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名古屋には何年も住んでいたので、
名古屋を舞台にしたお散歩漫画と知って読んでみた。
予想とは全く違う面白さが数倍詰まっている漫画だった。

かりん(主人公)は妹が大好きで、大学4年生になるまで
妹のお世話ばかりで生きてきた。
だが妹の高校進学や、かりんの就職活動の不調、
喫茶店を営む祖父が倒れたことなどから、
妹離れや自身の自立を目指し喫茶店経営を継ぐことにする。
だが、成長しつつもトラウマも抱えている妹、
けして楽な経営状態ではない喫茶店など、
かりんの前に、そしてかりん自身に問題点が山積み。
それでも前進しようと踏み出したかりんの一歩は、
なぜか散歩としての歩みとなっていった(笑)。
かりんは散歩をすることで、自身や周囲の問題解決への道を
見つけていくことになる。

散歩は普通は、気晴らしとか暇つぶしに行うもので、
癒し的な効果はあると思う。
問題解決策を得る手段としては決して積極的で合理的ではない。
そもそもそういった目的での散歩は野暮だと思っていた。
かりんは、喫茶店経営のために地理学を活かした
リサーチ手段として散歩を始める。
それを見て自分は、そういうストーリーもありだろうけれど、
随分と野暮な散歩話だな、と好感は感じなかった。
これでこの先の話が
「街並みの中に商売繁盛のヒントを見つけた」とか
「散歩の途中で迷子の子供を助けたら親が喫茶店の
 常連になってくれた」とか
「老人ホームを発見して、そこの集会に喫茶店を
 使ってもらえるようになった」とか
都合が良すぎる展開で進んだらつまらんなあ、とか思った。
そんな薄っぺらい話になったら散歩も地理学リサーチも
舐めているとしかいえないな、と。

だがそういったベタな展開は、ほぼなかった。
勿論なかには都合よく人や物と出会う話もあったが、
それはワザとらしいものではなく、そしてその出会いが導く
話の流れはごく自然で面白い展開になっていった。
このへんはホントに作者は上手いなあ、と思った。
なにせ、どちらかというと察しが悪く、
むしろ人間関係を破壊しかねない、かりんを
嫌味がないので「教えてあげたくなる娘」に描いているし。
こういう娘ならば、道や史跡について話をしてあげたくなる。
そしてそういう展開なので、街や史跡に関する説明シーンも
唐突だったり無理矢理だとか感じない。
その名古屋の歴史的な薀蓄もハイレベルみたいだし
(自分はそもそも歴史知識が多いほうでもないが
 この漫画の名古屋学的な知識の量と深さには恐れ入った)
勿論、漫画としての絵もとても上手い。
人間関係も深く描いている。
なにより散歩は楽しむものだ、という点が揺らいでいない。

自分に馴染みがある場所を舞台にした漫画らしいから、
当初はそれだけの理由で読んでみたのだが、
なんだか自分が好きな漫画の要素が
ほぼ全方位的に想像を上回っていて、
とても面白かった。

名古屋の街並みで、栄付近は碁盤の目のように
作られたとか、それくらいは知っていた。
だがそれが西はほぼ堀川あたりまでだとか、
大須の街が賑わっていたのが
ただ門前町だったからではないことなど知らなかった。
「熱田台地」とか「閑所」などの言葉も。
とても面白くてタメになった。
また、コミックス2巻の巻末の作者の話で
熱田台地や閑所についての
漫画作者ならではのエピソードが
漫画家さんってこう感じるものなんだなあ、
と印象に残って、熱田台地も閑所も、
しっかりと記憶に残り勉強になりました。
コーヒーチケットが他の地方にはあまりないことも(笑)。

柳原望先生の作品としては、まず
高杉さん家(ち)のおべんとう」が描かれて、後に
かりん歩」が描かれている。
「かりん・・」は「高杉さん・・」のスピンオフ的な作品というか、
「高杉さん・・」のキャラがゲスト的に何人も登場する。
自分はたまたま先に「かりん・・」を読んで、面白かったので
後に「高杉・・」を読む、という逆の読み方をした。
それが良かったのか悪かったのかは微妙だし、
まあ普通に考えれば先に「高杉・・」を読んでから
「かりん・・」を読んだほうが、
もう会えないと思った高杉さん達にまた会えた!と
嬉しく感じて良いのかもしれない。
けれど私としては「かりん・・」に脇役として登場した
高杉さんや久留里、風谷先生、小坂さんなどに、
実はこんなドラマがあったのか、と後になって知って
とても面白くて感慨深かった。
そして「かりん・・」では
そこそこ先生らしい先生をしている高杉さんや、
立派に社会人をしている久留里の姿が、
実は色々とあったうえで成長した姿だったんだな、
と判って、なんだか複雑な面白さを感じた。
こういう漫画の楽しみ方が経験出来て、
ちょっと嬉しい(笑)。

添付画像は「かりん歩」の第一巻の中の1シーン。
読んだときにはとくに感じることもなかった。
けれど後に「高杉さん家(ち)のおべんとう
を読んで風谷先生の言う「高杉くんの奥さん」の過去を知って、
ああ、あの原風景地図って・・と判ったことがあって
なんだか心を弾かれたような感じがした。
それと、
「あ、久留里さん、大学で風谷先生の師事を受けたんだ」
と、ちょっとほっこりした(笑)。

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