道具としての「役に立つ」とリベラルアーツの重要性
実在する美味しい手土産のガイドとして「役に立つ」ところに最初は目がいったのだけど、それだけでなく文学などのリベラルアーツがどのように「役に立つ」かが鮮やかに描かれている。 主人公の寅子は人を尋ねる際に手土産を持っていく。そしてその手土産には作られた背景や愛され方にストーリーがあり、「おもたせ(手土産をもらった側が持ってきた側に出すことらしい)」として一緒に食べながら話していくうちに、相手の心に引っかかっていた悩みが解きほぐされ、少し前向きになる。 リベラルアーツが「役に立つ」と言ってしまったが、これは道具のように「役に立つ」という意味ではない。会話を続けるためのネタではないし、ましてや知識の豊富さを誇示するためでは決してない。「誰と何を食べ、どんな話をするか(あるいはあえてしないか)、という全体」を作り上げるものなのだ。 そういった人格を備えたキャラクターとして寅子は魅力的だし、「コミュニケーショングルメ漫画」とはなるほどそういうことかと思った。
常に和服で、文学や食文化に詳しく、
美味しい老舗店の食べ物を「おもたせ」
してくれる寅子さんからは、
モダンというかモボとでもいうのか
大正ロマン的な和風文化の良さ、みたいなものも感じる。
そもそも通販だとかオトリヨセだとかが充実し、
仕事でも私事でもネットやメールなどの比重が増えて
他者と顔をあわせての交わりが薄くなっている今時では、
若い和服美女が美味しいものを持参してくれる、
というシチュエーションは、なかなか体験しがたくなっている
貴重なことのようにすら感じる。
だが寅子さんは大正ロマンがすべての人ではない。
スマホでのLineでの会話を楽しんでいたり、
今風な平成の女性的な日常生活もしていたりする。
この辺がこの漫画から感じる良い雰囲気のひとつでもある。
単なる「昔は良かった」という懐古趣味だけではない感じがする。
インフラや衛生や安全面が充実し、時間やコストを効率的に
活用できる社会になった。
そういった便利で効率がいい時代をけして否定はしないが
やっぱりこういうのもいいでしょ、と言われている感じがする。
それでいて単なる懐古趣味でもない。
いい感じにホッとする話の漫画だ。