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ANAGUMA
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2021/06/21
3ヶ月の余命で変わっていく男の人生
人生に疲れた男が寿命を買い取ってくれるという謎のお店で手にしたのは、残りの人生の価値をもとに査定された30万円。手元に残した余命3ヶ月をミヤギという監視員の女性とともに過ごすことに。 世にも奇妙な物語のような設定と、終始漂う退廃的な雰囲気が特徴の作品です。「余命モノ」という言い方はよくないかもですが、あまりピンとこなかったジャンルだったのに、本作には完全に心奪われてしまいました…。 始めの頃は主人公クスノキの鬱々とした暗い性格や振る舞いを冷めた目で見てしまうかもしれませんが、3ヶ月という限られた人生の中で彼は徐々に変わっていきます。そのキッカケはやはり隣りにいるミヤギ。 ただ見守るだけだった彼女の存在が物語とクスノキの人生に少しずつ光を当て始めてからは、残りページを読み終わってしまうのがもったいないような切ない気持ちになります。作品の中に滞在してるのが心地いい感じというか。 私小説的な語り口で、どことなく閉じた世界観。人を選ぶような気はしますが、なにか行き詰まりを感じてる方に読んでほしいかも。ほんの少しかもしれませんが、読む前より前向きな気持ちになれるはずです。
ANAGUMA
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2021/06/11
阪急電車がつなぐ過去と現在と未来
みなさま宝塚ときいて頭に浮かぶのはやはり歌劇団でしょうか。実は兵庫県に宝塚市という町があって、宝塚歌劇団はそこが本拠地です。関西圏以外の方には意外に知られていなかったりしますね。 本作の舞台はその宝塚。の周辺とそこを走るローカル線阪急電車。そしてどうでもいい話ですが私の出身も宝塚。地元がとんでもない解像度で描かれているの、う、嬉しい…!と思いながらずっと読んでました。 主人公の野仲さんは手芸が好きで雑貨屋さんで働いています。が引っ込み思案の性格でお友達がいないのが悩み…。彼女が偶然阪急電車のなかで小学校のころの親友サトウさんと再会したことから物語が動き始めます。 阪急ユーザー、生活圏と移動パターンが重なってくるのでこういうこと起きがちな印象。私の祖母も電車乗ったらしょっちゅう誰かと鉢合わせていました。 長く乗っている路線の風景って心に深く刻まれているものだと思います。たまたま私は阪急に縁があったのでより強く感じましたが、電車や駅と合わせて呼び起こされる記憶は多くの方がお持ちではないでしょうか。そしてその思い出は必ずしもいいものばかりではなかったり。 本作でも阪急電車という「タイムマシン」を通して徐々に二人の過去と思いが明らかになっていきます。 手芸という共通の話題をキッカケに関係が再開したことを喜ぶ野仲さんですが、サトウさんの方はどうもぎこちなくて「親友と再会!また一緒に楽しもー!」と無邪気な物語にはなりません。 なぜならふたりはもうこどもではなく、おとなになっているから。 二人のすれ違いの原因も幼い日の阪急電車にありました。ふたりのあいだに深い溝をつくった子どもゆえの残酷な出来事です。 野仲さんの視点で記憶をたどる時、思わず胸がキュッと痛んでしまうかも…。それほど生々しい質感があります。 とはいえタイムマシンは過去だけではなく、未来にも繋がっています。過去の友情を見つめ直したふたりを阪急が今度はどこに運んでいくのか、最後まで読み終えたあとには願わくばもう一度読み返してほしいです。 ふたりがあのとき何を考えていたのか、まさに電車に乗りながら思い返すような心地がして、じんわりと気持ちが染みてくるので…。
ANAGUMA
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2021/06/04
かつての同人事情と大バブル同人時代を描く
