ANAGUMA
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2020/11/17
働きたくない思いを戦う力に変えて
「働かずに食べるメシはうまいかっ!!N.E.E.T.ッ!!」「美味しいですよ!!」 ロボット作品の開闢以来、戦闘中のコックピットで発されたセリフの中でも相当上位の切れ味を誇るのではないでしょうか。せめて少し迷ってほしい。 開幕のこのセリフが象徴するように、本作は働くことと働かないことをめぐり、命懸けで戦うパイロットたちの姿が描かれます。 主人公の不動遊(無職)はひょんなことからデスマーチ軍に抗う存在、無職同盟(リガ・ジョブレス)に加入し、黒い人型兵器(ワークマン)・ニーテンベルグに搭乗。彼の「働きたくない」思いとともに、世界の命運をかけた社畜と無職の戦いが幕を開けるのでした。全部マジです。 ロボットもののテンプレートに乗せて一貫して働く者と働かざる者の対比が描かれるのが最高に笑えるポイントです。 レジスタンスに加入してもぐだぐだしている遊に比べて、ライバルのワーカ・ホリック大佐が社会人としてまともに見えるのも読んでいてじわじわくるところ。本当に倒すべき敵なのか彼らは…? イカれた設定が繰り広げられる中でメカの作画やバトル描写はすごくカッコイイのが更に面白い。ちゃんと機体のパワーアップとかもあってロボットものの楽しさも味わえますし、物語自体は王道の熱さを備えているのがすごいです。 ガンダムのパロネタ(※超秀逸)だけではない「自由を求めて戦う」という重厚なテーゼが奥底に織り込まれているのが本作の魅力なんでしょうね。実際には労働から逃げているわけですが。 働きたくね〜と思った時に読むと元気が出るのでおすすめです!
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2020/11/16
予告された死の未来を回避せよ! #1巻応援
主人公の皐月は誰彼問わず「あなたは死にます」と声をかけるのでクラスメートからは距離を置かれている浮いた存在。なぜそんなことをしているのか?理由はシンプルで、彼女には本当に他人の死の運命が見えているのです。 彼女が誰かの死を予見する手法はユニークで、死亡現場に彼女にしか見えない死体のイメージが現れるというもの。 「未来の死体」をためつすがめつ実況見分して限られた情報から死の原因を推理し、死亡時刻が訪れるまでにあの手この手で要因を排除していくのはスリリングで読み応え抜群です。 「ウソ月」と呼ばれ、他人に信用されていない皐月がコミュニケーションを取りながら誰かの行動に介入することの大変さが読んでいると伝わってくるんですよね。 誰からも理解されないのに、それでも危険を冒して人を救うために奔走する皐月のキャラクターは熱いものがあります。 皐月の能力と行動を通して徐々にクラスメートとの関係性が変わっていくのが1巻の展開。彼女と距離を縮める者、疑いを強める者、拒絶する者…皐月の心情に少し光が差したかと思えば周囲の人間関係に潜む深い闇が垣間見えたり、グラグラしながら読み進められるのが楽しい作品だと思います。 そして重要情報を最後に補足しますが、女と女の感情が動きまくりますのでそのスジの方にもぜひ読んでいただきたい次第。サスペンス百合です。
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2020/11/10
少年ジャンプで異種族年の差同棲百合…! #読切応援
まずこれがジャンプで読めちゃうという事実に感動。ありがてえ…。作品を振り返りつつ個人的な最高ポイントを3つ挙げていきたいと思います。 ◯主人公ふたりの距離感と関係性が最高 異星人のポポと彼女の監察担当のカヲルはふたりで同居中。奔放なポポに振り回されながらも日々の仕事で疲れ切っているカヲルがポポに癒やされている様子が自然と伝わってきます。一方のポポも人類にとって「ヨソモノ」であり厄介な存在である自分を受け入れてくれるカヲルのことを大切に思っているのですよ…完璧か? 物語を貫くふたりの「関係性・パワー」が炸裂するラストまで見届けてほしい。 ◯演出とセリフ回しが最高 スマートだなと思ったのが「宇宙人がいて、人類は敵対しているけど、なんとなくやれています」というともすれば複雑な状況説明が「緩やかに侵略されている」というセンテンスに凝縮されていること。カオルの所属など細かな設定や世界観に言及しきらずとも余白で伝わってくるんですよね。これがすごく読みやすかったです。 ◯デザインとビジュアルが最高 キャラクターデザインをはじめとにかくカワイらしくて、かつスタイリッシュな線が迸っているんですわ。どのコマを見ても気持ちいい絵が目に入るので嬉しくなっちゃいます。 特にクライマックスシーンは圧巻。気分がゾワッとアガるすごい見開きでした。 もう全部好きでした本当にありがとうございます。未読の方、読んで!!!
