伊橋の成長物語
「味いちもんめ」シリーズ始めの作品。まだ駆け出し時代の伊橋が、新宿の料亭で板前料理人として頑張っています。派手さはありませんが、板前としても人間としても少しずつ成長していく様は、心に響くものがあります。板前修業や料亭の日本料理の技など細かいところまで知ることができるので、読んでいる側も知識が深まります。料理人達を応援したくなる心温まる作品です。
伊橋は新宿の料亭『藤村』に入ったばかりの新米料理人。料理学校を首席で卒業した自信から、洗い物やゴミ捨てなど雑用ばかりやらされる「追い回し(アヒル)」に飽き飽きしていた。伊橋の不満を聞いた立板の横川は、その腕前がどの程度のものなのか、追い回し歴三年の谷沢と「桂剥き」をやらせてみるが…。板前の世界を描く異色の「食」コミック!!
と聞くが、流石にリアルタイムで読んでいたわけではないので実際にそうだったのかは知らない。
ただし内容的には初期美味しんぼで見られた料理を通して描く職人物、人情物的な作風が非常に強く出ていて、美味しんぼに比べると政治的(というか鼻に付く)メッセージ性より地に足の着いたメッセージ性が出ていて、あちらに比べると似て非なるというか、対極的にも感じる作風となっている。(鼻につくメッセージが無いわけではない)
お調子者な主人公の伊橋が入った料亭藤村を舞台にして、客や料理、先輩といった様々な人々とのドラマを描いているが、長く続くと常連客が固定化されてしまい舞台装置気味になっている事もあるのだが、それでも描かれるストーリーは非常にジンとくる話も有ったりして、往時のこの作品が美味しんぼと並んで語られていたのも納得。
ただなんというか読み返しても原作者の急死が痛恨事だったのを強く感じてしまう…
明らかに作者自身は4~50巻くらいで終わる構想と思わしきものが多少見えるのだが、ビッグコミックスペリオールでは当時看板連載だったこの作品を終わらせることができず、原作者変更や作風を群像劇から成長物語色を強めたりと様々な手を打って続編を描いたものの、単体の作品としてはともかく、やはりこの無印版と比べると違和感は大きい。
その上もう無印版より続編以降の方が長くなってしまったのだが…、味いちもんめ 継ぎ味はようやく原点回帰したのを強く感じ、面白いとは思う物の、同時にこの無印が結局は昭和のノリが色濃く残っているのも浮き彫りにしてしまっている。
率直に言って新以降の読者や、若年層の読者におススメしがたいのはこの時代の流れの残酷性にある、間違いなく面白いしちゃんと完結してれば昔の作品として素直におススメできるのだが、なまじ続いてしまったから素直におススメできなくなってしまった。