魔神伝
来留間慎一(秋恭摩)のバトルSFは良いものだ。
魔神伝 来留間慎一
さいろく
さいろく
1年以上前
Switchで真・女神転生シリーズがちょいちょい無料追加されてて(SFC版)懐かしすぎてついついやってたんだけど、その都度思い出す「あの頃」っぽい作品。 時期は少し違うかもしれないけど、自分の中ではBASTARD!!とか幻魔大戦とかAKIRAとかファンタジー系とサイバーパンク(ネオトーキョー)系とかの入り混じった80年代後半の感じが、昔のメガテンと似た空気ですごく好きだった。 この魔神伝(神は本来は「神」の下に「人」と書く)は80年代のオタクのノリとシリアスな展開、今で言うと俺つえー系な俺様主人公。 シンプルでわかりやすい設定で、展開は継ぎ足しして作られているものの、1巻は面白い。 ただ、2巻から始まるRPGの中に入る展開がちょっと…恐らく不評だったのか、打ち切りになってしまったんだと思われる。(本来は全4巻なので巻数は電子版の話) 余談ですが、「来留間慎一」は石川賢の魔獣戦線の主人公の名前からとったそう。 wiki情報だけど、連載誌に石川賢が参入することになって、気まずくなってか「秋恭摩」とPNを変えたそうです。 ※「秋恭魔」というエロ漫画家としてのPNもあるみたい。 秋恭摩としても作品がいくつかあるが、いずれも女性がかわいく、人体絵が当時にしては筋肉や骨格の描写も含めてリアルで上手い。 80年代ということを考慮すると今っぽい先進的な要素がいっぱいある。今もマンガ描いてるのであれば読みたいなぁ。
新装版 しゃにむにGO
人の脆さとテニス愛の四重奏曲
新装版 しゃにむにGO 羅川真里茂
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
1年以上前
愛情を見失う者、支配しようとする者、失いたくなくて縋る者、恋と競技愛が混乱する者……。悩み足掻き、それでもテニスを「愛する」高校生達の、頂点を目指す三年間の物語。 ----- 常に世代のトップを争ってきた、滝田留宇衣と佐世古駿。精神面で佐世古駿に水をあけられ、ジュニア界から脱落した滝田留宇衣は、高校で出会った運動神経の鬼・伊出延久と共に、学生テニスの頂点を目指す。 物語は、この三人に、足の障害でテニスを断念した尚田ひなこを加えた四人が、様々に関わり、響き合う、切迫し熱気を帯びた四重奏の様相を呈する。 物語は、伊出延久の能天気さに覆われた、前向きコメディタッチで進行して行くが、話が進むにつれ四人は様々に、苦しみ崩れてゆく。 闘う動機を試合中に見失い、プロを目指したい気持ちが試合に反映されない滝田留宇衣。 しがらみから逃れる為に、自分のテニスにライバルの滝田と、好意を持つひなこのみを入れて孤立する佐世古駿。 プレイできない代償を、伊出と佐世古の両方を支えることに求め、自分の本心を見失う尚田ひなこ。 そして、常に明るい伊出延久も、テニスをする動機をひなこへの恋に置いてしまい、恋に躓くと立ち止まってしまう。 彼等が等しく見失うのは「テニスへの初期衝動」。この物語は、四人がそれぞれ苦しみながら、最終的に本当の愛と実力を手に入れる「歓喜の歌」なのである。 苦しみが深い分だけ、解放された時の晴れやかさと、きらめきに包まれた彼等の姿に、共に涙するほど心動かされる。 彼らの周りのチームメイト、指導者、ライバル達も、全員が苦しみを抱えており、その物語の解決を、ひとつひとつ丹念に描く。大小様々な物語にじっくり寄り添って、最後に皆で笑いたい、そんな作品だ。 ----- 加えて、作中で「車椅子テニス」をがっちりと取り上げて、困難の中でも、自分の心に真っ直ぐ向き合うことが描かれていて、心温まる。パラリンピック東京大会前に、『ブレードガール 片脚のランナー 』などと併せて読んでおきたい。
