太宰治の「人間失格」が人生のバイブルと言って憚らない私ですが、行間やニュアンスなど、人によってとらえ方が異なると思うので、漫画化(ないしは映像化)は非常に難しいと思っていましたが、本作は素直にすごいと思える内容でした。

最初、作者は、葉蔵を自分に重ねているのかな?と思いましたが、そうでもないっぽいですね。

表現の仕方だけでなく、ネットで小説を発見し読み進めるという導入が、単純に原作をなぞるだけではない手法に、小説で夢中になったあの頃と同様ぐいぐい引き込まれてしまいました。(原作も手記からはじまるので、現代版のオマージュだと思いますが)

人間失格がもつ、そのもののパワーを摩擦なく表現しきっている感じです。
自分は、本作で描かれる人間の醜さ・弱さもですが、何より主人公の惨めさが際立って記憶にあるので、そこをこれでもかと描かれる感じがよかったです。
良かったというか、胸にクる感じが、懐かしかったです。

コミカライズは多々あれど、原作好きにもおすすめしたい一作です。

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人間失格
漫画だからこそ描けた絶望
人間失格 古屋兎丸 太宰治
野愛
野愛
太宰治『人間失格』を漫画化した作品。 原作をそのままなぞっているのではなく、現代的かつメタ視点で描かれている。 古屋兎丸先生自身がインターネット上で大庭葉蔵の日記「人間失格」を発見し、読み進めていくというストーリー。 読者は古屋兎丸の目を借りて、葉蔵の人生を追いかけていくことになる。 父を憎みながらも実家の金で裕福に暮らし、仕送りが打ち切られれば女の家に転がり込む姿に、最低だ罪人だと責めたててしまいたくなる。 煙草屋の娘に恋をして、1日に何度も煙草を買い、素直になれず揶揄う姿はなんとも可愛らしい。 他者の目を挟むことで、葉蔵という人間の可愛らしさや狡さ、いやらしさがより鮮明に浮かび上がる。女を誑かす様子なんかは、原作よりも真に迫るものがあるような。 小説『人間失格』も葉蔵の日記を読む他者の視点で描かれている。漫画『人間失格』も同じだが、古屋兎丸視点で古屋兎丸の絵で描かれているので、メタ要素がより色濃く感じられる。 葉蔵を見つめる読者である古屋兎丸を見つめる読者である自分自身。古屋兎丸の目が自分自身の目となり物語に飲まれていく。 嫌悪、軽蔑、共感、友愛…葉蔵に対して様々な感情を抱きながら、共に絶望の果てに追い込まれる自分自身をまざまざと見せつけられる。 小説『人間失格』からは「ただ、一さいは過ぎて行きます。」という一文が示す通り、すべてが過ぎ去ったあとの凪のような絶望を感じた。 対して、漫画『人間失格』からは今まさに激流に飲み込まれて苦悩しているような生々しい絶望を感じた。 それぞれの絶望の味を是非読み比べてみてほしい。 古屋兎丸先生の人間失格が素晴らしかったので 津軽×魚乃目三太先生とか、斜陽×えすとえむ先生とか 相性の良さそうな太宰×漫画家を妄想するのが楽しい…駆込み訴えをどうにか現代設定(どうやって)にしてゴリゴリのBLにしたりとかめっちゃ見たい
武士沢レシーブ
謎に読み返したくなる
武士沢レシーブ
六文銭
六文銭
思春期に「セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん」をリアルタイムで読んでいた人はわかってくれると思うのだが、ギャグ漫画としてのマサルさんの衝撃はとにかく凄まじかった。 意味不明なのに爆笑できるという体験をさせてもらった作品で、シュールのような斜に構えたものでもなく、浦安鉄筋家族のようなわかりやすいギャグでもない。 でも面白い!という今でも強烈に覚えているほど私には衝撃的だった。 そのうえで、次回作がコレ。 そして、『ピューと吹く!ジャガー』に続く。 つまり、マサルさんとジャガーの間が本作。 わかりやすく言うと打ち切りなのだが、これはこれで私にとっては衝撃的だった。 マサルさんの衝撃後、同著者の新連載ということで本作を読んだら、文字通り ??? となった。リアルタイムで読んでいた人は(以下略 雰囲気はマサルさんチックなのだが、ヒーローに憧れるとかバトル要素が強く、どことなくギャグのキレも弱い。 でも、大人になるとなぜか無償に読みたくなる。 マサルさんの著者なのになぜ?と友人とよく話していた思い出補正もある。 加えて、マサルさんからジャガーへ昇華される段階なのか?という捉え方ができたり、純粋に天才だと思った作家の人間味を感じる。 ギャグ漫画の鬼才だと思っていた人間も、迷走するんだなと。 (マサルさんの後半も結構失速感はあった) 大好きな作家の、そんな一部が垣間見えるということで、謎に読み返したくなる作品です。 作家ファンの人にとっては貴重な体験になるのではないでしょうか。 最後に、ギャグのキレが弱いと言いましたが。「イヌーピー」(要はアレ)というキャラだけは、腹かかえて笑いました。
勇者カタストロフ!!
ドラクエ4コマの雄「牧野博幸」のオリジナル作品
勇者カタストロフ!!
六文銭
六文銭
少年時代、ドラクエ4コマが好きだった私にとって、その作家さんたちがオリジナルを描いていた「ギャグ王」というマンガは宝物みたいな雑誌でした。 (残念ながら雑誌自体、短命に終わったのですが・・) ドラクエ4コマの中でも、牧野博幸という漫画家はグンを抜いて面白かったので、そのオリジナルである本作も大好きでした。 カルト的な人気で絶版されたギャグ王版の単行本が高値取引されており、そこから見事復巻されたと記憶してます。 (なぜか、仙台のブックオフで4巻4000円くらいで全巻買った思い出がある。) ギャグのセンスというか、笑いのツボが同じなのか、とにかく読んでて面白い。 会話の流れや、セリフのチョイスが的確なんだと思う。 ただ、あらためて読み返してみると、長編のストーリー向き(しかも、後半にかけてやたらとシリアスな展開になるので、そのジャンル向き)の漫画家ではないのかなと感じる部分もあります。 子どもの頃は感じなかったのですが、場当たり的な展開や後出しの設定が出てきて「?」ってなる部分が、本作には多い。 ストーリー漫画がうまい人は4コマもうまいと聞いたことがありますが、逆もまた然り、というわけではないのかな? それでも、瞬間最大風速のギャグは顕在なので牧野博幸という漫画家の価値が損なわれることはないし、むしろドラクエ4コマなどで作家のファンになった人にとってのファンアイテムとして一度読んでみてほしいと思います。
にんげんしっかく
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1985年のソドム 古屋兎丸短編集