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2020/10/02
悪魔と契約して悪人を狩ろう! #1巻応援
そう、二丁拳銃でな!! 家族とともに惨殺された主人公が悪魔の力で高校生の体を借りて生き返る!悪人の魂を狩る復讐者「ソールドキラー」として!! この景気のよさと『サキュバス&ヒットマン』という最高に分かりやすいタイトルに惹かれた方はまず満足できるかと思います。 もう飽和状態やろというジャンルにもなってきてますが、主人公が別人(プロレス好きの高校生!)になりすますシークエンスのおかげで日常描写が面白い。急に人が変わった兄に戸惑う無関係の妹ちゃんとの関係が丁寧に描かれるので、キャラの生活にきちんと奥行きが感じられ、闇の世界で戦うときのギャップにもなって効いています。 一方で悪魔やら魂やらの設定は細かすぎず、敵は極悪、バトルはスタイリッシュとテンポよく楽しめます。パートナーのアルメリナもコレ系の作品にしてはかなり常識人で話通じる性格なのも好み。適度なかわいげがあって良いです。良い。 一巻のヒキは翔矢と同じソールドキラーの女の子と獲物を奪い合う展開になります。これも最高ですね。 ダークヒーローものの魅力が凝縮されてます。ピンときたひとはぜひ!
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2020/09/17
サラダのルーツを描く外伝
『NARUTO』本編終了後から『BORUTO』開始までの時系列の間には映画『THE LAST』や小説の列伝シリーズなどさまざまな作品が名を連ねています。 本作『七代目火影と緋色の花つ月』もそのひとつで『BORUTO』の映画と同時期に単行本が刊行されました。なんとなく夏のアニメ映画っぽくてかわいいタイトルだなと思います。 しかし内容はと言うと、サスケの娘・サラダの生まれに迫るなかなかシビアな内容。連載中も話題になっていましたが「サラダの母親、サクラじゃないんじゃないの…?」というちょっと生々しい話も出てくることに…。 家になかなか帰ってこないサスケ(この概念が面白すぎる)に愛想を尽かしたサラダがナルトに懐いていくのも涙を誘います。サスケ、そういうとこだぞ。 ナルトやサスケ以外にも『NARUTO』キャラ沢山出てくるのでアイツ今こんなことしてんだ…っていうのが楽しめるのもいいですね。 『BORUTO』も本作もテーマになっているのは家族。果たしてサスケは失った娘の信用を取り戻せるのか、ラストシーンに最高の答えが用意されています。 サラダが火影を目指すことになった理由が描かれるオリジンストーリー、『BORUTO』に手を出す際には合わせて読んでおくのがおすすめです!
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2020/09/10
ロサンゼルスに生きるふたりの青年の絆
レッド・ベルベットというケーキがあるそうです。歴史もあって、アメリカではメジャーなスイーツなんだとか。画像を調べてみましたが、その名の通り赤色がキレイなケーキです。 幼い頃に母を亡くしたアールはふさぎ込む父親と反駁しながらも、母の遺したレッド・ベルベットのレシピを探し求めています。 一方の親友のランディは重病の母親を抱え、こちらも父親とはうまくいっていません。おまけに窃盗グループに目をつけられ犯罪の片棒を担がされているという状況。 失った母の面影を追うアールと、母を失いつつあるランディの対比は痛々しく、物語には常に薄ぼんやりとした閉塞感が漂っています。ふたりの毎日は決して順風満帆ではありません。 それでも互いを支え合い、未来に目を向けられているのはふたりには目標があるからです。かつてアールの母のケーキ店があった場所で、再びお店を開くこと。 少年だったアールとランディの人生は2巻の時点で大きな節目を迎えました。希望にあふれた道筋ではなかったかもしれませんが、ふたりは確実に前へと進んでいて、その事実が勇気を与えてくれます。 レッド・ベルベットのケーキがアールのお店に並ぶ日が来るのを楽しみに、次巻以降もふたりを見守りたいです。
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2020/09/04
人類、フェスを愛せよ
音楽フェスに行くなんて考えたこともないほどインドアかつダウナーな人生を歩んできた私ですが、このマンガを読んで考えが180度変わりました。 行きてぇ、フェスに。 フェス、爆音の中酒を片手に夜通し熱狂する狂乱の宴だと思い込んでおり「近づくまい!」と頑なに距離を取っていたのですが、『デイズ・オン・フェス』のなかには優しく楽しく賑やかなフェスの世界が描かれています。 のんびりキャンプとかしてるんですよみんな。いいなぁ。 登場人物は主人公・奏と音葉のJK初心者コンビと、喫茶店を営む音葉兄(楽さん)とバイトの律留のベテランチーム。計4名のコントラストが小気味いいです。 奏がフェスに魅了されていく新鮮な過程と、律留たちがフェスの“よさ”をじんわり味わっているようす。互いが互いのパートを引き立たせていて、読んでる自分も「早くこうなってこうなりたい」という欲求が湧いてきます。 行かなきゃ味わえない空気感が内包されてるんですよ…。 奏が自身の推しバンド「デイズ・オン・ユース」を起点に、どんどん自分の興味に従って世界を広げていくのも心地良いです。何かにハマるのってそういうことだよな、という原初的な喜びが押し付けがましくなく描かれていて。 そして3巻にはその「デイズ」の結成エピソードが収録されているんですけどこれもまたいいんですよね…。音楽に救われた者がまた音楽で人を救っていくという円環が完成するんです。美しい。 とにかく読んだら絶対にフェスに行きたくなることでしょう!!行きたい!!フェス!!
