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吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)
1年以上前
この作者はいわゆる天才なんだと思う。 いつも年末にその年一番良かった、好きだった漫画は何かを考える。 でも結局いつもよく分からなくなりそこから数か月経って、これかもしれないなーというのがふわっと浮かび上がってくる。 それが2017年は『青野くんに触りたいから死にたい』だった。 天然で思い込みが激しいタイプの女の子・優里に青野くんという初めての彼氏が出来るが二週間後に事故で亡くしてしまう。 優里は絶望し死のうとすると、幽霊になった青野くんが現れ…。 という始まり方で、これは一風変わったラブストーリーなのかと思った。 ところが読んでみると、とんでもない、そんなところじゃ収まっていなかった。 女の子の方のタガが外れているので何をしでかすか分からないドキドキ感と、青野くん本人も自覚していない隠された秘密が少しずつ露呈していく描き方がたまらなくゾッとする。 ピンク色イチャイチャからのゾッ、これがたまらない。 黄金比だ。 そして、異常事態を許容してしまうタガが外れた女の子優里ちゃん。 ここには人間の怖ささえある。 この漫画には、論理で捉えられない人たちの逸脱した思考・行動の怖さのようなものがずっと漂っていて、頭で理解できない本能的な部分にこそ恐怖を訴えかけてくるのだ。 なんかよく分からないけど怖いってやつ。 でもこれはホラー漫画では決してない。 1人の女子高生の繊細な恋心と仲間たちの感情の機微、つまりは青春を描いた漫画なのだ。 大好きだ。 この漫画が好きな人には是非、映画『イット・フォローズ』も観てほしいし、『イット・フォローズ』が好きな人にはこの漫画を読んでほしい。 ----------------------------- 追記 2020.07.04 話が続いていくほどに怖くなるこの漫画がなんでこんなに怖いんだろうと考えるんだけど、恐怖の根源ってそもそも理解が及ばないものということに気づいた。 昔から人間は理解できない自然現象や見えないけど確実に存在するもの、光や闇などを神とか悪魔とかの所業として畏敬や恐怖を感じていたから、それに近い気がする。 そこに厳然たる理論が横たわっているはずなのに、自分の理解ではどうにも分解できなくて考えが追いつかない感覚。 僕たちには理不尽にすら感じる霊との関わりの中で、ミオちゃんらの協力で少しずつ法則性が見えてきて恐怖が緩和されてきたようにも感じる。 恐怖に対抗する武器は理解なのかも。 自分自身の読解力のせいかもしれないけど、物語から作者さんの意図を読みきれないのが素晴らしくて、対談相手に『青野くん〜』は切り分けられずに様々な感情が付随して描かれていると言われたのに対して、 「私は、境界線を引きたくないんです。明確に境界線を引くって、何かを切り落とすってことだと思うから。そうすると、解像度が下がるので。」 と言っていて、すごく腑に落ちた。 漫画って線画のように、いかに現実の場面から情報量を減らして伝えたいものを画面に落とし込んで伝えられるかっていうメディアだと思ってたんだけど、それは線画の話であって、感情の話ではない。 一般的にデフォルメされた絵柄の漫画で語られる内容は絵柄に比例してシンプルなものが多いので、思えば『青野くん〜』の絵柄もそういう前提で読んでしまってこの感情の解像度の高さとのギャップに面食らってしまったのかもしれない。 当時テレビ放送時に『魔法少女まどか☆マギカ』にも驚いた記憶がある。 作者が感情ではなく理の人だと分かって、それ故に客観視されたような感情の言語化が果たされているのかと。 『青野くん〜』が三幕構成の話で、「キスを返して」までが一幕、『四つ首様編』までが二幕。 二人と仲間たち、どういう結末に向かっていくのか楽しみで仕方がない。
大きくなったら女の子
「座席」議論に加わっている人に読んで欲しい #1巻応援
大きくなったら女の子
兎来栄寿
兎来栄寿
数日前から、新幹線の自由席で横に乗ってきた異性の話を巡ってネット上で大激論が巻き起こっています。 「男性は〜」「女性は〜」という主語で意見を述べている人に1度この作品を読んで欲しいなと思います。 本作は、人間が皆″男性″として生まれてきて、その中の1割が14〜20歳ごろを境に性転換して″女性″になり、声が低くなり乳房が大きくなり子宮が発達し男性器が縮小し筋肉・脂肪が増加していくという世界を描いています。社会は″女性″が主導していくもので、″男性″はそれを支える存在。 ただ、少しややこしいのですがこの作中での″男性″は現実世界の女性的な外見をしており、″女性″は男性的な外見で発達した乳房を持っています。 最後にあとがきで明示されているように、単なる男女の反転ではなくマーブルな状態を描いているのが特徴です。 この作品の中で、それぞれのキャラクターが語る性別ごとの役割の話や、「″女性″は」「″男性″は」という話や異性に対する態度は、読み手に応じてさまざまな感情を引き起こしてくれるであろうと思います。現実世界に照応してある人にとっては何も引っ掛からず、ある人にとってはこの上ないもやもやが生じるであろうことをつぶさに描いています。 男性だから、女性だから、″女性″だから、″男性″だから有利なこともあれば、不都合なこともある。ときにはそれに対して、過去から長い時間大量に蓄積したものも含めた不平不満を述べたくなることもあるのは否定し得ません。 ただ、筆者の御厨さんが ″性別や属性で人の中身ややるべきことをひとくくりにするのは、個人の理解をなまけたいがための単なる省エネモードのおこないだと思っています。  何かを集団でくくって語るとき、「今の自分は省エネモードになっている」という自覚はしていたいと思います″ と述べたあとがきにあるように、より本質的には個々人に依拠するものに対して意識せずに大きい主語で語ってしまいがちな状況はあると思います。 どういったものに対して自分の心はどういった動き方をするのか。その形を改めて把捉しておくのに、この作品はとても優れています。 何も個人としての意見を表出するなという気はまったくありませんが、省エネモードで雑な結論に結びつけて誰も幸せになれない不毛なやり取りに発展する前に、今一度立ち止まって一呼吸を置いて本作を読んでから、改めて熟考した後に言葉を紡いで発しても遅くはないでしょう。
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