てがきのエデン
ただの三角関係じゃない。 #1巻応援
てがきのエデン 眞山継
兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
美術系学校を舞台にした作品がここ最近非常に増えてきました。 絶対的な答が存在しない世界での葛藤、創作の困難さと喜び。 それらを共に乗り越えたり挫折したり高め合ったり傷つけ合ったりする仲間。 物語の題材としては、非常に美味しいものが詰まっていると言えます。 本作は、デザイン専門学校の代々木美術学園に入学した新入生・森谷みのり。 みのりは出来る姉と比べられては貶められてきて、かつてやっていたバレエも途中で止めてしまうなど、色々なことから逃げ出し続けてきたことから自信を持てないでいる女の子です。 彼女は代々木美術学校で、ふたりの男子に出会います。 一人は、名前からもそこはかとなくジャイアニズムが溢れる藤岡猛(ふじおかたける)。 もう一人は、「ストイック系王子」と称される、爽やかな優等生、鹿上透真(かがみとうま)。 しかし、これらはあくまで第一印象の話。読み進めていくにつれて、それぞれのキャラクターの深い部分が徐々に見えてきて、それが物語の妙味へと直結していきます。 ヒロインに対してイケメン二人ということで否が応でも三角関係を想像しますし、そういう面ももちろんあります。そういうタイプの恋愛マンガが好きな方にはお薦めできます。が、単純な三角関係に留まっていないところも本作の見どころとなっています。 悩みながらも自分の真っ直ぐな感情によって前へと進んで行くみのりを応援したくなる作品です。
ホワイトアルバム
初々しい安達晢
ホワイトアルバム 安達哲
かしこ
かしこ
1年以上前
密かに憧れていたちょっと不良な女の子からテスト中にカンニングさせてと言われて応じてしまいバレた事件が元になり、第一志望に落ちて地元の底辺高校に入学することになってしまった主人公。俺は本当はこんなとこにいるはずじゃなかったんだ…と最初は絶望していましたが、地元で有名な美女や因縁の不良女子とも同じクラスになり退屈な学校生活が一変していきます。 ここ最近安達哲の作品をよく読んでいるんですが、この人はどんなに下品な話題が続いたとしても「ああ、なんていいこと言うんだろう…」ってシーンが必ずありますね。連載デビュー作の『ホワイトアルバム』は全体的に初々しくて爽やかで、過激さに慣れちゃうと退屈なくらいなんですが、最終回で高校を卒業した主人公が3年間の総括としていいこと言ってました。どうってことない言葉なんだけどそういうとこが上手いな〜と思わずにいられない。 私が読んだKCコミックスの第2巻には描き下ろしの「In His Own Words -安達 哲の高校生日記-」も収録されてたんですが、電子書籍版には収録されてるのかな?これもめちゃめちゃよかったです。ずっと片思いしてた女の子と同じクラスになることは一度もなかったんだけど、高3の時に入った美術系予備校に彼女も通っていたという淡い思い出のエッセイ漫画で、ちょっと「さくらの唄」にも通じるというか、本人も「好きなヒロインの絵をこっそり描く主人公ってプロットはワタシの漫画によく見られますが出所はこのあたりの実体験による」と語ってました。
口が裂けても君には
口裂け女と人間の不思議な結婚生活 #1巻応援
口が裂けても君には 梶本あかり
sogor25
sogor25
1年以上前