個人的なネタで恐縮ですが通っている美容師の方から大昔にコミケの売り子バイトをされていた話を聞いたことがあります。なんでもバイト先は大層羽振りがよいサークルさんで、あまりにすごい勢いで売上があがるのでお客から受け取った札を片っ端からゴミ袋に突っ込んでいき、バイト代はそこから手づかみでバサバサと支払われるありさまだったそうな…。 聞いたときはオタク向けに面白エピソード盛っていただいてありがとうございますあっはっはとテキトーに笑ってたんですが本書を読んだ今、このコミケ昔話にナマのリアリティが乗っかってきてしまい震えが止まらなくなってます。 TwitterもPixivも存在しない時代の同人あるあるを克明に記録していることで知られる本書。個人サイト、便箋、カラス口、晴海トークなど鋭いジェネレーションギャップが次々繰り出されてきますがまだこれは序の口です。 なんといっても時代の証言者・高河ゆん先生が当時の大手サークルの実情をガシガシ語るパートがド迫力すぎて手に汗握る。がゆん先生が登場してからマジで空気変わります。 当時でも都市伝説とされていたエピソードの一例がこれ。 ・売上の入ったゴミ袋を廃棄したサークルがある ・会場に銀行員が来て売上を数えていた ・スタッフ全員でハワイ行った 結論から書くとどれも“真実”だったようです。なので私が伝え聞いた札束ゴミ袋日当の件も多分マジですね。なにこれ? でもなんかパワーとエネルギーが溢れる時代だったんだなーとか、今も昔も好きなものに全力でやるのが楽しさの秘訣だよなーとか夢もらえる気がしますね。全然まとまった感ないですが一旦これでお願いします。 繰り出される情報がカロリー高すぎてまだ受け止めきれずにいるので皆さんも是非読んで面食らってほしいです。
ANAGUMA
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2021/05/24
ネタバレ
地方競馬の現実と夢を描くマキバオー続編
『みどりのマキバオー』読み終わったので読み始めました。そもそも続編があるのも初耳だったのですが読んでみると内容も『みどり』からガラリと変わっていて驚いているところです。 というのも『みどり』の舞台は基本的に中央競馬。サラブレッド世界の巨大なピラミッドの頂点を描いていたのに対し、ヒノデマキバオーが走るのはその土台である地方競馬。それも高知競馬場という言ってしまうとかなり下の方の段に位置しています。 私自身も「ウマ娘」に触れ、週末テレビでやってる競馬番組くらいは見るようになったのですが、そこで放送されてるようなGⅠレースって本当にトップオブトップの世界であって、あれがすべてじゃないんだということなんですよね。 ミドリマキバオーたちの活躍も、さも当たり前のように描かれていましたが『たいよう』ではそうはいきません。 出走手当のためにろくなローテもなく連続出走するヒノデマキバオー、やっとの思いで地方重賞レースに入着するゴールデンバット、中央競馬に乗り込むためのトライアルに勝つことさえ大変なんだというこのもどかしさ! だからこそ熱い。 『みどり』のように決して華々しいことだけではない、泥臭くじれったい展開も続きます。だからこそヒノデマキバオーがこれから先、夢を叶えてくれたときにはどれだけの感動が待っているんだろう。その時が来るのを楽しみに読んでいきたいと思います。
ANAGUMA
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2021/05/10
地球に来襲する「蝶」を倒すヒューマノイドの戦い #完結応援
突如飛来する異様の巨大宇宙生物、スモークを焚きながらそれに立ち向かう小さな人の影…「あれはなんだ、人か、いや鉄腕アダムだ!」という最高のビジュアルを引っさげて開幕するのがハードSF『鉄腕アダム』です。 『エヴァンゲリオン』のように来襲する「蝶」は全部で8体、地球に到達されると敗北、というタイムリミットがある戦いだというのが緊張感を煽ります。毎回敵方の蝶は進化を遂げていき、人類側は科学知識を生かした作戦で撃破していくことになるのですがこの科学のトンチの効かせ方が絶妙で「そんな戦い方が!」とワクワクしてしまいます。 蝶の襲撃の合間には人類側でもさまざまなドラマが描かれ、物語を貫く謎や設定が徐々に明らかにされていくのも読み進める強力な原動力になっています。アメリカがメインの舞台なので洋画・洋ドラっぽい雰囲気で進みながらもやることはロボアニメ!みたいなノリもツボでした。好き。 SFテイストの迫力に圧倒されがちですが、本作の核のテーマはヒューマノイドのアダムと天才科学者ジェシーの友情にあると感じました。孤独だった者同士がかけがえのない相手とともに自分のやるべきことを見つけ、定めていく物語だと思います。 全4巻ながら充実した科学用語の解説コラムも収録されており読み応えは抜群です。実際の巻数よりも遥かに充実した滞空時間というか、没入した時を過ごすことが出来たように思います。感謝。