影絵が趣味
影絵が趣味
1年以上前
小学生の頃、ある日、母が家族になんの相談もなくいっぴきの猫を連れ帰ってきた。もう子猫とは言いがたい白いチンチラで、目は綺麗なエメラルドグリーンだった。母曰く、気がついたらペットショップで購入していたとのことだった。当時の私は、この珍事件に歓喜したのか、さっそく翌日にはクラスメイト全員にアンケートをとり、そして名前が決められた。Jといった。 家族や私の友人にたいへん可愛がられたJだったが、数年が経つと、事態は少し変わっていた。私は中学生になり、部活や勉強に忙しく、あまりJの相手をしないようになった。その代わりに意外にも、父がJの世話に熱心になった。夜、父が仕事から帰ってくると、Jは歓喜乱舞した。父が外へ連れていってくれるからだ。毎夜、Jと父は15階建のマンションを上から下まで何往復もしてから疲れ果てて帰ってくるのだった。父と折り合いの悪かった私にとっても、この外での遊びは好都合だった。 しかし、世の中とは不可思議なもので、Jと父とは相思相愛にはならなかった。いわば父はJの遊びに利用されていただけで、Jを好きすぎる父はいかんせん触りすぎる。Jはそれをちょっと鬱陶しく思っていたらしかった。家族が寝静まる夜なか、Jはふらふらと寝床を探しはじめる。高校生になっていた私はいちばん遅くまで起きているようになった。父の部屋はJが出入りできるようにいつでも開けてあった。それでもJが父の布団で寝ることはなく、いつも私の部屋の閉ざされたドアをガリガリと引っ掻いた。その音のせいで寝られない日もしばしばあった。時々、気が向いた日にだけ(それはつまり色々あって落ち込んでいたり寂しい思いをしていた日だ)ドアを開けてやっていっしょに寝た。 大学生になると私はすぐに家を出た。Jのせいではないが、父との折り合いはますます悪くなっていた。家を出ると、すぐに生活が一変した。それまでずっと視界にモヤがかかっているかのようだった慢性的鼻炎が瞬時に治ったのだった。「バカは風邪をひかない」という言葉は真であるとそのとき私は思った。たぶん、私は猫アレルギーだったのだ。 グーグーを読んでいると、猫のいた日々を思い出す。長年、思い出しもしなかった記憶が沸々と湧き起こってくる。そして、なんだかよくわからないけれど、ボロボロと涙が溢れてくる。けっしていい飼い主ではなかったのに。 Jも父もいまだに健在だ。でも父は、年に一度あるかないかで会うたびに年老いたなあと思う。Jもそろそろ猫でいえば化けてもいいぐらいの年齢になっている。家出していらい、家には寄り付かないようにしていたが、そろそろこちらから訪ねてみてもいいかもしれないと柄でもないことを思った。Jは私のことをまだ憶えているだろうか。
さいろく
さいろく
1年以上前
懐かしい気持ちで読み返したがこのネオ・ファウストは男性なら一度は読んでおいた方がいい。 誰しもが一度は妄想するであろう世界とその幕引きがわかりやすく描かれている今作では、男というものがどれだけ愚かかが(特に坂根や一ノ関を見ていると)非常によくわかる。 「享楽」という単語も初めて読んだ小学生の頃の自分には理解できず広辞苑で調べた懐かしい記憶。 享 が読めなかったんだよなぁ…ともかく享楽を描いた作品なのです。 また、この作品には現代への影響が非常に強烈だったことがいくつかの点から想像できる。タイムトラベルものは当時も多くあったがこういう使い方はさすが。 「時をかける少女」みたいな今で言う"タイムリープ"ものも当時は"タイムトラベル"と呼ばれていたなぁ。 ドラえもんのタイムマシンが多くの人達の妄想を掻き立てたように、いい大人となった男性の妄想を掻き立てる作品。 そしてもちろん手塚先生の最高傑作の一つ、と言いたいのだが惜しむらくはちゃんと完結していないところ。 手塚治虫の最後の作品となり未完のままとなったものの、全2巻として売られているのももう納得するしかないのだ。 (電子版に最後の続きのネームが入ってて涙出そうだった。本当に悔やまれる)
懐かしい気持ちで読み返したがこのネオ・ファウストは男性なら一度は読んでおいた方がいい。

...