マスクをしていると美しい見た目をしているが、「私、綺麗?」とマスクを外すと耳元まで大きく裂けた口が露わになり、それを見た誰もが恐怖するという伝説の怪異「口裂け女」。 しかし、口裂け女が世間を騒がせていたのは1979年ごろのこと。 伝承としての信憑性が失われるほど口裂け女の怪異としての存在も徐々に薄れていってしまいます。 この作品はそんな「口裂け女」のみろくが、自身の力を取り戻すため怪異の逸話を管理する人間の一族「茶乃家」の当主である17歳の高校生・紅一に嫁ぐことになるという物語です。 ただ、みろく本人はこの結婚に納得しておらず、自身の力だけで力を取り戻すためにこの結婚を破談にしようと企みます。 そのために紅一に「彼が18歳になるまでに一度でも彼を怖がらせることができれば婚約を破棄してもらう」という賭けを提案します。 普通なら乗る必要のない賭けなのですが、なぜか紅一はこの賭けに乗り気です。 というのも、この縁談、自身に力を取り戻させるための政略結婚だとみろくは思っていましたが、実は紅一のほうは縁談とは関係ないところで元々みろくに惚れていて、この1年の間で逆にみろくのほうを口説き落としてみせると宣言します。 みろくが紅一のことを"恐怖に落とす"のが先か、それとも紅一がみろくを"恋に落とす"のが先か、という賭けの上に成り立つ、人間と口裂け女の不思議な結婚生活が始まります。 1巻まで読了
デイズ・オン・フェス
人類、フェスを愛せよ
デイズ・オン・フェス 岡叶
ANAGUMA
ANAGUMA
8ヶ月前
音楽フェスに行くなんて考えたこともないほどインドアかつダウナーな人生を歩んできた私ですが、このマンガを読んで考えが180度変わりました。 行きてぇ、フェスに。 フェス、爆音の中酒を片手に夜通し熱狂する狂乱の宴だと思い込んでおり「近づくまい!」と頑なに距離を取っていたのですが、『デイズ・オン・フェス』のなかには優しく楽しく賑やかなフェスの世界が描かれています。 のんびりキャンプとかしてるんですよみんな。いいなぁ。 登場人物は主人公・奏と音葉のJK初心者コンビと、喫茶店を営む音葉兄(楽さん)とバイトの律留のベテランチーム。計4名のコントラストが小気味いいです。 奏がフェスに魅了されていく新鮮な過程と、律留たちがフェスの“よさ”をじんわり味わっているようす。互いが互いのパートを引き立たせていて、読んでる自分も「早くこうなってこうなりたい」という欲求が湧いてきます。 行かなきゃ味わえない空気感が内包されてるんですよ…。 奏が自身の推しバンド「デイズ・オン・ユース」を起点に、どんどん自分の興味に従って世界を広げていくのも心地良いです。何かにハマるのってそういうことだよな、という原初的な喜びが押し付けがましくなく描かれていて。 そして3巻にはその「デイズ」の結成エピソードが収録されているんですけどこれもまたいいんですよね…。音楽に救われた者がまた音楽で人を救っていくという円環が完成するんです。美しい。 とにかく読んだら絶対にフェスに行きたくなることでしょう!!行きたい!!フェス!!
カテナチオ
凡才が醜く天才を屠る異色サッカー譚 #1巻応援
カテナチオ 森本大輔
兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
『ヤンジャン』で最近始まった2つのスポーツマンガが「天才」と「凡才」を描いた物語として対をなしており、どちらも非常に面白いです。 片方は『ダイヤモンドの功罪』。そして、もう片方が昨日1巻発売となったこの『カテナチオ』です。『ダイヤモンドの功罪』は既にSNSでもかなりバズっていますが、『カテナチオ』も単行本発売を機にもっともっと盛り上がって行って欲しい作品です。 圧倒的な天才を描く『ダイヤモンドの功罪』に対して、『カテナチオ』の主人公・嵐木八咫郎(あらきやたろう)は1P目から ″才能とは、美しさだ 才能のない俺は、醜い それでいい″ と吐露する圧倒的な凡才です。いくら努力しても、「天才」と呼ばれる人種には届かないと自覚しています。