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「どんな悩みでも解決します。放課後17時に日本文学の棚にお越しください。」少女の元に届いた、一通の招待状。おそるおそる図書室の扉を開くと、そこには悩みを解決してくれる「図書委員界」の面々がいた――。YouTubeチャンネルでのコラボ企画をきっかけに生まれた、生駒里奈&古屋兎丸、夢の狂宴!
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古屋兎丸画業20周年記念作品! 女子高生に殺されたいがために高校教師になった男・東山春人。彼の標的は1年3組の美少女・佐々木真帆(16歳)。彼女による“理想的な殺され方”の実現のため、密かに綿密に計画を練るのだった……! 鬼才・古屋兎丸、待望の最新作は「リアルな心理描写」×「緻密に練られたプロット」で紡ぐ異常なる犯罪計画! 新装版として一部修正を加え、巻末には電子書籍限定のカラーイラスト2枚を収録!
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『帝一の國』の古屋兎丸、最新作! 時は戦後。サーカスは娯楽の王様だった。空中ブランコ乗り達が花形スターとして活躍する中、主人公の龍之介は天才フライヤーとして団員からも一目置かれる存在。彼はある目的のため、ライバル達と鎬を削り、命を賭してスターの道を駆け抜ける―――。
きりぎりす

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太宰治の名作短篇小説を二階堂流にアレンジしてデジタルコミカライズ!原作者である太宰治が最も得意とする女性の告白体小説のひとつ「きりぎりす」。「おわかれ致します。あなたは、嘘ばかりついていました。」で始まる、名声を得ることで破局を迎えた画家夫婦の内面を妻の告白を通して印象深く描く名作。その物語をブラックユーモアの巨匠である二階堂正宏が驚きの脚色を加え、“大人”の「きりぎりす」としてコミカライズ。この作品は原作が発するメッセージにさらに奥深い味わいを加味した作品となっている。原作をめにしたことがある人はもちろんのこと。さらに原作未読の人にこそ、太宰作品を知るための必見のコミカライズとなる。
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ベッキー主演で舞台化されるなど二階堂正宏の大人気作品「極楽町一丁目」のスピンオフ作品が本邦初登場! 極楽町一丁目にある居酒屋・不潔亭は裏四条流の板前が腕を振るう少し変わった趣向を凝らす店。読めば大爆笑うけあいの二階堂ワールドへようこそ! 世界でいちばん不潔でいちばんお下品な作品をご照覧あれ!
あの極限の文学作品を美麗漫画で読む。

