殻都市の夢

泡のような愛の物語集 ~その愛は祈りだね~

殻都市の夢
影絵が趣味
影絵が趣味
1年以上前

舞台は近未来の都市か、もしくは、誰からも忘れ去られた過去の都市か。 この外殻都市は、都市の上に都市を重ねる形で成長を続けている。いったい、いつ造られたのかさえ定かではない。下部階層の劣化は激しく、このグラスを伏せたような形の殻構造がなければ、上部階層の安定はおぼつかない。いや、古い下部階層では、その殻構造の強度さえ低下している。 白を基調としたコマに、淡々として、きわめて抑制的なモノローグをそえて展開される七つの愛の物語。それは愛の物語であり、同時に、消えていってしまうものへの祈りの物語でもあると思う。 愛は、その形を定義づけた瞬間にも、泡のように、古くなって崩落する殻都市の一部のように、たちまち立ち消えてしまう。その一瞬一瞬を描くことに注がれた『殻都市の夢』には、痛々しい描写こそ数あれども、そこには不思議と慈しみの表情がある。それは消えていってしまうものへの祈りの態度であると思う。愛が、泡のように、古くなって崩落する殻都市の一部のように消えてしまっても、そこに愛があったことは永遠に変えられない。もはや触れることができず、干渉することができず、だからこそ永遠に不変のかつてそこにあった愛。それは消えてしまうのではなく、そこにずっと在り続ける、私たちが祈ることさえ忘れなければ。 川の水の流れるように、つぎつぎと積み重なる殻都市、あるいは私たちの記憶。その絶え間のない流れは、目に触れた先から流れ去っていってしまう。でも、いつかの川のせせらぎが陽光をきらきら反射させていたのを私はいまも憶えている。見せておきたい景色が、ひとつ、ふたつ、と募ってゆく。それをいつか誰かに話し聞かせたいと思っている、祈りのように。そして、モノローグはようやくセリフへと変わる。 これから話すのは いつか存在した 今では存在すら忘れられた都市 ひたすら上へ上へと積みあがっていった都市 目的もわからず 理由も定かではなく その行為に没頭した都市 そんな 都市の抱いた 夢の残滓の こと そんな 人々の 物語

D・N・A2 ~何処かで失くしたあいつのアイツ~

こんな話だったんだ

D・N・A2 ~何処かで失くしたあいつのアイツ~
hysysk
hysysk
1年以上前

小学生の我々をさんざん悩ませた電影少女(当時のみんなの言うことを信じるなら読んでる人はいなかったはず)が終わって、何かまた同じようなのが始まったぞ、と思ったのを覚えているが、改めて読むと全然違う。SFバトル漫画だったんじゃん! 作者のアメコミ趣味や鳥山明との交友関係など、大人になった今なら彼らがやりたかったことが何となく分かる気がする。残念ながら唐突に終わってしまう感は否めないけど、意欲的な作品だったと思います。これ(とSHADOW LADY)があってのI”s<アイズ>。

ママの味・芝田里枝の魔法のおかわりレシピ

漫画の感想じゃなくてレシピの感想

ママの味・芝田里枝の魔法のおかわりレシピ
野愛
野愛
1年以上前

これは漫画としてどうこうではなく、単純にレシピ本として最高で最強です。 簡単レシピって言いながらめんどくさいとか、こんなん誰でも思いつくし紹介するほどでもとか、わざわざそんなおしゃれなもの作らないよとか、レシピ本あるあるという名の文句が一切出ません。最強です。 この漫画で紹介されている鶏手羽の黒酢ドリンク煮込みをとあるところで見て以来よく作っていたのですが、他のレシピも知りたくなり手に入れました!電子書籍素晴らしい! 鶏手羽以外もほんとに簡単で美味しそうなものばっかりなので絶対作るぞ…!! それにしても鶏手羽の黒酢ドリンク煮はまじで完璧な味に仕上がるので皆さまも書籍を購入して作ってみてください。

熱帯魚は雪に焦がれる

水族館部で出会ったふたりの女の子

熱帯魚は雪に焦がれる
ANAGUMA
ANAGUMA
1年以上前

東京から愛媛に転校してきた小夏ちゃん。見知らぬ土地での暮らしに不安を抱えていた彼女ですが、水族館部(!)の小雪先輩に声をかけられ徐々に仲良くなっていくことに…。 誰も知らない町にひとりで越してきた小夏ちゃんと、容姿端麗成績優秀完璧超人…と周囲から少し距離を取られている小雪先輩。それぞれの「ひとりぼっち」を抱えていました。両方ともひとりぼっちだったからこそ、ちょっとしたことで不安になったり、嬉しくなったり…。毎話巨大な感情が行き来するのでドキドキが忙しい。じっくりと時間をかけながら、お互いがかけがえのない存在になっていくようすが描かれるのが本作の最大の魅力です。 のんびりした時間の流れや、ふたりを取り巻く優しい人たちとの交流にも心温まります。愛媛弁もなごむ。出てくる生き物もみんなカワイイ。自分のイチオシはハマチです。 読んでるとほわほわしてくること間違いなし! そして水族館部、実在するというのもびっくり。1巻に取材先の高校の情報があるので気になる方はチェックしてみてはいかがでしょう。