それでも、八咫郎は尋常ではない勝利への執着心と「10年以内に欧州のビッグクラブに移籍して欧州の頂点を獲るために人生を捧げる」という高過ぎる目標を持っており、またそれを実現するために1秒も無駄にしないように必要なすべての努力を断行する狂気的な精神力も持っていました。 そんな彼が、元々のポジションであるトップ下から ″CB(センターバック)とは サッカーの神に愛されなかった凡人が 持てる「すべて」で 才能を握りつぶす場所を言う″ と定義されるセンターバックにコンバートされ、躍動していく物語となっています。 面白いのは、『ダイヤモンドの功罪』では主人公がただ楽しみたいのに天才であるが故に勝利に拘る環境に身を置かせられてしまい周りを狂わせ孤立していくのですが、この『カテナチオ』においては八咫郎は凡才ではあるものの勝利に拘りすぎるあまり周りに理解されず孤立していくという、非常に対照的でありながら相似の構造になっているところです。八咫郎もサッカーセンスは並ではあっても、目標に向かって努力を続ける才能で言えばある意味で突出していて天才的なので軋轢が生じてしまうのは必然ではあります。 ともあれ、弛まぬ努力に加えてダーティな手段をも厭わず天才に抗っていく凡才主人公というのは珍しく、そもそもサッカーマンガで守備的なポジションの選手が主人公である作品も少ないので、数多のサッカーマンガがある中でも新鮮な楽しみを覚えられます。弱者が圧倒的な強者を倒すのは純粋にワクワクしますしね。 また、上手く行う反則はプロの間でも当然のテクニックであることや、観戦を前提としたスポーツとして抱える難点などサッカーという競技の本質的な部分にも肉薄していくところも面白いです。これが他のもう少しクリーンなスポーツだと違うと思うのですが、ある程度のダーティさが第一線でも許容されているサッカーであるからこそ、そこまで主人公へのヘイトも溜まらず成立する内容です。 昨年のワールドカップ開催中から推していたのですが、1巻発売を機に今後ブレイクしていって欲しい作品です。 読切版と1話を読み比べるのも乙です。 https://tonarinoyj.jp/episode/3269754496708401682
夜明けの図書館
「調べ物」で市民の人生お手伝い!
夜明けの図書館 埜納タオ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
1年以上前
図書館のレファレンス・サービス、それは利用者の「知りたい事」を探すお手伝い。新米司書の葵ひなこは、日々様々な要求に応えるべく奮闘する。見つけた先に、利用者の喜びが待っているから! ----- 図書館にある書籍・資料は、文学から実用、科学から法律、児童書から専門書と多岐に渡る。そのため、図書館には様々な知識を求める人々が集まり、そこでは日々、思いがけず沢山の人生の物語が紡がれる。 苦しみ、切なさ、懐かしさ……多種多様な物語がレファレンス・サービスによって解決する時の、優しい着地と利用者の喜びには、とても感動させられる。 その一方で、利用者から得られる少ない情報、あやふやな記憶を頼りに、膨大な分類をしらみつぶしに当たっていく「レファレンスの苦労」を共に見てきた私達は、そこを乗り越えた司書達の達成感を、一緒に味わえる。 物語の爽やかな終局に似つかわしくない、ギリギリのジタバタっぷりを見せる司書達のあがき。その落差によって最上の「舞台裏漫画」となっている。 巻が進むと、図書館の社会問題への参画も描かれ、図書館の存在意義について、前向きな提言となっている。 図書館と図書館司書を知り、応援する作品として、最高に面白い! 2000年代に華道の作品を描かれた埜納タオ先生。白場が美しい、独特の凜とした画面は、当時から一貫している。最近流行りのギッチリ描き込まれた漫画に慣れた身としては、一周回って新しい!
かりん歩
妹と喫茶店と名古屋散歩!
