今まで妹の世話一筋だった市井かりん。大学卒業を目前にした彼女が希望した進路は、亡き祖父の喫茶店を継ぐ事だった。目指すは常連客ゲット!名古屋の街を「地理散歩」しながら人の縁を繋ぐ、かりんと妹・くるみの成長物語。


名古屋の食習慣の中でも有名なのが「喫茶店のモーニング」だろう。おつまみ付きは序の口、トーストに始まり果てはうどんまで、そのサービスは余りに過剰である。

かりんの経営する喫茶店のモーニングは、これも有名な「小倉トースト」。更に常連一人ひとりに合わせたサービスを提供するも、前店長の祖父が亡くなってからは、客足が遠のきつつある。

常連客の一人、地理学の大家で今は一線を退いている風谷の元には、彼を慕って教え子たちが訪れる。大学でかりんを教えたこともある高杉、ゼミ担当教員の小坂、学部長の香山……(そしてあの人も?)

『高杉さん家のおべんとう』の面々が集まり、教室ではポヤンとしていたであろうかりんに、商圏や顧客行動分析、そして眼前の人と丁寧に向き合うことを教える。

実学としての地理学を示されたかりん。
課題はふたつ。
●困難な人間関係を和して、店を切り盛りできるか
●トラウマから一人で動けない妹・くるみを救えるか
……これらが地理学でどうにかなるのかどうか、是非ご一読を。

前作『高杉さん家のおべんとう』ではあまり取り上げられなかった「名古屋」散歩をがっつり堪能しながら、いつの間にか人の心の核心に触れている、物語の妙を楽しみたい、そんな作品だ。

読みたい
かりん歩

散歩で前進する人生

かりん歩 柳原望
名無し

名古屋には何年も住んでいたので、 名古屋を舞台にしたお散歩漫画と知って読んでみた。 予想とは全く違う面白さが数倍詰まっている漫画だった。 かりん(主人公)は妹が大好きで、大学4年生になるまで 妹のお世話ばかりで生きてきた。 だが妹の高校進学や、かりんの就職活動の不調、 喫茶店を営む祖父が倒れたことなどから、 妹離れや自身の自立を目指し喫茶店経営を継ぐことにする。 だが、成長しつつもトラウマも抱えている妹、 けして楽な経営状態ではない喫茶店など、 かりんの前に、そしてかりん自身に問題点が山積み。 それでも前進しようと踏み出したかりんの一歩は、 なぜか散歩としての歩みとなっていった(笑)。 かりんは散歩をすることで、自身や周囲の問題解決への道を 見つけていくことになる。 散歩は普通は、気晴らしとか暇つぶしに行うもので、 癒し的な効果はあると思う。 問題解決策を得る手段としては決して積極的で合理的ではない。 そもそもそういった目的での散歩は野暮だと思っていた。 かりんは、喫茶店経営のために地理学を活かした リサーチ手段として散歩を始める。 それを見て自分は、そういうストーリーもありだろうけれど、 随分と野暮な散歩話だな、と好感は感じなかった。 これでこの先の話が 「街並みの中に商売繁盛のヒントを見つけた」とか 「散歩の途中で迷子の子供を助けたら親が喫茶店の  常連になってくれた」とか 「老人ホームを発見して、そこの集会に喫茶店を  使ってもらえるようになった」とか 都合が良すぎる展開で進んだらつまらんなあ、とか思った。 そんな薄っぺらい話になったら散歩も地理学リサーチも 舐めているとしかいえないな、と。 だがそういったベタな展開は、ほぼなかった。 勿論なかには都合よく人や物と出会う話もあったが、 それはワザとらしいものではなく、そしてその出会いが導く 話の流れはごく自然で面白い展開になっていった。 このへんはホントに作者は上手いなあ、と思った。 なにせ、どちらかというと察しが悪く、 むしろ人間関係を破壊しかねない、かりんを 嫌味がないので「教えてあげたくなる娘」に描いているし。 こういう娘ならば、道や史跡について話をしてあげたくなる。 そしてそういう展開なので、街や史跡に関する説明シーンも 唐突だったり無理矢理だとか感じない。 その名古屋の歴史的な薀蓄もハイレベルみたいだし (自分はそもそも歴史知識が多いほうでもないが  この漫画の名古屋学的な知識の量と深さには恐れ入った) 勿論、漫画としての絵もとても上手い。 人間関係も深く描いている。 なにより散歩は楽しむものだ、という点が揺らいでいない。 自分に馴染みがある場所を舞台にした漫画らしいから、 当初はそれだけの理由で読んでみたのだが、 なんだか自分が好きな漫画の要素が ほぼ全方位的に想像を上回っていて、 とても面白かった。