あの極限の文学作品を美麗漫画で読む。

谷崎の美! 夢野の狂! 太宰の愛! 鏡花の優! 狂おしく咲き乱れる文学作品の極限愛がこの一冊に。谷崎潤一郎、太宰治、夢野久作の異色作を、人気絵師、ひらはらしだれ(片々 櫻絲)が「大人の愛」をテーマに完全漫画化。それぞれの愛の絡み合い縺れる愛憎絵図を美しく残酷に描いていきます。 禁断の文学絵巻へようこそ。 狂おしく執着し咲き乱れる文学作品の究極の愛がこの一冊に谷崎潤一郎、太宰治、夢野久作……あの名作はこれほど激しい禁断の物語だった。(収録作品)谷崎潤一郎『刺青』・・・美しい女性の肌に魅せられた彫師の数奇な運命 夢野久作『溢死体』・・・あるはずの死体がそこには・・・。 太宰治『人間失格』・・・葉蔵と女たち、死んで愛して泉鏡花『外科室』・・・最期の瞬間、外科室では・・・。●PIXIVコミック「まんがのほし」で大人気のシリーズ書籍化! ●WEBマガジン「まんがのほし」連載中
マンガでBUNGAKU『人間失格』

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マンガでBUNGAKUシリーズ第1弾! 破滅的な人生は誰にでも陥る可能性がある。道化として生きている主人公の葉蔵は人と向き合うことを恐れるが黙っていても女性だけに愛されてしまう。この作品を読んで人間不信になるのか? それとも惹きつけられるのか? 太宰治 不朽の名作『人間失格』待望のコミカライズ。
津軽 -まんがで読破-

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ありがとう故郷…さようなら友よ!昭和19年、物資不足の戦時下。生まれ故郷の青森を舞台にした執筆の依頼を受けた小説家・太宰治は、取材のために津軽地方各所を巡る旅に出る。そこで久しぶりに会う友人や身内とのふれあいのなかに、太宰はある想いを強くしていく──。太宰治の本質が見出すことができる自伝的な紀行記『津軽』を、初期の小作品『ロマネスク』とあわせて漫画化!
津軽

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実力派・山本おさむ氏が太宰治の短編を、渾身の筆致で漫画化! おとぎ話を男女関係になぞらえて解釈した『カチカチ山(お伽草子より)』、老婦人が、若くして亡くなった妹との不思議な思い出を語る『葉桜と魔笛』、師・井伏鱒二に紹介された女性と結婚するまでの前後を綴った『富嶽百景』、太宰が故郷・青森を巡り、幼少の自分に強い影響を与えたある女性との再会までを描く『津軽』… 以上4作品が時代を超えた夢のコラボでよみがえります! 山本氏自身による作品解説も収録し、原作と併せて読み比べれば、より、太宰治への理解が深まること請け合いです! 太宰ファンも、太宰作品を読まれたことがない方も是非ご一読ください!
人間失格 -まんがで読破-

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「弱虫は幸福をさえおそれるのです」波乱の人生を歩んだ文豪・太宰治が、死の直前に書き上げた傑作自伝的小説を漫画化!「人間はなぜ生きなければいけないの?」世間を恐れ、道化を装い、周囲を欺き、ありのままの自分を隠してきた少年・葉蔵。やがて葉蔵は拒否することのできない青年へと成長していく。愛を求めながらも他者への恐怖に苦悩する孤独な生涯とは?
斜陽 -まんがで読破-

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戦争が終わって、私たちの本当の戦いがはじまった…。没落貴族のかず子は、滅びるものなら華麗に滅びたいと、道ならぬ恋に溺れていく。最後の貴婦人である母と、麻薬に溺れ破滅していく弟・直治、無頼な生活を送る小説家・上原。戦後の動乱の中を生きる四人の、滅びの美しさを描く太宰治の代表作を漫画化。
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パンドラの匣・ヴィヨンの妻 -まんがで読破-

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「私たちは、生きていさえすればいいのよ」――放蕩者の作家・大谷を支える妻の視点から、敗戦後の混乱期における男女の本質について描いた『ヴィヨンの妻』。“健康道場”という名の結核療養所を舞台に繰り広げられる恋愛模様を通じて、青年・小柴利助(ひばり)の成長を描いた『パンドラの匣』他、『桜桃』『グッド・バイ』など、波乱の人生を歩んだ文豪・太宰治の晩年の傑作4編を漫画化。
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