『奴隷区』というヒット作を生み出した作者だけあり、凡百のデスゲ漫画より幾分読みやすいです。山田J太先生の絵が素晴らしいのも手伝ってキャラクターは非常に魅力的。まぁダークミステリーと銘打ってはいますがミステリーとしての質はそれほど、ですが、キャラの良さは面白さの源泉だと思っているのでそれだけでも高評価に値します

読みたい
MA・MA・Match

映画『怪物』みたいな構成の話だった

MA・MA・Match
mampuku
mampuku

いい意味で誤解や異説の飛び交いそうな、多層構造のストーリーだったように思う。 主人公の一人である芦原(母)は、生意気な息子とモラハラ夫を見返すべく、息子の得意なサッカーで勝負を挑む。 前半は、ママさんたちが友情や努力によって青春を取り戻しながら、悪役(息子と夫)に挑むという物語で、この悪役というのがちょっとやり過ぎなくらいのヘイトタンクっぷりなのだ。その場限りのヘイトを買うキャラクターは、ヒーロー役の株を上げるための装置として少女漫画では常套手段だ。だが『マ・マ・マッチ』はそういう物語ではないため、話はここで終わらない。 後半は時を遡り、息子と夫の目線で描かれ直す。母目線ではイヤ〜な輩にしか映らなかった彼らにも彼らの言い分や考えがあったのだと明かされる。 真っ先に私が思い出したのが、是枝監督の映画『怪物』の主人公の一人、安藤サクラさん演じるシングルマザーの早織である。 息子が教師に暴力を振るわれたことに抗議するため学校に乗り込むも学校側からぞんざいな対応をされ不信感を募らせる早織。その後教師や子供など、さまざまな視点が映し出されることでやがて全体観が像を結ぶ。 『マ・マ・マッチ』でも、後半部分を読んだあとに最初から読み返すと些か感想が変わる。息子や夫がイヤな奴らとして描かれているのは確かだが、先入観によって印象が悪化していたのも事実だ。なにより、序盤に出てくる夫のコマは母を嘲弄するような不快なものだったが、そもそもこれは芦原母の回想であり主観だ。その後実際に登場する夫は彼女と衝突こそすれ至って真面目だ。 つまり、それぞれの立場から不満を抱いたり譲れない部分でぶつかり合いながら、逐一仲直りしたり折り合いをつけているのだ、という話に畢竟見えなくもない。悪者退治という少女漫画にありがちなフォーマットで導入を描いて入り込みやすくしておいて、後半の考えさせる話でモヤモヤさせる。末次由紀先生、さすがの巨匠っぷりを見せつけた怪作だ。

テセウスの船

どちらかというと『テセウスの船』というより『動的平衡』じゃない?

テセウスの船
mampuku
mampuku

時間遡行をして人生をやり直したとしたら、それは本当に同一の自分といえるのか?という問いを有名なパラドックス「テセウスの船」になぞらえたタイトルだ。 ストーリーに関しては論理的整合性や感情的整合性においてやや粗い部分も感じられたもののサスペンスとして緊張感もあり、ラストは新海誠監督『君の名は。』のような美しい締め方だったし概ね面白かった。 ただ、タイトル『テセウスの船』がイマイチストーリーにハマっていない感じがした。 どちらかといえば「動的平衡」のほうが比喩としてしっくりくるのではないだろうか。 「動的平衡」とはシェーンハイマーの提唱した概念であり、日本では福岡伸一氏による著書『生物と無生物のあいだ』『動的平衡』で有名になった言葉である。“生命”とは、取り込まれ代謝されていく物質、生まれ変わり続ける細胞どうしの相互作用によって現れる“現象”である、という考え方だ。 主人公の田村心は生まれる前の過去に遡り、そこで巻き起こる惨劇を阻止することで、その惨劇により自身に降りかかった不幸な運命を変えようと奮闘する。作品では、過去を改変して自らの人生を曲げようとする一連の試みをテセウスの船にたとえているが、やはりピンとこない。作中、田村心は殺人事件を未然に防ぐため凶器となった薬物を隠したり被害者に避難を呼びかけたりするが、その影響で心の知る未来とは異なる人物が命を落としたり、結果的に大量殺人を防げなかったばかりか予想だにしなかった事態を招くことになる。 この予測不可能性こそがまさに動的平衡そのものって感じなのだ。生命体は、船の部品のように壊れた部分を取り替えれば前と変わらず機能する、ということにはならない。ある重要なホルモンの分泌に作用する細胞を、遺伝子操作によってあらかじめ削除してしまったとしても、ほかの細胞がそのポジションを埋めることがある。これは心が殺人事件の阻止に何度も失敗したことに似ている。思わぬ不運や予想しない死者が出てしまったのも、脚のツボを押すと胃腸の働きが改善するなどの神経細胞の複雑さに似ている。 船は組み立てて積み上げれば完成するが、生命は時間という大きな流れの中で分子同士が複雑に相互作用しあうことで初めて現象する。『テセウスの船』での田村心の試みは人生あるいは歴史という動的平衡に翻弄されながらも抗う物語だったのかもしれない。