六文銭
六文銭
1年以上前
昨今、eスポーツなるものが盛んになり「プロゲーマー」という職業の地位もある程度認知を得てきたのでは?と感じます。 本作は、そんなプロゲーマーの、日本人元祖ともいえる梅原大吾(通称ウメハラ)の物語。 私自身ゲームが大好きだったこともあり、もう20年以上前に彼がストゼロⅢの世界大会で優勝(しかも圧倒的強さで)したころから、カリスマとして君臨しております。 なので、当時に近しい時代のことを描いているこの作品は、ファンとしては垂涎ものでした。 しかし、そうではない人ーつまり、ウメハラのことはよく知らない、ゲームはやらない人にとっても楽しめると断言できる、2つのポイントがあります。 まず、ウメハラという人間に魅力があることです。 どの業界においてもそうなのですが、先駆者としてメイキングロードした人物というのは、 知識やスキルが卓越しているだけでなく、なにかしらの美学ともいえる強烈な哲学を持っていると思うのです。 つまり、ウメハラの凄さというのは「ただゲームがうまい」ことにとどまらないところなのです。 プロとして誰よりも強ければいいわけじゃない。 勝つために何でもしていいわけではない。 より多くの観衆を沸かせ、業界を拡大させていくことに責任と使命感をもち、その上でさらなる高みを目指すという姿勢に魅了されるのです。 その思考法や意志力はビジネス書にもなるくらい、業界を超えて影響を与えております。 この自分を厳しく律し、道を極める姿は、ただのプロではない。 求道者だと感じております。 次に本作が楽しめるポイントは、ゲームを通した人間模様がしっかり描かれていることです。 ゲームって一人でやるものという印象があるかと思いますが、舞台はゲームセンターなので色んな人がいます。 学生から普段何やっているかわからない人まで。ホントに多種多様なのですが、そこではゲームが強ければ、バックグラウンド関係なく受け入れてくれる謎の寛容さがあります。 特に実話を元にした作品だからか、フィクションにはない人物の深みがあって、これが良い味出しているのです。 そういう人たちと時にライバルだったり、時に仲間として切磋琢磨しあって、強くなることに貪欲な姿勢は刺激をうけます。 生活削って何かに打ち込んでいる姿は、対象が何であれ純粋に胸アツくなるものです。 画力も高く、ゲーム描写の疾走感と臨場感たっぷりに描かれた演出にも惹きつけられ、これまでの人物描写と相まって、勝利した瞬間にはある種のカタルシスを覚えます。 また、現代のように昔は、eスポーツ(ないしはユーチューバー)などで周囲に知られるような活躍の場がなかったわけですから、 昔はこういう人がいて、自分はこういう人たちに鍛えられたのだ、ということを伝えたいウメハラの強い意志を感じます。 今のeスポーツ業界の発展があるのは、こういう人たちのおかげなのだ、というのを伝えたいのだと。 そこにもプロゲーマーの域を超えた「ウメハラ」の神髄がある気がしてなりません。 本作だけでなく、youtubeとかの動画サイトで「梅原大吾」と検索すれば、奇跡ともいえるゲームのうまさとか、講演会などで彼の思考の一端が聞けるものとか、いくらでも出てくるのであわせて見て欲しいです。
sogor25
sogor25
1年以上前
姉の美羽と弟の蒼介は、両親の再婚で家族になった義理の姉弟。美羽には蒼介の紹介で知り合った西条くんというカレシがいて、蒼介は蒼介でお隣に住んでいる百華から好意を寄せられている。遠目から見るとお似合いない2組。ただ1点、蒼介が美羽に対して"異性としての好意"を抱いていることを除いては…。 この作品はいわゆる義理の姉弟の関係を含めた三角関係、四角関係の物語ですが、それだけに留まらない複雑な人間関係とその心情描写がこの作品の特徴です。 美羽は西条のことを彼氏として大事な存在として思っていつつ、蒼介に対しても姉弟以上の感情を抱えているというアンビバレンツな思いを内面に抱えていて、その感情の上にさらに「家族の関係を守りたい」という別の感情が蓋をすることで体裁を保っているという状態。