BoichiオリジナルSF短編集

上質なセンスオブワンダーの連続

BoichiオリジナルSF短編集 Boichi
兎来栄寿
兎来栄寿

週刊少年ジャンプ誌上の『Dr.STONE』も盛り上がりを見せる今日この頃。作画を担当するBoichiさんは『サンケンロック』のイメージが強い方もいるかもしれませんが、この短編集に編まれている作品や『ORIGIN』のように、元々SFが好きで描き手としてもSF作品を多く著してきている方です。 既にかなりのキャリアとなっていますが、いつか単行本に収録されるかなと待っていた作品も網羅され、その歴史を追うことのできる素晴らしい短編集です。ファンには嬉しさしかありません。初期のものはもうかなり昔の作品ですが、今読み直しても十分に面白く、古臭さはまったく感じさせません。 ハードSFならではの、想像力を刺激するドラマの数々がセンスオブワンダーをたっぷりと堪能させてくれます。今年は『きみを死なせないための物語』が星雲賞を獲得して個人的にとても嬉しかったですが、次の星雲賞に選ばれたとしてもまったく不思議ではないクオリティです。 若干1冊当たりの値段は高めですが、SF好きにとってはむしろこれだけの良質なSF短編をBoichiさんの超画力で楽しめることを考えたらコストパフォーマンス的にお得でしかない2冊です。迷わず買ってください。

エッグベネディクト

やさしさと笑いでほっこり癒されました #読切応援

エッグベネディクト 都会
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

可愛らしいキャラたちの優しさにあふれる言動やふふっと笑ってしまう状況にほっこり愛おしい気持ちになった読切です。 オチもよかったです! 朝、学校に行ってない少女のもとへ同級生の男子がやってきて、今日の給食が「エッグベネディクト」であることを告げ、登校していきます。 そこから「エッグベネディクト」を知らない少女は、それは一体どういうものだろうと考え、お母さんに聞いたり、辞書で調べたりして、空想を膨らませ…。 『なかよし×コミチショート漫画大賞』大賞作品に輝いた都会先生の『エッグベネディクト』はこちらから読めます。 https://comici.jp/articles/o/50328/ こんな賞があったことを知らなかったです。 https://comici.jp/articles/amp/56336/ これを読んだとき、実は自分自身も「エッグベネディクト」の名称は知ってるけど、食べたことないのでいまいちどういうものなのか分からない状態で読んでいたので、主人公の気持ちに非常に近いところから読んで一緒に楽しむことができました。 なんか、卵を使ったおしゃれな料理でしょ?っていう。 一緒に考えてたんですが、それでもやっぱり小学生の自由さには適わないなって気持ちになりましたし、笑っちゃいました! お母さんもいいし、友達もいいし、大好きな漫画になりました。 この漫画の読者層のターゲットって「なかよし」の賞なので小中学生の女子だと思うんですが、見事に目線をそこに合わせてて言葉選びとかのちょうどよさもすごいなって思いました。 「不登校」とか「引きこもり」っていう言葉を使っていないのが本当にありがたいなって思いました。 都会先生本人の様々な経験があってこそなんでしょうね。 いろいろあって学校に行ってないことってそこそこ重要なことだと思うんですけど、冒頭でさらっと触れてからは特に重く描いてないのがいいんですよね。 登場人物の誰もがそれを特別なこと、いけないこととして扱ってない。 同級生の少年もただ学校に来てほしいなってやさしさだけ。 ほんとやさしいなー。癒されました。 そしてそのやさしさの中に異様な姿で浮かぶ「エッグベネディクト」の図ですよね。最高でした。 こういうやさしさの中に少しの毒や異物感みたいなものがあると際立って面白いので大好きです。 全体的にいつなのか年代の分からなさもいいなーって思いました。 これで連載してほしい。

