普通の女の子が、普通の道を踏み外すときにコメントする
真夏のデルタ
満足感の高い1巻完結作品。
真夏のデルタ 綿貫芳子
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)
とある3人の高校一年生、ひと夏の出来事。 人の顔色を伺っていい子のふりして勝手に不満を溜めて落ち込む女の子、椎葉。 背が高くてかっこよくて運動も勉強もできて周りの期待とプレッシャーの中で空気を読み続け「いい奴」を演じる男の子、三辻。 周囲からの視線、評価を一切気にしないで好きな美術と好きなだけ向き合う、伸。 付き合っている椎葉と三辻。孤独を楽しむ伸。 椎葉の歪な歯の形をきっかけに、ひと夏限りの三角形が浮かび上がる痛くて淡い思春期の記憶をそれぞれの視点から描くオムニバス。 https://twitter.com/atomicsource/status/1169210747240402944?s=20 「空気読まなきゃ」とか「嫌われないようにしよう」といった部分は多くの人の思春期に共通する息苦しくってたまらない問題ではあるんだけど、その分かりやすい手前の痛々しさだけをピックアップするべきではない奥行きを持った漫画だなと思った。 この漫画の、夏の強い陽射しとそよ風と木陰と美術室の匂いと蝉の声の中で鮮やかに描かれているのは、その時期の一点ではなく成長と変化の軌跡だ。 それぞれの立場の人間がこの出来事を機にそれぞれの方向へ軌道を変えていく。 そのときは運命的に感じるかもしれないが長い目で見ると偶然そこに居合わせたそれぞれの通過点に過ぎない。 それでも多感な時期に起きた出来事は、人生の行く末を変え得る力を持っているものだ。 読んですぐは、 ・変われた人(脱却、変化) ・変われなかった人(後悔、反芻) ・変わらなかった人(自分の価値観を信じて美しいものを追い続ける) の三者を描いているのかもと思ったけど、発言の内容だけ見ればそう単純ではない気もする。 当時は全てだった何もかもは、久しぶりに会えばあの日はあんなこともあったね、なんてささいな想い出のように語られるだろうけど、本当は誰しもが何かしらの形で一生その時代に囚われている。 そんな三者の羽化した先まで美しく描いているので一冊としての満足感がとても高い作品。
じゃあ、あんたが作ってみろよ
アップデートというよりも根本のお話
じゃあ、あんたが作ってみろよ
野愛
野愛
見た目も収入も申し分ないけどモラハラ気質で古い男が、恋人にフラれたことをきっかけに自らをアップデートしていくストーリー。 恋人が仕事終わりに作ってくれたご飯に、色味がどうだ出汁がどうだバランスがどうだとケチ(アドバイス)をつけ、そりゃプロポーズしてもフラれるわ!ざまあみろ! と思うものの、ちゃんと傷つきちゃんと学ぼうとする姿を見るとだんだん応援したくなってくる。 そして変わろうとするのは何も男ばかりじゃない。勝男をフった鮎美も、自分が本当に好きなものを見つけ人生を変化させていく。 読んでいくと2人はお似合いのカップルだったんだなあ、と皮肉じゃなくて本当に思う。 理屈じゃなく惹かれあった男女が、結婚という目的や男と女という役割に縛られてお互いが見えなくなっていく、なんて悲しい話。 そうさせているのは世間の空気や常識や今まで歩んできた人生など要因は様々だけど、「わたし」と「あなた」だけをしっかり見ていれば起こらないはずなのになあ……。でもそれが難しいんだよね。 勝男と鮎美の人生が再び交わるかどうかはさておき、2人もわたしもみなさんも、自分と相手の好きを大切にして人間関係を築いていけたらいいなと思った。
ミカコときょーちゃん
ラブストーリーが突然に #1巻応援
ミカコときょーちゃん
兎来栄寿
兎来栄寿
映画化もされた『殺さない彼と死なない彼女』の世紀末さんが、新たに描く男女のお話です。 最初は、ひたすらゆるいカップルがいちゃいちゃしている4コマなのかな? と思いました。お互いに相手のことを無限に「かわいい」「かっこいい」と言い合う、仲睦まじいきょーちゃんとミカコさん。日常の些細なことを楽しんだり、煩わしく思うことも世界でたったひとりの相手がいれば何でもなくなってしまったり。 代え難い、ただひとりの相手。ずっと一緒にいたいと思える相手。でも、そんな最愛の人がある日突然世界からいなくなってしまったら。 誰しもいつ何が起こるかわからないものだとわかってはいても、実際にそういうことが起きてしまった時には人はどうしようもなくなります。受け入れるのにどうしたって時間はかかるし、一生受け入れられないままかもしれません。 どこにでもありふれたふたりのカップルのやり取りは、ひとつの出来事を境にまったく意味を変え見え方を変えてしまいます。ただ、少なくとも心から自分の幸せと笑顔を願ってくれた相手と他愛もない時間を過ごすことができたという事実は永遠に残ります。 どうでもいいようなこと、明日には忘れているようなことのひとつひとつの欠片が何よりも貴くてかけがけのないものであるということを、改めて示してくれているようです。 今なら当たり前にできることが、いつか当たり前にできなくなってしまう。当たり前ではなくなってしまう。そうなる前に今できることをひとつひとつ大事にして、何でもないことを大切にして生きていきたいと思わせられる物語でした。
まなつのでるた
真夏のデルタ
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