なので蒼介から明らかに姉弟以上の関係を思わせるアプローチを受けても"姉としての振る舞い"に徹しています。一方、蒼介と西条はそれぞれ美羽のことを一途に想っているのですが、蒼介が西条のことを紹介したということからも分かるとおり、元々蒼介と西条は親友同士。そして西条と百華は美羽と蒼介が"義理"の姉弟であることを知らない。という、それぞれが内なる思いを隠したり、蓋をしたり、もしくは堂々と相手に伝えたりしながらどんどん複雑な方向へ進んでいくというのがこの作品です。それを神寺さんの繊細な絵柄とモノローグ多めの心情描写で丁寧に表現しているため、関係性の複雑さに比べてドロドロな感じはあまり受けず、純粋に登場人物に感情移入して読める作品です。 この作品、少女マンガ好きには是非オススメしたい作品なのですが、このクチコミをご覧の方で作品のことをご存じだった方はほとんどいらっしゃらないのでは無いでしょうか。 実はこの作品、松文館という出版社のガールズポップコレクションというティーンズラブレーベルから出版されている作品です。しかも、松文館から紙書籍で発売されている単行本はこの4年間でこの作品のみという状態で、そのため書店でこの作品に出会うことは非常に困難な作品となってしまっています。ティーンズラブのレーベルではありますが過激な描写はほとんどなく、少女マンガを読まれる方であれば広く楽しんでもらえる作品だと思うので、もしこのクチコミを見て興味を持って頂いた方は是非、まずは電子書籍からでも良いのでお買い求め頂ければ幸いです。 ちなみに先日、異例のフルカラー版単行本が電子書籍で発売されました。そちらももしよろしければチェックしてみてください。 5巻まで読了。
名無し
1年以上前
かつてドラえもんの世界に登場した 「こんな道具があったらいいな」 という憧れの便利道具に近い性能のものが、 いまや「アイテム」「ソフト」「アプリ」「ツール」 などと様々な形で日常生活に登場し実現してきている。 すごく便利で、あれば助かるものが しかも結構お安く「買えちゃう」のが今の世の中。 そういう世の中に「電子工作」の需要はあるのか? そっちの世界には詳しくないので想像だが、 多分、ほとんど需要は無いと思う。 かつては夢の道具を自分の手で作る、 実現させる、という趣味的にも実利としても 素晴らしい世界だったのかもしれない。 だが今や、金と時間をかけてアイテムを作るよりも 買ったほうが早くてお得な時代だ。 勿論、作る楽しみというのは確実にあるだろうし、 無から有を生み出すことの価値もあるだろう。 だが、電子工作は今では自己満足以上の評価は得がたい。 「匠」だとか「職人」だとか、 「芸術家」などの称号を世間は与えてくれない。 そんな絶滅危惧種ともいえる趣味の世界の 「電子工作」を題材にした漫画が「ハルロック」。 凄く面白い漫画なんだが、凄いのは 電子工作という趣味的な世界を世に喧伝し、 価値や需要を拡大し再興させようという考えが 基本的にほとんどないだろう、ということ。 こういうのが好きな人もいるんだろうな、 くらいには思わせてくれるが、それ以上に こういうのが好きな人って理解できん、という思いや こういうのが好きな人ってメンドクサッと思わせる 部分が大きく、それを笑いにしている。 ギャグ漫画としては面白いけれど。 電子工作という趣味が自己満足的な 「屁理屈で成り立っている世界」ということを 尊重しつつ笑いにしている。 だがそれでいてこの漫画の読後感は悪くない。 主人公・ハルの電子工作に周りの人は振り回されるのだが、 わりと皆が悟りを開くが如く達観し、 結局は?ハルにキレたり絶縁したりせずに 暖かく見守り、つきあい続けるという ハートフル?な終わり方が多いから。 それでいいのか?と思いつつも ハルの周りの人達、みんな良い人だな~と ちょっと癒される。 なんか作者は、そんなこと狙っていないような気もするが。
かつてドラえもんの世界に登場した
「こんな道具があったらいいな」
という憧れの便利道具に近...