道具としての「役に立つ」とリベラルアーツの重要性
実在する美味しい手土産のガイドとして「役に立つ」ところに最初は目がいったのだけど、それだけでなく文学などのリベラルアーツがどのように「役に立つ」かが鮮やかに描かれている。 主人公の寅子は人を尋ねる際に手土産を持っていく。そしてその手土産には作られた背景や愛され方にストーリーがあり、「おもたせ(手土産をもらった側が持ってきた側に出すことらしい)」として一緒に食べながら話していくうちに、相手の心に引っかかっていた悩みが解きほぐされ、少し前向きになる。 リベラルアーツが「役に立つ」と言ってしまったが、これは道具のように「役に立つ」という意味ではない。会話を続けるためのネタではないし、ましてや知識の豊富さを誇示するためでは決してない。「誰と何を食べ、どんな話をするか(あるいはあえてしないか)、という全体」を作り上げるものなのだ。 そういった人格を備えたキャラクターとして寅子は魅力的だし、「コミュニケーショングルメ漫画」とはなるほどそういうことかと思った。
主人公の寅子さんは文学とか出版業界とかの業界で
働いているらしく、資料の貸し借りなどでなにかと
他家を訪問することが多いみたい。
そして必ず手土産として食べ物を「おもたせ」する。
少しだけ一般人とは違うハイソな世界のようにも感じるし、
「おもたせ」するものも少々値が張りそうなものが多い。
だが気取ったり嫌味な感じはまるでない。
そして食べ物話からの繋がりで文学作品の話題等に
なることも多いが、小難しい文学論にはならず、
文豪や当時の庶民の穏やかな日常を思い浮かばされる。
小粋でオシャレな話だが、お高くとまった点はまるでない。
いいお土産、いいお土産話を読ませてくれる漫画だ。