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2020/08/21
キレーな魔女のおねーさんに翻弄されたいひと向けファンタジー
主人公のニコラは「浄会」に奉仕する修道士(童貞)。ひょんなことから人類の仇敵である魔女と次々契りを結んでいき(重婚)、悪しき魔女を魔女の力によって打ち倒す旅に出ます。 ちなみに彼女たちはニコラの体液を摂取することで真の力を開放する変身、「女神変成(アドベント)」ができるのです。最高ですね?どんな体液かは読んで確かめてほしい。 魔女の力を使うアクションのカッコよさはもちろん、魔女たちとニコラの愛の行方も物語の重要な焦点です。 ニコラと契りを結ぶ魔女3人は高飛車お嬢のエゼル、男勝りのウプスラ、根暗気味のミュリッタとみな個性的。禁欲生活を送るニコラは常に振り回されていますが魔女という割にはみなピュアなところがあってギャップがかわいいです。 中世ヨーロッパの世界観も作り込まれていて読み応えがあります。歴史上の慣習や社会情勢の描写はリアリティ抜群。 個人的にツボだったのが用語解説のコーナーで、本格的な解説かと思いきやネタに全振りしたものもあって笑っちゃいます。イチオシは「魔女ガチャ」の項目。業が深いね。 アクション、ロマンス、世界観。三拍子揃ったファンタジーが楽しめますよ!
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2020/08/19
魔獣と女勇者の育児ファンタジー ※くっ殺もあるよ! #1巻応援
魔獣の王と赤子と屍の勇者というサブタイトルどおり、魔獣王クレバテスが気まぐれに拾った人間の赤ん坊ルナを育てるために敵対する勇者アリシアを蘇生させ、一緒に旅をする、という物語。本当の子連れ狼だ。相容れない者同士が徒党を組むのはやっぱり面白いですね! 岩原作品らしくダークでタフな雰囲気と、メイン3人(?)のキャラクターの絶妙な力関係が魅力です。人間社会の常識のないクレバテスに振り回されてアリシアさんが毎回ひどい目に遭うのが泣けます。苦労人だ…。 1巻だとまだまだ3人が協力して…みたいなシーンは少なくて全体的にサバサバしてますが、みんなが仲良くなっていったらきっとウルウルきちゃうんだろうな…。 世界観も重厚で、今後は他の民族や国家間のイザコザも絡んできそうです。魔獣も他に3匹居るらしいですし。本格ファンタジーを期待したいです。 本の形態の話をすると、LINEマンガでは縦読みフルカラーなのもビックリしました。カラー版は電子書籍だけみたいですが、絵の具で塗られている岩原先生の彩色箇所がよく分かるのも面白いです。 一方で紙版はキラキラの箔押しカバーが超キレイなので、これは両方買うのが正解ですね!