かりん歩 柳原望
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
1年以上前
今まで妹の世話一筋だった市井かりん。大学卒業を目前にした彼女が希望した進路は、亡き祖父の喫茶店を継ぐ事だった。目指すは常連客ゲット!名古屋の街を「地理散歩」しながら人の縁を繋ぐ、かりんと妹・くるみの成長物語。 ----- 名古屋の食習慣の中でも有名なのが「喫茶店のモーニング」だろう。おつまみ付きは序の口、トーストに始まり果てはうどんまで、そのサービスは余りに過剰である。 かりんの経営する喫茶店のモーニングは、これも有名な「小倉トースト」。更に常連一人ひとりに合わせたサービスを提供するも、前店長の祖父が亡くなってからは、客足が遠のきつつある。 常連客の一人、地理学の大家で今は一線を退いている風谷の元には、彼を慕って教え子たちが訪れる。大学でかりんを教えたこともある高杉、ゼミ担当教員の小坂、学部長の香山……(そしてあの人も?) 『高杉さん家のおべんとう』の面々が集まり、教室ではポヤンとしていたであろうかりんに、商圏や顧客行動分析、そして眼前の人と丁寧に向き合うことを教える。 実学としての地理学を示されたかりん。 課題はふたつ。 ●困難な人間関係を和して、店を切り盛りできるか ●トラウマから一人で動けない妹・くるみを救えるか ……これらが地理学でどうにかなるのかどうか、是非ご一読を。 前作『高杉さん家のおべんとう』ではあまり取り上げられなかった「名古屋」散歩をがっつり堪能しながら、いつの間にか人の心の核心に触れている、物語の妙を楽しみたい、そんな作品だ。
最強の詩
ジャンプスポーツマンガ史に名を刻む最高最強の王道 #1巻応援
最強の詩 宮田大介
兎来栄寿
兎来栄寿
約2ヶ月前
「『週刊少年ジャンプ』史上最高のスポーツマンガ」 と言ったら、あなたは何を想像するでしょうか? 『侍ジャイアンツ』、『アストロ球団』、『プレイボール』、『キャプテン翼』、『スラムダンク』、『超機動暴発蹴球野郎 リベロの武田』、『ペナントレース やまだたいちの奇蹟』、『テニスの王子様』、『ホイッスル!』、『ライジングインパクト』、『アイシールド21』、『Mr.FULLSWING』、『黒子のバスケ』、『ハイキュー!!』、『火ノ丸相撲』、『背すじをピン!と〜鹿高競技ダンス部へようこそ〜』etc... 上記以外にもいろいろな作品が思い浮かぶことでしょう。 この『最強の詩』は、それら超名作ジャンプスポーツマンガに確実に連なっていく物語です。 『テニスの王子様』、『アイシールド21』、『黒子のバスケ』、『ハイキュー!』など近年で2500万部を超えるような特大ヒットを果たしたジャンプスポーツマンガの主人公は、共通して背が低いという特徴が挙げられます。スポーツにおいてはフィジカル面で劣るというのは明確な弱点ですが、しかしそんな弱さを抱えた主人公が誰にも負けないパフォーマンスを発揮するからこそカタルシスが生まれます。 しかし、この『最強の詩』の主人公・金山は近年のそういった流れにおいては異端な、恵まれた体格から生まれる(タイトル通り「最強」の)フィジカルを持った主人公です。ただし、本作で描かれるラグビーというスポーツに関してはまったくのど素人という、いわば桜木花道のようなタイプです。 ただ、この金山の無双っぷりが非常に爽快極まりありません。それは従来の『ジャンプ』スポーツマンガではあまりなかった快感です。飛び抜けた才能はあっても、それだけでその競技に精通する猛者には通じない。故に努力して強くなる。それが正道です。しかし、金山はアマゾンの奥地から突然出てきたナトゥレーザのように、田舎から出てきて持ち前のフィジカルだけで最初から日本代表クラスの選手と互角以上に渡り合っていきます。 「完璧な一団(パーフェクト・スカッド)」という、U-15ラグビーW杯優勝チームのメンバーが本作において非常に重要かつ魅力的なキャラクターとなっているのですが、彼ら相手に金山がどこまでやれるのか。何ならその先まで行けてしまうのか。ひたすらにワクワクします。 努力せずに強くなるのは近年の主人公のトレンドとも言えますが、この無双状態は『ジャンプ』で言えばあたかも藤原佐為を宿したヒカルが、名人の子を倒して名だたるプロ棋士相手にどこまで戦えるのかドキドキするような感覚です。 