ネタバレ彼もまた乗り換えた世界で生きているのでしょう映画『この世界の片隅に』いや、どうにもこうにも大傑作ですよ。 私も映画館で3回観ましたしね。 ただ、あれが大ヒットしてしまうのも、ちょっと居心地悪いんですよ。 欠食児童も、傷痍軍人も、片端の乞食も、被差別部落民も、強制連行された朝鮮人労働者も居ない、そんな戦中の呉なんてウソだし、ぬるいまやかしだろ?って思うんです。 ここら辺、他の人と、広島との地理的/心理的距離感の差があるのは認めます。 私は近過ぎるんです。 で、戦時中の広島を描いた作品って、他にないのかな?って思って調べても、全然無いんです。 しょうがないですね、どうしたって(所謂)「ヒロシマ」と言う性(さが)を帯びてしまうので、よっぽどの覚悟がないとダメなのです。 やっと本題なのですが、「五色の舟」は、太平洋戦争末期の広島を舞台にしたお話です。 ジャンルは、人によって捉え方は色々でしょうけど、私は(所謂)「怪談」だと思ってます。 怪談と言うのは、妖怪や幽霊を反射として、人間の業や愚かさを、面白おかしく/残酷に/切なく/美しく描くものなのです。 はい、読者は(所謂)「神の視点」を持っているので、昭和20年の夏、広島に住む、”特別な家族”が、どういう結末を迎えるかは、読んでいるうちに薄々気付くわけですけどね。 そう、この作品は、妖怪「件」を通して、近年の最大の愚行である、太平洋戦争の愚かさを、私たちに教えてくれ、その上で、私たちは、最後の結末の、その美しさと切なさに呆然とするのです。 だからこそ、色々な台詞が、重く刺さるのです。 「立派な建物だろう 産業奨励館ていうんだよ」 「あのきれいな灯り… また見たいわね 早く戦争が終わったら……」 「みんなが 僕を見て 足を止めるのは 僕が 特別な子供だからだ」 「特別な子供が 特別なお父さんのために 走っているからだ!」 「みんなも! ほかのみんなも幸せに!」 幸せを願って実現した世界では、”特別な家族”は緩く解けていくのですが、その因果の是非は、皆さん読んで確かめて下さい。 この、切なく、残酷で、柔らかく、優しくて、美しいラストを読めただけでも、私は幸せです。 (原作者、津原泰水が2022年10月2日に亡くなったことを受けて、2017年に書いた文章を思い出して書き直しました)五色の舟近藤ようこ 津原泰水18わかる