ホラー漫画家は激しく嗚咽する

年初にして今年最高の読切に出会ったかもしれない #読切応援

ホラー漫画家は激しく嗚咽する 玄黃武
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

苛烈でヒリつく素晴らしい読切…!! 駆け出しの漫画家は、友人の家族6人が家と共に全焼し、友人一人残されてしまった状況の先に何を見るのか。 ホラー漫画家としてそこから何を描き出すのか。 表現者としての葛藤と業、そして愛を描く短編。 https://comic-days.com/episode/10834108156738607471 作者さんの年齢が40歳なので、積み重ねた人生経験から来る厚みを遺憾なく発揮されているように思えます。 そして投稿作というのがまたすごいですね。 https://twitter.com/ym_shiraki/status/1219173090875211776?s=20 家族を火事で失ってもどこか当事者でないような友人は、必死にその事実に向き合わないようにして正気を保っている。 それはとてもリアルで、やるせない。 誰のために漫画を描くのか。 友人のため、自分のデビューのため、編集に言われたから。 なんとでも言える。言えるが、主人公はすべてを背負う。 その覚悟なしには描けないからだ。 過去の読切『四十九日、飯』(第1回ヤングスペリオール新人賞佳作) http://big-3.tameshiyo.me/49NICHI01SPE こちらもやはり家族を亡くし乗り越える話だ。 この作者には、はっきりと描きたいものがあるようで、そこが大好きだ。 この実力ならきっとすぐ連載するようになるだろうから、楽しみで仕方ない。 作者名が、「玄黃武」と「玄黄武」の両方出てくるのが気になる。旧字体の方とどっちが正式な表記なんだろう。

あんきらこんきら

短編集『心臓』の集大成みたいな読切作品 #読切応援

あんきらこんきら 奥田亜紀子
かしこ
かしこ

久しぶりに帰省した主人公は東京で女芸人をしている。父と母は兄の子供である孫に夢中で、90歳を過ぎた祖母はボケてきていた。今現在の時間の流れを主人公の視点で語りつつ、そこにボケて子供に返った祖母の記憶と意識が混ざる構成。 祖母が子供だった頃の村では凶作で食うに困った人達が芸を見せて金をもらい歩いていて、同情した父親が彼らを家に泊めたが、翌朝に物が盗まれていたことがあった。主人公はパソコンの画面越しにネタ合わせしていた相方に「どうして里帰りしたの?」と聞かれ「自分は子供に返りたかったのだ」と気づく。子供に返ってしまった祖母と子供に返りたい孫。二人ともそれぞれの過去と現在のしがらみに苦しんでいる。 物語の最後で東京に帰ろうとする主人公を玄関先で呼び止めて「私からもらったと言うな」と祖母がお菓子を握らせる。おそらく祖母のボケた思考回路の中では、子供心に印象的だった貧しさから盗みをしてしまった人物達と、同じく芸をしている孫を混同しているが、この行為は祖母からの泥棒をしたあなた方を恨んでないというメッセージだと思う。主人公は自分が買ってきたお土産を渡してくる程ボケても子供のように可愛がってくれる優しい祖母だと感じている。 ある意味ここで意思のすれ違いが起きているけれど、同時に祖母も孫も救われている。そこに気づけるのは読者だけ、というのも面白い。 短編集『心臓』に収録されていた作品それぞれに登場したモチーフが数多く見つけられた。高野文子のオマージュのような表現もそう。今回の「あんきらこんきら」で一つの完成形に達したような感じがする。けれども奥田亜紀子の進化はまだまだ続くと確信を持てる傑作でもありました。