一方で、弱い者が歯を食いしばって立ち上がり強者に対峙して成長するストーリーはサブキャラクターの方に用意されており、そちらはしっかりと濃厚な王道を堪能させてくれます。 選手はもちろん監督にも非常に味があり、ラグビーを全然知らなくてもまったく問題なく楽しめる作品です。 1話を読んで「最高の王道が来た」と感じさせてくれて、毎週読むたびに盤石に良さを積み重ねて行っています。 『ジャンプ+』はおよそ旧来の『ジャンプ』らしくない作品も読切を含めて多数載っているのが特色ですが、逆にこれ以上なく本誌に連載されていてもおかしくない王道スポーツマンガが来てしまいました。 1巻分読めば、この作品の1000万部を余裕で超えていくであろう面白さを感じていただけるでしょう。 そして、未来には「『最強の詩』を読んでラグビーを始めました」という子が日本代表として活躍してくれることでしょう。それくらいのパワー漲る作品です。
性別「モナリザ」の君へ。
男性・女性・無性別、それぞれの目線で恋愛感情を因数分解していく作品
性別「モナリザ」の君へ。 吉村旋
sogor25
sogor25
1年以上前
1巻で物語の設定と主要キャラ3人の関係性について描き、2巻では3人のキャラクターの感情の表現を深めていく。しおりとりつは男性・女性の目線で好きの感情を、ひなせはそのどちらでもない位置からの2人への感情を因数分解していく。その感情の掘り下げ方が凄く丁寧。 しおりとりつの2人は「ひなせの性別を決めさせる」という大きな目的がある分、より性差を強調した感情の表現を見せる。一方のひなせは、無性別という立ち位置ながら、中庸ではなく両性を持ち合わせたような感情を見せる。本人たちにそこまでの自覚がなくて戸惑いを見せる所も含めて実に面白い。 後天的に性別を選択できる世界を扱った作品としては最近では「境界のないセカイ」「選択のトキ」などもあったけど、今作は性選択≒恋愛対象の選択という意味合いが強くて、性別と恋愛感情というところに強くフォーカスしている印象がある。その上で、(ゼロではないけれども)安易に性愛の話に持っていかずに、性別と感情の結びつきに重点を置いてモノローグが展開している。その辺りが革新的でもあり、自身の感情を重ね合わせての考察が捗る。 ミクロでこの作品を見ていくとこういう感じなんだけど、物語をマクロで見ていくと突然「無性別のまま20歳を迎えた人間は存在しない」という新たなテーマが出現する。2巻の展開で、実はPSYCHO-PASS的なディストピアっぽい裏設定が隠れているのかもしれないと想起もさせる。3人の関係性も含めてまだまだ作品の底は見えない。 2巻まで読了。
地獄先生ぬ~べ~
エロとノスタルジー
地獄先生ぬ~べ~ 真倉翔 岡野剛
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)
1年以上前
懐かしい気持ちで久々に手に取りました。 妖怪や幽霊、都市伝説、学校の七不思議、オカルトなどなどそっち方面のことは大体やってて、童守小学校5年3組の担任で、鬼の手を持つ日本唯一の霊能教師である「ぬ~べ~」が解決する、といった1話完結の話が主ですね。 僕がぬ~べ~を読んでいたのは小学校の頃でしょうか。 ジャンプを読んでいる顔してエロを覗き見れる貴重な合法エロでした。 とはいえ、僕は幼少期から水木しげるをはじめ、妖怪だったり幽霊の話だったりが大好物だったので、一石二鳥でした。 大体、生徒の誰かが妖怪に憑りつかれたり、問題行動を起こして憑りつかれたり、通りすがりに憑りつかれたりって感じの話で、教訓めいたものが多く、自分はこうなるまいと思っていろいろ自制していたので、教育的な面でも成功していたんじゃないでしょうか。 通りすがり系は、災害みたいなもんでたまったもんじゃないので普通に怖かったです。 意外と科学で戦う場面もあったりするんですよね。 アニメと違って漫画は普通にグロかったのでトラウマ回もわりとありました。 漫画好きな友人とどの回がトラウマになったかで結構盛り上がるのでオススメです。 A、赤いちゃんちゃんこ、ブキミちゃん、寄生虫、人面瘡、はたもんば、枕返し、 七人ミサキ、桜の木などなど・・。 どこからでも読めるので引っ越しの際に売らなきゃ良かったなと後悔してます。 最近ジャンプ展へ行ったときに原作の真倉翔先生のコメントで「ぬ~べ~は日本初(?)のネーム原作の漫画です」と書いてあったので、へーと驚きました。 連載開始が93年なので、それまでの原作付きの漫画はネームの形ではなかったんですね。 意外です。 御本人がおっしゃってるだけなので、未検証という意味でのクエスチョンマークでしょうけど、概ねそうなんでしょうね。 続編のNEOは読んでませんが、気が向いたらまたパラパラやってみたいものです。