ご勝手名人録 寄席を仰天させた12人の破天荒者たち

こういう偉人伝はやっぱりいい

ご勝手名人録 寄席を仰天させた12人の破天荒者たち
マンガトリツカレ男
マンガトリツカレ男
1年以上前

全国区で有名ではないが、作者の雷門獅篭が寄席で見た「名人」を紹介していくマンガ。作者は昔は立川談志の元弟子で週刊モーニングで「風とマンダラ」を連載していた立川志加吾 登場する名人は立川談志/快楽亭ブラック以外は全く知らなかったどの話も面白い。特に「大東両」の回は紙切り芸で「切れないお題はない」の逸話や楽屋でも家でも紙切り芸の研究を続ける話がむちゃくちゃよかった

ARAGO

ケルトモチーフのポリスアクションファンタジー

ARAGO
ANAGUMA
ANAGUMA
1年以上前

兄と両親の命を奪った連続殺人鬼「パッチマン」への復讐を果たしたアラゴ。超常の力を用いてロンドンにはびこる怪事件に挑むスコットランドヤードの警官となった彼だがパッチマンの影はいまだ顕在で…というのが大筋の流れ。 徹頭徹尾王道のダークファンタジーです。 復讐譚が好きな人にはまず読んでほしいですがやはり『ARAGO』の魅力はファンタジックな怪異アクション!西洋のオカルト、伝説、モンスターがわちゃわちゃ出てきます。 メインのモチーフがブリューナクを始めとするケルト神話なのもちょっと珍しくて楽しいです。イギリスっぽいし。あまり聞き馴染みのないファンタジーアイテムが登場するだけでもテンション上がりますよ。 あとセスくんっていう敵なのか味方なのかどっちなんだいっていう好きな人にはたまらんタイプのキャラが出てくるので二面性に弱い人も『ARAGO』、要チェックです。

マフィアとルアー

なぜ買ったのか思い出せない短編集

マフィアとルアー
トーマス
1年以上前

主に2000年前後に描かれた作品を集めた短編集。 誰かにすすめられたのか、どっかでおすすめされてたのか、全然思い出せないけど何故か持っていた。 いろんなシチュエーションで若い男女の深かったり浅かったりする関わりが描かれています。 学生時代とは違う苦くて痛い青春の思い出があるような人に読んでみてもらいたい。わたしも10代後半から20代前半くらいまでの根拠のない無敵感のことを思い出して呼吸困難になるなど…。 同人誌として描かれた作品もあるので、商業誌を通して描かれてないという意味で「そのとき描きたいものを描いた」度が高いんじゃないかなと思います。 いちばん好きなのは「トラベリングムード」 いちばん好きじゃないのは「6年1組」 です。

しのびや屈

1コマ目から最高に近藤信輔

しのびや屈
たか
たか
1年以上前

コミックDAYSでやってる『忍者と極道』で初めて近藤信輔先生の作品を読みました。実は過去にジャンプNEXTで「忍者読切」を描いていると知り読んでみたのですが1ページ目の1コマ目からメチャクチャ近藤臭がしてすごいな…と思いました。 主人公の第一声が「選挙カーがうるせーのな」ですよ? もう完全に近藤信輔。かっこいい。 10本の指に嵌めた指輪に糸でくくった5円玉をぶら下げてるところも訳わかんなくて最高(あとでしっかり活躍します)。 幕府が政府に変わっても、変わらず権力の側に忍がいる世界。 忍の高校生・屈(かまり)は、中学時代の恩師を市議選に当選させるため、他の候補者が雇った忍と争い投票箱をすり替えるという話。 馬鹿っぽさと熱さと人の情。 近藤先生の魅力がギュッと詰まった良い読切でした。 【少年ジャンプNEXT!! 2015 vol.6】 http://jumpbookstore.com/item/SHSA_ST01M02993601506_57.html

幕張

記憶よりもきつかった

幕張
hysysk
hysysk
1年以上前

ジャンプ+にもないのにKindle Unlimitedで全部読める!となって懐かしさで読んだが、今の感覚からするとかなり厳しいと言わざるを得ない。 連載当時を思い出してみると自分は小学生で、近所の少し年上の友達に『行け!稲中卓球部』を読ませてもらっていたのでそれのパクリだと思っていた。それは小学生ゆえの知識のなさからくるものなのだけど、意外とその感覚は長く引き継がれてしまうものだ。 鈴木智恵子や奈良の母親いじりみたいのは当時もレベル低いと思っていたけど、ああいう毒舌・下ネタ・内輪ネタ、つまりは「ぶっちゃけ」が笑いになる時代だった。今だと事前に摘み取られるか、先鋭化して一部の集団にのみ支持されるようなものになるのだろう。そういう意味で貴重な記録だし、読みながら何が変わって、何が変わらないのかを確認することができる。

傘泥棒を追いかけて

お気に入りの傘を盗んだ犯人は…?