本棚に追加
本棚から外す
読みたい
積読
読んでる
読んだ
フォローする
メモを登録
メモ(非公開)
保存する
お気に入り度を登録
また読みたい
【連載版】兇器博物館

【連載版】兇器博物館

【『奴隷区』の岡田伸一×インタラクティブノベルアプリ「Story Me」が贈る新感覚サスペンスホラー、ついに美麗コミカライズ!】人間の顔が“穴”に見えてしまう「のっぺら病」にかかった主人公・青井。他人とまともに交わることができず虚無的な日々を送っていた彼がたまさか手に入れたのは、謎めいた「兇器博物館」への招待券だった……。特殊な“力”を持った「兇器」を展示しているその博物館で、彼はキュレーターの鏡子と出会う。自らの奇病の治療法を求めて「兇器」とその力に秘められた物語を彼女から聞くうち、青井は奇妙な博物館に囚われていく……! 無数の奇妙な“怪奇譚”が絡み合った先に衝撃が待ち受ける、新時代のオムニバスホラー、ここに開幕。※本電子書籍内に広告・その他情報が含まれている場合がございますが、発行当時のものとなります。付録は含まれておらず、プレゼント・アンケート等への応募もできません。何卒ご了承ください。

兇器博物館

兇器博物館

人間の顔が穴に見えてしまう「のっぺら病」にかかった主人公・青井。彼がたまさか手に入れたのは、謎めいた「兇器博物館」への招待券だった……。特殊な“力”を持った「兇器」を展示するその場所で、彼はキュレーターの鏡子と出会う。自らの奇病の治療法を求めて「兇器」とその力に秘められた物語を彼女から聞くうち、青井は奇妙な博物館に囚われていく……! 無数の奇妙な怪異譚が絡み合う新時代のオムニバスホラー、ここに美麗コミカライズ!

奴隷区 僕と23人の奴隷

奴隷区 僕と23人の奴隷

「奴隷」欲しいヤツ、いる?天才的な頭脳も超人的な肉体もいらない。どんな勝負でも勝ちさえすれば相手を奴隷にできる器具それが【SCM(エスシーエム)】。偶然にも【SCM】を手にした24人の主人公が欲望のため、復讐のため、それぞれの目的のために壮絶なサバイバルゲームを開始した!!「E★エブリスタ」で圧倒的な人気を誇る小説が待望の漫画化!

D・F・O/デス・ファンタジー・オペラ

D・F・O/デス・ファンタジー・オペラ

その城では、夜毎、豪華絢爛な宴が開かれる。参加者は、ヴァンパイア、ユニコーンなどの異形の貴族たち。 城に迷い込んだ美しき人間の兄妹は、宴の「ゲーム」への参加を余儀なくされる……。敗者を待つ運命は、生贄としての死か、奴隷となる屈辱――。「奴隷区」の岡田伸一が描く、美しく残酷な極上ファンタジー、ついに漫画化!

奇少物件100LDK

奇少物件100LDK

セキュリティシステム導入のため、大財閥の巨大な屋敷に潜入したスーパー営業マン大和が、美しいメイド光とともに驚天動地の謎に挑む! 大ヒットコミック「奴隷区」(映画化)の原作者によるもう一つの超毒ミステリー! 警備会社のイケメンエリート大和は、商談に出かけた大財閥・長門家の妖艶なメイドに奇妙な出迎えを受ける。褐色の肌に豊かな胸と脚線美。輝くばかりに美しいメイドは光と名乗り、大和を4フロア総室100LDKの威容を誇る長門邸に導くが、そこには大きな<試練>が待ち受けていた…。一族8名から8つの超難解な謎の出題。すべて解かなければ契約には進めない。100の部屋をめぐる驚天動地のミステリーがあなたを待ち受ける。

大奴隷区 君と1億3千万の奴隷

大奴隷区 君と1億3千万の奴隷

スクールカースト、闇市、クチャクチャクチャクチャ――― 『奴隷区』のオオイシヒロト×岡田伸一が新たに描き出す、「君」をめぐる欲望群像劇、開幕。有数の進学校として知られる、大八島学院高等学校Xクラスでは、ある実験が行なわれていた。実験はシンプルで、口内に『SCM』という器具をつけるだけ。ただし、『SCM』と呼ばれるその器具は、他人を奴隷にできるシロモノだった!