不揃いの連理

タイトルから見る"伴侶"の形

不揃いの連理
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

ここではタイトル『不揃いの連理』の語義と内容をリンクさせながら、(6巻までで)四組の女性ペアの関係を追う本作の魅力を書いてみたいと思います。 「連理木(れんりぼく・れんりぎ)」というのは、隣りあった木々の接触した枝や幹が一つにくっつき、木目まで混ざり合った状態のこと。そこから「連理」という言葉は二人の深い契りを表すのだそうです。 幸せな予感のある「連理」という言葉。では「不揃いの」という言葉はどうでしょう? 登場するペアは、いずれも全然タイプの違う二人。そしてどちらか片方、もしくは両方とも「ダメな人」だったりもします。 まっとうな会社員×元不良は見た目に反して、ダメなのは会社員の方。いかにも悪そうな人と優等生のJKコンビは、優等生が意外と暴力的etc……。でもそんな二人が何故か寄り添う。 ではそこにどんな心があるのか。 ある人に惹かれる理由を、言葉で言い表すのは難しい。でも、なぜある人の側にいるかは、理由を言える場合もある。 この作品でそれが分かりやすいのは、ダメな漫画家に接する生真面目な編集者。彼女は恋愛的惹かれの他に、ダメな漫画家を支える動機としての「ある気持ち」を持っている。そして同じようなものは、他の三組にも見て取れる。「ある気持ち」はおそらく頼りない人に対する普遍的な心情なので、納得する人は多いと思います。 「ある気持ち」で支え合い、接するうち、彼女たちはいつのまにか離れ難くなっていく。そこには理屈ではなく、もはや必然として一つになった連理木が生まれている。 伴侶って、こういうことだよな……大きな安心感とエモーションが同居する感じ。実はかなり暴力描写・しんどい内容も多いのにそれはとても不思議な感覚で、いつまでもこの物語を追う動機となってゆくのです。 ダメな人に対する、共通する「ある気持ち」......どんなものか、ぜひ本作から探してみてください。 さあ、まだ不穏な堅物教師×生徒の物語はどうなるかな? (6巻までの感想) (追記:実はマンバ読書会でリアルタイムで書いたものから、細かく改稿しています。どんなふうに変化しているか、ぜひ配信と比較してみてください! https://www.youtube.com/watch?v=FgBPuVvUHFI) #マンバ読書会 #クチコミを書く回

バウンスバック

今から追いつける「山あり谷あり」な女子ゴルフマンガ #まだ追いつけるマンガ

バウンスバック
あうしぃ@カワイイマンガ
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「バウンスバック(bounce back)」は「立ち直る」という意味で、ゴルフだと「ボギー以下のスコアの後にバーディ以上のスコアを出すこと」なのだそうです。 逆境から立ち直る、辛い境遇から復活する……ままならない人生のようなゴルフを活写する、それが本作『バウンスバック』。 主人公は出入りの激しいプレーをする、崖っぷちの女子プロ。勝ちにこだわらない姿勢で結果を残せなかった彼女は、共に歩んだキャディーの祖父の危機に直面します。 祖父の夢・全英へ……脅威の覚醒を遂げる主人公は、祖父の教え子の力を借りて僅かな可能性に賭けますが、しかしそう甘くはなく、常にギリギリの戦いを強いられる。繊細でハードなゴルフのリアリティにハラハラさせられます。 出入りの激しさは変わらず、しかし乗った時の爆発力で周囲に夢を見せる主人公。一方ライバルのトップ選手達は安定しているのに、様々な理由で崩れ、それでも己を保って戦い続ける。選手の能力的にはマンガ的な夢もありつつ、その背景や崩れ方、回復の仕方に心理的リアリティを持たせてドラマとして魅せる。 現在11巻(2024.7.26時点)。全英へのラストチャンスは最大のピンチ。「最強のレアキャラ」と土壇場での耐久勝負。手に汗握る結末は12巻に持ち越しか……? ゴルフマンガは『あした天気になあれ』『ライジングインパクト』以来の私ですがメチャクチャ熱くなっています。「ゴルフマンガはみんな長編で追いつけない……」とお嘆きのあなた、これなら今からでも追いつけます! (ハッシュタグ #まだ追いつけるマンガ は勝手に考えました。今からでも読んでほしい作品によければ使ってみてください)

