美人もブスも強くなくっちゃ!──『シンデレラの鉄ゲタ』の巻

美人もブスも強くなくっちゃ!──『シンデレラの鉄ゲタ』の巻
(『シンデレラの鉄ゲタ』和泉かねよし)

シンデレラの鉄ゲタ』は、容姿に自信のない女子高生「十和子」が主人公。学園ものかつブサイクヒロインもの、となればいわゆる「陰キャ」が多いイメージだが、彼女の場合はちょっと違う。きれいな女の子たちを「大輪の花」に、自分を「雑草」にたとえながらも、一応同じ所に根を張ってますよ、というスタンスをキープしている。見た目に自信がないために学校での居場所を失ってしまうヒロインは今も昔も大勢いるが、十和子の場合は、周囲と馴染んでいるフリで、内心孤独を感じているタイプだ。クラスの女子に「引き立て役」だと思われていても、スキーに誘われれば断れないし、男子に「ゲレンデに埋まってもお前じゃ助けてやれねーぞ」とか言わても、ヘラヘラ笑ってごまかしてしまう。

嫌い!
男なんて大嫌いかわいいコしか女扱いしなくていいと思ってる
でも
それでも相手にしてほしくて「気のいいデブスねーちゃん」を演じちゃう自分はもっと嫌い……
なんてねっ
こーんな事でいちいち落ち込んでちゃブス稼業やってらんないっての!
ちょいとそこの美人!あんたが美人って言われてんのも あたしみたいなブスがいるお陰なんだからね!
だから神様
生まれ変わったらあたしも美人にしてください—…

大輪の花々の中にあって、雑草の十和子は、つねに嘲笑のターゲットだ。しかし、みんなの仲間でいられる安心感には代えられないのか、ひどいことを言われても何も言い返せず、心の中で「美人にしてください」と祈ることしかできない。そんな風に、集団の中の孤独を噛みしめながら暮らしていた矢先、突然の交通事故が彼女を襲う。

彼女を車ではねたのは、大手建設会社の御曹司「秋津」。彼はその財力にものを言わせ、美容整形によって十和子を美人に変えてしまう。「俺が医師に頼んだんだ元の顔に戻してやれないなら…/せめて日本一の美人にしてやってくれって」……少女マンガではお馴染みの、いわゆる「俺様」タイプの王子様によって、十和子の運命は大きく変わっていく(こんな交通事故の加害者が実際にいたら相当ヤバいが、少女マンガの俺様王子ということで全て許されているあたり、少女マンガマジック! という感じがすごくする)。

ちなみに、この「事故によって損傷した顔面をどうにかするため致し方なく整形して美人になる」というパターンは、前回紹介した『魔の顔』にも見られるが、少女マンガの世界で、あるいは、日本の社会で、「天然ブス>整形美人」という図式が優勢であることを裏付けているようで興味深い(おそらくこの価値観は今後時間をかけて変化していくものと思われる)。

ただ、秋津という男は、十和子に断りもなく美容整形を施してしまうような奴なので、天然の美にそこまでこだわりがない。彼女を「イミテーションビューティー」と呼ぶ一方で、「あんたは美人だよ」と言い、自分の会社のイメージガールを決めるオーディションに応募するようけしかける。美しいものは美しい。それでいいじゃないか。そういう考えの男である(シンプルでイイネ!)。

しかし、これまでずっとコンプレックスを抱えて生きてきた十和子にとって、突如訪れた美人としての人生は、そう簡単に受け入れられるものではない。美人になれて飛び上がるほど嬉しい思いもするが、学校では「いくら整形したってあんたの元ブスの過去は消えやしないよ!」「男のコだって珍しがって見てただけだよバーカ」と言われてめちゃくちゃ凹みもする。でもしょうがない、ついこの間まで、「気のいいデブスねーちゃん」だったのだ。いきなり美人らしく振る舞えたら、そっちの方がおかしいではないか。わけもわからず顔面偏差値アップのゲタ(それも鉄のゲタ! 超強力!)をはかされたのだから。こうして彼女は、美人になれたにもかかわらず、再び集団の中の孤独を味わうことになる。

その孤独から彼女を救い出すのは秋津だ。ただし、そのやり方はかなりスパルタである。やられっぱなしでいるな、やられたらやりかえせ。秋津が十和子に教えるのは、無理解な世間との戦い方であるが、かつてデブスをからかわれてヘラヘラしていた十和子にとって、戦うことは、ずっと避けてきた人生の苦手科目。つまり、彼女が強くなることは、いきなり美人になったからというより、もうずっと前から人生に必要なものだったのである(それを見抜いた秋津の観察眼のすごさよ)。こうして物語は、デブスの変身譚から、ひとりの女の子が精神的に自立する様子を描いた成長譚へとシフトチェンジしていく。

オーディション当日、十和子は実にカッコいい啖呵を切って審査員を唖然とさせる(詳しくは作品をご覧下さい)。整形美人を馬鹿にする、差別的で、傲慢で、どうしようもない大人たちに堂々と立ち向かっていく様子は、一瞬スポ根モノかと錯覚するほどに力強くすがすがしい。

一応、物語の最後に、秋津と十和子のラブストーリー的なものがくっついていて、少女マンガとしては必要な要素なんだろうが、その部分はあくまでおまけだ。美人もブスも強くなくっちゃ。そのメッセージを受信することが、読者にとって一番大事。秋津とくっつこうが、くっつくまいが、わたしたちは戦う女・十和子の誕生を喜べばそれでいいのだと思う。


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