騎士王の食卓
美しく描きこまれた西欧世界の魅力 #1巻応援
騎士王の食卓 ゆづか正成
兎来栄寿
兎来栄寿
8ヶ月前
『騎士譚は城壁の中に花ひらく』に連なる、ゆづか正成さんの新作です。 『アンドロイドはごちそうの夢を見る』や『神食の値段』など食にまつわる過去作も複数ありましたので、中世と掛け合わさったことで筆者の趣味嗜好の集大成的な作品となっている印象です。 「美味を求めるなら紅花(カルタモ)に行け」と謳われる紅花の修道院で育った主人公・レノが、築城中の「樫の城(クエルクス)」で新たな生活を始めていく物語です。 『騎士譚は城壁の中に花ひらく』と同様に、華美な表紙から伝わる通りまず絵が素晴らしいです。中世ヨーロッパの雰囲気と非常に合っており、精緻に描かれる建造物や風景、服飾や料理や小物を眺めているだけでも世界観に浸れて楽しめます。 本作は、料理が上手なレノがその腕を振るうグルメマンガとしての一面が大きな見どころとなっています。裏表紙でも描かれているように、うさぎのパイやひよこ豆のスープなど実際に中世ヨーロッパの人々が作って食べていたであろうメニューが考証の末にシズル感たっぷりに描かれています。 何と、作中のレシピを公式が実際に作ってみたという動画も公開中です。 https://twitter.com/shonen_sirius/status/1700687664910045616?s=20 作品を描くにあたって実際に講談社のキッチンスタジオを使って試作し、現代のものと当時の材料でできるものを比較試食してみたそうですが、やはり現代人からすれば現代のものの方が美味しく感じるとか。でも、当時使える材料や器具だけで作ったものというのもロマンがあって良いですよね。マンガ飯を作るイベントやお店などをまたやる際には、作って食べてみたいと思わされます。 また、お城を建てるところから描いているというのがなかなか珍しいのですが、私は昔から古城に憧れがあり古城ホテルにいつか泊まるのを夢見ているので、丁寧に描かれた築城工程や完成予定図なども見ているだけで楽しいです。 幕間に差し挟まれるさまざまな注釈からも、綿密な下調べの上で愛を持って西欧世界を描いていることが伝わってくるのも心地よいです。そうしてひとつひとつの物を丁寧に描いていくことによって、そこで暮らす人々の温度や息遣い、生活感が感じられるような世界が生まれています。神は細部に宿る、のお手本のような作品です。 絵に惹かれた方は間違いないと思いますので、まず試し読みで数ページでも読んでみてください。
恋は雨上がりのように
画力と繊細なトーンワークに裏打ちされた演出力
恋は雨上がりのように 眉月じゅん
TKD
TKD
9ヶ月前
表紙の目ヂカラに心を掴まれてジャケ買いし、内容を読んでさらに心を掴まれました。とにかく画力を活かした演出が抜群です。 キャラの作画はCLAMPの目ヂカラと矢沢あいのフェミニンな細身のシルエットを見事に融合させており奇跡的なバランスで成り立っています。 そして手の細かな演技や表情付けなどは週刊漫画とは思えないほど繊細に描写されており手の動きだけでキャラの悲痛な感情が伝わってきます。 背景に関しては繊細なトーンワークによる光の表現が特に素晴らしく、この現実感のあまりないキャラたちを違和感なく世界に溶け込ませています。 さらに、シリアスとギャグの配分が非常によく。80〜90年代のサンデーが好きだった人にはたまらない配分になっていると思います。店長がパトレイバーの後藤さんに似ていますがその辺りの感覚はパトレイバーに近いと思います。 ストーリーに関しても初めての挫折を経験した少女の鬱と中年の危機に差し掛かったおじさんの鬱という2種類の鬱を恋愛という誰にでもわかる主題を使いながら見事に描き切っています。 少女漫画が好きな人、そして少年漫画が好きな人、もちろん青年漫画が好きな人、どの層の人にもお勧めできる恋愛マンガです!
