ネタバレ

映画『この世界の片隅に』いや、どうにもこうにも大傑作ですよ。
私も映画館で3回観ましたしね。

ただ、あれが大ヒットしてしまうのも、ちょっと居心地悪いんですよ。
欠食児童も、傷痍軍人も、片端の乞食も、被差別部落民も、強制連行された朝鮮人労働者も居ない、そんな戦中の呉なんてウソだし、ぬるいまやかしだろ?って思うんです。

ここら辺、他の人と、広島との地理的/心理的距離感の差があるのは認めます。 私は近過ぎるんです。

で、戦時中の広島を描いた作品って、他にないのかな?って思って調べても、全然無いんです。 しょうがないですね、どうしたって(所謂)「ヒロシマ」と言う性(さが)を帯びてしまうので、よっぽどの覚悟がないとダメなのです。

やっと本題なのですが、「五色の舟」は、太平洋戦争末期の広島を舞台にしたお話です。

ジャンルは、人によって捉え方は色々でしょうけど、私は(所謂)「怪談」だと思ってます。
怪談と言うのは、妖怪や幽霊を反射として、人間の業や愚かさを、面白おかしく/残酷に/切なく/美しく描くものなのです。

はい、読者は(所謂)「神の視点」を持っているので、昭和20年の夏、広島に住む、”特別な家族”が、どういう結末を迎えるかは、読んでいるうちに薄々気付くわけですけどね。
そう、この作品は、妖怪「件」を通して、近年の最大の愚行である、太平洋戦争の愚かさを、私たちに教えてくれ、その上で、私たちは、最後の結末の、その美しさと切なさに呆然とするのです。

だからこそ、色々な台詞が、重く刺さるのです。

「立派な建物だろう 産業奨励館ていうんだよ」
「あのきれいな灯り… また見たいわね 早く戦争が終わったら……」

「みんなが 僕を見て 足を止めるのは 僕が 特別な子供だからだ」
「特別な子供が 特別なお父さんのために 走っているからだ!」

「みんなも! ほかのみんなも幸せに!」

幸せを願って実現した世界では、”特別な家族”は緩く解けていくのですが、その因果の是非は、皆さん読んで確かめて下さい。

この、切なく、残酷で、柔らかく、優しくて、美しいラストを読めただけでも、私は幸せです。

(原作者、津原泰水が2022年10月2日に亡くなったことを受けて、2017年に書いた文章を思い出して書き直しました)

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