ひぐらしの哭く頃に 雀 燕返し編

ひぐらしの哭く頃に 雀 燕返し編

昭和58年6月、雛見沢村に越してきた前原圭一は仲間との平穏な日々を満喫していた。そんな中、麻雀と出合った圭一はその魅力に嵌っていく。しかし、雛見沢村に起こる怪死事件の謎や麻雀での連敗が、圭一の心を蝕み始める…。この敗北は、陰謀か偶然か、それとも祟りなのか…?麻雀牌を握ったときから、平穏な日常が狂い始めた――。麻雀は疑心暗鬼を生み出すゲーム。「近代麻雀」×「ひぐらし」新たな“カケラ”がここに――。

JKハルは異世界で娼婦になった

JKハルは異世界で娼婦になった

どこにでもいる普通の女子高生・小山ハルは、ある日交通事故に遭い、気づいたときには異世界に転移していた。チート能力も授けられず、男しか冒険者になれない状況で、ハルは酒場兼娼館『夜想の青猫亭』で働くことを決意する。同じく現代から転移した同級生・千葉セイジ、娼館で働く女性たちやハルに想いを寄せるスモーブとの出会いを経て、異世界に溶け込み初めたハルを待ち受ける運命とは……。Web上に掲載され、絶賛を受けた異色の異世界転生小説がついにコミカライズ!

山田BL

山田BL

執筆陣がオール「山田」の前代未聞のアンソロジー! ■企画課王子様vs堅物課長の恋の駆け引き。 ■リア充くん×変わり者の風紀委員、高校生男子のセイシュンv ■ゲームの中で出会った相手。実物はめちゃ可愛い同級生で…? ■あっちもこっちも山田だらけ…!? ―――その日、世界は姿を変えた! ――他、作家「山田」が贈るBLアンソロジー!!

王様ゲーム 起源

王様ゲーム 起源

1977年――山奥にあり外部との接触を極力避けた閉鎖的な寒村、「夜鳴村」。そこで生活する本多一成は、従姉妹の本多奈津子に想いを寄せていた。ある日、少年たちの前に「王様」を名乗る差出人から届けられた一通の手紙。そこに書かれた命令に従わなければ、罰が下される。信じがたい内容の「王様ゲーム」は、次第に犠牲者を増やし、村を混乱と恐怖が覆い尽くす!!無慈悲で不可避な大人気サバイバルホラーの原点にして最新作のコミカライズ、第1巻!!

蒼界のイヴ

蒼界のイヴ

いつもと同じように通学バスに乗り込んだ渡部シーナ。バスには他のお嬢様学校の生徒など7人の女の子たちが乗り合わせていた。運転手が降りた途端、勝手に動き出すバス。次の瞬間、彼女たちは何故かジャングルへと飛ばされていて!?見慣れない風景、夜に襲ってくる凶暴な生物…突きつけられた異常事態の中、女子高生たちの強制サバイバルが始まる!!

あさっての方向。

あさっての方向。

遠い未来を夢見る少女と取り戻せない過去を願う彼女、二つの願いが一つになり過去と未来が交差するセンシティブファンタジー。両親が他界してから兄の尋(ひろ)と二人暮らしをしている小学6年生・五百川からだ(いおかわ・からだ)は、尋を自由にしてあげたいと考えて早く大人になりたいと願っていた。そんなからだは、願いを叶える「願い石」によって、尋の元恋人・野上椒子(のがみ・しょうこ)と年齢が入れ替わって大人に……!?

マジナ!

マジナ!

ここは、「占い」が広く浸透し、国も人も「占い」に依存しつつある世界…。男子高校生のマミは、伯父のヒデと同居するため田舎から都会へ出てくる。しかしヒデの元を訪ねると、そこはなんと占いの館で…!? 占いに囲まれ、成長していくBOYS達のグローアップ物語、開幕!

絵とキャラがいいので良い漫画にコメントする
※ご自身のコメントに返信しようとしていますが、よろしいですか?最近、自作自演行為に関する報告が増えておりますため、訂正や補足コメントを除き、そのような行為はお控えいただくようお願いしております。
※コミュニティ運営およびシステム負荷の制限のため、1日の投稿数を制限しております。ご理解とご協力をお願いいたします。また、複数の環境からの制限以上の投稿も禁止しており、確認次第ブロック対応を行いますので、ご了承ください。