君のためのカーテンコール

殻を破った先にある絆へ

君のためのカーテンコール
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

内気で自己表現できない女子高生が、堂々とした転校生女子に引っ張られて演劇部を立ち上げる物語は、意外にも内気な主人公に脚本の才能がある一方で、転校生女子の方が焦っている様子が描かれる。読み始めの二人の印象は、少しずつ変わってゆく。 主人公も、そして転校生も、「本物」を得るために殻を破る必要に迫られる。次第に突きつけられる現実、問われる覚悟。その中で主人公は転校生の側にいるために、転校生は恐れている現実に抗うために、先へ進む。熱くて緊張感のある物語。 そこに高校生ながら劇団で活躍する「本物」の同級生、彼女らに当てられた新入生が加わり、学園祭のステージへ……この新入生の苦闘に引き摺り込まれる。 彼女はやりたいことがあるのに、その才能が決定的に欠ける人。その現実を突きつけられた彼女は、新たな道を模索するしかなかった。目指すものへの未練と、現実との葛藤……それでどこまでも若い時間を消費できると知っているので、彼女の先行きが俄然気になる。 高校演劇を描きながらプロの劇団と交流する点や、転校生と他の生徒との関係など「目指すものと現実の距離」「内部と外部」を意識的に描いて、冷静でシビアな視点がある物語。そんな中で主人公と転校生の関係は強固だが、互いに成長することでその絆がどのように変わってゆくのか、先が楽しみだ。

ヘレナとオオカミさん

創作者の物語として #1巻応援 #完結応援

ヘレナとオオカミさん
あうしぃ@カワイイマンガ
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作家、画家、漫画家など、創作者の物語はたいてい苦しい。独自の表現を追求する戦いは必ず、己のつまらなさ、発想の貧困、そして個人的な問題とどう向き合うかのせめぎ合いになる。 まだ幼い子どもが創作と向き合うのは、さらに困難だ。絵が上手な本作の主人公・ヘレナは孤児で、弟の命も失われようとしている。そんな中で「願いを絵にしてみよう」と絵本作家「悪いオオカミさん」に言われ、できずに涙を流すが、自分でもその苦しみを理解できていない。 物語を完成させるために「悪いオオカミさん」と共同作業に挑むヘレナは、その過程で作家に煽られ、引っ張られて、自分の本心に踏み込んでゆく……それまで明るく振る舞ってきたヘレナが感情をむき出しにする様に、苦しみを感じると共に、子供らしさを見出して少し安堵してしまう。 泣いて眠った夢の中で見せる心の解決は、切なくも美しい。 ヘレナのあまりの境遇に、彼女の明るさがいつか崩れてしまうことを想像しながら読むことになる物語だが、優しい大人たちの支えでヘレナは心に安寧を取り戻す。そしてその感動的なラストから、さらに彼女が創作者としても成長することまで想像してしまう。ヘレナはきっと素敵な絵本作家になると思う(もちろん悪いオオカミさんとは全然違う方向性で)。 (『ヘレナとオオカミさん』台湾の漫画賞「金漫奨」の年度漫畫奨&金漫大奨をダブル受賞おめでとうございます!)

女だから、とパーティを追放されたので伝説の魔女と最強タッグを組みました

女性差別社会をブン殴れ! #1巻応援

女だから、とパーティを追放されたので伝説の魔女と最強タッグを組みました
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