時間跳躍式完全無劣化転送装置

満足度も完成度もめちゃくちゃ高い読切! #読切応援

時間跳躍式完全無劣化転送装置 山素
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

女の友情とSFで、部屋の中の会話劇でここまで魅せてくれるか! 初投稿、初受賞作にもかかわらず非常に話の完成度が高く、こういった賞でなく普通に雑誌にポンと掲載されていても目を引くような素晴らしい内容でした。 読後感はしっかりプロの犯行といった気分です。 https://comic-days.com/episode/3269754496432828238 タイトルなんだっけ、と思ってしまうくらい関係ないようなスタートかと思いきや、話が転がっていくとあれよあれよとまさに本題はそこに行きつき、タイトルを経由して、扉絵に着地するというようなハッとする内容でした。 読み終わったらもう一度、扉絵を見てほしいです。 高校生のとき、互いに友達もできず独りぼっちだった二人の女子がなんとなく接近しなんとなく話すようになったそんな二人が、高校卒業から7年ぶりの再会。 互いに違う道を行き話すこともなく気まずくなるかと思いきや、話せば話せてしまう。それが友達。 互いの仕事の話をするとかたやシェフ、かたや博士課程で研究。 研究内容を聞いていくとなんとタイムマシンに関わっており…。 高校卒業後フランスの料理修行に行くほど行動派な友人の「バックトゥザ南北朝 足利尊氏にブイヤベース食わせてくる」の台詞のセンスは最高っすね! タイムマシンに対しての発想の転換というか、未来にしか行けないというのはわりと現実的な話ではあるのでいいとして、自分ではなく物を送って「鮮度をそのままにする」というところが味噌ですね。 具体的にこの世界にタイムマシン技術が根付いて開発されているっていう地味なリアリティがあって話が前に進みます。 そして食事という人が生活を送る上で最も日常的なところへ落とし込んでくるという。 はー、素晴らしい。大好きです。 ふと思ったのですが、突然訪れる友人の方ではなく、主人公の方がタイムマシンの研究しているっていうのがあまりない形なのでとてもいいですね。 我々読者側にとって突飛なことがいつも来訪する側とは限らない。 というか、突飛なように描かずあたかも普通のことのようなテンション、温度なのがとてもいいですねー、友人は驚いてましたが。 まだTwitterに載せた漫画を全部は読めていませんが、片っ端から読んでいこうと思います。 毎話バズってますし、そのうち書籍化の話来そうですよね。 ひょっとしたら今回のモーニング月例賞で箔がついて、とかもあるかも。 https://twitter.com/i/events/1060516123316121606

ワールド イズ ダンシング

芸能の本質をつく#1巻応援

ワールド イズ ダンシング 三原和人
六文銭
六文銭

逃げ上手の若君同様、個人的に室町時代がアツイのですが、 さらに世阿弥の作品まで出て、いよいよ出版社も本気になってきたな! と、ホクホクしております。 世阿弥といえば、「風姿花伝」の著者で、それを秘伝書として後世まで残したのが有名ですよね。 「序破急」という言葉でご存知の方も多いハズ(主にエヴァ経由かもですが) 中でも、「年来稽古条々」は、今でも唸る部分が多いです。 年齢ごとにやるべきことをまとめたその一節は、端的に言えば、以下のような内容。 若い頃は、勢いや華やかさが最も美しい時期のため、実力とは違う点で評価されてしまうことがある。しかし、この時期で一生涯が決まるわけではないため慢心しないように注意が必要。 そして、年とともに、進歩に停滞がみられる時期がくるが、それでも絶望せずジッと耐えて実力を磨く必要性を説く。 そして、30後半から40才までには全てが決まってしまうので、この年代を、これまでを振り返って、これからどうすべきかを考える時期とし、40過ぎたら体力の衰えも重なるため、多くのことはせず得意なことに集中し、後任の育成をすべき・・・という流れ。 大分端折った要約ですが、これが600年以上前に書かれたってスゴイなと思います。 芸能の世界はもちろんですが、ビジネスシーンでもおっしゃるとおりだなと思うフシが多々ありますよね。 若い時代はあっという間なので、若さに奢らず、如何に自分を高められるかが重要だってことです。 本作は、そんな世阿弥の物語。 上記のような何百年も通じる芸の本質をついた本を書いただけに、 芸という、一瞬とらえどころのない世界を、体系的に、ロジカルに分別し考える感じが、純粋に「っぽい」なぁと感じました。 実際、こういう人物だったんだろうという現実味があります。 父・観阿弥との、父と子の関係も良いです。 2代に渡って技術だけでなく、思いが継承されていく感じ、好きなんですよね。 まだ1巻ですが、今、室町がアツイので、色んな意味で今後が楽しみです。