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2020/08/14
『うしとら』の世界を広げる外伝集
『うしおととら』の短編エピソードが収録された外伝集。読めばキャラクターの魅力と本編の味わいがいやますこと間違いなしです! 家族を殺された鏢が仙界で仙術を身につけるまでを描く「桃影抄〜符咒師・鏢」や、紫暮と須磨子のなれそめを描いた「里に降る雨」、クリスマス嫌いの少年とうしおの交流が泣ける「プレゼント」など、本編人物を掘り下げるエピソードはどれも粒ぞろい。 最終巻のあとに外伝を読むケースが多いと思うのですが、もう一度1巻からキャラの活躍を読み直したくなっちゃうものばかりです。 なかでもとらの過去を取り上げたものが一番多く、平安時代の陰陽師との戦いをめぐる「妖今昔物語」、源氏の女武将巴御前ととらが出会う「雷の舞」、とらを封印した侍の物語を描いた「永夜黎明」と、時系列はそれぞれバラバラですが、外伝オリジナルのキャラクターが出てくるのが楽しいです。 なかでも「永夜黎明」の最終ページはあまりに美しく、これのおかげで読み終わると1巻にすぐ手が伸びるようになってるんですよね…。 個人的な一番のお気に入りは「雷の舞」です。女だからという理由で義仲とともに戦場に立てず、戦の終わりを「待つ」ことを強いられている巴御前。そんななか、尼僧とともに山に潜む物の怪の群れを退治することになるのですが、そこにとらが現れます(この登場シーンが最高!)。 「乗りてえ風に遅れたヤツは間抜けってんだ。」ととらに発破をかけられた巴御前は「待つ」ことをやめ義仲とともに決死の戦場に赴くのですが、この凛々しさにシビレます。 うしおだけでなく、様々な人のあり方をとらは変え続けてきたんだなというのが、なんかいいんですよね。 また、この『外伝』のコミックスには収録されていないですがうしおととらのコンビが外国の魔道士と対決する「ECLIPS」も超絶かっこいいです。 『原画集 月と太陽』や文庫版、完全版などで読めますのでぜひ。
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2020/08/12
ユーモアのおもちゃ箱みたいな漫画
なんといっても主人公・星之スミレのキャラクターが強烈。173cmの長身でタバコをスパスパやりながら周囲の迷惑顧みずやりたいことに猪突猛進。持ち前の破天荒さにはいつもスジが通っていて嫌味なところがありません。見ていて気持ちのいい、カッコイイ主人公です。 スミレの所属する新聞部のメンバーも魅力的。スミレの相棒かつストッパーの優等生・琴子、ガタイはデカいけど繊細な部長に、スミレLOVEの後輩・上小路くんとバランスがよいです。 特に上小路くん、ちょっとおマヌケなキャラなのですがふとした時にスミレとちょっといい雰囲気になるのがほっこりします。いい部活モノだ…。 基本は高校生活のドタバタした日常を描いているのですが、ちょっとファンタジーな出来事もごくごく普通に起こったり。 それを「まぁいっか!」と受け入れてしまえる理由のひとつは、スミレを始めとするキャラクターたちの実在感でしょう。 何が起きても彼女たちのあり方は変わらんだろうという安心感が作品の懐を深くしている気がします。 そしてもうひとつはどのページ、どのコマにもたっぷり詰まった遊び心。どんな展開になっても必ずくすりと笑えるのがすごい。 頭をユル〜くして想像力とウィットの世界に身を委ねるのが最高に気持ちいい作品です!
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2020/07/31
ネタバレ
この世界に尊いという日本語があって本当に良かった
天真爛漫ギャルJK・柚子と優等生生徒会長・芽衣は親同士が再婚したから突然姉妹になっちゃった!どーなる高校生活!?という信頼の置ける設定。 全く息が合わないはずなのに柚子はドンドン芽衣のことが気になるようになっちゃって…っていうギャップ・姉妹百合です。ご理解いただけましたね。ちなみにふたりダブルベッドで寝てます。 お嬢様学校においてギャルである柚子の存在は異質そのもの。周りの人物と軋轢を生むこと数しれずですが、持ち前の真っ直ぐさで相手の心を掴んでしまいます。 作中では芽衣があらゆるキャラから激モテするファム・ファタールとして描かれるので「気が気じゃねえ!」とソワソワする柚子がたくさん見られるのですが、彼女自身も相当な人たらし。 次々と現れる恋の障害となるキャラクターたち(もちろん全員女の子)も、ひと悶着のあとには必ず打ち解けて仲間に加わります。これがバトルマンガっぽくて好き。あたたかく、優しく、そして正直であろうとする柚子の魅力なんでしょうね。 完璧超人に見える芽衣も柚子のことを翻弄するようでいて、自分に対してストレートな気持ちをぶつけてくるお姉ちゃんに対して内心は常にドキドキ。彼女から向けられる愛情の矢印をどう受け止めて、どう返せばいいのか悩み続けています。芽衣は自分の思いを柚子に伝えるのにずっと二の足を踏んでいるんです。これが本作の核心となる巨大感情なので、ぜひ悶絶していただきたい次第。 最終2巻の展開は息を呑むほどで、9巻ラストの演出には本当に胸を締め付けられます。つらすぎる。だからこそこれまでの登場人物が大集合してふたりのために奔走する10巻の盛り上がりがすごくて、まさに祝福のような最終巻。やっぱり最後は仲間全員で戦わないとウソですよね! ふたりが紡いできた絆が集大成として結実するまで一気に読んでほしいです。