女性差別がはびこる異世界で、パーティに理不尽な扱いを受けた魔導士の主人公は、八つ当たりの中で伝説の魔女の封印を解いてしまう。二人が手を組みパーティへの復讐を目指す物語は、現実世界にもある女性差別を数多く描き出す。 現実世界での女性差別は、とても見えにくい。例えば〈女性議員が少ない〉という問題意識に「実力のある女性議員希望者が少ない」「そもそも議員になりたがる女性が少ない」という、もっともらしい反論がある。しかしこれは女性に対する教育の不平等(女性に教育は要らないという意識、入試不正等)や女性は表に出るべきではない(=女性は男性に庇護されるべきだ、女性は家庭を守る人だ)という意識等、社会構造に練り込まれた多様な通念、しきたりが起因していて、それは男性にも、そして多くの女性にも気付かれない。 本作の異世界でも、現実世界で行われる差別が全く同じ形で表現される。主人公は身に降りかかった決定的な差別をきっかけとして、社会にある差別構造を伝説の魔女に教わりながら少しずつ自覚するようになる。主人公と一緒に、私もいちいちハッとさせられる。 魔女に肯定される主人公、主人公が肯定する女性達。世の中のおかしな構図に武力で立ち向かう二人の進撃は痛快だ。難しく考えずに勧善懲悪をなしてゆく水戸黄門的なカタルシスを与えながら、差別構造を分かりやすく描いて「女性差別はこんなに分かりやすく〈悪〉なんだ」と気付かせてくれる。 二人が社会をギッタギタにするのを期待したい。

琥珀の夢で酔いましょう

付箋を貼って読む漫画

琥珀の夢で酔いましょう
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

こんなに寄り添ってくれるメッセージに溢れた、胸熱くなる作品ってそんなにあるだろうか……大好きすぎるので6巻までを再読して、大切なところに付箋を貼ってゆく。 クラフトビールの話題が満載な本作。しかしそれと同じくらい、苦しい人・心折れそうな人の再生を描いて切実な物語でもある。 就労地位格差、身体的特性、人種差別、男性性に脅かされる女性性、性差別……さまざまな苦悩を秘めて生きる、大人になりたての登場人物たち。しかし彼らはクラフトビール専門店「白熊」で、次第に前向きになる。 クラフトビールを盛り上げるべく、打たれる幾度かのイベント。好きなものを学び、広げながら、人と繋がる。出会いの中で、自由へと解放されてゆく人たちに共振する……何かを始めたくなる! 燻る現状を告白し合うことで、主人公の派遣デザイナー・七菜は女性俳優の慎と同志になる。ピアノを諦めた同級生に、写真家の鉄雄は作品で、いつの間にか何かを伝える。ページを捲るたびに心が沸き立つ。 一方随所で、冷静かつ痛烈に、私の中にある残酷さ、思い込みや偏見を言葉にして伝える。はっとさせられたり、胸が痛くなったり。それでも西陣麦酒のブランドコンセプト「多様性(ダイバーシティ)と社会的包摂(インクルーシブ)」を取り上げ、ビールを介した人の輪の中でエンパワーメントの連鎖が起こるビジョンを語る本作は、とても力強く優しい。 私の本は、付箋でいっぱいになった。特に3巻と5巻が多いようだ。お読みの方はどうだろうか。

ローラ・ディーンにふりまわされてる

恋愛クズに振り回されるな! #1巻応援

ローラ・ディーンにふりまわされてる
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

「恋愛クズ」という存在は確かにいる。自分がモテることに自信があって、恋愛をゲームのように楽しんで、いつも自分が好かれていないと嫌で……という人物であると気付いた時には既に振り回された後。あぁぁクズ、お前に割いた時間を返せ! 本作の主人公は、人気者のクズ女に振られては復縁し、を繰り返す女子。別れるたびに友人達に慰められるけれども、何が辛いってクズ女しか見ていない主人公が、次第に親友をなおざりにしてしまうところ。 舞台はアメリカの、同性愛もポリアモリーも当たり前になっているコミュニティー。そこでは多様なパートナーの形、恋愛の形が描かれ、女性同士の恋愛も当然のことと描かる。それゆえ視線は別の点にフォーカスされる。 画面がとてもPOPだったり、ちょっとサイケだったり。ピンク+スミの二色で鮮やかな画面が楽しく、しかしそのピンクは、恋愛に振り回される主人公の閉塞感、息苦しさを演出するようでもある。 恋愛にはまり込んで大切な物を失うのはもったいない、ということがひしひしと伝わる。もっとバランスよく恋愛できないのか……とヤキモキし、渦中にいると気付かない恋愛の難しさに思いを馳せ……と一段上の次元に視点を誘う本作。恋愛と人生の見方がクリアになる、かも。 ※余談だが、本作の「恋愛クズ」はポリアモリーなのかというと、「当事者同士で合意をとった上で行う複数間の関係」がポリアモリーの定義で、それには当てはまらない。作中でも「ノンモノガミー」と紹介されている。

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