リングにかけろ1
今読んでも1巻の試し読みだけで泣ける
リングにかけろ1 車田正美
さいろく
さいろく
1年以上前
姉ちゃん…姉ちゃん;x; 主人公高嶺竜児、ヒロインは実の姉となる高嶺菊。 拳で語るのみの本作だが、この後に控えた聖闘士星矢が小宇宙を燃やしセブンセンシズに目覚めないと超えられないぐらい生身の人間たちが限界を突破しまくる少年漫画の常識を揺さぶりまくったジャンプ黄金期(初期)の代表作。 黄金期に関しては諸説あると思うので正確には未だそこは違う!とかあるかもですがw ギャラクティカマグナムは当時リアルタイムで読んでた世代ならきっと撃ったことがあるだろう(ごっこ遊びで) 自分の場合はペガサス彗星拳でしたが。 必殺技、というのは本当に少年の心をいつの時代も掴んで離さないもので、そのハシリと言っても過言ではないこの作品では主人公やライバルたちが皆超かっこいい必殺技を持っています。 竜児のブーメランフック、河合さんのジェットアッパー、石松のハリケーンボルト(スパイラルタイフーンってどこからだっけ?)、そして志那虎のローリングサンダー。 私は志那虎が好きだったのですが(かっこいい)イケメンは河合さん。 ※志那虎が若かりし頃に狂気じみたマシーンのせいで大怪我をした後、父親にローリングサンダーを見せるところは狂気じみてて素敵なので必見です。 今見るとどこもツッコミ満載な感じで最後まで突っ走りますが、本当に胸アツな彼らの血まみれなボクシングは日本中の少年を虜にしたと聞いています。 リアルタイム世代じゃないのが少し悔しい作品。 2の方にもレビュー書きましたが、今挙げた4人+剣崎は日本を代表とするボクサーなので、是非今の世代のボクシング好きの人たちは一読していただいて、同じくボクシング好きのおっさんたちに話を振ってみるといいと思います。 画像は志那虎の若かりし頃と問題のマシーン。
わんぱくTRIPPER
サガノヘルマーは、今、どこにいるのだろう。
わんぱくTRIPPER サガノヘルマー
(とりあえず)名無し
(とりあえず)名無し
16日前
…って、別にググればいくらでも現在のサガノヘルマー情報は出てくるのですがね。 しかし、どんなにググって「知識」を得ても、この奇才の掲載当時の衝撃度は、知らない人にはたぶん推測することもできないのです。 かつてヤンマガ本誌で、つまり、日本中のコンビニで誰でもごくごく手軽に買える媒体で、常軌を逸したエロとグロをまき散らしまくっていた異形の奇才が、今はほぼ忘れられてしまっているのに茫然とする。 このマンバでも、作品一覧に『BLACK BRAIN』がないのだから。ヤンマガで連載して単行本10巻とか出していたのに…。 まあ、それもしょうがないのか。 ヒドい(=凄い)漫画家だもんなあ。 今じゃあ絶対、一般誌に載せられないよなあ。ホントにヒドい(=凄い)もんなあ。 『わんぱくTRIPPER』は、サガノヘルマーのデビュー作です。 さすがにデビュー作だけあって、その資質が全開です。作者も編集部も、ほぼコントロールできてないです。ヒドい(=凄い)です。個人的には、ブラブレや後年の成年誌発表作より、イっちゃってると思います。 素晴らしいです。 駕籠真太郎とかがお好きなかたは、ぜひ。 これが、日本中で若者が読んでいた雑誌に載っていた時代があったんだなあ。 「僕は二十歳だった。それが人生でもっとも美しいときだなんて誰にも言わせない」 ポール・ニザン まあ、少なくとも毎週サガノヘルマーを読んでたのが二十歳頃だったら、そりゃあ美しくはないよなあ。ヒドい(=凄い)よなあ。

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