聲の形

何度読んでも心にくる

聲の形 大今良時
六文銭
六文銭

北海道でいじめの痛ましい事件があり、思わず本作を思い出して、再度一気に読んでしまった。 そして何度読んでも心にくるものがある。 いじめの事件を聞くたびに思うんだけど、加害者は、こういう本を読んで何を思うのか気になってしょうがない。 なんにも思わないのだろうか?たぶんそうなんだと思う。 むしろ読まないか。 世間では多様性を重視とか言っているけど、 本当にそんなことが実現できるのか疑わしいし、 都合の良い部分だけ切り取られている気がしてならない昨今。 本作の登場人物が鏡の如く映して、わがふりなおす一助になればと願ってやみません。 内容は、あまりに有名なので割愛しますが、個人的な感想を1つ。 本作が著者との初めての出会いで、名前からずっと男性だと思っていたのですが、後に女性だと知って本作に出てくるエグいいじめの描写に、妙に納得したのを覚えています。 多分に偏見なのですが、女性のほうが、この手の描写や展開が、強く訴えかけるという意味で、上手だと思っているからです。 なんというか、女性のほうが、躊躇がなく強烈だと思うんですよね。 本作も、それが顕著で、気の弱い自分は目を覆いたくなるシーンが多々ありました。 でも、これくらいやらないと残らないですよね。 ぬるいと熱も伝わらないです。 身障者のいじめという、ともすると批判が殺到しそうな危ういテーマを扱っていますが、だからこそ多くの人に読んで欲しいと思える作品でした。 人との差を、人の優劣にしてはならんのですよ。

化け猫あんずちゃん

当時の小学生はどんな気持ちで読んでたんだろうか

化け猫あんずちゃん いましろたかし
hysysk
hysysk

割と自分も(後になって気づくと)大人向けのマンガを読んでいたので面白みは伝わると思うが、一般的に想像するような子供向けマンガのドタバタ感や分かりやすいオチはない。 地下道に住んでる大妖怪カエルちゃんとのやり取りが最高。 あんずちゃん「お前ここで何やってんの?」 カエルちゃん「何にもしてないよ 寝たり起きたり」「穴掘るのが趣味だからさーたいくつだと穴掘って遊んでるんだ」 あんずちゃん「かっこいいじゃん」 あるがままの自分でいい、ということではなく、こうなるしかない、みたいなキャラクターがいましろ作品の魅力。何もしてなくてもいい。宝くじで3億円が当たっても、やりたいことはなくていい。 とかく夢や目標を持たなければ駄目だと言われがちな小学生(そしてそれを分かっていて大人が喜ぶようにうまく立ち振る舞えてしまうやつ)にとって、こういうスタンスは目から鱗なんじゃないかと思う。 『グチ文学 気に病む』というエッセイにこの作品を描いている時の話が出てきて面白い。小学5年生が「先生と話がしたいから家に遊びに来てくれ」というファンレターを送ってきたり、宝くじが当たると色んな人がたかりにくる噂は都市伝説であることを担当編集が調べてたり(えらい)。 個人的には、いましろ節が利いてて、モラルの面でも思想的な面でも安心して人におすすめできる作品。