傘泥棒を追いかけて
名無し
1年以上前

2週連続で読切が載るとかすごいですね。ちかいうち連載も始まって欲しい。 この話は主人公がお気に入りの傘を盗まれて、犯人を追ったらどでかいウサギみたいなこの世のものとは思えない生き物?だったので、不思議の国のアリスでも始まるのか?と思ったんですけど…。 最後に明かされるそのうさぎの正体がなんともキュンとするんですよね。 自分の意志で「これが好き!」と心に決めてるものは大事にしないとなと思える話でした。

二十面相の娘

受け継がれる「二十面相」…少女と怪盗の絆

二十面相の娘
みど丸
みど丸
1年以上前

深夜アニメを見始めたばかりの当時、スタイリッシュな画面と「伝説の怪盗の娘」という主人公像に一瞬で虜になりました。いいアニメだった…。 その流れで原作も手に取りまして、結構キャラクターの設定とかが違うな〜と思いながら読んでいました。両方履修して見比べると楽しい作品だと思います。 伝説の怪盗と、彼が見出したひとりの少女…。 この設定だけでいけるひとはいけると思うのですが、改めて読み返すと、二十面相とチコが一緒に過ごした話数は少ししか無いのが意外でした。 どこまでも掴みどころがないままの二十面相に、それでも否応なく惹かれてしまう…。多くを描かないからこそ、彼を捜し続けるチコの気持ちを追体験できたのかな、と思います。 終盤にかけ巨大な陰謀が明らかになり物語の緊迫感は増していきます。そこに頼れる「おじさん」は居ません。チコがひとりで「二十面相の娘」として立ち向かうしかないのです。 その責を果たそうとするチコの姿と最後の決断、最高にシビれるので、「本物を超える」瞬間が好きなひとには絶対に読んでほしいですね…。

I KILL GIANTS

「巨人を殺す」と決めた少女の話

I KILL GIANTS
ANAGUMA
ANAGUMA
1年以上前

ロングアイランドに暮らすバーバラはクラスでも浮いていて、家族とも良好な関係を築けていない小学生。その原因は彼女の言動にあります。バーバラの生きる目的はひとつ。「巨人を殺す」こと。 「中二病女子の成長物語」というコピーが付いていたようですが、バーバラの行動はたしかに「中二病」的です。自分がもし多感な時期に『進撃の巨人』にドハマリしていたら…とか想像してしまった。 誰にも理解されないからと自分の世界に閉じこもり、どこか他者を見下しているかのように振る舞い、挙げ句唯一の友人ソフィアも傷つけてしまいます。はっきり言ってバーバラは感じの良いキャラクターではありません。 「一体この子は何と戦っているつもりなんだ…」と冷めた気持ちで作中の人物と一緒にため息吐いちゃうこともあるかもしれません。 ところが、彼女が殺そうとしている「巨人」の正体が明らかになった瞬間、一気に空気が変わります。これまでバーバラにしか見えていなかった巨人や、妖精の世界の真実が理解できてしまったとき、彼女に抱いていた印象は180度変わるはず。 誰もがどこかで味わったことのある青春の辛さが滲んでくる、苦みに満ちた作品なのは間違いないと思います。それでも読み終えた頃にはフッと優しい気持ちになれる、素敵な作品です。ドンデン返しと爽やかなエンディングを読んで味わってほしいです。

帰ってきたサチコさん

短編が良いと大体作家との相性が良いと思うの巻

帰ってきたサチコさん
六文銭
六文銭
1年以上前

『ハクバノ王子サマ』から、作家:朔ユキ蔵に興味をもち、本作にたどり着きましたが、やっぱりいいですね。 どうしてもエロスを感じさせる作家さんなのですが、書誌内容にあるようにこの作品はどれも「別れと再会」をテーマにしていたようで、エロスは影を潜めております。 とにかく作者特有の、どこか影があって物悲しいキャラクター描写が、テーマとマッチしてグッドなんですよ。 表題作の「帰ってきたサチコさん」が個人的にツボでした。 過去にタイムスリップして帰ってきたサチコが断片的に語られる構成で、これが一見ストーリーをわかりにくくしているのですが、パズルのピースがおさまった瞬間の感動たるや最高なんです。 70年位前にタイムスリップして、戻れないからと、その時代で結婚し所帯をもってしまうサチコ。 そこからなんやかやでその時代に10年ほど過ごし、ひょんなことで再び現代に戻ってくるのですが、過去に残した夫を探して再会するという流れ。 あの時代から別れたサチコを現代待って、年老いた夫の変わらぬ想いに、思わず涙です。 それ以外の短編も、作者の個性とも言えるピカリと光った「別れ」と「再会」の表現が、最後までどう転ぶのかドキドキさせてくれます。 短編集が好きな作家は大体、どの作品も相性合いそうだと思うので、 作家を知るきっかけになりそうです。

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